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10 黒い幽霊 2

「やぁ、レティ。調子はどう?」


 私が階段から落ちてからというもの、アレックス王子は毎日私の様子を見に来る。

 広い部屋のソファーに座り本を読んでいた私はアレックス王子に見えるように痛めた右足を見せた。


「あの医者がもう湿布もいらないでしょうって剝がされたわ」


 あの日から一週間も経っていないが、初老の医者はいつまでも湿布を貼るもんでもないと言って剥がされたのだ。

 足の痛みは無いがたまに痛くなることがあるので出来れば湿布は貼っておきたい。

 不満そうな私にアレックス王子はニッコリと笑った。

 

「あまり貼っているとレティの綺麗な肌が、かぶれてしまうかもしれないよ」


 ソファーに座るアレックス王子に私は頷いた。


「なるほど。そういう考えもあるわね……」


「あれから幽霊を捜索しているけれど、目撃情報も幽霊を見たものも居ない」


 少し足が痛む程度なので立ち上がってお茶を淹れている私にアレックス王子がじっと見つめながら言ってきた。


「っていうことはやっぱり幽霊?」


 ゾッとしながらも、アレックス王子にお茶を出す。

 毎回、淹れたお茶を大変喜んでくれるので私も嬉しい。


 「幽霊がいるとは僕は思わない。黒い布を被った人間だと思うが、目撃者がいないから何とも言えないな。レティも人間と言い切れないのだろう?」


「人間だったにしてはもやっとしていたような。しっかり見たわけではないのよ」


 思い出しても黒い霧のようなものだった。

 黒い布を被った人間だったと言われれはそうかもしれない。

 

 「レティは、幽霊を1度見たと言っていたね。その辺りから幽霊が嫌いになったね」


 お茶を飲みながら昔話をするアレックス王子に私は首を傾げた。


「そうだったかしら?」

 

 幽霊を見てたことがあったらもっと大騒ぎして居そうなのだが、さっぱり覚えていない。


「忘れたの?可愛いレティは、内緒で廃墟によく行っていただろう」



「えっ、どうして知っているの?」


 兄にも廃墟に行っていることを言ったことが無いのになぜアレックス王子が知っているのだろう。

 誰かに言ったら怒られると思っていたから決して人には言わず私だけの楽しみだったのに。

 ふと、廃墟で会う巡回中の綺麗なお兄さんエドモンド様を思い出した。


 彼が報告書に書いたら王子には筒抜けよね。

 その割には親は何も言っていなかった。


「可愛いレティが僕だけに報告してくれたからだよ。内緒よって僕の耳に囁いてくれたじゃないか。廃墟に行っているって。誰にも言ってはダメよと。あの時のレティの顔は今でも思い出せるほどかわいかったよ」


 幼い私を思い出しているのか懐かしそうに微笑んでいる王子は少し気味が悪い。

 

「私、そんなこと言ったかしら……」


 あの時の私はアレックス王子に夢中だった。

 綺麗な王子様が相手にしてもらえることがとても嬉しくて誇らしかったのだ。


 今は自分をわきまえているので幼い頃のように自分の事を好いてもらっているという勘違いはしない。

 アレックス王子は何を考えているか分からな一面があり、私なんかを相手にしてくれるわけが無いとわかっているからだ。

 

 今だって惚れ薬の影響なのか、演技をして犯人を捜しをしているのか不明な所がある。


「言ったよ。そんな時に、君はお化けを見たからもう行かない。怖いと僕にしがみついて泣いていたじゃないか。あの時の涙を流した君も庇護欲をそそっていてとても良かった」


「お、覚えていないわ」


 うっとりして言うアレックス王子に若干引きつつ、思い出そうと記憶を辿る。

 確かにある日を境に行かなくなった。

 何か怖い事があったような気はしていたが、まさか幽霊を見たとは。


「きっと何かと見間違えたのかしら……。さっぱり思い出せないわ」


「危ないから廃墟に行かなくなって僕はホッとしたけれどね」


「そうね」


 大人の私が考えても幼い子供が一人で行っていたのは危ないと思う。

 

「だから君は幽霊が怖いんだよ。要するにトラウマだね」


 アレックス王子に私は頷く。

 

「全く思い出せないけれど、幽霊が大嫌いな理由は分かったわ」


「さて、幽霊の話をしに来たわけじゃないんだ。実はマーガリィ王妃の誕生日が再来週あるんだがプレゼントを買いに行こうと思ってね」


「もうそんな時期なのね」


 毎年王族の誕生日はパーティーが開かれれる。

 パーティーという名の若い者は男女の出会いの場であり、大人はビジネスの場でもある。

 定期的にパーティーは開かないといけないらしい。と、王子が言っているのを小さい頃に聞いた覚えがある。


「それで、今年は王妃に宝石を送ろうかと思っていてね。エドの実家があるラーク領に宝石の買い付けに行く予定だ」


「宝石をプレゼントするなんて素敵!エドモンド様の領地は宝石が採れる採掘場があるのよね。沢山いい宝石がありそうね。」


 1度宝石が沢山取れるというエドモンド様の領地は行ってみたいと思っていた。

 大きな宝石がリーズナブルな値段で手に入るらしい。


 「もちろん、可愛いレティも一緒に行くだろう?」

 

 「ついて行ってもいいの?」


 ワクワクしながら喜ぶ私にアレックス王子は頷く。


「もちろんだ。僕が留守の間、可愛いレティに何かあったら困るからね。嫌だと言っても無理やり連れて行くつもりだったよ」


「そ、そう」


 まだ惚れ薬の影響が続いているのかと私は引きつった笑みを浮かべた。


「エドモンドに領地を案内させるつもりだ」


「エドモンド様の姿をずっと見ていられるのは幸せな気分になるわ。もちろんアレックス様も一緒に居いられるのはとても嬉しいわ」


 エドモンド様を褒めるとアレックス王子が冷たい目を向けてきたので慌てて褒める。

 普段の王子なら、他人を褒めたところで広い心を持っているから責めるような瞳をしないだろうがやはり惚れ薬の影響だろうか。


 惚れ薬が本物だとしても効き方は犯人の思い通りとはいかないようだ。

 もし犯人がヘレン婦人だとしても初めて見た人に惚れないのは予想外だろう。


 アレックス王子と一緒に行動していた方が安全だろう。

 

 「行く予定の採掘場は暁の星が採れたところだよ」


「あの大きな宝石がこれから行く所で取れたのね。私が行ったときも大きな宝石があるといいわね」


  光の加減で星の形が浮き上がる綺麗な青い宝石を思い出す。


「大きな宝石が好きなの?」


「大きさより、星の形の光が浮き上がるのが素敵だったわ。小さくてもあのようなのがあれば私、お小遣いで買おうと思うの」


 値段は分からないが、小さいものだったらお小遣いで買えるかもしれない。

 後でお兄様にもちょっとお金を借りようと考えているとアレックス王子はクスリと笑う。


「それぐらい買ってあげるよ。僕が付き合ってもらうんだから、レティの好きなものを買うといいよ」


「はぁ」


 ありがとう!と素直に言う事が出来ずに曖昧な返事をした。

 惚れ薬の効果か本気で言っているか不明だからだ。

 まだ彼を本気にしてはいけないと私は身を引き締めた。

 

 

 

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