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今注目のコスパ最強産地。女同士の戦い!?

森さんも日髙さん続いた。

どうやらファイナルアンサーらしい。

 森さんは一部だけど、いい点を突いていた。


「残念、2人とも! 答えは……【南アフリカのシラー】でした!


「「南アフリカ!?」」


 日髙さんと森さんは意外そうな声を上げた。

最近増えたように感じる南アフリカのワイン。

でもイタリアやフランスよりはまだまだ見かける機会は少ないもんな。


「フランスのような気持ちいい酸、そしてオーストラリアやアメリカのようなフルーティーさ! これがアフリカワインの魅力なんだ。李里菜の言った通り、フランスとアメリカワインの中間にあると言ってもいい」


「アフリカって、暑そうだけどブドウ育つの?」


 李里菜からの、まるで測ったかのようなタイミングの質問だった。

さすがは李里菜さんだ。


「実は南アフリカのワイン産地って海沿いに多くてね。気候も昼は暑く、夜はぐっと気温が下がるから、ブドウの生育に最適な環境なんだよ。しかも、価格がお手頃なものばかり! これは人件費の関係だね。なんと、チリよりも人件費が安いんだ! だから低価格でも、高品質なワインが造れる。もちろん値段相応のプレミアムなワインもある! 南アフリカはシラー以外にもいろいろなブドウ品種を栽培していて、ロワール以上とも言われるシュナンブランや、独自の赤品種であるピノタージュなど……」


 と、ついつい悪癖が出てしまったと感じた。


 日髙さんと森さんは必死にスマホや紙へメモを取ってくれている。

だけど石黒さんは李里菜は過剰な情報に慌てていて、田崎さんに至っては全く興味がないのか全然違うことを考えているような。

 昔、【不動さん】にも「君は語りすぎる癖がある。良くないねぇ」と指摘を受けていた。


「コホン……つまりこれで俺が感じてほしいのは、ワインはワールドワイドな飲料で、同じブドウ品種を使っていても、違いがでるってことなんだ。土地や風土の様子をそのまま反映できるのがワイン。例え訪れたことがない土地であっても、ワインを飲み続ければ、やがて世界が一周できる。そういう点ではなかなか稀有で素敵な飲料だと俺は思うな」


「ワインで世界一周……それ、素敵……」


 李里菜はうっとりした表情で、そう呟いていた。

 李里菜には世界一周でもしたい願望があるのだろうか?

ともあれ、今の話題は石黒さんも、田崎さんでさえも惹きつけられたらしい。


「じゃあ終わりに資料を配るね。最後にちょこっとだけ座学にお付き合いを……」



……

……

……


「飯の時間ネー!! 支度ネー!」


 座学が終わった途端、田崎さんはテンションを上げて立ち上がった。

 このなんでこんなにもワインに興味がないのに、このサークルに所属しているんだろうか?


 そんな田崎さんが買い物袋から取り出したのは、美味しそうな焼き色のついた白い生地の束。


「トルティーヤかな、それ?」


「そうネ! 今夜はみんなで巻き巻きタコスパーティーネ! 李里菜、ご指導よろしくネー!」


 "フンス!"と言った具合に、気合十分な様子で李里菜が立ち上がった。

我が家の料理将軍は、時々こうやって珍しいものを作ってくれるのでありがたい。


「あっ、被った……」


 と、日髙さんは苦笑いを浮かべる。


「もしかして日髙さんも?」


「前に姫ちゃんとやって楽しかったから、緑川さんにもぜひ味わって欲しいなと思って……」


「OH……日髙さん、残念ネ。今夜はサルサは自作するネ」


 田崎さんは日髙さんの持ってきたサルサの瓶詰めを見てそう言った。

するとしょんぼりしている日髙さんへ、李里菜がパタパタと駆け寄ってゆく。


「一緒に作り、ますか……?」


「えっ? 良いの……?」


「料理できる人、でしたら……」


 人へ気づかいをしつつ、釘を刺すのを忘れない。

さすがは晶さんの娘だと思った。


「大丈夫だよ! 日髙さんの作ったチョコケーキめちゃくちゃ美味かったもん! この人ちゃんとできる人だから!」


「できる人って、緑川さんったらぁ……」


「謙遜しないでって。本気であのケーキ美味しいって思ったからさ。今回も美味しいタコスを頼むよ」


「は、はいっ! 日髙 ゆうき、行って参ります!」


 元気を取り戻した日髙さんは席を立って、女子大生達の輪へ加わってゆく。

 こうして田崎さんたちと並んで見ている、日髙さんはちょっとお姉さんにはみえるけど、遜色ないよな。

でも、実際、彼女って幾つくらいなんだろ? 気になるけど、女性に年齢のことはおいそれと聞けない……


「チョコケーキ……」


 なぜか李里菜はそう呟きながら、難しい顔をしていた。


「トモ」


「ん?」


「今度チョコケーキ、食べる?」


「どうしたのさ、急に?」


「食べたい!?」


 李里菜からものすごい圧力を感じた瞬間だった。


「あ、お、おう……」


「分かった。明日にでも作る。首を洗って待つ!」


 李里菜はそう物騒なセリフを言い置いて、タコス調理へ向かっていった。

 お料理将軍としての、日髙さんへの対抗心、なのか……?


「Second  Nice  boat!」


「だからクロエ、お前……」


「ごめんね、実はさっき調べちゃった……」


「良い、船? 何?」


「り、李里菜は気にしなくても良いのですっ! 日髙さんもです!」


「は、はいぃっ!」


 なんだか5人の女性が楽しげに料理しているのって、見ているだけで気持ちがほっこりするなぁ……!



……

……

……



 やがて魔法のようにチョチョイのちょいで準備が進み、我が家の食卓には赤と緑を中心とした色彩鮮やかな食材が並んだ。


 スパイシーに炒められた挽肉のタコミート、トマト・玉ねぎ・きゅうりをざく切りにしたサルサに、これはアボカドのディップか?


「アボカドのディップは、"ワカモレ"っていう!」


「ほう!」


「種を一緒に入れてるのは、色止めの効果。こうするとアボカドの緑色が残る!」


「そうなんだ! 李里菜は物知りなんだな!」


 李里菜は頬を真っ赤に染めながら、少し得意げな様子だった。

 晶さんはこうして褒めると調子付いた。

でも李里菜は父親譲りなのかリアクションが全く違う。

 晶さんに生写しな李里菜だけど、彼女はまったく別の魅力を持った女性。

そう改めて認識する。


「let's タコスパーティーネー!」


 そうして始まった手巻きタコス&オーストラリア、フランス、南アフリカから産出されたシラーを合わせたお食事会。


 タコミートから感じるスパイシーな香り、トマトを種としたサルサの酸味、そしてまろやかなアボカドのワカモレが、なるほどシラーのスパイシーな香りと良くマッチする。


「せ、せっかくだから、こっちもどうぞ……?」


 日髙さんが瓶詰めした真っ赤な"タコソース"を差し出してくる。


 遠慮なくそのソースをかけて、タコスを食べてみると……


「おっ! 美味い! ちょっとピリッとしているのが良いね!」


「あ、ありがとうございます!」


「ほら、せっかくだからみんなも使って見なよ!」


 俺がそう進めると、李里菜達は日髙さんのタコソースをかけてタコスを食べ始める。


「酸っぱ辛くて美味いのです!」


「OH……悔しいけど、既製品は美味いね……」


「美味しいけど……ちょっと刺激が強くて、ワインの味が少し消えちゃうかな。李里菜ちゃんはどう?」


「……うまし」


 石黒さんと田崎さんは満足、ワインに詳しい森さんはさすがといったところか。

しかし李里菜はパクパク食べているのに、どうして険しい表情なんだろうか。

と、その間に俺は冷蔵庫に秘蔵していたタコスに良く合う"アレ"の瓶を取り出した。


「タコスがメキシコの料理なら、飲み物もメキシコのもので!」


「でた! コロナビール! メキシコ旅行を思い出します!」


 日髙さんはノリノリな様子だった。

対する女子大生4人はそうでもない。というか、石黒さんはビールに文字通り苦い思い出でもあるかの、げんなりした表情だ。


「ビール苦手?」


「ビールっぽくない、クラフト系のものなら飲めるのですが……」


「大丈夫だよ、これそんなに苦くないし」


「そ、そうなのですか?」


「おう! それにだな……」


 コロナビールをグラスに注いで、カットライムをぎゅっと絞る。

それを全員に配った。

そしてそれを飲んだ瞬間、女子大生4人の顔が一斉に明るんだ。


「飲めたのです、ビール!」


「ワタシ決めたネ……現代女子は黙ってコロナビールね!」


「ビールにライムのアクセント……なるほど!」


「ぷはぁ! トモ、もう一杯!」


 みんな喜んでくれたらしい。

よかったよかった。


「さすが緑川さんですね」


 隣の日髙さんは、尊敬のような眼差しを送ってくる。


「タコスとコロナビールは定番でしょ」


「も、ありますけど……瓶に直接ライムを突っ込まなかったところとか。あれカッコいいけど、困るんですよねぇ」


「そうそう、中のライムが取り出せず腐っちゃったり。割って取り出すのも大変だし」


「さすがは一流のソムリエですね」


「いや、ソムリエ関係ないだろうが」


 なんて会話を交えつつ、俺と日髙さんはグラスを合わせた。

 本当、日髙さんは一緒にいて楽しいし、良い弟子だと思うよ。


「じゃあ私はカミングアウトを……」


「なにさ?」


「えっと、ですね、実は……」


「実は?」


「……い、いえ! あの、ですね! こ、このタコソース、実は自作なんですっ!」


「トモ、お・か・わ・りっ!」


 突然、間に李里菜が俺と日髙さんの間へ空っぽになったグラスを叩き置いてきた。

 ちょっと呂律が回っていない。酔っているんだろう。


「李里菜大丈夫?」


「大丈、夫! 早くっ!」


「李里菜ちゃん? もうやめておいた方が良いような……?」


「大丈夫っ!」


 酔うと酒癖が少し悪い。

どうやらここは晶さんの血筋らしい……


「3rd Nice boat……!」


「楽しい食事会だから、それはご遠慮なのです」


「クリスマスだったら、ドンピシャだったねぇ……」


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