見覚えのある部屋
『とにかく静かにしてくださいまし。今は部屋に誰もおりませんが、ドアの外に控えている者がいるかもしれません。それに、アメリがいつ来るかわかりませんわ』
「……アメリ?」
『わたくしの専属メイドです』
「メ、メッメイド? えっ、マジもんのメイド?」
『お静かに! と、申し上げましたでしょう?』
「ご、ごめん」
ついついテンションが上がったが、さっそく怒られて慌てて口を噤んだ。何しろここはグレイシーの世界。純にとって何もかもが未知の世界なのだから、彼女のナビは絶対だった。
「へえ、本当にゲームで見たことあるグレイシーの部屋だ……」
改めて周りを見回すと、そこには会話シーンの立ち絵の背景や、イベントのイラストで見たことがあるグレイシーの部屋が広がっていた。
とにかく豪華で広い。
――俺の家で、事あるごとに狭いだの、窮屈だの言っていた意味がわかったぜ。
もっとも、グレイシーが窮屈だと感じたのは部屋が狭いせいだけでなく、純の体積が大きすぎるせいでもあった。
『ともかく、あちらでは貴方が言う通りに気を付けていたのですから、当然……」
わかってますよね? とばかりにグレイシーは、とりあえず気を付けるべき最低限のことを、かいつまんで急ぎ言い聞かせた。幸いなことに純はあのゲームをそれなりにやり込んでいたので、この国のある程度の知識や常識、家族構成から、いわゆる登場人物の身の上などはわかっていた。
問題は言葉遣いだけだ。あちらでグレイシーが苦労したように、そう簡単に自分の話し方の癖を直すことなどできない。ゲームで見ていたぶん、純の方がいろいろと理解はしているけれど。
『基礎知識に問題はなさそうですわね。よろしくって? 間違っても、おかしな話し方をなさらないように』
「いや、俺からしたらお前の方がよっぽど変なんだけどな」
そうこうしていると、かちりと小さな音を立ててドアが開いた。ずっと意識不明の部屋の主のじゃまにならぬように、一人の年若い女性がお湯を湛えた桶を持ってそっと入って来た。
「……っえ、お、お嬢様! あっ、わっと」
そして、身体を起こしているグレイシーの姿に驚いて、思わず桶を取り落しそうになって、わたわたと持ち直し「そのまま、そのままお待ちください! す、すぐに皆様を……」と、踵を返して、自分で締めたドアにぶつかりそうになりながらバタバタと部屋を出て行った。
「メイド、本物のメイドだ……」
『……当たり前ですわ、先ほどからなんですの? 気持ち悪いですわね』
純にとってはいわゆる眼福だったわけだが、グレイシーにとっては、ただただ気持ちが悪い反応だったようだ。
お読みくださりありがとうございました!




