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ハイファンタジー(ライト)

錬金術師と聖女のレベル1から始める冒険者生活〜錬金・付与してあげた最強装備が勇者に転売されてたので、裏方辞めて自分たちで旅にでます。もちろん勇者は潰します〜

作者: 筆塚スバル
掲載日:2023/01/03

「クレイン、頼んでた武器と防具、出来てるよな。

 あ、もちろんポーションも忘れないでくれ」


 転送魔法陣で現れた勇者ピエールは、ダンジョンの小部屋に到着するなりしゃべりだした。


「ああ、出来てるよ。

 もちろん、ポーションだってある」


 足元に置かれた剣や防具を指し示すと、ピエールは無言でそれを担いだ。


「この前、もらった槍と杖とローブな。

 壊れたから新しいの作ってくれよ。

 あと、ポーションもありったけ頼む」


 ピエールは疲れてるのだろうか、目線すらくれず、淡々と自分の要求だけ伝えてきた。


「お前な、壊れたなら壊れた武器を持ってきてくれっていつも言ってるだろ?

 ……かけらすら残らなかったってことか?」

「ん?……ああ、そうだ」


 ピエールは一瞬悩んだような表情をしていた。


「大変な戦いだったんだな、分かった。

 いつものように、代金はいいよ。

 作っておくから」

「ああ」


 帰ろうとするピエールにオレは話しかけた。


「なあ、そんな大変な戦いだったならさ、オレに聞かせてくれよ。

 冒険の話」

「……そんな暇ねえよ。

 あとさ、今度からポーションもっと増やしてくれ」


 吐き捨てるようにそう言うと、ピエールはそそくさと転送魔法陣でダンジョンを去った。

 疲れているのか、ピエールはオレの方を一度も見なかった。 


 オレとピエールは同じ冒険者学校出身の友達なんだ。


 冒険者学校からは、勇者が1名選ばれる。

 ピエールが選ばれたことは友達のオレとしても嬉しかったし、同時に悔しかった。


 剣さえ使えれば……オレだってとそう思わなかったわけじゃない。

 それでも、大蛇に襲われた女の子を守ったことを後悔したくなかった。

 その時のケガで剣が握れなくなったけど、右手に残る大きな傷跡はオレの誇りでもあるんだから。

 

 勇者になったピエールに、オレは志願して武器や装備を提供した。

 高い金を払って転送魔法陣を買ってダンジョン内に設置し、ボス前の小部屋で待って必要な武器や道具を提供していた。

 オレのサポートもあって卒業後すぐにピエールは活躍し、ダンジョンを何個も攻略していった。


 勇者ピエールの活躍で魔物におびえなくて暮らしていける世の中がやってくるんだと、その時のオレは本気で信じていたんだ。

 

 ――数日後。


 さて、布類もなくなって来たし街に出るとするか。

 売れるだけのアイテムも十分あるしな。

 

 ダンジョンの小部屋に山積みになっている武器防具、ポーションなどの消耗品を空間収納魔法でポイポイと亜空間に放り込んでいく。


 素材採集のため、オレが寝泊まりしているダンジョンから小一時間歩くと、アルシエル王国の王都トハラ。


 露店が立ち並ぶ大広場を抜けると西方に商店街があり、武器屋や道具屋、魔法屋などが密集している。

 なじみの道具屋はその端っこにあるんだけど……あれ?

 

 店のあった場所に看板がかかってない。

 声をかけ、ドアをノックしてみる。


「すいません、クレインっていいます。

 以前もお世話になっていたんですけど……」


 店の奥の方から、物音がした。

 扉が開き、道具屋のおばあさんがやってきた。


「おや、クレインさん。

 もう道具屋やってないのよ、近くに大きな道具屋さんが出来たから」

「ああ、レンガ造りの目新しい建物があったけど……」

「私もね、あそこに行ってみたんだけど……ビックリしちゃった。

 品物がいいのよ。

 クレインさんが持ってきてくれる道具と同じくらい、いい道具が安く置いてあってね」


 おばあさんは悔しいだろうにオレに心配かけまいと、笑顔を浮かべていた。

 

 店を出る際、帽子を取って深々と挨拶をした。

 今までの感謝の意味も込めて精一杯の誠意を送りたかった。


 新しく出来たという道具屋は、おばあちゃんの道具屋から目と鼻の先にあった。

 赤いレンガ積の上等な作りで、3階建ての大きな建物。


「「いらっしゃいませ!」」

 清潔感のあるクラシカルなロングドレスの店員さん達が満面の笑みで迎えてくれた。


 広々とした店内だが、客は多く、品物はわかりやすく整理されて陳列してある。

 1階がポーションとかの消耗品。

 2階が防具やアクセサリー。

 3階が武器。


 いい道具屋かどうかはポーションを見ろって、聞いたことがある。

 さて、この店のポーションは……合格だ。

 透明度の高い青色のポーション。


 価格は……すごいな。

 50チロルか。

 オレがおばあちゃんに売ってる値段と同じなんだけど……

 

 この分だと、武器や防具のクオリティにも期待が持てそうだな。

 階段を上り、2階の防具売り場へ。


 なんだか変だな。

 どの防具も見覚えがある。

 防具や武器には製作者のこだわりが見られることが多い。

 この店の胸当てと、ローブにはすべてオレ独特のこだわりが見られた。

 

 ……どういうことだ? 

 まさか……そんな訳はない。

 友人を疑うなんて、そんなこと……


 心臓が激しく鼓動して、まるで自分の身体じゃないようだった。

 胸を抑え、3階へ駆けあがったオレは、一番目立つところに置いてあった「大剣」に目を奪われた。


 怪我する前は剣士として大剣を振るっていた。

 だから、大剣を作るときには特にこだわっていた。

 重心には特に気を使って作ったから、振るときに力が伝わりやすくなっているし、刃の文様は東洋のデザインを取り入れて波型にしてあるんだ。


「これは、オレの剣だ」

「どうされました?」


 剣を前にたたずんでいた姿がただ事ではないように見えたのだろうか、店員は少しおびえていたように見えた。


「この剣は誰が作ったか、知っているか?」


 店員は胸を張って答えた。


「はい、存じております。

 勇者ピエール。

 ここに置いてある武器や防具、それにアイテムはすべてピエールが作ったものです!」

「はは、ははははは!」

「ど、どうされました?」


 その瞬間、全てを理解した。

 ピエールはオレからもらった装備や道具をすべて売って金に換えていた。


 壊れた装備を直してくれって言って、壊れた武器は持ってこなかったこと。

 冒険の話をしてくれって言っても、最近してくれなくなったこと。

 ……すべてがオレの中でつながった。


「ピエールはどこにいる?」

 

 ――しばらく待たされた後、個室に通された。

 中には屈強な男たちがずらり。

 燕尾服を着たピエールは居心地の良さそうなソファに深く腰掛け、オレにも腰かけるよう促した。


「クレイン、どうしたよ?

 お前が急に街に来るなんてよ。

 教えてくれたら迎えに行ってやったのに」


 ダンジョンに来た時とはうって変わってにこやかな対応だ。

 周りに人がいるからだろうか。

 

「世間話はいいからオレの質問に答えてくれ。

 どうしてオレの道具を使いもせず売ったんだ」

「そんなことか。

 売る理由なんて金以外にあるなら教えてほしいね」


 悪びれもせず、ピエールはそう言い放つ。


「武器がいつもいつも壊れるんだってお前は言ってた。

 あれは噓だったんだな」

「嘘か。

 俺はただ気付いただけだ。

 一生懸命ダンジョンに潜るより、お前の道具を売った方が手っ取り早く儲かるんだよな!」


 ゲラゲラとピエールは笑った。


「ピエール、オレはさ。

 オレが作った武器で、お前が活躍したって聞いたとき嬉しかった。

 だから、オレはお前に武器やアイテムを提供したんだ」

「ああ。

 お前には感謝してるぜぇ。

 俺の店、ほら、今やこんなに大きくなったんだ!」


 ピエールは立ち上がり、両手を広げた。


「『ピエールの店』は、今や王宮御用達なんだぜ。

 それに勇者って肩書も商品に箔をつけるのに一役買ってくれてる。

 ぎゃはははは、こんなにオイシイ商売はねえって話だぜ!」


 ピエールの笑顔はこんなに醜く歪んでいたのか。

 今まで気づかなかったよ。


「なあ、ピエール。

 一応聞くが、嘘をついたことをオレに謝る気はないんだな」

「謝ると俺が悪いことを認めることになっちまうだろ?

 俺は悪くねえ!

 タダでもらったものを使って壊そうが、売ろうがオレの自由だろが!

 ひゃはははははは!」


 金がピエールを変えたのか。

 友達だったピエールの変貌をこれ以上見ていたくなかった。


 足早に道具屋を後にしたが、すぐに宿屋に行く気にならなかったので酒場へ。

 飲みなれていないキツい酒を胃に流し込む。

 

 オレは何のために、ダンジョンに潜って錬金し続けていたんだろう。

 きっと、冒険者になりたかったんだ。

 叶わぬ願いを埋め合わせるため、オレはピエールに期待してサポートし続けた。

 そのすべてが、間違っていたのか?

 

 自分が打ち込んできたものを全て否定されたようで、いつまでたっても胸のムカムカが収まらなかった。


「そろそろ、閉めるよ」


 店主の声掛けを聴き、ふらつきながら、外へ出た。

 フードを目深にかぶり、街をうろつく。

 どこに行くかなんて、その時のオレは考えていなかった。

 

 いつの間にか雨が降っていて、ふらふらと目的もなく歩き続けるオレの身体を芯まで冷やした。


「待って!」


 不意に呼び止められた。

 振り向くと、ドレス姿の少女が傘も刺さずにオレを見つめていた。


「何の用だ」

「足を止めてくれてありがとうございます。

 人違いかもしれませんが、どうかフードを脱いで顔を見せていただけませんでしょうか」

「……」


 妙に丁寧な物言いと、真剣な瞳に面食らって素直にフードを外した。


「これでいいか?」

「クレイン!

 あなたのお名前はもしかして、クレイン・アーバレストではありませんか?」

「どうして、オレの名前を……」

「やっと見つけました。

 クレイン……」


 ドレスの少女はオレに走り寄って、何を思ったかいきなり抱きついて来た。


「ちょ……落ち着けよ」

「クレイン、クレイン……」


 女の子はオレの胸の中でずっと泣きじゃくっていた。

 他人ひとの涙が温かいなんてこと、オレはその時はじめて知ったんだ。


 ★☆


 ん……寝てしまったみたいだな。

 体の疲れは思ったほど残っていなかった。

 妙にベッドがふわふわなお陰だろうか。

 

 しかし、オレは昨日酔っぱらって大変無駄遣いをしたらしい。

 ふかふかなだけじゃなくて、ベッドには天蓋がついてあり、部屋のつくりも最高級だ。

 部屋は爽やかな甘い香りが満ちており、ほのかな温かさがベッドの中から伝わってくる。


「すう……すう……」


 耳元で寝息が聞こえる。


「ん……」


 パジャマが寝返りを打ち、女の子の顔がオレの目の前に来た。

 ……おいおい、最高級の宿を取って女の子を連れ込むなんて昨日のオレは最高にご機嫌だったようだな。

 

 深酒のせいで記憶があいまいだが、王都をふらふらとさまよっているときに、この女の子に抱きつかれたんだ。

 この女の子はオレの名前を知っているようだったが……


 安心したように眠る彼女は鼻筋が通っていて寝顔でも美人であることがわかるほど、端正な顔つきをしている。

 金色の髪を腰まで伸ばしているが、ツヤもあり毎日手入れしているのが見て取れた。

 彼女の顔をじっと見つめているときに、不意にぱちりと目が開いて、オレたちは意図せず見つめあってしまった。


 ……眼をそらすと照れているのを認めているようで、彼女の碧い大きな瞳から眼が離せなくなってしまった。


「おはようございます、クレイン」

「……おはよう」


 笑顔で挨拶をする彼女につられ、オレも挨拶をした。

 彼女は、すぐにぱっとベッドから起き上がり背伸びをした。


「ここはどこだ?」

「王宮の私の部屋です。

 ふふ、お父様に知られてしまったらお叱りを受けるでしょうか」


 なぜオレが王宮の中にいるんだ?


「ふふ……クレインのその顔、まだ私が誰なのか思い出せていないようですね」


 彼女は、部屋の隅に置いてある小さな机の引き出しを開け、なにやら取り出した。


「これで思い出してくれないと、私すねちゃいますからね」


 彼女は左手に指輪をはめた。

 きらりと光る青色の小さな宝石。


 ……忘れるわけがない。

 彼女がはめた指輪は、オレが初めてダンジョンを探索したときのドロップ品だ。

 一緒にダンジョンを潜った女の子に、オレがプレゼントしたんだ。


「アイリス……お前、アイリスなのか!」

「クレイン、ようやく気付いてくれましたか。

 私はあなたの後ろ姿で分かったんですけどね」


 アイリスは口をとがらせていた。


「はは、ごめんってば」


 不意に右腕に痛みを感じ、心配をかけまいと声をあげないようにしたつもりだが、顔を歪めてしまった。


「……ッ……」

「まだ、痛むのですか」

「……たまにだけどな」


 アイリスは右手でオレの右腕に触れ、呪文を唱えた。

 右手が淡い光を発し、オレの腕を包み込む。

 流れてくる魔力が心地よくて、心が満たされていった。


 聞いたことがある。

 聖女の癒しの力は、相手の心まで癒すことがあると。


「痛みが取れたよ。

 癒しの力なんて使えるようになったのか。

 すごいな、アイリスは」

「今は『聖女見習い』といったところでしょうか。

 ……クレイン。

 右手、動かせますか?」


 いつもピクリとも動かない右手の先が、かすかに動いた気がした。

 でも、ずっと動いていなかった手なんだ。

 自分ではわかるわけもない。


「アイリス……触ってみてくれ」

「わかりました」


 オレの右手をアイリスが両手でぎゅっと握った。

 小指のわずかな動きがアイリスの手のひらに伝わっただろうか。


「動いた……クレイン、動きましたよ!」

「……ありがとう、アイリス」


 動いたことを確認すると、アイリスは両手でオレの右手を優しくなでてくれた。


「クレイン。

 私があなたから奪ったものは、必ずすべてお返しします。

 あなたの右手が剣を握れるその日まで、1年でも10年でも私が癒し続けますから」


 アイリスの手から発する魔力は、オレのこころも癒してくれたようだ。

 

 ――朝食が出来ているとのことで、応接間へ。


 次から次に出てくる朝ご飯を食べながら、卒業してからのお互いのことを話した。


 アイリスは、王女としての公務を行いながらも、合間を縫って癒し手としての訓練を行っていたそうだ。

 学生の頃、攻撃魔法の適正がないとのことで思い悩んでいたアイリスだが、実は聖女の適性があったらしい。

 今は王国にも数少ない癒し手として、聖女になるべく修行を積んでいるそうだ。


 オレも、錬金術師として修業しながらダンジョンに潜っていたことと、ピエールが転売していたことを話した。


「ピエールさんの店の道具は素晴らしいものでしたから、王宮御用達にしていたのですが、クレインが作ったものだったとは……ピエールの店は今日から王宮御用達はやめます。

 それと、ピエールさんの店、王命で営業停止にしましょうか。

 あまりにも悪質で、クレインの善意を踏みにじったこと、私にはどうしても許すことが出来ません」


 アイリスは自分のことのように怒ってくれた。

 そのことが、オレには嬉しかった。

 

「人気店であるピエールの店を王命で廃止したら、根強くピエールが支持されてしまうし、民衆が王を支持しなくなるかもな。

 大丈夫、何とかして見せるよ。

 ピエールなんかに負ける気がしないから」


 アイリスを安心させるべく、オレはぐっと手を握って見せた。


 ――アイリスからの提案で、オレは王宮錬金術師として、活動することになった。


 癒し手である王女アイリスとの時間を作るには、何らかの職を得て王宮で活動できる身分がいいとのことだった。

 ついで爵位がないと王宮におつとめできないらしいので、何らかの爵位をもらったらしい。

 まあ、オレは爵位なんかに興味なんてないけど、ピエールを懲らしめるために必要であるならもらっておこう。

 

 オレは決意も新たにピエールの店を潰す計画を立て始めた。


 ――初めの一週間は、店の準備と素材の確保に費やそう。


 オレはピエールに転売されていたことを元道具屋のおばあちゃんに明かして協力を仰ぐ。

 おばあちゃんが思いのほか乗り気のようで助かった。


「この店でいつも通り道具屋をしてくれればいいよ。

 売るアイテムはこんなに持ってきたから」

「値段はどうするの?」

「いつもの値段で大丈夫だよ」

「それだと、ピエールさんの方が安いわよ?」

「大丈夫。

 オレには作戦があるからさ」


 売り子は確保できたけど、後は目立つ店にしないとな。

 店を派手な色で塗り、付与術でキラキラと光るようにした看板を取り付ける。


「上出来だな、こんなに目立つ店は王都中探してもないぞ」

「……ふふ、こんなキラキラした綺麗なお店を任されるなんて嬉しいわ」

「しばらくは店が開いてるのを知ってもらう期間になると思う。

 いつもの通り、お客さん第一で接客してくれたらいいからね」

「ふふ、またお店に立てるなんて嬉しいわ」


 おばあさんの表情が生き生きとしているように感じる。


 じゃあ、後はじっくり素材探索でダンジョンを周回するとしますか。

 その後は、毎日ダンジョンで素材を確保し、アイリスに治療してもらう日々を続けた。


 2週目。

 さて、一週間経った。

 そろそろ効果が出てくるはずだ。

 どれ、二つの店を巡ってみるとするか。


「うーん、あまり売れないのよ」


 おばあちゃんは嘆いていたが、オレはまったく気にしていない。


「まあ、気にしなくていいよ。あっちの店より高いんだからさ」

「……クレインさんが言うならいいけど……」


 さて、次はピエールの店だ。


 あまり目立ちたくはないので、フードを被って入店する。

 1階から3階までざっと商品の様子をチェックしたが、売れ行きが良くなって欠品が増えている印象だ。


 それだけ確認すると、王宮に戻って錬金を開始した。

 アイテムの増産だ。

 最後はアイテムの数の勝負になるので、できるだけ量を確保したい。

 王宮の一室でオレはせっせと武器やアイテムを作り続けた。


 3週目。

 おばあちゃんの道具屋をのぞくと、店内はごった返していた。


「あ、クレインさん!

 嬉しい悲鳴よ、お客さんが多すぎて対応できないわ!」


 おばあちゃんはせっせとお客さんの対応に追われていた。


「ははは、予想通りだな」

「どういうこと?

 先週までは全然売れてなかったのに……」

「おばあちゃんの店も閉まっちゃったから、王都には道具屋が一つしかなくて、お客さんは価格の比較ができない状態だったんだ」

「えっと、どういうこと?」


 おばあちゃんはまだピンと来てないようだ。


「ピエールの店の他にこの店が出来たから、お客さんはピエールの店の方が安いことに気づく。

 だから、先週お客さんがピエールの店に一気に押し掛けた。

 今、ピエールの店は今ほとんど道具がない状態になってるよ」

「だから、うちの店に一気に客が溢れたのね?」


 価格を比較してまで買う人もいれば、いつも行く店でとりあえず買うって人もいる。

 とりあえず買うって人にはモノがあるってことが一番大事だ。

 今回この店で買ってくれた人は、次回高確率でこの店を利用してくれるはず。


「さて、もうちょっとで仕上げだね。

 このカードを売ってほしいんだけど」

「これ、何なの?」

「転送魔法陣の使用証だよ」


 ★☆


「何だと?

 先週の売り上げが凄すぎて売るものが何もないだと!」


「その通りです、ピエール様。

 ピエールの店はすべて欠品状態になりました」


 ピエールの店の店長はうやうやしくオレに礼をした後、話を続けた。


「でもですが、問題ありませんよね?

 今週はいつものようにピエール様が道具類を仕入れなさる日。

 明日からは、仕入れたものを売ればいいのですから」

 

「いつもの仕入れ先は、しばらく使えなくなった」

「「ええ?」」


 店長たちはどよめいていた。

 

「仕入れられないものは仕入れられない。

 早急に道具の仕入れ先を探すんだ!」


 予定外のことにいら立ちを隠せないが、まあいい。

 売れたってことはいいことだ。

 仕入れに目途さえつけば、営業できるんだから。


「ただ、なんで急激に売れてしまったんだ?

 俺の計算だと、後一か月くらいは品物は持つと思ったんだが」

「それがどうやら、ピエールの店とは別の道具屋がオープンしたみたいで」

「おい、どうしてだ。

 他の店が出来たら売り上げは下がるんじゃないのか?」

「それが……うちの店より価格を高く設定していたようで」

「おいおい、新規出店した店は普通今ある店より安くするもんだろう?」

「そうなのですが……その店よりピエールの店が安いため、一気にお客さんが購入したということではないかと……」

「……何なんだその店は……まあいい。

 今は仕入れ先を探すことだ、それさえ済めばまたうちの店に戻ってくるだろう」


 ――数日後、執務室はさらに深刻な雰囲気に包まれていた。


「仕入れ先が見つからないだと!

 今、店には何の道具もないんだぞ!」

「……ええと、見つからないというか品質と価格に見合う業者がありません。

 大幅に価格を上げて、質の低いものを出すしか……」


 店長はビクビクしながら俺に報告をした。


「ふざけるな!

 仕入れ先が見つからないなら、ダンジョンで素材を探索して自分たちで作るしかないだろう!」


 幹部たちは互いに顔を見合わせた。


「何だ」


 幹部の一人がおそるおそる報告をした。


「それが、ダンジョン探索のための転送魔法陣が使えなくなっておりまして……いや、正確には使えるのですが、使用証が必要になりました」

「何だと!

 あれは無料でみんな使えるのではなかったのか?」

「いや、私もそうだと思っていたのですが……どうやら個人が設置したもののようで、魔法技術で使用証がないと使えないのです」

「そこまでわかってれば使用証を買えばいいだろう!」

「ピエール商会の人には売らないと言われました」

「どういうことだ」

「私にはわかりません。

 ですが……皆噂しています。

 ピエール商会の誰かが、設置したお方の恨みを買ったのだと」


 店長や幹部たちはオレに冷たい視線を送ってきた。


「何だ貴様ら、その眼は!」

「転送魔法陣の設置者は、クレイン・アーバレストいう付与術師です。

 街ではみな噂しています。

 転送魔法陣を設置したクレインは素晴らしい。

 有料にしたといっても、安く使わせてくれる。

 だから、恨みを買ったピエールはロクなもんじゃない、と」

「何だ貴様ら、さっきからその眼は!

 転送魔法陣が使えないなら、使わずにダンジョンに潜ればいいだろう!」


 怒号が執務室に響き渡った。


「ピエール様。

 アンタは私たちに死ねって言うんですね。

 転送魔法陣のあるなしでダンジョンの危険性が随分変わるんですよ。

 アンタは勇者なんですから、ダンジョンの危険性は十分把握してますよね?」


 店長はじめ、幹部たちがオレに詰め寄ってきた。


「何だ、貴様ら!

 やる気か!」


 オレは剣に手をかけた。


「私たちは、何も勇者のアンタに勝てるなんて思ってないですよ。

 ただね、私たちだって……辞める自由くらい持ってます」


 店長はじめ幹部たちは一斉に床に辞表を叩きつけた。


「お前ら、ここを辞めてどこに行く気なんだ、おまえらを使ってくれる店なんてないぞ!」

「「はははははは!」」


 店長たちは腹を抱えて大笑いしてた。


「ここより好待遇で雇ってくれるところがあるんですよ。

 新しくできた、おばあちゃんが店長やってる店ですけどね。

 みんな誰がその店を経営しているか、知ってますよ」

「誰なんだ、経営者は」

「みんな『クレインの店』って呼んでるんですよ」


 吐き捨てるように店長はそう言うと、幹部たちは足早に店を出て行った。

 

 クレイン……許さん、許さんぞ。

 オレの店をよくも潰してくれたな!


 ★☆


「ははは、目が回る忙しさだ」


 おばあちゃんの店は今日も大盛況だ。

 店を大きくする暇がなかったので、王宮の許可を得て簡易テントを設営し、店員を増員して営業に当たっていた。

 オレも武器の担当として接客に当たっていた。

 

「こんにちは、クレイン」


 アイリスがオレの店に顔を出した。

 まあ、さすがに王女だから顔を出すだけで大騒ぎになる。

 

「あのな、来るんなら連絡してくれよ。

 お客さんだってビックリするだろ?」

「だって……クレインが接客してるところを見てみたかったのです」


 アイリスは目を伏せ、しょんぼりしていた。


 オレとアイリスのやり取りを見て、周りが騒ぎ出した。


「おい、アイリス様と対等に話をしてるヤツ、何者だ?」

「知らねえのか、クレインだよ。

 ピエールの店に道具を卸してたけど最近仲たがいして、こっちの道具屋に卸してるんだってよ」

「いや、それにしてもすごく親密じゃないか?」

「あの二人、身分違いの恋って噂もあるんだぜ?」

「おい、マジか……」


 あのさ、聞こえるような声で噂をしないでほしいんだけど……

 そんな中、10歳くらいの女の子が、アイリスに話しかけた。


「王女様はクレインさんと結婚するの?」


 辺りは騒然とし、母親が慌てて子どもの手を引き、何度もアイリスに謝っていた。

 オレとアイリスは眼を合わせ、苦笑した。


「ふふふ、それもいいかもしれませんね」

「おい、ちょっと待て!

 誤解されるだろ!」


 アイリスはいたずらっ子のように舌を出して笑っていた。

 

「ったく……」


 お前は王族だろ、変な噂がたったら困るんだからな。

 アイリスをにらんでみても、あいつは全く気にせずけらけらと笑っていた。


「へへ、ご機嫌じゃねえかよ、クレイン」


 赤ら顔のピエールがそこにいた。


「ピエール」


「おいおい、アイリスまで居るじゃねえか。

 てめえ、何でこんなところで油売ってるんだ、暇なんだったら嫁にしてやるぞ。

 くくく、その年まで未婚だったら体が火照ってるだろう、オレが慰めてやろうか」


 ピエールの下卑た笑いがあたりに響いた。


「王女アイリスに対する暴言、よほど牢屋に入りたいらしいな」


 赤ら顔のピエールから、キツイ酒の匂いがした。


「商売がうまく行かないからってヤケ酒はやめろよ」

「……誰のせいだと思ってるんだ、お前が俺からすべて奪ったんだ!

 商品も、仕入れ先も、客も、従業員も……クレイン。

 お前が、オレからすべて奪った!」

「言いがかりはよせよ。

 オレがお前にアイテムをあげるのをやめただけだ。

 客や従業員が離れていったのはすべてお前のせいだ」

 

 まあ、欠品だらけの店にするよう仕向けたのはオレだけどな。


「それに、アイリス。

 お前だって……どうして俺じゃなくてクレインがいいんだよ。

 勇者になったのは俺なんだ。

 剣すら握れないクレインなんて忘れてしまえ」


 ピエールは情けない声を出した。


「……私は……」


 野次馬の眼がアイリスに集まった。


「クレインは私をかばって右腕に深手を負いました。

 その右腕が治るまで、私はクレインのために生きると決めています」

「ははは、お優しいことで。

 自己犠牲の精神ってヤツかよ」


 アイリスは胸をぎゅっと握った。


「……あれ?

 ふふ、自分の心は騙せないようですね、嘘つくと胸が痛いです。

 きっと私はクレインと一緒にいるための言い訳を探していました。

 王女の私は用がなければ気軽にクレインに会いにはいけません。

 だから、理由をつけてクレインを王宮に縛りつけました」


 この一か月、用がない時は王宮に通い、毎日アイリスに治療されていた。

 その間、オレたちは他愛もない話をした。

 好きな食べ物や、流行りの歌、学校の時の友達や先生の話。

 どれも他の人が聞いたら退屈するような話だけど、オレたちにとってはとても大事な時間だった。


「クレイン。

 私はあなたとずっと一緒にいたいです」


 一点の曇りもない瞳でアイリスはオレを見つめていた。


 野次馬が騒然とした。

 発言一つで国中大騒ぎになる王族の発言としては、かなり踏み込んだ発言だから。

 身分差によって、結婚や職業が制限されるこの国にとって、今のアイリスの言葉は王族が口にしていい中での最大の親愛を示す言葉だと思う。


 周りの客たちは、アイリスの言葉に胸を打たれ、拍手をしていた。

 誠実な言葉の返事は、誠実に返すしかない。


「……オレがアイリスにあげたいものは、学生のころからずっと同じだよ」

「もしかして、これのことですか?」


 アイリスは左手の薬指にオレがあげた指輪をつけていた。

 オレはゆっくりと頷いた。


「いつか、本物を渡す。

 それしか、今は言えない」

「いつまでも、待っていますからね」


 そう言って、アイリスは左手の指輪を右手でぎゅっと握った。


「何だよ、この茶番はよお!」


 ピエールは絶叫した。


「オレが勇者だぞ、あいつは右手動かないんだぞ、オレのものになれよ、アイリス!

 せっかくオレが大蛇の巣をぶちまけてクレインを罠にハメたってのによ」


 オレは学生の頃、アイリスを襲った大蛇に噛まれ、右手の神経と感覚を失なった。


「今、何て言いました?」

「チッ……何も言ってねえ」


 アイリスの質問に、ピエールはあからさまにしまったという顔をした。

 酔って正常な判断が出来なくなっているのだろう。


 アイリスを襲った大蛇は、お前が仕掛けたものだと言うのか。


「……あなたはクレインの友達ではなかったのですか?

 あなたのせいで、クレインがどれほど……」

「うるせええええ!」


 ピエールが剣を抜き放ったので、アイリスを守るため前に出た。


「王族に刃を向けたぞ、その意味が分かってるのか」

「は!

 知ってるさ、王宮から警備隊が到着するまでの間にお前を片付け、アイリスをさらって王都を去る。

 ははは、簡単なことだ。

 ダンジョン探索よりもはるかに簡単だな」

「アイリス、下がっててくれ」

「でも、クレインは右手が……」


 アイリスの治療のおかげで、指先は動かせるようになって来たがまだそれだけだ。

 とても剣など右手で握れる状況じゃない。

 それでも、左手だけで倒すしかない。


「大丈夫だ、オレは左手一本でいつもダンジョン探索に行ってるんだから」

「クレイン無理しないでくださいね。

 もうすぐ警備隊が来ますから」


 アイリスが後ろへ下がると、民衆がアイリスを守るべく立ちはだかった。


「みなさん……」


 それを見たピエールは眉を吊り上げた。


「お前ら、よくも……」

「相手はオレだぞ、ピエール」


 オレは短剣を握った。

 利き腕でない左手では、とても大剣など扱えないから。


「……すぐにクレインを片付けて、お前らも地獄に送ってやるからなあ!」


 ピエールは力任せに剣を振り回した。


 跳躍してかわすが、すぐに追撃が来る。

 剣に対し、短剣で防ぐわけにもいかず、回避を続けた。


「クレイン、攻撃してこいよ。

 ビビってんじゃねえぞ!」

 

 ピエールは挑発のポーズを取った。


「一応聞いておくけど、何の武器使ってもいいんだな?」

「いいぜ、オレも魔法を使わせてもらうからよ!」


 ピエールは得意の炎魔法を連射、オレは空間収納魔法で盾を取り出して防いだ。

 もちろん、付与術で魔法防御を上げてある。


「空間収納魔法か、こざかしい魔法を使う」

「じゃあ、今度はこっちから行くぞ」


 オレは短剣を5本取り出し、次々とピエールに投擲した。


「遅えよ!」

 

 ピエールはわざとギリギリで交わしているが、そのナイフ魔法効果付きだぞ?


≪爆発(イクスプロ―ジョン)≫


 ドオオオン!


「ぎゃあああああ」


 至近距離の爆発を受けて、ピエールは吹っ飛ばされ近くの壁に激突した。


「まだやるか?」

「汚ねえぞ……爆弾投げやがって」

「いや、ちゃんと武器だぞ?

 【爆発(イクスプロ―ジョン)】を付与した短剣だ」

「ち……ちくしょう……」


 ピエールは剣を地面に突き刺し、立ち上がった。


「まだやるのか?」

「ちくしょうが!」


 ピエールがぶんぶん振り回す剣は、すべてオレが足さばきで交わした。


「な、何でそんなに強いんだよ……」


 ピエールは足に疲れが来たようで、壁に寄りかかって座り込んだ。


「オレはずっとダンジョンに潜ってたからな。

 お前はその間ずっと街にいたんだろ?

 オレが強くなってるんじゃない、お前が弱くなってるんだよ」

「ちくしょうが……へへ。

 このまま捕まってたまるかよ!」


 ピエールは突如立ち上がり、剣をアイリスの方へまっすぐ投げた。


「死ねよ、アイリス!

 手に入らないものなら殺してしまう方がマシだぜ!」


 不意のことでアイリスはかわせそうにない。


「アイリス!」


 空間収納魔法で素早く機械弓ボウガンを取り出し、ピエールが投げた剣目掛けて射出する。


 ガンッ


 まっすぐアイリスの心臓目掛けて飛んでいた剣は、機械弓ボウガンの矢に当たって斜め下に落ちた。

 

「アイリス、何ともないか?」

「ええ。

 良く見えませんでしたけど、クレインが助けてくれたのですよね?」

「ああ……ピエールを無力化するから待っててくれ」


 機械弓ボウガンをピエールに突きつけながら、近づく。


「変なことを考えるなよ、お前が何かする前に機械弓ボウガンが心臓を貫くぞ」

「へへ、分かった。

 殺さないでくれ……」


 この期に及んでも、何か企んでそうなピエールの両手両足に機械弓ボウガンを容赦なく連射し、破壊する。


「ぎぐあああ……」


 拷問したいわけじゃないが、さっきのように暴れてもらうと困るからな。

 後は到着した警備隊に任せ、オレとアイリスは王宮へと戻った。


 ★☆


 それからもアイリスはオレのために毎日治癒魔法をかけ続けてくれた。

 2か月後、ようやくオレの右手は短剣を握れるほどに回復したんだ。


「クレイン、早く行きましょう!」


 ぐいぐいと袖を引っ張るんじゃないよ。


「……ちょっと待ってくれよ、アイテムの確認が必要なんだから」


 卒業後、随分遠回りをした気がするけど……ようやく二人でダンジョンに挑むことが出来るようになった。


 錬金術師と聖女のパーティー。

 バランス的には前衛が一人いた方がいいんだろうけど……

 オレとアイリスの二人だけの時間を他人に邪魔されたくないっていうのが本音のところだ。


 楽しくて仕方ないと言った様子のアイリスに手を引かれ、オレたちはダンジョンへ突入した。

 

「また魔物に襲われても、守って見せるからな」

「また噛まれたら、回復してあげますね」

「……もう、噛まれたくはないんだけど」


 いつか本物の指輪を渡すと言った言葉に嘘はない。

 けど、王女との結婚はそうやすやすとはいかないだろう。


 でも今は、この手をずっと握っていたかった。

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