タマノヲリンネ
【キャラクター】
□蒼鬼
一見気の弱そうに見えるが、その実、芯を持っている。
優しい一面もあり、困った人にはすぐ手を伸ばす。後先考えない所も。
△朱鬼
勝気な子。そして自信家でもある。その反面、短気で短絡的な所も。
情に厚い所もあり、仲間想い。
●骸骨
・年齢:不明
蒼鬼が出会う存在。蒼鬼へアドバイスをしていく。
名前のまんまの見た目。自身のことを「わっち」と呼ぶ。
その正体は────。
▲カミ
・年齢:不明
カミを自称する、朱鬼が出会う存在。男の子にも女の子にも女性にも男性にも見える。
「にゃはは」と笑うこと以外、謎に包まれている。
物語では、朱鬼に寄り添い、サポートをしていく。
その正体は────。
【配役表】
~~~タマノヲリンネ~~~
作:さもえどさん 原案・イラスト:たろちょす
https://ncode.syosetu.com/n0424hx/
□蒼鬼/子1/子ども1 :
△朱鬼/子2/子ども2 :
●骸骨/市民2/童1/犬神 :
▲カミ/市民1/童2/異形 :
(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)
【台本について】
・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan
・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。
・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。
・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。
~~~~序章~~~~
とある街の図書館。平日の昼間。
ひとり、なかなか目当ての本が見つからず困っている。
小声で会話する。
▲市民1 :んーと……? あれ、ないなぁ……。これでもないし、これでもない。どこー……?
●市民2 :あのー……。
▲市民1 :あ、はい! あ、ごめんなさい、邪魔でした?
●市民2 :いえいえ。お節介かなと思ったんですが、困ったように見えて。何かお探しですか?
▲市民1 :あ、その。近隣の言い伝え的なのを探してまして……。
●市民2 :あぁ、それなら。……これです。近くに神社があるんですけど、その伝承みたいですよ。
▲市民1 :ありがとうございます……! えっと、なになに……?
間
▲市民1 :『鬼子伝説』……?
~~~~第一幕~~~~
紅葉林の中。あたりが紅い葉で満たされた場所。早朝。
ひとりの子どもが倒れている。
□蒼鬼 :ん……、うぅ……。ここは……? 森の中?
────きれいな紅葉……。あれ? ぼくはどうしてここに来たんだっけ……?
間
□蒼鬼 :誰もいない……。なんにも思い出せないし。
誰かいないか探してみよう。────うわっと!!
何かに躓く。
□蒼鬼 :いてて。これって……。────ガイコツ!?
え!? なになに!? なんでこんなのが落ちてるんだよぉ……!
●骸骨 :ややや。なにかお困りごとかい?
□蒼鬼 :え……。
●骸骨 :さもありなん。わっちもそうであった。もう幾十年も前になるか。初々しい初々しい。
□蒼鬼 :ががが! ガイコツがしゃべった……っ!
●骸骨 :何を驚く青鬼の。骸骨と話すのは初めてかえ?
□蒼鬼 :え……。あ、あなたも妖なの……?
●骸骨 :その通り。とはいえ成れ果てだがねぇ。
□蒼鬼 :成れ果て……。死んじゃったってこと?
●骸骨 :そうさなぁ……。儀式に敗れ、ここで朽ち果てた。
□蒼鬼 :儀式って? なんで死んじゃったの?
●骸骨 :疑問が尽きぬか。さもありなん。おぬし、記憶がないのであろう?
□蒼鬼 :なんでそれを……。
●骸骨 :わっちもそうであった。記憶を奪われ、右も左もわからぬまま儀式を行った。
その顛末が、この躯。これは、そういう儀式じゃ。
□蒼鬼 :……。
●骸骨 :わっちがおぬしに伝えられることは限られておる。だが、そのすべてを伝えよう。
どうか、どうか。選択を。おぬし自身の選ぶ道を。見誤らぬように……。
間
半ば朽ちかけた社。賽銭箱に体を預け、ひとりの子どもが寝ている。
ゆっくりと瞼を開けるこども。
△朱鬼 :ふぁーあ。よく寝た……。あれ? どこだここ。
……ぼろぼろなお社。きったねぇなぁ。神様もかわいそうに。
▲カミ :それはそれはお心遣いどうも。赤鬼さん。
△朱鬼 :……っ!? 誰だテメェ、何の用だ!
▲カミ :ボク? ボクは……。そうだね、君たちでいうところの神様、かな? にゃはは。
△朱鬼 :神様ぁ? 神様がなんで、こんなヘンピなところにいるんだよ!
▲カミ :いまはボクがここを支配しているからね。お社に神様がいるなんて、何らおかしいことじゃないだろう?
△朱鬼 :えっと……。このお社の神様ってこと?
▲カミ :にゃはは。
△朱鬼 :しっかし、変だ。なんだろ、この感覚……。思い出そうとしても何も思い出せない。
▲カミ :それは、この儀式の影響だね。
△朱鬼 :儀式?
▲カミ :そう。これは、命の儀式。そして、君は命を追い求めなければならない。
△朱鬼 :どういう事だ?
▲カミ :難しく考える必要はないよ。君はこの呪符を、逃げる方に張り付ければいいってこと。
△朱鬼 :なにがなんだかさっぱりだ……。
▲カミ :簡単な話さ。ここは閉ざされた空間。だから君は、ここから脱出しなければならない。ボクはそのお手伝い役ってコト。
△朱鬼 :なるほど……?
▲カミ :この呪符は、張り付けられた者の命を吸って、鍵になる。あそこの大扉の鍵にね。
だから君は、これを逃げるもうひとりに張り付けて、あの扉から出ればいい。
△朱鬼 :それが、儀式。
▲カミ :そう。……幸い、君は妖。赤鬼の末裔だ。持ち前の妖力で、何とかなると思うよ?
△朱鬼 :おう! オレは最強なんだ!
▲カミ :自信があるのはいいことさ。あ、君の事は朱鬼とよんでも?
△朱鬼 :赤鬼だから、朱鬼?
▲カミ :そう。
△朱鬼 :安直だなぁ。まぁいいけどさ。
つまりオレは、さっさと殺して、ささっと帰ればいいってこと?
▲カミ :そうだね。だけど、そう簡単にいくかなぁ?
△朱鬼 :なんでだよ。オレ、足は速いぞ!
▲カミ :君の力を疑っているわけではないよ。
ただね、君にここから出る手段があるのと同様に、逃げる方にも脱出するすべがある。
△朱鬼 :……どんな?
▲カミ :ここにはいくつか、封印された岩がある。その封印を解くたびに、君の命が、逃げる方の持つ呪符に溜まっていく。
△朱鬼 :つまり、封印を解かれる前に捕まえないと、死んじまうってことか……。
▲カミ :そういうことになるね。
△朱鬼 :しっかし、なんでこんな儀式なんて。
▲カミ :創造した者に聞いてみると、案外答えてくれたりね。
△朱鬼 :そもそも、そいつに会えるかどうかも謎だな。ま、今は考えても仕方ないか。
▲カミ :……にゃはは。
△朱鬼 :とにかく、その逃げる方を探してみる! どんな奴かもしらねぇけど!
▲カミ :ボク、助言はできるけど、干渉はできない。応援しているよ。
△朱鬼 :ちぇ。まぁ、いるだけ有り難いか。いくぞ!
▲カミ :はいはい。
森の中を彷徨う青鬼。
□蒼鬼 :少し歩いてはみたけど……。ねぇガイコツさん。その封印された岩っていうのはどこにあるの?
●骸骨 :(理解不能な言語)すきえん じんにいれ うこ。
□蒼鬼 :……?
●骸骨 :……ふむ。なるほど?
□蒼鬼 :どうしたの?
●骸骨 :さもありなん。やはり、蒼鬼。儀式に関する重要な事柄は、伝えられぬ。阻害されてしまうようじゃなぁ。
□蒼鬼 :そっかぁ。……あ。たまに捨てられてた、あのおっきな木箱みたいなやつは、どう?
●骸骨 :……るえん ちにるか るえ。
□蒼鬼 :……だめ、そうだね。
●骸骨 :面目ない。
□蒼鬼 :んーん大丈夫! ガイコツさんは悪くないよっ!
●骸骨 :そうさな。封印された岩について知りたいのよな?
独り言にはなるが。わっちは、景色を見るのが好きじゃ。高い所から滴る水は、さぞ良い風情であろうなぁ。
□蒼鬼 :高い所から滴る水……。
●骸骨 :木箱は、気になるのであれば開けてみると良い。おぬしの役に立つかもしれぬ。
□蒼鬼 :……うん。なんとなく、わかった。探してみるよ。
●骸骨 :良き子じゃ。
一方その頃、朱鬼。
△朱鬼 :兎にも角にも、件の岩がどこにあるのかを押さえておきたいぜ。知ってたりするか?
▲カミ :知っているよ。でも教えられない。
△朱鬼 :なんでさ。
▲カミ :そういう仕組みだからさ。だけど……、そうだなぁ。
南に行けば、手水舎がある。何か面白い物があるかもしれないね。
△朱鬼 :なんだか、まどろっこしいなぁ。ま、いいけどさ。
▲カミ :行くなら急いだほうがいい。何せ、少し離れているからね。
△朱鬼 :はいよ。
……そういえば、カミ様はなんでこんなところに閉じ込められちまったんだ?
▲カミ :土地神、だからさ。
△朱鬼 :とちがみ?
▲カミ :この国では、あらゆるものに神が宿る。山や川、天候や自然。道具や着物。そして、土地や場所。それらの神は、人間の使う陰陽術や、君ら妖の使う妖術を超えた力を持つ。
△朱鬼 :確かに。
▲カミ :しかしその反面、産まれたモノに縛られる。まるで力の代償みたいに、ね。
△朱鬼 :なるほど。実際、神様には妖怪真異を使ったところで勝てそうもねぇしな。
▲カミ :妖怪真異? なんだいそれ。
△朱鬼 :力の上限をこえて、妖術を使う禁術? みたいなもん。それ使ったら死んじゃうんだけどな。
▲カミ :へぇ。
△朱鬼 :しっかし可哀想になぁ。生まれた時から離れられないくせに、その土地が異空間になっちまって。
強制的に変な儀式に巻き込まれてしまった、と。
▲カミ :にゃはは。
△朱鬼 :ま、ここで会ったのも何かの縁。あんたのためにも、サクっと終わらせてやるよ!
▲カミ :……ありがとう。
場面変わり、蒼鬼。
□蒼鬼 :何だろうここ……。広場……? 森の中に穴が空いたみたいだね。
何かの儀式をする場所なのかな?
●骸骨 :というより、ここは祓所よな。
□蒼鬼 :はらえど?
●骸骨 :不浄を祓う所よ。
□蒼鬼 :へぇー。……あっ、真ん中になんかあるよ! 縄で巻かれた岩!!
あれ、封印された岩じゃない!? 行ってみよう!
●骸骨 :……。
□蒼鬼 :……やっぱり! 絶対これだよ。この縄を外せばいいのかな……?
んしょ……、よいしょ……。────ダメだ、錠前が邪魔で外せないよ。
●骸骨 :さもありなん。
□蒼鬼 :錠前はみっつ。ってことは、この封印を解くためには、鍵がみっついるってこと?
●骸骨 :かもしれぬな。
□蒼鬼 :どこかに落ちてたりしないかな……? 岩の裏とか────、おっ。
●骸骨 :……なにかあったか。
□蒼鬼 :縄に紙が挟まってた。なんだろ、広げてみるね。
●骸骨 :…………うむ。
□蒼鬼 :……あっ。これ、ここの見取り図だ!
●骸骨 :そうか。
□蒼鬼 :やったぁ! これでだいぶ楽になるね!! それで、ガイコツさんが言ってた場所は……。
あった!! たぶんここだ! ガイコツさん、行ってみよう!
間
一筋、絹のように淑やかな滝が、ささやかな音を奏でている。
滝口のほとりでは、縄で縛られた岩が鎮座していた。
□蒼鬼 :滝……! うわぁ……キレイだなぁ……。
●骸骨 :記憶がないだけで、おぬしも知る景色よ。みな、白涙の滝と呼んでおる。
□蒼鬼 :白涙の滝……。言われてみれば、どこかで……。
────あっ。あそこにも、岩!
●骸骨 :……すぅろら くす。
□蒼鬼 :こっちは、さっきのと違って錠前がついてない! 解けそうだよ、ガイコツさん!
●骸骨 :そうか。
□蒼鬼 :んむぅっ! ……なんだこれ、縄なのにびくともしない。石みたいに頑丈だなぁ。
●骸骨 :足元には何かないかえ?
□蒼鬼 :ん……? これは……、紅色の勾玉?
●骸骨 :拾うかえ?
□蒼鬼 :……? うん、拾うよ。よいしょ。
間
□蒼鬼(M):勾玉を手に取った瞬間。突如、視界が暗転する。
まるでお日様がすとんと落ちたように。鮮やかな紅が、漆黒に堕ちた。
●骸骨 :(ぼそりと)真を知り、縁を感じて尚。その選択は……。その定は……。
~~~~第二幕~~~~
どこかの野原。ひとりの子が、石を投げられている。
□子1 :やめてよーっ!! いたいよー!! なんで石を投げるの!?
●童1 :うるさい! おまえらはひとをくうんだ! あっちいけー!!
▲童2 :ひとくいめ!! こらしめてやる!!
□子1 :やめてよ!! やめてよーっ!!
△子2 :おいっ!! おまえら、なにやってんだーっ!!
●童1 :うわっ! なかまが増えたぞ!!
▲童2 :あいつもひとくいだ!
△子2 :うるさい!! お前らだって、なかまを狩る!!
●童1 :それはお前らがひとをくうからだろ!?
▲童2 :そうだそうだ!
△子2 :それはおきてを破ったやつだ! お前らひとだって、どうぞくを殺す!
オレらがみんなひとくいだっていうなら、お前らはどうぞく殺しばっかりなのかよ!?
●童1 :それは……!
△子2 :それでも、こいつに石を投げるってんなら。いいぜ! オレが相手になってやるよ!!
●童1 :うわっ!! 地面に火が……!!
▲童2 :こいつ、厄介だよ……! 逃げよう。
●童1 :お、おう……!
△子2 :二度と、こいつに手ぇだすんじゃねーぞーっ!!
────大丈夫か?
□子1 :ありがとう……。
△子2 :なんで人里まできたんだよ。危ないだろ。
□子1 :……。
△子2 :それに今みたいなやつらだって。たまたま山菜取りにきてたから助けられたけど、次は殺されたってもんくは言えないぞ?
□子1 :だって……。
△子2 :だって?
□子1 :────ともだちに、なりたかったんだ。
△子2 :……ともだちって、あいつらと?
□子1 :……うん。
△子2 :…………。
□子1 :たしかに、人をくうやつもいるし、仲間を殺すやつもいる。
でも、そんなのひとかけらだけで、みんながみんな、そうじゃないのに……。
△子2 :…………。
□子1 :ぼくたちは、おなじことばを話してる。なら、友だちにだってなれるはずなんだ……!
間
△子2 :……ぷっ! あはは! あはははは!!
□子1 :……?
△子2 :そうだよな……! やっぱり、そうだよな……!!
だからきっと、オレたちも。ひとみの色が違ったって、ともだちになれるはずだ!
□子1 :それって……。
△子2 :だから! きょうから、オレとおまえはともだちだ!! いいよな?
□子1 :ともだち……。────うん!! もちろん!!
△子2 :おう!! そしてさいごは、みんなと友達だ!!
そのために、まずは作戦かいぎだな!! いこうぜ!!
□子1 :……うんっ!
場面は戻り、蒼鬼と骸骨。
□蒼鬼 :はっ……!! い、今のは……?
●骸骨 :気が付いたか。
□蒼鬼 :夢……? それにしては、すごく……。
●骸骨 :目を逸らしてはならぬ。今しがたおぬしが見たのは、記憶じゃ。
□蒼鬼 :誰の、記憶……?
●骸骨 :分からぬ。何を見たかまでは、知らぬ故な。
□蒼鬼 :……。
●骸骨 :おぬしは見た。この土地の記憶を。
それは、古より紡がれ、折り重なった。“絆”の記憶じゃ。
□蒼鬼 :いまのが……。
蒼鬼の心の臓が、どくりと跳ねる。
□蒼鬼 :……っ!?
●骸骨 :どうした?
□蒼鬼 :なにか……、来る……!
●骸骨 :……! 逃げよ!
□蒼鬼 :でも、どっちから……!? 逃げた先で鉢合わせたら、殺されちゃう!
●骸骨 :ならば、木箱じゃ!!
□蒼鬼 :木箱……? そうか!! 確か、あっちに……!(走る)
間
□蒼鬼 :あった! これだ……!! 何か入っているのかな?
うんしょっと! ……空っぽだ。ちょうどいい、はいろう!!
●骸骨 :……。
□蒼鬼 :どうしたの!? ガイコツさんも早く入って!
●骸骨 :わっちはよい。はよ閉じよ。
□蒼鬼 :でも……っ!
●骸骨 :よいよ。……安心せい、わっちは奴らには見えぬ。
□蒼鬼 :……わかった。
間
△朱鬼 :オオォォ……! グルゥゥウウゥゥ……!
間
●骸骨(M):見えしは、異様にも腕が肥大化した醜怪な化け物。
畝りながら地を這い迫る、異形。その姿は、まさしく。
地獄から湧き出した亡者のようであった。
△朱鬼 :オオォォオオォォ……!
●骸骨(M):二対の腕。上部の腕を交互に動かし、這い迫る。
退化した足は引きずられ、ところどころ裂けていた。
△朱鬼 :グルゥゥ……! グルゥゥ……!
●骸骨(M):ぎょろり、と。異形は辺りを見回す。その頭は、深い靄に包まれ、爛々(らんらん)と紅い瞳が光っていた。
……もはや、その化け物は。何であるかすら分からない。
△朱鬼 :オォォ……。オォォオオォォ……。
●骸骨(M):獲物は見つからなかったのだろう。
異形は巨体を揺らしながら去っていった。蒼鬼の二倍程もある体。その体からは想像もできないほどの俊敏さだ。
間
●骸骨 :……もう大丈夫だ。難は去ったぞ、蒼鬼。
間
●骸骨 :蒼鬼?
●骸骨(M):かたかたと、箱の中から音がする。小刻みに振動する音だ。
同時に、ツンと。得も言われぬ独特な匂いが届いた。あぁそうか、と。わっちは空を仰ぎ見る。
●骸骨 :……そうか。童で、あったなぁ────。
~~~~第三幕~~~~
少し前。朱鬼。
▲カミ(M):青鬼が岩の封印を解く、少し前。朱鬼は。
△朱鬼 :見つけたぞ! 手水舎ってここか! 水は枯れちまってるみたいだけど。
……お、底になんかあるな。紙……?
▲カミ :何か見つかったかい?
△朱鬼 :これは……、地図? ……おお!! これ、封印された岩がどこにあるかまで書いてある!!
これがあれば、この儀式勝ったも同然じゃねーか!
▲カミ :おぉ、よかったねぇ。
△朱鬼 :探し回る手間が省けるだけでも、ありがたいぜ……!
▲カミ :そうだね。
△朱鬼 :ふむふむ。なるほどなぁ。……よし。大体の位置はわかった。
さてさて、それじゃぁ一番近くから回っていくとしますか!
▲カミ :急いだほうがいい。
△朱鬼 :分かってるって! 任せとけ。さくっと終わらしてやるからよ。
▲カミ :そうじゃない。急がないと、君は身をもって知ることになる。
△朱鬼 :何を?
▲カミ :この儀式の、真髄を。
△朱鬼(M):その瞬間、ずどんと。頭の中を鉄槌で殴られたような衝撃をうけた。一瞬で、気を失ってしまう。
▲カミ :……まずは、ひとつめ。
間
△朱鬼(M):夢を見た。これは、誰かの、夢? それとも、記憶?
だけど、これは……。一体、誰の……?
▲異形 :サァ。ゴチソウ。ゴチソウノ、ジカンダ……!
△朱鬼 :え……!? なんだよ、おまえ……!
▲異形 :オイシソウナ、ニオイ。ソレニ、タクサンノ、セイメイリョク。
△朱鬼 :うねうねがいっぱいついた、化け物……!?
▲異形 :オイシオウ、オイシソウ、オイシソウオイシソウ……。
△朱鬼 :くそ、こっちくんなよ!! なんなんだよ!!!!
▲異形 :イタダキ、マァッス……ッ!!
△朱鬼 :あが、ああああぁぁああぁぁっ!!!!
△朱鬼(M):痛い! 痛い……!! 手足を喰らい尽くされる感覚と、傷口から何かが吸い取られていくような感覚が同時に襲ってくる。頭の中を埋め尽くすのは、抗いがたい、恐怖だった。
間
△朱鬼 :うわぁっ!!!! ────はぁ、はぁ……。
▲カミ :あ、おきた……? あんまりいい目覚めでは、ないみたいだね?
△朱鬼 :今のは……。
▲カミ :この土地に残された記憶と、君の魂が喰われる感覚さ。
△朱鬼 :そうか。今のが……。────なぁ、俺の魂は、後何回持つ?
▲カミ :三回だね。三回目の封印が解かれれば、君は死ぬ。
△朱鬼 :そうか……。
▲カミ :だから君は、その前に。
△朱鬼 :その前に、相手を殺す。
▲カミ :できるかい?
△朱鬼 :やるよ。……やってやる!
▲カミ :見守ることしかできないけど、応援しているよ。
△朱鬼 :あぁ。見ていてくれよカミ様。絶対に、絶対に殺してやるから……!!
▲カミ :期待しているよ。
△朱鬼 :それで、どこの封印が解かれた……!? 今行けば、奴はきっとその近くにいるはず!
▲カミ :地図を見てみるといい。
△朱鬼 :地図……? ……あっ。ひとつ薄れて消えてる。
▲カミ :そこが、封印が解かれたところだね。
△朱鬼 :急ごう!!(走り出す)
間
△朱鬼 :ついた! ここだ!!
▲カミ :……どうやら、立ち去った後みたいだね。
△朱鬼 :くそっ! どこだ!! でてこいよっ!!
▲カミ :あんまり叫ぶと位置がばれてしまう。
△朱鬼 :七面倒臭い……! なら、森ごと焼き殺してしまえば────。
▲カミ :やめておいた方がいいよ。もしそれで、逃げる方が死んでしまったら、ボクらは一生このままさ。
△朱鬼 :なんでさ!?
▲カミ :大扉を開ける方法は、命を吸った呪符を使う。最初に話したよね。
呪符以外でもうひとりが死んでしまったら、開ける方法がなくなってしまうんだ。
△朱鬼 :くそ……。探し出すしかないってことか……! わかったよ、畜生!!
▲カミ :別の場所を探してみよう。
△朱鬼 :ほんとに、七面倒臭い……!
間
□蒼鬼 :……もう、行った?
●骸骨 :あぁ。
□蒼鬼 :なに、あれ。
●骸骨 :あれが、追うもの。おぬしを殺しに来る存在よ。
□蒼鬼 :おっきいし、強そうだし、何より気持ち悪い……!
●骸骨 :しかし、おぬしに残された選択肢は、あやつから逃げ切るより他に無い。
□蒼鬼 :そうなのかもしれないけど……。でも本当に、それだけなのかな……?
●骸骨 :何か他に手があれば、それに越したことはないが……。
□蒼鬼 :とにかく、早くここから離れよう! あいつが返ってくる前に逃げないと……!
●骸骨 :それがいい。
間
▲カミ(M):それからしばらく、朱鬼は探し回る。しかし、時間は過ぎれど見つからない。
△朱鬼 :くそ、全然見当たらねぇ。
▲カミ :いろいろ巡ってはみたんだけどねぇ。
△朱鬼 :だらだらしてたら、二つ目の封印も解かれちまう。
▲カミ :急がないとね。
△朱鬼 :しっかし、なんであの時、見失っちまったんだ……?
▲カミ :どこかに隠れていたのかもしれない。
△朱鬼 :隠れるったって……。周りは細い木ばっかだったし、身を潜められそうなところなんてないだろ。
▲カミ :そうとも言えないよ。例えば……。アレ、とか。
△朱鬼 :木箱……? まさか……。よいしょ。
▲カミ :どうだい?
△朱鬼 :なるほど。中に隠れてやり過ごしてたかもしれないってことか……。
▲カミ :その可能性もあるよねぇ。
△朱鬼 :もしそうだとしたら……。相手は、オレ達が去ったのを見て逆の方向に逃げた?
▲カミ :かも、しれない。
△朱鬼 :だとしたら、まずい……! 急がないと────。
△朱鬼(M):その瞬間、また、殴られるような重い衝撃が頭を襲った。
抵抗する時間もなく、オレの意識は深い沼へと沈んでいく。
~~~~第四幕~~~~
こどもがふたり、森の中で遊んでいる。
△子2 :あーっ! 楽しかった!! また遊ぼうぜ!!
□子1 :うん!! ありがとう!
△子2 :……あ、そうだ。これ。
□子1 :これ……、まがたま?
△子2 :……おう。かぁさんにたのんでさ、作ってもらったんだ。
□子1 :きれいな色……。すんだあお色だ。これ、もらっていいの?
△子2 :うん、もらってほしい。
□子1 :ありがとう……! でも、いいの?
△子2 :オレはほら、もってるからさ。
□子1 :うわぁ……! きれいなあか色!! おそろいだ!!
△子2 :うん……! 気に入ってくれるといいんだけど。
□子1 :もちろん! すごくうれしいよ!
△子2 :なら、よかった……かな。へへへ……。
□子1 :うん!! ……あと、あのね……?
△子2 :ん? どうしたの?
□子1 :お礼ってわけじゃないんだけど……、ぼくも────。
▲異形 :ゴ馳走、食ベル。
△朱鬼 :────はっ!?
▲異形 :オ前ラガ、最後。ソレデ、私、復活スル。
△朱鬼 :訳わかんない夢に、訳わかんない化け物……!
▲異形 :歓喜セヨ! 祝福セヨ!! 私ノ血肉ニ成レル事、ソノ栄光ヲ!!
△朱鬼 :ふざけんな……! ふざけんなッ!! なんだよ、なんなんだよ……ッ!!
▲異形 :コレハ、饗宴ノ儀デアル!!
ソノ肉体、魂、命。ソノ全テヲ以テ────。
△朱鬼 :くそっ!! はなせッ!! ちくしょう、ちくしょう……ッ!!
▲異形 :────降臨ノ、贄トスル。
△朱鬼 :やめろ……ッ!! やめろ────────ッ!!!!
間
□蒼鬼 :────はっ!?
●骸骨 :戻ったか。
□蒼鬼 :がいこつさん……。また、みたよ。土地の記憶。
●骸骨 :……そうか。
□蒼鬼 :蒼の勾玉と、紅の勾玉……。これって、記憶にかかわる物なのかな……?
●骸骨 :かもしれぬし、そうでないかもしれぬ。
□蒼鬼 :もしそうだとしたら……。それを集めさせて、記憶を見せて。
この儀式を始めたやつは、僕たちに何をさせたいんだろう。
●骸骨 :わからぬ。
□蒼鬼 :なんだか、すごく。嫌な予感がするよ。急ごう、がいこつさん。
●骸骨 :うむ。
間
△朱鬼 :(荒い呼吸)
▲カミ :おかえり、朱鬼。
△朱鬼 :(涙ぐんで)くそ……! ちきしょう……! ────うっ!? ……(嘔吐)。
▲カミ :だいぶ、まいってるみたいだねぇ。
△朱鬼 :はぁっ、はぁ……っ!!
▲カミ :でもまだ、諦めちゃだめだ。ここで死んではいけないよ。
△朱鬼 :わかってる! わかってるよ……ッ!!
▲カミ :いい子だ。さぁ、いこう。逃げ続け、君を苦しめる奴を、殺しに行かなきゃ。
△朱鬼 :……あぁ。逃げようが、隠れようが……! どこまででも追いかけ、探して! 殺す!!
間
△朱鬼(M):おぼつかない脚に喝を入れ、走る。走る。
頭はほとんど働いてはいなかった。ただただ、訳の分からぬまま。
行き場のない怒りと殺意だけが、オレを動かし続けていた。
間
△朱鬼(M):封印が解かれた場所についた。だが、誰もいない。
近くにあった木箱も、片っ端から開ける。……空。苛立ちはつのるが、焦りはなかった。
動物的な勘か、はたまた死を感じた者の感覚か。逃げた経路を追い続ける。
────そして。遂に。
△朱鬼 :見つけた……ッ!! 見つけたぁッ!!!!
□蒼鬼 :……ッ!!?
△朱鬼(M):顔に靄のかかった、足のでかい化け物。大きさはオレと同じぐらいだ。
直観でわかる。コレが。こいつこそが、逃げる者なんだと。
□蒼鬼 :アアァァアアァァッ!!
△朱鬼(M):わめき、逃げる化け物。無様に逃げる背中を、獣のように追いかける。
頭をドロドロに溶かしていくかのような、名状しがたい愉悦が、オレを支配した。
□蒼鬼 :アアァ……、アァ……。
△朱鬼 :ほらほら、逃げろよ化け物! じゃないと、追い付いて殺しちまうぞ!!
□蒼鬼 :アァ、アアァァ。…………アァッ!(つまずく)
△朱鬼 :終わりだッ!! 死ね、化け物ぉぉおおぉぉッ!!
△朱鬼(M):オレは、呪符を手に取り、化け物にとびかかった。
間
□蒼鬼 :(走りながら)はぁ……っ、はぁ……っ!
●骸骨 :走れ蒼鬼! 近いぞ!
□蒼鬼 :わかって、る、けどぉ……っ!!
やばいやばいやばい!! どんどん近づいてきてる……!
△朱鬼 :オォォオオォォッ!!!!
□蒼鬼 :……ッ!!?
△朱鬼 :グオオォォッ!
□蒼鬼 :しまった!
●骸骨 :早い!! このままでは追い付かれるぞ!
△朱鬼 :オオォォオオッ!! グラァァアアァァアアアアッ!!!!
□蒼鬼 :くそ……! くそ……っ!! ……あっ!!
●骸骨 :蒼鬼ッ!!!!
△朱鬼 :オオォォオオォォアアアアァァッ!!!!
□蒼鬼 :っ!! 清水集へ! 押し祓へ!! 水柱、臨!!
●骸骨 :……ッ!! 水の妖術……!!
△朱鬼 :オオォォッ!!?
●骸骨 :化け物の体を、押し返しよった……!
□蒼鬼 :追!! 翔けろ蒼弓! 彼方まで!! 水ノ矢、臨!!
△朱鬼 :オオォォ……!? オオオオォォォォオオォォ……!!
●骸骨 :木の幹まで弾き飛ばした!
△朱鬼 :ガハ……ッ!!!!
□蒼鬼 :はぁはぁはぁ……っ! どうだ……ッ!!
△朱鬼 :グ……、ウゥ……。
●骸骨 :気絶した、みたいだな……。
□蒼鬼 :今のうちに逃げよう!!
●骸骨 :それがいい……!
間
▲カミ :あっりゃぁ……。逃げられちゃったね。にゃはは。
~~~~第五幕~~~~
□蒼鬼 :はぁっ、はぁっ……! こ、ここまで来れば、大丈夫かな……?
●骸骨 :ある程度距離は稼げたかと思うが。
□蒼鬼 :そうだね。それに、うまく今まで探してない方向に逃げることができた!
●骸骨 :そうだな。
□蒼鬼 :近くに、岩は……。────あっ! あれじゃないかな!!
走り出す蒼鬼。
□蒼鬼 :やっぱり、これだ! いままでどおりだと、近くに……、あった。
●骸骨 :何がある?
□蒼鬼 :和紙で作った、鶴みたいだ。
●骸骨 :拾うかえ?
□蒼鬼 :うん。
□蒼鬼(M):折り鶴を拾うと、また。深い沼に引き込まれるように意識が堕ちていく。
薄れていく視界。がいこつさんがぼくを見ている。無機質なはずのその視線に、どこか。
得も言われない安心感を覚えるのだった。
間
●骸骨(M):雨が降っていた。大粒の雨が、殴りつけてくる。その中で、ひとり。
誰かが、全身ずぶ濡れになりながらたたずんでいた。
△子2 :────よお。久しぶり。
□子1 :村の人から聞いた。でも、信じられなくて……。
△子2 :ほんとだよ。オレが、村を滅ぼした。
□子1 :なんで……。
△子2 :あいつらは、オレの両親を殺したんだ。だから、殺した。燃やし尽くした。
□子1 :そんな……。
△子2 :ごめんな。友達になるって約束、破っちまって。
でも、後悔はしてないよ。むしろ今、晴れたような気分なんだ。やりきった。やりきったんだよ、オレ。
□子1 :…………。
△子2 :おまえには、ほんとに悪いと思ってる。でも、こうするしか。
こういうやり方しか、オレは選べなかったんだ。
□子1 :……そっか。
△子2 :だから、返すよ。折り鶴。
□子1 :えっ……?
△子2 :勾玉あげて、これをおまえからもらってからも、ずっと持ってた。
大事にするって、約束したもんな。……せめて、これだけは。守れて、よかったって思う。
□子1 :そんな────。
△子2 :でも! ────オレは。おまえの友達にはふさわしくない。……だから、返す。
□子1 :…………。
△子2 :受け取ってくれ。
間
□子1 :……それでも。それでも、ぼくは。最後まで、きみの友達でいたいって、そう思うから。
△子2 :……いい、のか……?
□子1 :いい。それでも手放すっていうんなら、また渡すよ。何度でも。
きみとずっと一緒にいたい。これからもずっと一緒にいたい。だから、受け取ってくれないかな?
△子2 :────っ。……あぁ。…………あぁ!
□子1 :それと、もうひとつ。これは、ずっと一緒って約束の、証。
聞いてくれるかな。僕の名前。そして、教えてよ。きみの、名前を。
△子2 :もちろん……! もちろんだよ……っ!!
□子1 :ありがとう。ぼくの、名前は────。
▲異形 :いい夢だ。いい、記憶だ。実にいい。
間
△朱鬼 :…………また、か。
▲異形 :そう辟易するな。寧ろ泣いて喜ぶべき栄誉だ。
△朱鬼 :言ってろよ、くそやろうが。
▲異形 :小鬼。口を、慎んだ方が、いい。……っ!(目線をおくる)
△朱鬼 :あが……っ!! ぐ……っ!!
▲異形 :良かったな? 今の私は気分がいい。普段なら即刻殺しているところだ。
△朱鬼 :がはっ……! はぁ、はぁ……っ!! 急に、首を絞められたような……。
▲異形 :君の────。正確には、君を含む有象無象の糧により、私はここまで力を取り戻せた。
二百年以上の時を経て、だ。
△朱鬼 :テメェは一体、なんなんだよ……!
▲異形 :いずれ分かる。その時が来れば、自ずとな。
────さァ。ソレでハ。にエヲ、カてニ。ワタしノフッかツノ、いシヅえニ。イタダクトシヨウカ……!!
△朱鬼 :くそが……!! くそがぁああぁぁああああッ!!!!
最後の岩を探す蒼鬼。
□蒼鬼 :…………っ!!
●骸骨 :どうした?
□蒼鬼 :なんだか……、心がざわついて……。────ねぇ。本当に、これでいいのかな……?
●骸骨 :いい、とは……?
□蒼鬼 :なにかが、胸の奥深くで引っかかってる。そんな気がするんだ。
忘れちゃいけない、大切な、なにかが……。
●骸骨 :…………。
□蒼鬼 :たぶん、このまま終わらせちゃいけない。そんな気が、する……。
●骸骨 :その選択を……。その、運命を。信じて躊躇うなよ。蒼鬼。
□蒼鬼 :えっ……?
●骸骨 :わっちは、違えてしまった。わっちは見誤ってしまった。残ったのは、後悔と、懺悔だ。
だからこそ、わっちは……。
□蒼鬼 :がいこつさん……。
△朱鬼 :オォォ……。
□蒼鬼 :っ!! 化け物……!!
△朱鬼 :オォ、オォォオオォォ……。
□蒼鬼 :……?
●骸骨 :なにをしておる! 早く逃げろ!! 喰われてしまうぞ!!
□蒼鬼 :まって、がいこつさん!! ……なにか、様子がおかしい。
●骸骨 :様子……?
△朱鬼 :オォォ、オォォオオ……。
□蒼鬼 :…………。
●骸骨 :襲って、こない……?
△朱鬼 :ウゥゥウウゥゥ……。
●骸骨 :ずっとこっちを見ているな。動こうとしないようだが……。
□蒼鬼 :きっと、ついて来いって言ってるのかもしれない。
●骸骨 :……なに?
△朱鬼 :ウゥゥオォオ……。
□蒼鬼 :でもごめん。ぼくは、先に行かなきゃいけないところがあるんだ。
△朱鬼 :オォォ……?
□蒼鬼 :だから、ちょっとだけ、待っててほしい。
△朱鬼 :…………。
□蒼鬼 :すぐ、もどるから。(走り出す)
間
▲カミ :おいおいおい! いっちゃったけど、いいのかい!?
△朱鬼 :……あぁ。
▲カミ :どうして!? 今だったらやれたかもしれないのに!
△朱鬼 :オレには、あいつを殺せない。……だから、もういいんだ。
▲カミ :…………。君は、ホントに賢い子だね。でもそれは、君の死を、意味してしまう。
△朱鬼 :うん。
▲カミ :君の死を踏み台に、あいつは生き残る。
△朱鬼 :……そうだね。
▲カミ :君の未来を奪って、やつだけが、幸せを掴む。
△朱鬼 :それが、オレの選択だ。
▲カミ :……そっか。────そっか。……そういう終わりも、あるんだね。
△朱鬼 :うん。
▲カミ :だったら、その最期を魅せてくれよ、朱鬼。君の、君だけの、終わりをさ。
△朱鬼 :……任せろ。
間
●骸骨 :どこに行く?
□蒼鬼 :……違和感は、ずっとあったんだ。ひとつだけ、違う場所。
地図にものっていなかった。きっと、この儀式始めたやつが、造ってない場所なんだと思う。
だから、たぶん。そこに、答えがあると思うんだ。
●骸骨 :答え……。
□蒼鬼 :どっちかが死ななきゃ絶対にでられないなんて、そんなのおかしいよ!
そんなふざけた決まりが覆せるんなら、ぼくはそれに賭けたい。
●骸骨 :…………。
□蒼鬼 :祓所。みっつの錠前がかけられた、封印の岩。
たぶんここは、この儀式とは別。もう一つの、空間。
祓所についた蒼鬼。施錠された岩の前に立つ。
□蒼鬼 :……ついた。やっぱり。錠前が全部外れてる。
●骸骨 :封印が、解かれている……。
□蒼鬼 :たぶんこれが、この空間に残された最後の希望。唯一の、てがかり。
だからどうか……! おねがい! ぼくたちを、導いて……!!
●骸骨 :恐らくこれは、触れれば起動する。最後の岩になるかもしれぬが……。
────触れるかえ?
間
□蒼鬼 :────うん。触れるよ。
間
●骸骨(M):そうして、蒼鬼は岩へ触れた。かたかたと岩が小刻みに揺れ、その真ん中から亀裂が走る。
ぴしり、と。小さな音がして、岩は割れた。
□蒼鬼 :おねがい────っ!!
●骸骨(M):身構える蒼鬼。……しかし、いくら待てど、何も起きない。
ただ、拳ふたつほどの透明な水晶が、ことりと転がるだけだった。
間
□蒼鬼 :すい、しょう……?
●骸骨(M):手に取って、空へ掲げてみる。願いを込めてみる。
しかし、何も起こる兆はない。ただただ、輝く水晶がそこにあるだけだった。
□蒼鬼 :そんな……。そんな……っ!!
●骸骨 :……蒼鬼。
□蒼鬼 :そんなのって……、ないよ……っ!!
本当にぼくらは、ただお互いを殺すためだけにここに連れてこられただけだっていうの……っ!?
●骸骨 :蒼鬼。
□蒼鬼 :きっと、あの化け物だって、本当は化け物なんかじゃないんだ!
たぶんあれは!! ぼくらとおなじ───。
●骸骨 :蒼鬼!!
□蒼鬼 :っ!?
間
●骸骨 :────落ち着け。
□蒼鬼 :がいこつ、さん……。────ごめん。この岩は、はずれだったみたいだ。
●骸骨 :よい。
□蒼鬼 :でも、でもね。きっと、無駄で終わってしまうんだろうけど。
だからこそ。少しでも、何かを残しておきたい……。
●骸骨 :あぁ。
□蒼鬼 :だから、がいこつさん。これ。この水晶、きみにあげるよ。
●骸骨 :いいのか?
□蒼鬼 :うん。ぼくが────。ぼくたちがいたってこと。忘れないでほしいから。
●骸骨 :わかった。
蒼鬼は、骸骨の頭蓋の中に、水晶をいれる。それは、ぴったりと。そこに収まった。
●骸骨 :大切にする。約束しよう。
□蒼鬼 :ありがとう。────さ。もどろうか。あのこが待ってる。
●骸骨 :うむ。
~~~~第六幕~~~~
朱鬼が待つ場所に戻った蒼鬼。
△朱鬼 :オォオォ……。
□蒼鬼 :ごめん。お待たせ。
△朱鬼 :ウウゥゥ。
●骸骨(M):化け物は、蒼鬼に背を向けゆっくりと歩き出す。ついてこい、と言わんばかりの風格だった。
□蒼鬼 :────ねぇ。きみは、本当にこれでいいの? こんな終わり方で、本当に……。
●骸骨(M):ちらりと一瞥するも、前へと視線を戻す化け物。
やはり、何かを言っているのは分かるが、その内容までは伝わらないようだ。
△朱鬼 :オォォ。
●骸骨(M):ここだ、と示す。その足元に、ぽつりと岩があった。
△朱鬼 :オオオオォォ……。
●骸骨(M):後は好きにしろ、と言わんばかりに化け物は離れていく。
□蒼鬼 :…………。ありがとう。ほんとうに、ごめん……っ!
●骸骨 :……。
□蒼鬼 :これは……、なんだろう。人型の、和紙? 二枚あるみたいだ。
●骸骨 :これが最後になる。拾うかえ?
□蒼鬼 :…………うん。
●骸骨(M):そうしてまた。慣れた感覚が蒼鬼を襲う。これが、最後。最後の、記憶。
□子1 :────それと、もうひとつ。これは、ずっと一緒って約束の、証。
聞いてくれるかな。ぼくの名前。そして、教えて。きみの、名前……。
△子2 :もちろん……! もちろんだよ……っ!!
□子1 :ありがとう。ぼくの名前は楼。しんきろうの“ろう”だよ。
△子2 :楼……か。わかった。オレは、瀧。赤鬼族、次期党首の瀧だ!
□楼 :よろしく、瀧!
△瀧 :あぁ! よろしくな、楼!!
────さて。といっても、これが最後かもしれないけどな。
□楼 :ううん、大丈夫。きっとまた、どこかで。また遊ぼうね。
△瀧 :……あぁ。────待たせたな! 人間ども!!
てめぇらが、噂に聞く鬼狩りってやつか!?
□楼 :ぼくたち鬼は、ひとを喰った。だから鬼狩りは鬼を殺すんでしょう?
△瀧 :オレが村を滅ぼした。ならば狩られても当然ってか! いいぜ、来いよ。返り討ちにしてやる!
□楼 :でも、あんまり舐めてると痛い目見るかもよ! だってぼくたちは、朱鬼と蒼鬼!!
誇り高き鬼の末裔なんだから……ッ!!
△瀧 :わるいな。
□楼 :ううん、気にしないで。
△瀧 :さぁッ!! かかって来いよ鬼狩りッ!!!! その骨の髄まで須く────!
□楼 :嚙み砕いてあげるからッ!!!!
間
●骸骨 :蒼鬼……! 蒼鬼!! ……戻ったか、蒼鬼。
□蒼鬼 :そうか。……そうだったんだ。思い出した。思い出したよ。
●骸骨 :蒼鬼?
□蒼鬼 :土地の記憶……。この土地の記憶。これは、ぼくたちの記憶でもあったんだ……!
●骸骨 :……。
□蒼鬼 :じゃぁ。じゃぁ、もうひとりは……。もしかして、もうひとりって────。
●骸骨 :さも、ありなん。
□蒼鬼 :ねぇ、がいこつさん。まって、まってよ……。
●骸骨 :…………。
●骸骨(M):よたり、よたりと。蒼鬼は歩き出す。向かう先は少し先。紅い小鬼が、倒れている場所だ。
□蒼鬼 :あぁ……。あぁあぁ……。やっぱり……、やっぱり……ッ! 瀧ぃ……。瀧ぃ……ッ!!
●骸骨(M):力無く横たわる骸。その心の臓も、呼吸さえ。もう動いては、いなかった。
□蒼鬼 :そんな……、そんなことってないよ……! どうして、どうして……ッ!!!!
ねぇ、がいこつさん! 瀧が死んじゃう!! どうにかできない……!?
●骸骨 :……すまない。
□蒼鬼 :ずっと一緒にいるって約束したんだ!! 約束したんだよッ!!!!
なのに、ぼくのために瀧は死んで、ぼくだけが生き残るなんて……! そんなの無理だよッ!!!!
●骸骨 :蒼鬼。
□蒼鬼 :だったら、ぼくが生贄になればよかった……! ぼくが死んで、瀧が生き残った方がまだ────!!
●骸骨 :蒼鬼ッ!!!!
□蒼鬼 :────っ!?
●骸骨 :それは、その赤鬼が願った結末か……! 願った未来か……!!
こやつが願うは、おぬしの幸せ。そしてそれを背負うことが、おぬしの贖罪ではないのか!!
□蒼鬼 :……っ!! でも、そんなの……。そんなの……ッ!!
●骸骨 :生きろッ!!!! 生きて生きて、最期まで生き続けろッ!!
そうしなければ、赤鬼は浮かばれぬ! その未練は、断ち切れぬッ!!
□蒼鬼 :でも……、でも……!
●骸骨 :そうして、往生して最期、床に就いた後。そやつに笑って言えばよい。────ありがとう、と。
□蒼鬼 :あぁ……。あぁぁ……。瀧……。瀧ぃ……! あぁぁ、ああああぁぁああぁぁっ!!!!
間
▲カミ :別れは、済んだかい?
□蒼鬼 :……!! あなたは……!!
▲カミ :ボク? ボクはカミサマ。朱鬼の導き手みたいなものかな。そこの骸骨と同じだよ。
●骸骨 :貴様……! よくものうのうと神を名乗る……!
▲カミ :にゃはは。とにかく、青鬼。君はこの儀式を見事生き抜いた。その呪符で、大扉は開く。
胸を張って開けるといいよ。
□蒼鬼 :そんな……。でも、ぼくは……。
●骸骨 :こやつは癪だが、出たほうがいい。儀式は終わった。これから何が起こるかわからんからな。
□蒼鬼 :……わかった。でも、瀧は置いてけない。背負って連れていく。
●骸骨 :うむ。
□蒼鬼 :さきに、瀧にこれを返さなきゃ。
●骸骨 :勾玉と、人型の紙?
□蒼鬼 :うん。これは、瀧のだから。
▲カミ :……さぁ。大扉を開けたら、そこはきっと素晴らしい景色のはずだ。
楽しみにするといいよ。
●骸骨 :あやつの言葉に耳を貸すな。行こう。
▲カミ :つれないなぁ。同じ穴のムジナだろう?
●骸骨 :貴様と一緒に……ッ! ────詮の無い、よもや交わらぬ道よ。
▲カミ :にゃはは。そのようだねぇ。
□蒼鬼 :いこう、瀧……。いっしょに。あの大扉を抜けるんだ……。
●骸骨 :急げ。どうなるかわからぬ。
□蒼鬼 :うん……。この呪符を、鍵穴にあてればいいのかな?
●骸骨 :恐らくな。
▲カミ :さぁ……! さぁ……!! 終幕だ! 終演だ!! その輝きを、ボクに魅せてくれ……ッ!
●骸骨 :(小声で)この大扉……、出口……。しかし、この匂いは……。
□蒼鬼 :開けるよ。
●骸骨 :────っ!! 待て蒼鬼ッ!! これは────!
△朱鬼(N):重い音を響かせ、扉が開く。その先の景色を、楼は見ていなかった。
●骸骨 :蒼鬼ッ!!!!
□蒼鬼 :え……っ?
△朱鬼(N):大扉の向こう。その景色は。緑が広がる風景などではなかった。所狭しと触手がうごめく異空間。
そのうちの一本が、蒼鬼めがけて飛んでくる。
●骸骨 :あぶないッ!(体当たりする)
□蒼鬼 :(突き飛ばされ)ぐ……っ! ……がいこつさんっ!!
●骸骨 :ぬぉ……っ! 抜かった……!!
△朱鬼(N):骸骨をわしづかみにしたまま、触手はしばらく宙で踊る。そのまましゅるしゅると大扉の中に戻り、そして────。
□蒼鬼 :がいこつさんッ!!!!
△朱鬼(N):そのままばたりと、扉は閉まった。
間
□蒼鬼 :……えっ。
間
▲カミ :……にゃは。にゃははは! にゃははははははッ!!!!
□蒼鬼 :なに、が……。
▲カミ :そうか!! そうなるか!!!! でもアリだよ!! ありあり!!
把握できずに喰われるサマも、理解し絶望しながら喰われるサマも! どれも素敵だったけれど!!
これもまた、ソソられるッ!!!!
□蒼鬼 :あなた、は、なにをして……。
▲カミ :喰った! 喰ったんだよ! 本当ならきみを喰う予定だったんだけどね!!
この儀式は、ボクの復活の儀式!! ボクのためだけの場所さ!!
……まぁ? 儀式を乗り越え、嬉々として扉を開け喰われていくサマもさいっこうによかったんだけどね!!
□蒼鬼 :じゃぁ、今までの儀式は全部……?
▲カミ :そうだよぉ? みぃーんな死んだ。あの骸骨だけは、どこかに潜んでいたのかな?
覚えてないけど。
□蒼鬼 :そんな……!
▲カミ :親子、親友、恋人、子弟……! 厚い絆で繋がれた者の記憶をとばして、殺させ合う……!
彼らは、どんな心境で、どんな行動をするのか!! 実に興味深く、実に面白かった!!
そして、最後はおいしくいただく……!! ほんっとぉに至福だったよ……ッ!!
□蒼鬼 :あなたは……! あなたって人は……ッ!!
▲カミ :人ではないっ!! カミだよ、ボクは!!!!
□蒼鬼 :そもそも、なんでこんなこと!
▲カミ :チッ! 忌々しい!! そんなこと思い出させるなよ。
────まぁいいや。ボクは、この星の外、さらにもっと深い所からきた。この惑星を破滅させるためにね。
□蒼鬼 :破滅!?
▲カミ :意気揚々と降り立ったはいいものの、そこでボクは、力を奪われ封印されてしまった。
腐っても土地神。この土地独自の力、その使い方においては、さすがのボクも敵わなかったわけさ。
だけどボクは、わずかに残った力で潜伏し、寄生し、少しづつ吸い上げ続けた! そうして、この空間を構築していったってわけさ。
□蒼鬼 :なんでこんなひどい空間にしたのさ!!
▲カミ :失った力を取り戻すため、ってのが中心だけど、せっかくだから、個人的な趣味も盛り込んでみたんだ。
どう? 楽しかった?
□蒼鬼 :ふざけるな!!
▲カミ :大まじめだよぉ。君たちの生態や、ボクらにはない絆? って感情。興味が尽きないよ。
□蒼鬼 :実験台になるぼくらはどうなのさ!!
▲カミ :にゃははははっ!! 本当に面白いことを言うね、きみは。
□蒼鬼 :なにっ!?
▲カミ :きみは、肉が抱いた感情を考えながら、飯をくうのかい?
□蒼鬼 :あなたは……ッ!! あなただけは……ッ!!!!
▲カミ :にゃははッ!! ボクに歯向かうつもり!? 無理無理!!!!
殺されて終わりなんだからさぁ、大人しくしててよ!!
□蒼鬼 :なにを……ッ!
▲カミ :それに、うっかり殺しちゃったら勿体ないでしょう?
せっかくの餌が、無駄になっちゃうからさぁッ!!??
□蒼鬼 :あなたは────ッ!!!!
▲カミ :にゃははははッ!!!!
間
●骸骨 :────さもありなんだな。まったく、貴様は。
▲カミ :…………えっ?
△朱鬼(N):突如、大扉が内側から弾け飛ぶ。数多もの触手が一斉に飛び出し、地を叩きながらうねる。
その光景は、何かを襲う動きというよりは、むしろ。
□蒼鬼 :何かから、逃げている……?
△朱鬼(N):逃げるように腕を伸ばす触手。しかし、それを嗤う様に、大扉の中に吸い込まれていく。
●骸骨 :こう見ると、愛いな、この触手も。成程、散り様に惹かれる貴様の気持ちも少しは理解できたぞ、外様のカミよ。
▲カミ :……はぁっ!? なんで、なんでオマエが……!!
△朱鬼(N):大扉から、ひとり。ゆっくりとこちらへ歩んでくる。触手を吸い込みながら。
そしてその触手で、自らの肉体を成形しながら。
●骸骨 :おや。名乗っておらんかったかえ?
わっち、大祓白犬神社、その神体。縁を繋ぎ、縁を侵す魔を払う。
名を、下井戸犬御神と申す。以後、よろしゅうな。
▲カミ :土地、神……!! なんで、オマエはさっき喰ったはず!!
●犬神 :普通なら、喰われて消えとったろうなぁ。これさえ、無ければ。
□蒼鬼 :それ、ぼくがあげた水晶……!
●犬神 :うむ。もともとそこのカミより奪われた力を取り戻すための術は用意しておった。
それがわっちの手元に戻ってくるかは賭けであったが……。ようたどりついた。蒼鬼。
□蒼鬼 :ガイコツさん……!
●犬神 :しっかし。力の根源を、後生大事に扉の奥へ仕舞いよって。
よもやここまでの力を奪えるとは、嬉しい計算外よ、外様のカミ。
▲カミ :おまえ……! おまえ……ッ!!
●犬神 :そして、これもまた幸運よ。奪ったものは、返さねばな。
□蒼鬼 :えっ……?
▲カミ :おまえ、まさか……!!
△朱鬼 :……ぐっ! かはっ……!! はぁ……、はぁ……っ!!
□蒼鬼 :瀧っ!!!!
△朱鬼 :楼……? あれ、オレ……。
□蒼鬼 :瀧!! 瀧ッ!!!! よかった……、よかった……ッ!!
▲カミ :また……ッ!! またオマエは、ボクの邪魔を……ッ!!
●犬神 :さもありなん、外様のカミ。
────さぁ、終いじゃ。こやつを払い、家へ帰るぞ。小鬼ども。
~~~~第七幕~~~~
カミと対峙する、朱鬼・蒼鬼・犬神。
▲カミ :させるか……!! させてなるものか……ッ!! 数百年かけて取り戻したボクの力!!
失ってなるものか────ッ!!!!
□蒼鬼 :来るよ……ッ! 瀧!!!!
△朱鬼 :七面倒くせぇ……ッ!! てめぇもさっさと帰りやがれ!!
▲カミ :むうりと な かんえッ!! 行け、触手ッ!!
△朱鬼 :紅蓮よ集へ! 燃やし祓へ!! 火炎波、臨!!
□蒼鬼 :清水集へ! 切り祓へ!! 水刃、臨!!
▲カミ :くそっ、邪魔な……ッ! 二人の背中に浮かんでる炎みたいなやつが、力の変換装置……?
────ならッ!! ……すぅぼり! いでっ!! 悪魔の暴露ッ!!
●犬神 :させると思うかえ? 御地水火風蘇婆訶!!
▲カミ :なッ……!! ボクの呪文が消し飛ばされた……ッ!
△朱鬼 :追!! 翔けろ炎弓! 華と散れ!! 火ノ矢、臨!!
□蒼鬼 :追!! 翔けろ蒼弓! 彼方まで!! 水ノ矢、臨!!
▲カミ :ぐっ……! ぐぁぁああああぁぁぁぁッ!!!!
△朱鬼 :…………よっしゃぁっ!
□蒼鬼 :やったね!!
間
▲カミ :にゃは……。にゃはは……。よくもまぁ嬉々としてくれちゃって……。
とはいえ、きみたちの力を見誤っていたのも事実。餌が減ってしまうが、こうなっては仕方ない。
────さ。殺すか。
△朱鬼 :なに!?
▲カミ :小鬼はどうとでもなる。であれば、まずはそこの土地神からだ。
あたすんも くん りどい じなえ……。捕縛の、鎖。
●犬神 :ぐ……っ!!
△朱鬼 :神様ッ!!
▲カミ :るうと しのい。地、走る、雷撃。
●犬神 :ぐ……! ぐあぁぁああぁぁッ!!!!
△朱鬼 :かみさま────ッ!!!!
●犬神 :この、程度で……!
▲カミ :るうと しのい。
●犬神 :ああぁぁぁぁああッ!!!!
▲カミ :ボクはもう、慢心はしない。徹底的に、殺しに行くよ。
△朱鬼 :くそ、てめぇ……ッ!!
▲カミ :すぅぼり いで。悪魔の暴露。
△朱鬼 :ぐぁ……ッ!? クソ、角が……ッ!!
□蒼鬼 :大丈夫!?
△朱鬼 :気にすんな!
▲カミ :にゃはは!! 土地神さえいなくなれば、ボクもここから解放される。
また別の場所で、あたらしい復活の儀を造ろう。
△朱鬼 :て、めぇ……。くそ、このままじゃマズいことは分かるのに、今のオレたちじゃ太刀打ちできねぇ……。
●犬神 :にげ、ろ……。やつの手の届かぬ場所に……。
□蒼鬼 :ううん、だめだよ、ガイコツさん。
△朱鬼 :楼……?
□蒼鬼 :ここで、逃げちゃったら、大変なことになる。ここで、あいつを食い止めないと。
△朱鬼 :でも……。────っ、まさか、お前……。
□蒼鬼 :妖怪真異を使うよ。
△朱鬼 :おい……! そんなことをしたら、楼も死んじまう!!
□蒼鬼 :ここで死ぬか!! あいつがこの世を滅ぼすときに死ぬかだよッ!!
だったら、ぼくは……ッ!! ────ここで、最期まで戦い抜きたい。
△朱鬼 :楼……。くそっ! ならオレもついてくぞ! 楼を一人にはさせねえ!
□蒼鬼 :……ありがと。
●犬神 :ならぬ……! ならぬ……ッ!!
△朱鬼 :────気にすんな。オレたちに任せとけ。
□蒼鬼 :まっててガイコツさん。……後、これも預かってほしい。
●犬神 :人型の、紙?
△朱鬼 :オレのもな。オレたちだと思って大事にしてくれ。
●犬神 :これ……は……。
△朱鬼 :後は、頼んだぜ。────んじゃま、行くぞ、楼っ!!
□蒼鬼 :いこう、瀧!!
▲カミ :にゃはははっ! 小鬼二匹が、カミであるボクに歯向かうと!! いいねいいねぇ!!
魅せてくれよ、最後のあがきを!!
△朱鬼 :焔よ滾れ! 熱く、熱く!! その命の灯を、力に変えて!
妖術限界領域、解ッ!! 妖怪真異! 解放ッ!!!!
□蒼鬼 :清流よ奔れ! 速く、速く!! その血潮の潮流を、力に変えて!
妖術限界領域、解ッ!! 妖怪真異! 解放ッ!!!!
▲カミ :な……ッ!? 背後に無数の天火が……! 角も肥大化した!?
△朱鬼 :舞え、飛燕!! 炎の翼ッ!! 剛炎朱雀、臨ッ!!
▲カミ :体を燃やして火の鳥に!? 護れ、触手!!
△朱鬼 :ちッ!! じゃまくせぇ!!
□蒼鬼 :なら!! 貫け刃!! 水の切っ先ッ!! 蜃気楼一閃、臨ッ!!
▲カミ :触手が、一瞬で……ッ!!
△朱鬼 :そこを穿つ! 火球弾、朱雀!! 剛雨、臨ッ!!
▲カミ :火の玉の雨!? よけきれない!! ぐあぁぁっ!!!!
□蒼鬼 :追撃だよ! 二閃一対!! 十文字、臨ッ!!
▲カミ :調子に乗るな! 硬化せよ、触手!!!! 壁となれ!!
□蒼鬼 :くっ、防がれたッ!
▲カミ :むう りとなそ い すんさんた!! 咲け咲け触手ッ! 襲い狂え!!
△朱鬼 :二十!? 三十!? いくつ出てくんだよ、くそッ!!
□蒼鬼 :蹴散らすしか……! 蜃気楼一閃!! 臨ッ! 臨ッ! 臨ッ!!
△朱鬼 :足止めは任せろ!! 火球弾、朱雀! 剛雨、臨ッ!!
●犬神(M):撃ち落とし、切り裂く。しかし、次から次へと現れる触手たちに、次第に押され始めていく。
△朱鬼 :くそ……ッ! らちがあかねぇ……ッ!!
□蒼鬼 :このままじゃ……。
●犬神 :わっちが……ッ! 道を、切り拓く!!
御、元柱固具、八隅八気!!
咲き乱れよ白彼岸花! 急急如律令ッ!! 開花ッ!!
▲カミ :なにッ!? 触手たちに、彼岸花が……ッ!!
△朱鬼 :好機ッ!! 畳みかけるぞ!! 楼ッ!!!!
□蒼鬼 :わかった!!
▲カミ :くっ……!!
△朱鬼 :拳に宿れ、深紅の豪炎!! 打ち砕くッ!! 炎舞、大車!! 臨ッ!!!!
□蒼鬼 :対なる剣、この手に参れ! 切り裂くッ!! 水舞、神楽!! 臨ッ!!!!
▲カミ :くそ、反動で動けん……! 矮小な、小童ごときに……ッ!!
●犬神 :行けッ!! 童達よッ!!!! 邪神を祓い、その手に、未来をつかみ取れ────ッ!!!!
△朱鬼 :これで終いだッ!!!!
△朱鬼 :(同時に)うおぉぉおおぉぉおおぉぉッ!!!!
□蒼鬼 :(同時に)うおぉぉおおぉぉおおぉぉッ!!!!
間
●犬神(M):炎の拳が。水の刃が。カミを捉える、その時だった。
────ぱきん、と。硝子が割れるかのような音が、一帯に響いた。
△朱鬼 :が……、は……ッ!!
□蒼鬼 :く……、あ……ッ!
●犬神(M):鬼子達の背後に揺蕩う、命ともいうべき天火が。……消える。
それは、妖怪真異の終わりの合図。
────そして。命の終わりを告げる合図でもあった。
間
▲カミ :…………にゃは。にゃははッ!! どうやら、運はボクに味方したみたいだね!?
……惜しかった! 惜しかったよ君たち!! 誇っていい!!
ボクをここまで追い込んだこと、あの世で盛大に誇るといいさッ!!!!
□蒼鬼 :……それ、は。ちがうよ……? カミさま……。
△朱鬼 :かんちがい、して、やがるぜ……。
▲カミ :にゃははッ!! 死に体が何を言う!!
△朱鬼 :さいしょから……。おれらは、じかんかせぎ……。
□蒼鬼 :あとは、たのんだよ。がいこつ、さん……。
▲カミ :なに!?
●犬神 :“臨”! “兵”!! 言の葉を紡ぎ。
“闘”! “者”!! 世界を超えて。
“皆”! “陣”!! その繋がりを。
ここに手繰り、顕現する!!
“列”!! “在”!! “前”!!!!
御地水火風蘇婆訶!! 急急如律令ッ!!
▲カミ :────なッ!!? 空間が、揺れて……ッ!!?
▲カミ(M):空中。異空間の天井に亀裂が走った。少しづつ綻ぶそれは、ついに穴が開く。
そしてその穴から、おびただしい数の白い何かが、わらわらとやってきた。
●犬神 :詰みじゃ、外様の。
▲カミ :なんだよ、なんだよ! これ!!
●犬神 :式神。これ一つ一つが、魔を払う使いよ。
▲カミ(M):人型の紙きれ。数多ものそれが、土地神を縛る鎖に、触手に、張り付き、侵食していく。
神を封じるほどの鎖が、あっけなく千切れた。
●犬神 :まったく、遅いぞ、清明。
▲カミ :くそ!! 邪魔だッ!! なんで、外からの介入が……! ここは外からは感知すらされないのに!!
●犬神 :それが、縁の力じゃ。
▲カミ :なんだと!?
●犬神 :言ったろう。わっちは、縁を繋ぎ、それを侵す魔を祓う神。
そこに縁があるのなら、繋げて見せよう。
▲カミ :縁だと……!? そんなものどこに────。……まさか。
●犬神 :童らは、会っていた。清明と、ここにくる以前にな。
最後の夢には続きがあった、ということさ。
▲カミ :最後の夢……? 最後の、記憶……。そうか、小鬼たちが会ったのは鬼狩りではなく────。
●犬神 :さもありなん。そういうことじゃな。
▲カミ :にゃは、にゃはは……ッ! これはこれは、ついてない……!
●犬神 :そして、悪い縁を切るのも、わっちの役目。果てへと消えるがいい。外様の。
▲カミ :な……!? 異空間に飛ばす力!?
●犬神 :清明の力ありきで成せる術じゃがな。亜空の彼方へと消えるがいい。
▲カミ :にゃは、にゃはは……。今回は、ボクの負けかぁ。でも、覚えておいてね。
ボクはまた、この星を滅ぼしに来るよ……?
●犬神 :その時は、またわっちが祓ってやる。
▲カミ :にゃはは……。ほんっとうに、忌々(いまいま)しいね、君は……。(消える)
~~~~第八幕~~~~
●犬神 :……終わった。終わったぞ、小鬼の。
□蒼鬼 :…………。
△朱鬼 :…………。
●犬神 :……すまない。わっちの争いに、巻き込んでしまった。本当に、申し訳ない。
そして、ありがとう。ともに戦えたこと、誇りに思う。
●犬神(M):安らかに眠る、小鬼達。しっかりと紡がれた手。
わっちは、ふたりの縁の証として、一凛の白彼岸花を、そこに添えるのだった。
●犬神 :輪廻を。祝福を。せめてもの贖罪を、せめてもの手向けを。その縁を、未来に紡ごう。
また二人が、相見える未来に……。
御地水火風蘇婆訶。タマノヲ、リンネ。
△朱鬼 :ありがとな、神サマ。
□蒼鬼 :ありがとう、ガイコツさん。
●犬神(M):揺蕩うタマノヲが、ゆっくりと天へと昇る。異空間が、がらがらと崩れていく。
それを肌身で感じながら、わっちはゆっくりと目を閉じた。
●犬神 :わっちも、力を使い果たした。しばらく眠るとしよう。
また目覚めるときは、どうか。明るい未来が、紡がれていると信じて……。
~~~~最終章~~~~
とある街の図書館。平日の昼間。
窓際の席にふたり、座っている。
●市民2 :(本を読んでいる)
▲市民1 :…………。読み、終わりました。
●市民2 :おぉ。どうでした?
▲市民1 :なんか……、不思議な話……。
□子ども1:おーい、まってよー!
△子ども2:ねぇねぇ、なによんでるのー?
▲市民1 :んー? 昔話だよー?
□子ども1:こらこら、いきなり話しかけちゃめいわくだろ? すみません……。
▲市民1 :んーん、だいじょうぶだよぉー。キミも、よみたい?
△子ども2:うんっ!
▲市民1 :はい、どうぞ。
△子ども2:ありがとぉー。
●市民2 :お、かわいいアクセサリーだね。
△子ども2:これー? まがたまっていうんだって。おかあさんからもらった。
▲市民1 :へぇ、いいね。二人お揃いだ。
□子ども1:あの。本……。いいんですか?
▲市民1 :うんー。ちょうど読み終わったから。
□子ども2:ありがとうございます。
△子ども1:いこぉー? 蓮にぃ。
□子ども2:うん。
間
●市民2 :やっぱり、子どもってかわいいですよねー。
▲市民1 :そうですねぇ。
●市民2 :さもありなん、ですねぇ。それじゃぁ、そろそろ。
▲市民1 :あぁ、本、ありがとうございました。
●市民2 :いえいえ。(立ち去る)
間
▲市民1 :(小声で)本当に、いい話を知ることができました。
間
▲市民1 :にゃはは。
~~~~終演~~~~