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無気力勇者のスローライフ ~魔王?何それ?美味しいの?~  作者: Red/春日玲音


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無気力勇者 VS 後輩

「……て。……てください。……ですよ。」


遠くから声が聞こえる。


意識が覚醒に向かい始めると、食欲を誘うような匂いも感じる。


「……ん、……シア?……ごはん?」


俺は寝ぼけ眼で、近くにいる女の子を引き寄せる。


夢の中でくらい、こういう事をしてもいいじゃないか。


ただでさえ、最近は唯のせいで、色々と困っているのだから……。


ん?……唯?


意識が段々とハッキリしてくるにつれて、目の前の女の子の姿もはっきりしてくる。


「あのですね、こういうのは暗くなってからがいいと思うのですよ。」


「わ、悪いっ!」


意識が完全に覚醒する。そして俺が今抱きしめているのは、制服にエプロン姿の唯だった。


俺は慌てて離れる。


「完全に寝惚けてた。ホントゴメン。」


「いえ、いいですけど……。」


唯はちらりと視線を下に向ける。

そこには下着越しでもはっきりとわかるぐらい主張するモノが……。


「……する?」


頬を染めながら、小さな声で聞いてくる唯。


だから、今のその姿で、それはやめてくれ。


理性が持ちそうにない。


俺は洗面所へと逃走を図り、そのままバスルームで凍えそうなくらい冷たいシャワーを浴びるのだった。


 ◇


「じゃぁ、少し出かけてくるから……ちゃんと家に連絡するんだぞ。」


俺の言葉に唯は視線を逸らす。


「オイ?」


「じょ、冗談だよぉ。……ちゃんと連絡するよ。」


「ほんとに連絡しろよ。俺が帰ってきたとき、まだ連絡していなかったら、その足で警察に連れていくからな。」


「うぅ……わかってるよぉ。」


「絶対だからな。」


俺はそう念押しして部屋を出ようとしたところで呼び止められる。


「待って。」


「なんだ?」


「シアって誰?」


「…………。」


俺は黙って扉を閉めた。


唯だけを残して出かけると決めたのは、家族と連絡するときに俺はいない方がいいだろうとの配慮からだったが、それ以外にも、オヤジの葬儀の後始末で実家に顔を出さなければならないし、買い置きの食糧も底が尽いたので買い出しが必要という現実的な問題もあった。


「まぁ、遅くても夕飯には間に合うだろ。」


俺はそんなことを呟きながら実家へと車を走らせるのだった。


 ◇


「さて、どうしよう。」


俺はスーパーの前で途方に暮れていた。


昼過ぎまではかかると思っていた実家の用事だったが、俺が行った時にはすでにやることが何もなく、お茶を飲んでそのまま帰ってきた。


何でも、俺は当てにならない、と妹が昨日のうちにすべてを終わらせていたようだ。

それならそれで早く言って欲しいものだが、「来ると思っていなかった」と妹に言われては返す言葉もなかった。

こういう時、俺の方に色々雑務が入り、何も出来ないというのは今に始まったことではないので、妹も、俺の事はいないものとして行動しているのだ。


結果として、予定を繰り上げて食料の買い出しにスーパーまで来たのはいいのだが、今買ってしまうと、レトルトなど常温保存が効く物はともかくとして、冷凍食品や生もの、生鮮食品は傷んでしまう。


買ってすぐ部屋に戻ればいいのだが、時間が中途半端すぎる。


もし帰った時、唯が親と連絡中であったならば、何のために席を外したのかわからなくなる。本末転倒というやつだ。


「まぁ、適当にどこかで時間つぶしてから出直すか。」


「お暇なんですか?」


俺がついボソッと呟いたところで、不意に背後から声がかかる。


「おわっ!」


「クスクス、新見さん驚きすぎですよぉ。」


振り返ると、そこに必死に笑いをこらえようとしている鮎川葉月の姿があった。


「葉月か。脅かすなよ。」


「ごめんなさい。見覚えのある後ろ姿だったので、驚かそうと。」


「確信犯かっ!」


葉月はくすくすと笑い続けている。


葉月はいつもこうだ。


何故だか知らないが、俺に懐いている。


それがそのままLOVEに繋がるなどという単純な考えは持っていないが、少なくともただのLikeよりは高い好意を持ってもらっている……と思うぐらいには好かれているらしい。


その証拠が『葉月』という名前呼びだ。

うちの事務所には、正社員に委託契約者も含めれば、30人ほどが所属しているのだが、女性以外で「はづき」と呼んでいるのは俺だけだったりする。


葉月が事務所に入ったばかりの頃は、俺も「鮎川さん」と呼んでいたのだが、ある時、「葉月です。葉月と呼んでくれなければ「セイちゃん」って呼びますよ」という訳の分からない脅迫を受けてから、ずっと名前で呼んでいる。


最初は苗字で呼ばれるより名前で呼ばれる方が好きなんだろうと、軽く考えていて、周りの様子に気づかず、俺以外の男はみんな苗字で呼んでいて、名前で呼ばれるのを冗談でも許さない、名前呼びされると、それが上司であろうと、あからさまに不機嫌な態度を見せ、更には所長に訴えるという暴挙に出ていると知ったのは、ずいぶん後になってからの事だった。


「それより、新見さん、お暇ならデートしましょ?」


葉月は笑いながらそう言ってくる。


「デートって、昼飯をたかることを言うのか?」


「いいじゃないですかぁ。こんな美少女と一緒にランチできるんですよぉ。1食分ぐらい安いものだと思いますよぉ。」


小悪魔的な笑みを浮かべながら言う葉月。


本人は冗談のつもりなんだろうが、葉月の容姿は整っていると言っていい。


綺麗系というよりは可愛い系に属し、本人のそのことを意識しているのか、今の服装も明るめのパステルブルーのワンピースで、彼女の雰囲気によく合って似合っている。


少し動くたびにスカートがふわっと広がるのが可愛らしさの演出に一役かっている。

靡くミニのスカートから、ちらりと見える白い肌に、無意識のうちに視線が追ってしまうのは避けられない。


こんな女の子にランチに誘われたのなら、よほどの理由がない限り断るという選択肢はないだろう。それこそ、奢るからランチを一緒に、と言ってくる男は数多くいるに違いない。

実際、事務所の後輩も、何人かが幾度となく誘っているのを見かけたこともある。


「……それもそうだな。じゃぁ行くか。……ん?どうした?」


歩き出しかけたが、その場から動かない葉月が気になって声をかける。


「あ、えっと、その……マジレスが返ってくるとは思わなかったもんで……その、……。」


顔を真っ赤にして俯く葉月。


「おかしな奴だな。自分で言ったんだろうに。」


俺はやれやれと肩をすくめて、ほら行くぞ、と葉月を促す。


「……そういう所ですよ、もぅ……、もぅ!」


葉月が小声で何か文句を言っているが、俺には心当たりがないためスルーすることにした。



「で、ファミレスですか。」


「いいだろ、ファミレス。ドリンクバーもあるから長居出来るし、何よりリーズナブルだ。」


「……いいですけどねぇ。新見さんに期待した私がバカでした。」


「えらい言われ様だなぁ。俺だって、本気出せば……。今はその時じゃないってだけだ。」


「美少女とのランチデートですよ?今本気出さずにいつ出すんですか?」


「………給料日の後かな?」


「……1週、早かったですね。」


「……そうだな。」


「…………オーダーしますね。」


「……あぁ。」


何とも言えない空気がその場を包み込む。

いつもの空気に戻るには、頼んだ料理が来て、デザートに口をつける頃までの時間を必要とした。



「そう言えば葉月はなんでいるんだ?今日休みだったか?」


なんとなくいつものノリで行動していたが、よく考えれば仕事中ではなかったのだろうか?


「はぁ?今更それ聞きますかぁ?」


葉月が呆れたように言う。


「今日は定休日ですよ?ボケてるんですか?」


「あぁ、そうだったな。……ボケてたな。」


「あっと、その……ゴメンナサイ。冗談なのでそんなにマジにならなくても……。」


葉月が少し困った顔で頭を下げる。


「あぁ、いや、葉月が悪い訳じゃないんだ。色々あって少し疲れてるんだよ。」


「あっ、そう言えばお父様が亡くなったばかりでしたね。私の方こそ気が回らずごめんなさい。」


「いやいや、謝らないでくれ。それにオヤジの事はどうでもいいんだ。冷たいかもしれないけど、本当になんとも思ってないんだよ。今はそれより気にかかることがあってな。」


俺は小さなため息をつきつつ、グラスの中身を飲み干す。


「えっと、私、何かお役に立てないですか?」


葉月が真剣な顔で聞いてくる。


「あぁ、大丈夫だからそんなに……。」


気にしないでくれ、と言おうとして、ふと閃くことがあった。


「なぁ、お言葉に甘えて相談したいことがあるんだが?」


「次の給料日の後のデートで手を打ちますよ?」


「……カトレアのランチでいいか?」


俺は近くのおしゃれなレストランの名前を上げる。


この辺りでは、カップルのデートはもとより、ちょっとした接待でも使われるほどの人気店で、土日祝は予約もろくに取れないのだが、それを気にしなくていいのが平日休みの強みだ。


「ディナーがいいです。」


「……マジか?」


俺の問いかけに葉月はコクリと頷く。


ランチであれば、そこまで値が張ることもなく、それほど気取ることもなく気軽に楽しめるのだが、ディナーはそうはいかない。


ムードたっぷりにライトアップされた店の内外。


店内を流れるのは、ジャズを主体にした、ピアノやバイオリンなどの生演奏。時には有名なサックス奏者が来る時もある。


給仕をするウェイターやウェイトレスの動きも洗練されていて、オーダーを通す時もイタリア語が飛び交う。


ランチの時の明るくカジュアルなイメージから一転して、ディナーは落ち着いた、ムーディでアダルティな雰囲気に変わるのだ。


そんなところで、恋人と落ち着いた楽しいひと時を過ごす、というシチュエーションに憧れはあるが、それとは別問題で、恋人ではない異性を連れて行くというのはあまりにもハードルが高すぎる。


「ダメ……かな?」


少し不安気に聞いてくる葉月を見て、俺は決断する。


「わかった、ディナーな。」


俺がそう答えると葉月は満面の笑みを浮かべる。


給料が入ったばかりでかなり痛い出費になるが、これから葉月に頼むことを考えれば必要経費だと割り切るしかない。


「それで相談というのはだ……。」


誠二の相談事の内容を聞き、カトレアのディナーだけでは安すぎた、と後悔する葉月だった。

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