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無気力勇者のスローライフ ~魔王?何それ?美味しいの?~  作者: Red/春日玲音


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無気力勇者旅立つ?

何でこうなっているんだろう?


俺は頭を抱える。


目の前には、全裸のまま毛布をかぶり、頭だけ出した状態で、俺を睨む少女がいる。


「責任、取ってくれますよね?」


少女は涙ぐみながらそう言ってくる。


「あのなぁ、何で俺が責任とらなきゃならんのだ?大体何の責任だよ。」


「私の裸みた……。」


「勝手に脱いだのはお前だ。」


「私にキスした………。」


「されたんだ。所かまわずキスしてきたのはお前の方だろ?」


「……私の胸触った。」


「……………………。」


「もぅ、お嫁にいけないっ!」


わっと泣き崩れる少女。


「えっと、落ち着け。俺は何もしてないし、お前は何もされてない。ただ酔っ払って、一緒のベッドで横になってただけだ。」


だから、お嫁にだって行けるぞ、と泣きじゃくる少女………シアを宥める。


夢の中の筈のこの世界。てっきり目が覚めれば、また唯が横にいるのだろうと思っていたのだが、目が覚めた時に目の前にいたのはこの少女、シアだった。

裸で抱きしめられていたシアは、最初何が何だか分からずぼーっとしていたが、自分の置かれている状況を理解した途端、真っ赤になって毛布をかぶり、俺を責めている、というのが今の状況。


「……。ホントに何もしてない?」

涙目で見上げてくるシア。


「してないしてない。」


「女神様に誓えますか?」


「あぁ、女神だろうが魔王だろうが何にでも誓ってやるよ。」


「本当の本当に何もしてないんですか?」


「あぁ、何もしてない。」


「………………ヘタレ。」


「何でやねんっ!」



「それで、セイジさんはこれからどうなされるんですか?」


先日見た、少し古めのカントリーガールのような衣装に着替え終えたシアが訊ねてくる。

会話をしつつも、その手はしっかりと動いており、瞬く間に朝食が出来上がっていく。


「私と結婚してこの村で暮らすというなら歓迎しますよ?」


むしろそうしましょう、と言いながらテーブルに朝食が並べられていく。


「あのなぁ……。そもそもここはどこなんだ?」


俺は椅子に腰を下ろし、手を合わせて、頂きますと小さく言ってから用意された朝食に手を着ける。


焼きたてのパンは、表面は少し堅いが、中はふっくらとしていて、噛むとほのかな甘味を感じる。


スープは色々な野菜を煮込んだものだろうか?


コンソメほどではないが、深い味わいがある。


ソーセージと野菜を玉子で和えたものは素朴で優しい味がする。


………そう言えば朝食を摂るなんて何年ぶりだろうか?


ここが夢の中だという事も忘れて、しっかりと味わう。


「ここはアルバの村ですよ。セイジさんはどこから何しにいらしたのですか?」


俺が食べるのをニコニコと眺めながらそう言うシア。


「どこから……かは分からないな。気付いたらあの熊………オウルベアに追われていたんだ。」


俺はそう答えながら、コーヒーによく似た飲み物に口を付ける。


見た目はコーヒーそのものなのに、味は紅茶と言うギャップに、つい顔をしかめる。


しかし、味まで分かる夢というのも凄いよなぁ。


「そうなんですね。ではその前は?」


「その前かぁ……。」


今の俺は夢を見ている、なんて言っても、頭がおかしいと思われるだけだろう。

かと言って、なんて言えばいいのか……。


そこまで考えて、俺はふと少し前の夢を思い出す。


確か、なんか知らない場所で、ミーアって言うコスプレ少女に世界を救えって言われたんだっけ?


その時の事を思い出しながら、シアにそんな事を話して聞かせる。


「まぁ、じゃぁセイジさんは勇者様なのですね!」


いきなりシアのテンションがあがる。


「早速行きましょう!」


「ちょ、ちょっとまて。落ち着け!」


俺は二の腕をつかんでいるシアの手を振り解き、シアを座らせる。


「いったい何なんだ。勇者ってどう言うことだ?」


確かにあの夢でも、ミーアに勇者がどうのと言われた気もしたが、あまり話を聞いてなかったからなぁ。


「世界を救う勇者様ですよ。この村には昔から、勇者様が最初に降り立つと言う言い伝えがありまして。」


「言い伝え?」


「ええ。『世界に災い降り懸かりし時、女神が勇者を使わす。勇者はこの地より旅立ち、艱難辛苦を乗り越え世界を救う』とあります。」


「………その勇者が俺だと?」


コクンと頷くシア。


「艱難辛苦にあうのは決定事項なのか。」


コクコクと再度頷くシア。


「帰って良いか?」


「どこに帰るんですか。」


立ち上がってベットに向かう俺の腕を引っ張る。


「どこって……現実?」


「訳分かりません。ここが現実ですよ。それより出かけますよ。」


そう言って俺の腕を引っ張り外へ連れ出す。


「出かけるって、どこに行くんだよ?」


シアに引っ張られながら、行き先を訊ねる。

ここまで来たらジタバタしても仕方がない。何より格好悪い。


まぁ、なるようになるだろ。


「もちろん旅立ちの準備です。……まずはここですね。」


シアに連れてこられたのは、村のある家の前。剣を模した看板が架かっている。


「ここは?」


「武器やさんですよ。……オジさーん。」


「おぅ、シアちゃんとお客人じゃねぇか。夕べはお楽しみだったかい?」


「それが、この人ヘタレで……。」


「アンちゃん、そいつはイケねぇな。それともシアちゃんじゃ小さくて満足出来ねぇってか?」


店の親父は下卑た笑いを浮かべる。


「私は88ありますっ!小さくないです……ってなに言わせるんですかっ!そうじゃなくて、セイジさんは勇者様だったんですよ。」


「おっ、………おぉっ!勇者様かい。じゃぁこれ持って行きな。防具屋にも知らせておくぜ。」


親父の表情は一転して愛想の良い笑いに変わり、一本の棒を俺に渡すと慌てて外へと飛び出していった。


「これは?」


「ヒノキの棒ですね。勇者様の由緒正しい武器だと言われています。旅立つときは「ヒノキの棒」「旅人の服」「お鍋のふた」を装備していくと言い伝えにあります。」


「………そうか。」


なんか昔のゲームにそんなのがあった気がする。

さすがは夢だと、妙なところで感心するのだった。


「ここで最後ですね。」


あれから防具屋で旅人の服をもらい、道具屋でお鍋のふたをもらった。


行く先々で、「夕べはお楽しみでしたね。」と言われ、その都度シアが「この人ヘタレで……。」といい、俺を見る目が残念なものに変わるのを体験し続けた俺のHPは、残り僅かになっている。


シアに案内された最後の店は「薬屋」だった。


ここで既にお馴染みになったやり取りの後、薬草を5束貰う。


「これで全部揃いましたね。………では行きましょうか。」


「行くって?今のが最後の場所って言ってなかったか?」


「何行ってるんですか?準備が整ったんですよ。みんな待ってますよ。」


よく分からないままシアの後に付いていく。


連れて行かれた場所は、村の入り口だった。


そこには全村人達が集まっている。


「皆の者。勇者様の旅立ちじゃ!」


「おぉ!」


「頑張れよっ!」


「アンちゃんならやれるぜ!」


村長の言葉に続き、村人達の励ましの言葉が口々に贈られる。


「セイジさん………いえ、勇者様。旅の無事と立派に務めを果たされることを、この地よりお祈りしております。…………お元気で。」


シアは俺の唇に自分の唇を押しつけ、そして離れる。


…………これは、旅立たないとは言えない流れだな。


俺は仕方がなく、皆に背を向け、村の外へ向かい歩き出した。


「セイジさん……………。」


シアの声が、遠く小さく消えていく………。


こうして、俺は始まりの村、アルバから旅だったのだった。



……………その夜、アルバの村の外れにある家に、一人淋しく向かうシア。


村での作業が長引いて帰るのが遅くなったのだ。


ほんの2~3日のことだったが、セイジがいてくれて楽しかったことは事実だ。


それを証明するかのように、家路に向かう足取りが重い。


帰っても、もう誰もいないことが分かっているから……。


シアは出迎えてくれる者のいない扉を開ける。


「よう、遅かったな。」


「……………。」


一瞬ドキッとした。

誠二が帰ってきたかと思ったのだ。


……しかし、それはシアの願望が生み出した幻聴だった。


「セイジさん……どうか、気を付けて……。」


シアの真摯な祈りが深い闇の中に響き渡るのだった。

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