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無気力勇者のスローライフ ~魔王?何それ?美味しいの?~  作者: Red/春日玲音


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無気力勇者と魔王サマ!? その3

誠二は、鎖につながれた少女を見つめた。

着ていた衣類はすでに剥ぎ取られ、薄手のワンピースに身を包み、小さな身体を縮こませて、怯えるようにこちらを見ている。

金色の髪が、月明かりに照らされて静かに揺れた。


「……お前が、魔王だっていうのか?」


震える声で問うと、少女はこくりと小さくうなずいた。


「マジか…………」


誠二は頭を抱える。

ユリアが探し求めていた魔族の「セイン」と偶然にもめぐりあえたのはいい。

どうせ見つからないだろうと思っていた矢先の事であり、こんな偶然もあるものだと思う。


その「セイン」が実は女の子で「セリス」だったのもいい。

驚きはしたが、ユリアとあんな関係になった以上、セインが女の子であることは、色々な面で都合がいいからだ。


しかし、そのセイン……セリスが、実は魔王だった……これは良くない。


元々、誠二がこの世界にいるのは「勇者として魔王を倒し、世界に平和をもたらすため」なのだ。

そして目の前に「魔王」がいるなら倒さなければならない……それが「勇者」としての使命。

世界の人々が、平和を願って待ち望む正義の行い――そのはずだった。


だが、目の前にいるのは、泣き出しそうな顔をした、どこにでもいそうな少女だ。


「ボクは……確かに魔王だよ。でも、それが何だっていうのさ?世界の端で静かに生きていたかっただけなのに……それでも……」


少女の声はかすれていたが、誠実だった。

その言葉が、誠二の胸に鋭く突き刺さる。


「……どうしてこんなことに……」

しばしの間思い悩む誠二。

しかし……。


「ま、いっか。」

誠二がふと笑った。

その軽い言葉とは裏腹に、彼の右手に握られたファルシオンが高く振り上げられる。

月明かりに煌めく刃。

セリスの瞳が見開かれ、次の瞬間、彼女はぎゅっと目を閉じた。


(終わるんだ……)


心の中でそう呟いたその刹那――


――風を裂く音。


だが、痛みは来なかった。


恐る恐る目を開けたセリスの目に飛び込んできたのは、地面に突き刺さった剣。

彼女のほんの数センチ先に、刃先がめり込んでいた。


「え……?」


セリスが呆然とつぶやく。


誠二は彼女の前に立ったまま、目を伏せていた。

そして、静かに口を開く。


「まぁ、俺も、無理やり勇者にされただけだしな。勇者失格でも問題ないわ。」


その言葉には、どこか吹っ切れたような響きがあった。


「でも、……あなたは勇者……ボクを殺さなくて……いいの?」


セリスの唇が小さく震えた。

それは、恐怖ではなく――驚きと、戸惑い。


「そんなの知らねぇよ。こんな震えている女の子を殺すなんて……面倒だよ。やる気が出ないね。殺すぐらいなら、恋人にしてイチャイチャする方がマシだな。」


誠二はにかっと笑い、セリスに手を差し出した。


戸惑いながらも、その手を見つめるセリス。


彼女は、ゆっくりと、恐る恐る手を伸ばした。


ファルシオンの刃先が地面に突き立ったまま、静寂が支配していた。

夜風が草を揺らし、鎖の音が小さく鳴る。


セリスは信じられないような顔で、自分の手を握る、目の前の男性を見上げていた。


誠二はゆっくりと彼女を見つめ、優しく、それでも確かな声で言った。


「ここに居るのは『魔王』じゃない。ただの女の子、『セリス』だ。」


その一言に、セリスの喉が詰まり、声が出なかった。


「魔王はもういない。俺の目の前にいるのは、怯えて泣きそうになってる、誰かに助けてほしいって目をした一人の人間だ。」


誠二はそっと腕を引き、セリスを立たせる。


「あんたはセリスだ。ユリアの親友の……な。それだけで、十分だろ。」


沈黙が続いた。

そして、ポツリと落ちる涙。


「……バカ……ばか、ばか、ばかぁぁ。」


ようやく絞り出したセリスの言葉は、震えていた。けれどその顔には、少しだけ安堵が浮かんでいた。


誠二の言葉が、心の奥に染み渡っていく。

「魔王」ではなく、「セリス」として呼ばれたこと。

何より、命を奪わず、話を聞こうとしてくれたこと。

それだけで、胸の奥が熱くなるのを感じた。


彼の目は真剣だった。怖いほどにまっすぐで、だけど温かかった。


(どうして……?)


セリスは胸元をぎゅっと押さえる。

心臓が、いつもより早く、強く打っている。


(なんで、あの人の顔を見るだけで……苦しいの?)


誠二は何も知らない。

魔王という存在が世界中に恐れられ、憎まれている存在であること。

過去に何人の命が「魔王討伐」の名の下で奪われたかということも。


だけど――


「……もしかして……これが……恋……?」


セリスの小さな声が夜風に溶けていく。


(そんなはず、ない。ボクは魔王で、彼は勇者。……許されるはず、ないのに……)


それでも、胸に灯ったこの感情は、もう消えなかった。


セリスはそっと誠二の姿を見つめるのだった。



少女の胸に芽生える、名前のある想い

小さな部屋の窓から、差し込む柔らかな午後の日差し。

セリスはその光を浴びながら、ベッドの上に膝を抱えて座っていた。


軟禁――と言っても、牢屋ではない。

ただ、外に出る自由がない……とはいっても、誰かが一緒にいれば出ることが出来る……だけで、生活に必要なものはすべて揃っていた。

そして、毎日欠かさず、誠二は顔を出してくれる。


「ちゃんと食べないと、元気出ないぞ」

「本、置いとくよ。読めるやつ、選んでみた」

「次の服、これなんかどう? 色が似合いそうでさ」


どこまでも優しくて、どこまでもまっすぐで、どこまでも“ズルい”人。


(こんなの……勘違いするに決まってる……)


セリスは、自分でも理由がわからないほど、誠二を目で追ってしまっていた。

彼の声を聞くだけで、胸がきゅっとなった。

その笑顔が自分に向けられるたび、何か大切なものに触れられたような気がして、息が苦しくなった。


そんなある日。


開いた窓から、庭での声が聞こえた。

セリスがそっと身を乗り出して見た先――そこには、誠二と、葉月の姿があった。


「せんぱぁい〜、それ持ってってくれる? 重いのよぉ。」

「しゃーねーな、何でも言う事聞きますよ、っと。」


明るく笑い合い、楽しげに話す二人。

ユリアに聞いたところによると、葉月は誠二の恋人1号?なのだそうだ。

気安く肩を叩いたり、笑顔で近づいたりする葉月と、まんざらではない様子で、それに応えている誠二。


(恋人……いたんだ。)

そう思った瞬間、セリスの胸に、鋭い痛みが走った。


(やめて……そんなに近づかないで)


唇が震える。目を逸らそうとしても、見てしまう。心がざわつく。


(なんで……こんな気持ちになるの?)


わからなかった。

いや、わかりたくなかったのかもしれない。

でも――


「……ああ、ボク……好きなんだ。セイジのこと……」


ぽつりと漏れたその言葉が、胸の奥で何度も反響した。

ようやく言葉にしたその想いが、今まで自分の中に溜まっていたすべての感情に、名前を与えていく。


静かに、だけど確かに。

“魔王”としてではない、“一人の女の子”としての、セリスの恋が始まった。



セリスが”拠点”で暮らすようになり、早くも1週間が過ぎた。

当初こそ、様子見も兼ねて、半ば軟禁に近い状態だったが、セリスやその同行者たちに、完全に敵意がない事がわかった今では、ごく普通に暮らしてもらっている。


セリスの護衛だった者がいうには、シュバルツ達やクーちゃんを遊んでいる誠二を見て、「アレに逆らったら殺される」のだとか。……失礼じゃね?


自由に動きまわれる、と言っても最初の頃は、外出するにも恐々だったセリスだが、最近では、部下共々、畑仕事に精を出したり、ユリアと中庭でお茶を飲んだりしている姿が見受けられ、ようやく慣れて来たか、とホッとする誠二。

今も、ユリアと一緒に午後のお茶会を楽しんでいるようで、邪魔しちゃ悪いと、その場を立ち去る誠二だった。



午後の静かな日差しの中。

中庭のベンチに座って、お茶を楽しむセリスとユリア。

他愛のない話から、誠二についての事へと話題が移っていく。


やたらと誠二の事を聞きたがるセリスの態度にピンときたユリアは、少し悪戯っぽい表情を作り、さり気なさを装って話題を振る。


「ねぇ、セリス。セイジさんの恋人って、今何人いるか知ってる?」


「……こ、恋人!?」


セリスは顔を真っ赤にして跳ね上がった。

ユリアはその反応を楽しむように微笑みながら、指を一本ずつ立てていく。


「まずね、葉月さん。セイジさんの……多分……最初の彼女。

次に唯ちゃん。可愛くて少し甘えたな感じ。だけど多分肉体関係はまだかな?」

「に、肉体っ!」

セリスの顔が一気に赤く染まる。

こういう事には全く免疫がないのだ。

その様子を見て、クスクス笑いながらユリアは続ける。


「で、三人目がミアちゃん。ここにはあまり来ないけど、セイジさんに超一途で、来た時はべたべたに甘えるの。唯ちゃんと同じ年って言うけど、ミアちゃんの方がしっかりしているよ。」


「な……!?」


セリスは言葉を失った。


(そんなに……!? というか三人も!? なんで!? どうして!?)


ユリアは肩をすくめて、最後に一言。


「でね、私が最近、四人目になったばかりってわけ♪」


「…………え?」


頭が真っ白になった。


(この子……軽く言ったけど、今……自分も恋人って……!?)


ユリアはクスクスと笑いながら、セリスの驚いた顔を覗き込む。


「ま、英雄色を好むって言うし。セリスちゃんも本気なら、遠慮せずにアタックしちゃえば?」


「…………っ!」


セリスの胸の奥に、何かが燃えた。

悔しさ? いや、違う。

怖さ? それも違う。


(……そうだよ。ボクだって、セイジのことが好き。ちゃんと好きになったんだ)


拳をぎゅっと握りしめる。


「……4人も5人も同じ、だよね? だったら、ボクだって……負けたくない」


その言葉に、ユリアは満足げに微笑んだ。


「うん。その調子♪」


こうして、“魔王”セリスの――いや、一人の少女セリスの、“恋の戦い”が本格的に始まるのだった。



……最近セリスの様子がおかしい。

生活に慣れないストレスか?とも思ったけど、どうやら違うとの事。

だったらなんで?とも思うが、気にしたら負け、と、葉月に言われる。

葉月やユリアは理由を知っているみたいなのだが……。



「よ、よし……!」


セリスは部屋の鏡の前でポーズを取ってみせた。

リボンをいつもより丁寧に結び、スカートの裾を何度も整える。


(ユリアが言ってた。“好きな人の前では、ちょっと恥じらいながら話しかけて、目線を逸らすのがコツ”って……!)


「か、完璧……っ!」


勢いよくドアを開けると、ちょうど通りかかった誠二の姿が。


(き、来たッ……! 作戦、開始ッ……!)


セリスはぎこちない笑みを浮かべ、棒のように突っ立ちながら話しかけた。


「お……おはよう……セイジ……。あ、あの、今日は……天気が……空が……青くて……良いよね……?」


「ん? あぁ、うん。めっちゃ晴れてるな!」


(あっ、普通に返された!? ちょ、ちょっと目逸らさなきゃ……っ)


慌ててそっぽを向くセリス。


「……べ、別にアンタのことなんか、見てないんだからねっ!」


「え? なんで怒ってんの?」


「ち、違う! 怒ってるわけじゃないし……!」


(な、なに言ってんのボクぅー!?)


セリスは顔を真っ赤にしながらバタバタとその場を立ち去っていく。

残された誠二は、首をかしげながら呟いた。


「セリスって……最近ちょっと変だよな。ストレスか?」


――翌日。


今度は“料理作戦”を決行。


(恋する乙女はお弁当で勝負!……ってユリアが言ってた!)


見よう見まねで作ったおにぎりを持ち、誠二の元へ向かうセリス。

だが……


「うわっ!? これ……黒焦げ!? 中に、何入れたの……?」


「えっ!? 焼きマシュマロと魚肉ソーセージのミックスだけど!?」


「いや、なんでその組み合わせにしちゃったの!?」


(料理、む、難しすぎる……っ!)


――夜。


ベッドで一人、枕に顔をうずめながら転がるセリス。


「はぁぁぁぁぁあああ~~~……!! ボクのバカぁ……!」


空回るばかりの恋。


でも――


(それでも……もっと、セイジのそばにいたい。好きって、ちゃんと伝えたい)


その想いだけは、日ごとに強くなっていた。



ある日の昼下がり。

部屋の隅で、セリスが顔を伏せてぐったりしていた。


「おにぎり……また失敗した……。セイジ、苦笑いしてた……」


そんな彼女を心配してやって来たのは、葉月とユリア。


「アンタねぇ、もうちょっとまともに恋しなさいよ!」

「うんうん、セリスちゃん可愛いのに、戦い方が不器用すぎるよぉ〜」


「うぅ……だってぇ……こんなこと始めてだしぃ……どうすればいいのよぉ……」


そんなセリスを囲んで始まったのが、《恋愛指南・緊急会議》。


【第1作戦:意識させよう大作戦】

ぱふぱふ~。

どこかで音が鳴っている……気がする。


ユリア「まずはボディタッチよ。偶然を装って、腕とか肩に手を置くの」


葉月「それだけじゃ弱いって。耳元で囁くの! “ねぇ、誠二……今日のボク、変じゃない……?”みたいな!」


セリス「そ、そんなのムリぃ……!」


翌日。


セリス、タイミングを見計らって誠二の隣に座り、震える手でそっと肩に触れる。

その瞬間――


「!? セリス、寒気でもするのか!? 大丈夫か!? 震えてるぞ!? ポーション飲めっ!!?」


誠二、完全に“体調不良だと思って”大騒ぎ。


セリス、顔面蒼白で撤退。……失敗に終わった。


【第2作戦:必殺!ヤキモチ誘導爆撃】

どんどん、ぱふぱふぅ~~


葉月「男ってのはね、独占欲を刺激されたら意識し出すんだよ!」

ユリア「他の男子と仲良くするフリ、これで完璧☆」


セリス「うぅ……他の男の人とか、怖いんだけど……」


それでも頑張って、庭の掃除をしていたアレックスに話しかけてみた。


「あ、アレク……きょ、今日は……良い天気……ですね……?」


アレックス「ヒィッ!? ま、魔王様ぁ!? ご命令なら死ぬ準備できてます!!」


逃げられた。


誠二(遠くから見て)「……なんか、セリスが凄い形相で話しかけているなぁ……」


作戦、即死。

……アレックスでさえ、恐怖におののく形相って……。


【第3作戦:トンデモ奥義・目隠し恋トラップ】

どんどん、ぱふぱふ……。

心なしか音楽も音が小さい……。


唯「面白そうなことしてるねぇ。こんな時は唯ちゃんにお任せっ♪その名も“誰がキスしたか当ててね♡”作戦。誠二を目隠しをしてほっぺにチューするの♪」


セリス「き、キス!? そ、そんな急にレベルが……」


葉月「はぁ……マジ? 失敗する未来しか見えないわ」


だが唯の強引な後押しにより、作戦は決行されてしまう。


誠二を目隠し状態にし、セリスがプルプルしながら距離を詰める……が――


バキィンッ!!

セリス、足元のマットに引っかかって誠二の鳩尾に膝蹴り炸裂。


誠二「……ごふっ……」


その場で昏倒。


ユリア「あららぁ☆」

葉月「え、あの、死んでない!? 誠二ぃぃ!?」


セリス「せ、セイジぃぃぃぃぃーーーーー!!!」


この件は、謎の襲撃事件と捉えられ、この日から、クーちゃん及びシュバルツ達の警戒網が強化されたとか。


その夜……


誠二、ベッドで呻きながら目を覚ます。


「うぅ……なんか最近、セリスが色々おかしい気がする……それに巻き込まれてる気がするし……命がいくつあっても足りねぇ……」


セリスはドアの向こうで涙目。


「ど、どうして……こうなるのよぉ……“好き”って難しいのぉ……」



その日、空回りと失敗の記録に心が折れかけたセリスは、ひとり静かな中庭で項垂れていた。

失敗した手作りおにぎりの残骸が、手のひらの中で少し冷たくなっていた。


「……ボクって、本当にダメだな……」


その呟きに、すっと影が差す。


「そんなことはありません」


振り返ると、静かに立っていたのは――ミューナだった。


幼い頃からずっとそばにいてくれて、セリスが最も頼りにしている侍女であり友人であるミューナ。彼女は、優しく微笑みながらセリスの隣に腰を下ろす。


「姫様、今までのあなたを見ていて、私は少し……もどかしさを感じていました」


「え……?」


ミューナは小さく微笑む。


「セイジさんに想いを伝えるのに、駆け引きも奇策もいりません。

ただ、あなたらしく、正面からぶつかればいいのです。――お弁当を持って、ピクニックに誘いましょう。そして、きちんと想いを伝えましょう」


セリスは、目を見開いた。


「でも……ボク、また料理で失敗したら……。セイジに迷惑かけたら……」


手の中のおにぎりが、ぐしゃりと潰れる。


その手に、そっと重ねられたミューナの指。


「――私が、手伝います。あなたの“想い”が、ちゃんと形になるように」


その言葉は、凍りつきかけていたセリスの心を、ゆっくりと溶かしていった。


そして翌朝……

厨房にて。


ミューナはエプロン姿で静かに立ち、セリスに包丁の持ち方から丁寧に教えていた。


「セリスさん、にんじんは“いのち”のように優しく扱ってください」

「に、命!? ……わ、わかった……!」


「はい、これは出汁巻き卵です。巻きながら“愛情”を込めるのがコツです」

「愛情……こ、これが恋の魔力……!」


初めは手元もガタガタだったセリスも、何度も失敗を繰り返しながら、少しずつ形になっていく。

焦げもなく、塩も効きすぎず、見た目も可愛らしいお弁当が、ついに完成した。


ミューナは静かに頷き、最後に一言。


「あなたの気持ちは、これに全部詰まっています。だから、きっと伝わりますよ」


セリスは弁当箱を大事そうに抱えて、深く深く息を吸い込んだ。


「うん……ありがとう、ミューナ」



午後。森の中の花畑にて……。


誠二「お、珍しいなセリスがピクニックに誘ってくるなんて」


セリス「そ、そうでしょ!? き、今日は……特別だから!」


ぎこちないが、目は真剣。


「これ……ボクが、頑張って作ったお弁当……。その、誠二に……食べてほしくて……」


誠二は少し驚きながらも、弁当箱のふたを開けた。


「……すげぇ……めっちゃ綺麗にできてるじゃん!」


卵焼きに、ウインナーに、煮物。どれも見た目からして温かい。


「いただきます!」


一口。ふわりと笑顔がこぼれた。


「……うまい。マジでうまいよ、セリス!」


その言葉に、セリスの目が潤む。


(……やっと……ちゃんと届いた)


そして――


セリスは弁当を見つめながら、ほんの少し震える声で言った。


「ボクね、セイジのこと……好きなんだ。気づいたら……好きになってた」


花が揺れる中、誠二の箸が止まる。


風がそっと吹いた瞬間、セリスは初めて――空回らない、まっすぐな恋を言葉にした。



ご意見、ご感想等お待ちしております。

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