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無気力勇者のスローライフ ~魔王?何それ?美味しいの?~  作者: Red/春日玲音


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無気力勇者と謎の少女 その2

「なぁ、お前指名手配されてるぞ?」


「えっ、うそっ!」


誠二の言葉に驚く少女。


少女はユリアと名乗った。

身なりからしてどう見てもそこそこの身分なのはわかっているが、ユリアは、頑として家名を名乗ろうとはしなかった。

つまり、名乗れば一発で分かるような有名な家の出なのだろう。

最も、こっちの世界の事に詳しくない俺にしてみれば、例え王家の名前を名乗られても気づかないだろうが。


「くぅ……本物の方がもっと可愛いわよっ!」


ユリアは俺が持ってきた手配書?を見て憤慨している。

手配書と言っても大したことが書いてあるわけじゃない。

肖像画と、来ていた服の特徴。ユリアもしくはユリーシアと名乗っている可能性が高い、と情報はそれだけで、後、見つけた者に金貨3枚を渡すと書かれているだけ。

何が原因で探している、などとは一切かかれていない。


「そこで、俺のとる道は二つあると思うんだが?」


「何よ。」


ユリアがキッと睨みつける。


「まず、お前を拘束して街まで連れて行き、衛兵に引き渡す。」


「そんなことしたら、街中で、アンタに犯されたって叫ぶわよ。そうしたらアンタはすぐ捕まって打ち首よ。」


ユリアのいう事は大げさではない。

ユリアが平民であれば問題ないのだが、多分名のある貴族だろう。

その貴族の子女を辱めたとなれば、即座に首を刎ねられるのは目に見えている。

もっとも、ユリアもユリアの家も評判はがた落ちになるので、本当にそこまでするかどうかは分からないが、一応釘は指しておくべきだろう。


「あのなぁ、闇の奴隷商に売り捌くってことも出来るんだぞ?もと貴族の生娘なら金貨10枚は固いだろうなぁ。」


「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、調子に乗りました。謝るからそれだけは勘弁して。」


ユリアはばっとその場で土下座する。

なんだかんだ言っても、この素直なところが気に入ってしまい、それが彼女を見捨てられない要因でもあった。


「もう一つの手は、お前をここで置き去りにして逃げるってのだが、どっちがいい?」


「何でその2択なのよっ!もう一つ、あるでしょうがっ。」


「えっ、あったっけ?」


「あるのっ。私をセイン様の下に送り届けるって選択潮があるでしょっ!」


「あのなぁ、そもそも、その「セイン様」ってのはどこにいるんだよ。」


「知らないわよっ!」


……ダメだ、話にならない。


ユリアを森で助けてから2日が経った。明日か明後日には、向こうで目覚めるだろうから、ユリアを放置することになる。

まぁ、向こうは休みになる筈だから、最悪2~3日くらいなら延長しても何とかなるのだが、その場合、完全に休日が潰れるので出来れば勘弁してもらいたい。

だから、遅くとも明後日迄には、ユリアと別れたいところなのだが……。


「ログアウト」している間の、俺の身体がどうなるかわからないのも、不安要素の一つだ。

ログアウト中の記憶は探っても見つからないので、多分消えると思うのだが、それはそれで、ユリアと一緒に行動しているとまずい気がする。


ある日突然、一緒にいた人間が消えるのだ。

当然混乱を起こすだろう。

そんなところで数日後にまた突然現れたらどう思われるだろうか?

少なくとも、まだ一緒に行動するのであれば、途中消えるという事をしっかりと話しておかなければならないだろうが、それはそれで面倒であり、トラブルの種を増やしかねない。

それ以前に、そんなことを話そうと思うほど、ユリア信用していない。


「ん、そうだな。」

「えっ、どうしたの?」

「いや、どうでもよくなってな。よく考えたら俺が何かする理由もないなぁ、と。」

「それは……そうだけど。」

「ってことで好きにすればいいさ。ここで暮らすなら食事ぐらいは出すし、セイン様とやらの下に行くなら止めないぞ。」

俺はそう言ってベッドに横になる。

そうだよ、俺には関係ない事だ。


「……一緒には行って下さらないのですか?」


「だから仕事でも依頼でもない、ましてや何も知らないアンタに付き合う義理もない。それなのに何で一緒に行かなきゃならないんだ?……まぁ、出て行くって言うなら、この中にあるものなら、何でも好きなだけ持って行ってもいいぞ。餞別だ……っといっても、ポーションぐらいしかないけどな。」


顔を見ていないが、ユリアが黙って俯いているのは気配で分かる。

冷たいようだが、俺には俺でやることがあるしな……ってアレ?何やるんだっけ?

……何か忘れているような……ってまぁいいか。大事な事ならそのうち思い出すだろ。


だけど、なんとなく気まずくて、ユリアの顔を見ることが出来なかったので、俺は寝たふりをすることにした。


◇ ◇ ◇


……私の名前はユリーシア=シュッツバルト。

この国、シュッツバルト王国の第三王女です……いえ、でした。

私はあの方……セイン様にお会いしてから、すべてを捨ててでもあの方について行こうと決めたのです。

だから今の私は、ただのユリアなのです。


私とセイン様の出会いは、王都の裏寂れた路地裏でした。

お忍びで街を歩いていた私は、ガラの悪い男性三人に黙皿、どこかに連れていかれるところでした。

それを助けてくれたのがセイン様なのです……。


「オイ、その娘を放せ。ついでに命が惜しかったら持ってるもの全ておいてけ。」

その言葉だけ聞いたら、どっちが悪者かわかりませんよね。

当然激怒した男たちですが、セイン様が少し手を振っただけで、その場に倒れ伏していました。

いつの間にかセイン様の手には剣が握られていたのです。

セイン様は倒れた男の懐を弄り、男たちが何も持っていないことが分かると、「チッ!」と舌打ちしてその場から立ち去ろうとします。


「あ、あの……。」

「なんだ?……あぁ、連れて行かれそうになってた娘か。この辺り治安が悪いからな。早くお家に帰りなよ。」

「いえ、あの、その、……助けていただいてありがとうございます。何かお礼を……。」

「金でもくれるのか?」

「あ、いえ、その、家まで着ていただければ謝礼を出すことも出来ますが……何分、私には手持ちがなくて……。」

「じゃぁ要らねぇよ。」 

そう言って闇の中へ消えていきました……。これが私とセイン様の初めての出会いでした。


その後も、私がお忍びで街に出ると、なぜかセイン様と出会う事が多くなりました。

改めて出会った時、もし、また出会う事があったのなら、と用意しておいた白金貨と私が一生懸命焼いたビスケットを渡したのですが、セイン様は白金貨は受け取らず、ビスケットを受け取って無造作に口の中に放り込みました。

そのあと、すぐ顔をそむけてしまわれたので、お口に合わなかったのかと心配になりましたが、小さな声で「美味かった」とおっしゃってくれた時、私は「この人にずっとついて行こう。」と思ったのです。

これが運命の出会いなんだと思いました。運命の女神ステイシア様に感謝を。


それからも、私とセイン様の逢瀬は続きました。

と言っても、私がお城を抜け出して、供の者に見つかるまでの一刻ほどの短い逢瀬ではありましたが。

それでも彼は、次第に打ち解けてくれて、ぽつりぽつりと自分の事を話してくれるようになりました。

これも、私が毎日差し入れるビスケットのお陰ですね。

殿方の心を掴むなら、まずは胃袋を掴め、というのが母の教えでしたから。


セイン様のお話は、私にとっては衝撃的ではありました。

彼は何と魔族で、しかも、前魔王の子供だというのです。

正確に言えば、前魔王の子供のうちの一人ですね。

魔王と人間の女性の間に生まれたという、特殊な生い立ち故に、今までは魔族の中でもいないものとして扱われていたそうなのですが、ある日突然前魔王が「わしは魔王を引退する、後はセインにすべて譲る」と言い残して姿を消してしまうという事件が起きてから、彼の周りは一変したそうです。


急に頭を下げ、すり寄ってくるもの、いきなり襲いかかってくるもの、今までと変わらず接してくるもの……様々でしたが、特に命を狙われることが多くなって、魔族の国を逃げ出したんだそうです。


「だけど……。逃げるのはもうやめだ。」

セイン様はそう言って私をじっと見つめてきます。

「ボクは、戻ってケリをつけてくる。そうしたらお前を迎えに来るから……それまで待っててくれるか?」

私は、何度も頷き、そのままセイン様の胸へと飛び込みました。

長い時間口づけをして……、気づけばセイン様の姿はなく、私の手には一欠けらの宝石が残されていました。


私はセイン様の言葉を信じて待ち続け、1年が経ったある日の事です。

私に隣国の王子との縁談が持ち上がりました。

隣国とは長いこと娘争いを繰り返してきたので、この辺りで和平を結ぼう、という事になったそうです。

その証が私と王子の結婚なのです。

だけど、それでは、私はセイン様との約束が果たせません……。


◇ ◇ ◇


「だから、私は書置きをして王宮から逃げ出したのです。……国を裏切った私はもはや王女でも何ものでもない、ただのユリアです。……そして何の力もない……。」


長い一人語りを終えたユリアは、そのまま黙り込む。

色々言っていたが、何のことはない。要は好きでもない相手と結婚させられそうになったから逃げだした、そういう事だろ?

ユリアの独白は、俺のやる気パラメーターをグンッと下げた。


ユリアの手伝いをした結果残るのは、この国と隣国の関係悪化。

セインとやらの問題の激化。

それらを抜いたとしても、手伝った俺には苦労の割に何の見返りもないうえ、二人のイチャラブを見せつけられるだけ。


せめて、ユリアの目的が、好きな人に会いに行く、でなければ、旅の間に俺への好感度が上がり、イチャラブになる……のであれば、まだ考えたかもしれない。

しかし、イチャラブを見せつけられたうえに、下手すれば王女誘拐、隣国との関係を悪化させた首謀者、魔族との余計なトラブル……などなど、罪人扱いされ、見せしめのために処刑される……。

そこまで行かなくても、この国付近にはいられなくなるのは間違いないだろう。


今の生活を捨ててまで……捨ててまで?

……あまり変わりないか。まぁ、そんなことはどうでもいい。

とにかく、やる気が全く起きない。

ユリアの悲しそうな顔を見るのは心が痛むが、ユリアが居なくなれば忘れることが出来る程度のものだ。


ユリアはじーっと俺の方を見ているが、俺は寝たふりを続ける。

しばらく黙っていたユリアが、俺の傍に寄ってきて、顔を近づけ、囁いてくる。


「この家の中の()()は、何でも持って行って構わないのですね。」


「あぁ。」

しまった、つい答えてしまった。寝たふりしてたのがバレたか?


「その言葉に、二言はないですね?()()()()、ですよ?」


やけに念を押してくるなぁ。なんか高価なものでもあったか?

とはいっても、俺が持ち込んだものはポーションと「勇者三点セット(笑)」そして、ここを拠点にしてから、狩った魔物の素材や保存食のみだ。

全部、最高値で売っても銀貨数十枚がいいところだろう。


「じゃぁ、これを持っていきます。」

そう言って俺の手を握る。


「これって?……籠手は嵌めてないぞ?」


「何言ってるんですか、この手の持ち主ですよ。いいでしょ?」


「いいわけないだろうがっ!」


手の持主……つまり俺を持っていく、と言いたいらしい。


「さっき、何でもって言ったじゃないですかぁ。」

()って言っただろ?」

「だから()ですよ。」


「「うぅー……。」」

俺とユリアは睨み合う……が、先に目を逸らしたのは俺の方だった。

だって、なんだかんだ言っても可愛いんだから、じっと見つめるなんて事出来るわけないじゃないか。


「ったく……。わかったよ。じゃぁ交渉だ。」


「交渉?」


「当たり前だ。ただ働きさせる気だったのか。」


キョトンとした顔を見るに、本気でタダ働きさせるつもりだったらしい。


「いいか、要は旅の間護衛してほしいってことだろ?」


「セイン様を探すのも手伝ってください。」


……そこまでやらせるってか。


「……まぁいい。人探し及びその間の護衛ってことだよな。」


ユリアはコクンと頷く。


「それに対する報酬は何だ?」


「えっと……私からの感謝の気持ち?」


「交渉決裂だ、じゃぁな。」


「わわっ、待って、待ってください。」


ユリアが、立ち上がりかけた俺の服の裾を引っ張る。


「だって、私何も持ってないんですよ……セイジさんは何がお望みなんですか。」


「ここで放置してくれることかな?」


「それじゃぁ、交渉になりませんよぉ~~……。」


ユリアの泣き叫ぶ声が、部屋の中に響き渡るのだった。


ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

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