第13話【深淵の底に】(前編)
攻略者協会の会長の修次郎による緊急の要請で未知の巨大次元迷宮に調査へ来ていた清火は気が付かぬ内に迷宮内に閉じ込められてしまい、 雄一の脱出の手段があると予想される謎の遺跡へと足を踏み入れた。
謎の遺跡、 第48階層……
清火が遺跡に入って数時間は経過していた頃、 清火は未だに続く遺跡の地下深くでさ迷っていた。
「……これで113体目……一体この遺跡に何体のボス級魔物がいるのよ……」
この遺跡に入ってもう数時間……今まで出会ってきた魔物はどれもSランク以上のボス級魔物ばかり……この迷宮は本当にどうなってるの……? ゲームだったらバランス崩壊もいい所ね……
際限なく出現するボス級の魔物を倒しながら清火はそんな事を考え始めていた。
「……そろそろ階層的には50は行くか……でもまだ続いてそう……」
ぶっ通しで続く戦闘で疲れた様子でそう呟くと突如として清火は全身に悪寒が走る感覚を覚えた。
「ッ……! 」
この感覚……魔物……もの凄い速さでこっちに向かってきてる……大きさは人と同じ……でも……この感覚は以上過ぎる!
今まで魔物に対し悪寒などという感覚を味わった事が無かった清火は相手の異常さに気付いた。
危険を察した清火はすぐさま近くの物陰に隠れ、 気配を消した。
「……おかしい……確かにここにいたはず……あの全身を舐め回すような凄まじい死の気配……」
近くに来た謎の魔物は普通の人間のように独り言を呟いていた。
……あの魔物……ゼヴァと同じ? しかも女性……
声からして女性だというのは確実だった。
しかし不思議にも清火はその声に懐かしさを覚える。
不思議だ……聞いたことも無い声のはずなのに……聴くと何となく安心するような……でもここで頭を出したらバレる……
声の主の姿を確認しようにも相手の気配の強さに清火はその身を晒すのを恐れた。
「……また厄介な魔物が湧いたか……とにかく帰って報告しなければ……」
謎の魔物はそう呟くと気配と共に一瞬にしてその場から消えた。
「……一体あの声は……でも……」
今の私が戦っていたら確実にやられていた……
聞くと懐かしくなる声、 自身の実力を圧倒的に上回ると分かる程の気配、 清火は謎の魔物がより一層気になった。
「……もしかすれば……この先に……」
先程の声の主がどうしても気になった清火は恐れながらも遺跡の奥へと進んでいった。
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謎の遺跡、 第???階層……
清火が遺跡の更に奥へ進み始めてから更に数時間後、 もはや清火にはどこまで進んだか忘れる程深い所まで来ていた。
……何だろう……この遺跡、 奥に進む程物凄く嫌な感覚を感じるようになる……
相変わらず光の無い遺跡の通路を進みながら清火はそんなことを考えていた。
気付けば際限なく出てきていた魔物達も清火の前に現れる事は愚か、 気配すらも感じなくなっていた。
能力が無ければ辺りの地形が見えない程に深い闇、 耳鳴りがしてくるような不気味な静けさ……周囲に生き物の気配を感じない……
「……さながら深淵ね……」
静けさの広がる通路の真ん中で清火はそんなことを呟いた。
すると清火は突然足を止める。
「……アイツとは違う……」
清火は再び強い気配を感じたのだ。
しかしその気配は先程の謎の魔物とは違うものだった。
……さっきよりかは強くない……だけど……それでも十分に強い……
大鎌を構え、 警戒している清火の前に現れたのは真っ黒な霧のような物体だった。
その物体は目も口も無く、 悪魔のようなおぞましい形状をしていた。
それを見た清火は恐ろしくも無いのに無意識に涙が溢れてきた。
何……これ……あれを見ると胸が締め付けられる……
清火は妙な感覚に気を取られ、 体が動かなかった。
すると謎の霧は手の部分から剣のような形をした霧を出した。
次の瞬間、 謎の霧はひたりひたりと清火の目の前まで迫り、 剣を振りかざした。
「……ッ! ! 」
清火は回避をしようにも体が動かせずにいた。
そして霧の剣が清火の首を切り裂こうとした瞬間……
「またか……いい加減にしろってんだ……! 」
清火の背後から男性の声がし、 清火の頬をかすめるように何かが背後から通り抜けた。
飛んできたのは赤い刃を持った黒い剣だった。
その剣は霧の頭部分を突き刺した。
すると謎の霧はスゥっと清火の前から消えて行った。
霧が消えると同時に体が動くようになった清火はすぐに背後を見た。
「よっ、 人間に会うなんて何か月ぶりだろうなぁ……人間だよね? 」
そこに立っていたのは赤いラインが特徴的な黒いコートを身に纏った男性だった。
その容姿は何とも清火と似ており、 白い髪に赤い瞳をしていた。
人間……? どうやって私の後ろに……というより私以外に人間がいるなんて……
清火がそんなことを考えていると男性は地面に落ちた剣に向かって手を伸ばす。
すると剣は一人でに動き出し、 男性の手元に戻った。
「……その剣……普通じゃない……」
「ははっ、 まぁね……この剣は俺の相棒みたいなものでね」
男性は清火が警戒しているのを余所に気さくな様子で話す。
「さてと、 何かと聞きたい事が山ほどあると思うが……こんな所じゃ話もしにくいし、 とりあえず俺の住んでいる拠点に案内するよ」
「……」
……ここに居てもさっきみたいな霧に襲われかねない……現時点じゃ不審過ぎるけど……このままここにいるよりマシか……
そう考えた清火は警戒しながらも男性の後を付いて行った。
…………
しばらく謎の男性に付いて行くと清火は進行方向に魔力の気配があるのを感じた。
すると謎の男性は魔力の方へ向かい、 そこで立ち止まった。
そこは一見なにも無い壁があるだけだった。
「えっと……ここに何が……」
「まぁ見てなって」
男性がそう言うと壁に手を当てた。
すると目の前にあった壁が次々と変形し、 向こうへ続く通路を顕わにした。
「これは……結界? 」
「正解! よく分かったね? 」
「まぁ……こういう魔法は私も使えるので……」
「へぇ、 君も魔法が……」
そんな会話をしながら二人は通路の中へ進んでいった。
しばらく狭い通路を歩いていくと清火の前にぼんやりと明かりが見えてきた。
そしてその明かりの方へ進むと……
「ここは……」
「我が家へようこそ! っと言っても簡易的なキャンプだけど……」
大きな木が一本だけ生えた広い部屋に出た。
木の下には簡易的なキャンプ地があり、 小さな焚き木がその近くを照らしていた。
さっき人に会うのは数ヶ月ぶりって言ってたけど……こんな所で数ヶ月も……?
清火は場所よりもそこで数ヶ月も過ごしていた男性に驚いた。
そんな清火を余所に男性は焚き木の前に腰かけた。
「さ、 遠慮はいいから」
「は……はい……」
男性の妙なテンションに戸惑いながらも清火も焚き木の前に腰かける。
「さぁて……安全な場所に来た所で……」
すると男性は背中に掛けていた剣を降ろし、 側に置いた。
「……君は何者だ? 見たところ普通じゃないよね……」
……多少正直に言う方が良いか……何をしに来たかだけは言わないと逆に不審に思われる
「……私はモルス……と言います……ここにはある依頼で調査に来たんですけど……閉じ込められてしまって……」
「……なるほどね……外から来たのか……それにその様子じゃここに来て数日、 いや……数時間といったところか……」
「名前について不思議に思わないんですか? 」
すると男性は笑った。
「ははっ、 その名前は攻略者のニックネームだろ? 見ず知らずの他人に本名を言いたくないのは分かるからそこまで探るつもりはないよ……」
攻略者を知っている……? もしかしてこの人も攻略者なの……?
「あの……あなたは一体……」
「あぁ失礼、 イージスって言えば分かるかな? 」
男性の言葉に清火は驚愕した。
そう、 その男性は10年程前に次元迷宮に入ってから行方不明となっていた攻略者、 イージスだったのだ。
「えっ! ? 嘘! そんな……だって……」
「……その様子じゃ……現世では何年も時間が経ってるみたいだね……」
「はい……外ではもう貴方は死んだと……」
そう言うとイージスはまた笑った。
「あははっ! まぁこんな危険な次元迷宮に入って何年も行方不明じゃ死んだと思われるよな」
まさかこの人があのイージスだったなんて……思ったより若い……まぁ確かに外と大きく時間がずれているのは次元迷宮では珍しくない……現世で10年以上経っててもここでは数ヶ月しか経っていないのも説明が着く……
するとイージスは清火に色々話始めた。
この遺跡が何なのか、 そして外に魔物が一体もいない理由……出入口が消えた訳……全て聞かせてくれた。
「まず話しておきたいのはこの遺跡……簡単に言えばまぁ……入ってきた者の記憶を具現化する場所かな……」
「記憶を具現化……」
「そう、 俺も詳しくは知らないんだけど……どうやらこの遺跡に入った人間の記憶の中で一番印象に残っている物を再現するみたいなんだ……さっきの霧も俺の記憶から出てきた怪物って訳」
なるほど……通りで今まで出てきた魔物達がボス級の強さを持ってる奴ばかりだった訳か……私の記憶で印象に残ってる物とすればほぼそれしかないし……
「それと君、 遺跡の外から来たのかな? 」
「え、 はい」
「それじゃ外に魔物達がいないのには気付いたかな? 」
「はい……」
何か深い訳が……?
少し期待しながら清火は黙っているとイージスは頭を掻きながら言った。
「あれは単に俺が魔物を狩り過ぎただけで……コアも無いから暇を持て余してる内に絶滅しちゃったんだよ……ははっ……」
「……何だ……って待って下さい! コアが無い! ? 」
清火は驚愕しながら言うとイージスは清火を宥める。
「まぁまぁ落ち着いて……出られない訳ではないからさ、 そこは安心してよ」
「そ、 そうなんですか……」
「それで最後に話したいのが出る方法だけど、 聞いたところ出入口が消えてしまったみたいだね」
「はい……それが一番重大で……」
「単刀直入に言うと出入口は消えた訳じゃない、 消えても数時間すればまたあの海岸に出てくるよ」
「え……」
それを聞いた清火は頭を抱え込んだ。
始めからあそこで待っていれば良かったんじゃん……
「ははっ……まぁ俺も最初はそうなったよ……出たいときはあの海岸で待っていればいずれ出入口は出てくるから安心して」
「はぁ……まぁZランクの攻略者に会えただけでもここに来た甲斐があったとしよう……」
二人がそんな話をしていると部屋の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
清火は声の方を見ると
「ただいま戻りました、 イージス様」
白いドレスのような鎧を着た女性が立っていた。
長い髪は夜空のように黒く美しく煌めいており、 瞳はイージスと同じく赤い。
そしてその女性からは先程清火が感じた強大な気配が放たれていた。
「お帰り、 相変わらずその言葉遣いには慣れないな……」
イージスは家族のようにその女性を迎えた。
「えっと……知り合いですか? 」
「あぁ、 紹介が遅れたね……この人は――」
イージスが女性を紹介しようとすると女性は清火の前に歩み寄ってきた。
「初めまして、 私は竜華と言います……イージス様と同じく攻略者です」
「ど、 どうも……」
やっぱりあの時の……でも……敵意は……無い……か……
「竜華って言われても分からないでしょ、 ザヴァラムの方が分かり易いんじゃない? 」
そう、 その女性はイージスと同じくして行方不明となっていた攻略者のザヴァラムだった。
しかし今度は清火はさほど驚かなかった。
「まぁ……何となく予想してましたよ……でも女性だったのは意外です」
清火がそう言うとザヴァラムはムッとした表情をした。
「それって私の名前が女らしくないと言ってるのと同じですよ……」
「ごめんなさい、 人の名前を馬鹿にするつもりは無かったんです……」
するとザヴァラムは小さくため息をついた後、 イージスに話し掛けた。
「それより報告がありますイージス様、 先程強大な何かがこの遺跡内に侵入したと思われます」
「あぁ……多分その子だと思うんだけど……」
ザヴァラムの話を聞いたイージスは清火の方を見る。
するとザヴァラムはハッとした様子を見せると何もない空間から一本の大きな剣を出し、 構えだした。
「イージス様お下がり下さい! この人間は危険です! 」
……さっき人に失礼だみたいなことを言っておきながら……まぁ警戒するのも無理も無いか……
清火はザヴァラムが警戒している理由を何となく察していた。
「ザヴァラムさんが警戒しているのは私の気配ですよね……」
清火がそう言うとイージスはさっきとは様子を変えて話してきた。
「そうだった……まだ君について詳しく聞いてなかったが……その力……一体どこから……」
「今度は私から色々話す必要がありますね……」
そして清火はイージスとザヴァラムに自身に起こった出来事を話し始めた。
後編に続く……




