第19話【Zランクの世界】(前編)
前回、 いよいよドラゴンズテリトリーの攻略を開始した清火達は順調に迷宮の出入口へと向かっていた。
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その頃、 他の攻略者達は……
「……」
清火とメテュスが迷宮の出入口付近で戦っている中、 クルテルの部隊はドラゴンズテリトリー周辺にて監視を行っていた。
クルテルは一人で木の上で隠れながら監視をしている。
その時……
『クルテル様、 こちらB班……前方50メートルの位置に竜人の集団を確認』
クルテルの無線機に他の兵士からの通信が入った。
「了解……」
クルテルがそう言った次の瞬間、 クルテルはその場から姿を消し、 通信のあった場所に向かった。
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「……」
『……ッ! ニンゲン……』
通信のあった位置には兵士の連絡の通り、 竜人達がいた。
竜人達はクルテルを見るなり武器を持って襲い掛かってきた。
しかし……
『……! ? ギャァァァァァァ! ! 』
竜人達の体が突然八つ裂きとなって死んでしまった。
その光景を見ていた兵士達は
「……流石だな……元工作員は仕事の速さが違う……」
「攻略者に覚醒したことでまた仕事をもらったっていうらしいじゃないか……幸運な奴だ……」
「かつて何をやらかしたのかは知らねぇがよ……あんなにできる奴を解雇してしまった政府は本当にもったいない事してるな……」
皆口々にそう語る。
遠くからでも音が聞こえていたクルテルは身に付けているボロボロのマフラーと帽子で顔を隠し、 その場を後にした。
クルテルの能力は光に限りなく近い速度での移動、 そしてその速度に対応した動体視力と強靭な肉体、 いわば生物の域を超える身体能力である。
持ち合わせる魔力も尋常ではなく、 自身の持っている拳銃やナイフ等に高濃度の魔力を纏わせることで大幅に強化することができる。
その威力は厚さ15センチのチタン合金の板を貫き、 斬り刻む等が可能であったりと、 Sランクの攻略者である雷の持つ刀よりも性能が高くなるのだ。
「……こっちは暇だ……まぁ……その方がいいのかもしれんな……」
最初の位置へ戻ったクルテルは木の幹に腰かけながらそう呟いた。
…………
一方、 後衛の部隊は……
「オラァァァァ! ! ! 」
『ズバァァァァァッ! ! 』
ルクス、 アーラのチームは上空から襲撃してくる竜人達を殲滅していた。
アーラは様々な魔法で上空にいるドラゴン達を一掃し、 ルクスは地上に向かって来るドラゴン達を潰して回っていた。
「ふぃ~……こりゃすげぇな……空中に対する攻撃手段を持っているとは聞いていたがまさかドラゴンに乗ってくるとはな……さながら戦闘機だな」
「喋っている暇があるならこっちに来てください! 一人じゃ対処しきれません! 」
「まぁそう慌てるな……ってばよ! 」
ルクスは持っている剣に光を纏わせ、 振り上げた。
すると振り上げた方角に向けて衝撃波が発生し、 アーラに向かって来るドラゴン達を吹き飛ばした。
ルクスの能力は空間を切り刻むことができる空間干渉能力、 及び魔力を使った光系の魔法を扱う。
アーラは火、 水、 風、 土、 植物等々の多種多様な魔法を操る。 魔力の量は清火を越える。
二人とも単純な能力ではあるが、 その力はSランクの攻略者の数十倍にも匹敵する。
「にしてもキリがねぇな……一体どっから湧いて出てんだこいつら……」
「次元迷宮自体からでしょうね……恐らくあそこには竜人達の集落らしき何かがあるのでしょう……もしくは……それ以上の大国か……」
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前線基地にて……
「おい、 こっちも頼む! 」
「クソっ、 あんな数がいるなんて聞いてないぞ! 」
衛生兵達が次々と重傷者を搬送してくる。
その度にセラピアは兵士達の回復をしていった。
「もう! 早く攻略を終わらせてよ! 魔力が無くなっちゃう! 」
そんな事を言いながらセラピアは次々と重傷者達を治療していく。
セラピアの能力は凄まじい治癒能力。
その治癒能力は凄まじく、 四肢の欠損、 及びその他の致命傷を瞬時に完全治癒させる事が可能なのである。
またセラピア自体も凄まじい回復力を持っており、 如何なる致命傷も治ってしまう。
しかし欠点はあり、 病気などの体の障害は治すことができない。
また、身体能力は他のZランク攻略者と比べて著しく低い。
「モルスちゃんとメテュス、 早く終わらせてー!」
慌ただしい基地でセラピアは泣きそうな顔で兵士達の治癒をしていく。
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そして……
「……いよいよか……向こうにはどんな世界が広がっているのやら……」
「あれだけの数が迷宮から出ていたし……相当な集落があるのかもしれないですね……」
清火とメテュスは遂に迷宮の出入口前まで来ていた。
あんな数の竜人達を指揮しているという事はボスは相当に強いやつかもしれない……倒し慨がありそう……
清火はそんなことを考えながらメテュスと共に迷宮へと入っていった。
…………
「これは……! ? 」
「迷宮にこんなものが……! 」
迷宮に入った清火をメテュスはその光景に驚愕した。
そこには竜人達の集落……否、 それ以上の規模、 もはや一つの街と言ってもいい程の大きな居住区域が広がっていた。
「まさか魔物にこんな文明を築く力があるとはな……」
「私も初めて見ました……こんなしっかりとした建造物が迷宮の中に広がっているなんて……」
二人が感心していると遠く向こうに建っている巨大な城の方から何百もいるであろうドラゴンの軍団が飛んできた。
やっぱり来たか……とりあえずここは私が……
そして清火は黒月を構えようとすると……
「待った……」
メテュスが清火の手を下げる。
するとメテュスがドラゴンの軍団に向かって指を差した。
次の瞬間、 メテュスの指先から細い光線が飛び出してきた。
その光線は横に線を描くようにドラゴンの軍団方へ目掛けて飛んで行くと……
『……ドゴォォォォォォォン……! ! ! ! 』
激しい光と共に凄まじい爆発音が鳴り響いた。
その衝撃波は清火達の方まで届き、 辺りに建っていた建造物をも破壊していった。
「……凄い……」
「……これは現実世界ではあまり使えないが、 迷宮の攻略をするには手っ取り早い方法なんだ……さぁ、 行こう」
……流石の私もこんな事はできない……流石はZランク……
メテュスの力に感心しながらも清火は先に進んだ。
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道中、 二人は援軍に来た竜人達を倒しつつ城の方へ向かっていた。
「……にしても街はもう壊滅状態ね……ここに住んでいた竜人達も死んだのか……」
そう呟くと清火は何か気配を感じて破壊された建物の方を見る。
「……」
清火の視線の先には建物の倒壊に巻き込まれて負傷した竜人がいた。
その隣には泣いている子供の竜人がいた。
子供の竜人は何を言っているのかは分からなかったが必死になって親であろう竜人に叫び続けている。
……魔物にも……感情を持つ奴もいるって事か……
するとメテュスがその親子の方に目掛けて刃物を飛ばした。
「ッ! 」
清火は咄嗟に黒月を構え、 刃物に弾丸を当てて弾き飛ばした。
「……邪魔するなよ……」
メテュスはそう呟くと今度は直接親子に攻撃を仕掛けた。
彼の手には黒い塊で出来た刃が付いており、 その刃を竜人の親子に向かって振りかざした。
しかし……
『ガキィンッ! 』
「……」
「……何のつもりだ……モルス……」
清火はメテュスの刃を鎌で止めた。
「この竜人に戦闘の意志は無い……一方的に殺す意味なんて無いでしょう……」
そう清火が説得するとメテュスは嘲笑った。
「魔物なんて下賤な存在でしかないんだよ……奴らは俺達人間にとって仇を成す存在だぞ……そんな奴らを庇って何にもならねぇんだぞ? 」
「……魔物達が襲って来るのは……自分たちの住処であるこの世界を守る為……私達人間だって同じ……私達だって自分達の住んでいる世界を守る為に次元迷宮を潰しまくっているんだから……」
「……」
「私達人間と魔物達が戦う羽目になっている根本的な原因は次元迷宮にある……だから……目的の無いただ一方的な殺戮は間違っている……」
清火がそう言うとメテュスは刃を戻し、 背を向けた。
「……所詮お前も……脆弱な人間と変わらねぇって事かよ……」
メテュスは落胆した表情でそう言うとその場を立ち去った。
清火は負傷した竜人の方を見る。
……致命傷ではないか……この程度なら治癒はできる……
すると清火は負傷した竜人の体に手をかざし、 竜人の傷を治した。
『! ? ……』
回復した竜人は泣きつく子供の竜人を抱きしめ、 疑問の表情を浮かべながら清火の方を見る。
「……」
それに対して清火はただ何も言わず、 その場を立ち去った。
私はもう人間じゃないかもしれない……だけど……せめて……人間としての心だけは……失いたくない……
遠くなっていく竜人の親子を背に清火は心にそう決めていた。
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数十分後……
清火達は城の目の前まで来ていた。
「ここに来るまでだいぶ殺したな……こんな数を相手にするのは流石の俺でも初めてだ……」
巨大な城を眺めながらメテュスはそんなことを呟く。
「……行きましょう……恐らくコアはこの中です……」
そして清火が城の中へ進もうとするとメテュスが清火の肩を掴んだ。
「……待てよ……ここは俺一人で片を付ける……」
「……何故です……」
ある程度予想が付いていた清火だったがメテュスに聞く。
「お前は殺戮が好きじゃないんだろう? だったらここからは全部俺がやってやるよ……」
「……殺戮が好きとか嫌いとかじゃなくて……目的の無い殺しは間違っていると言っているんです……ただの殺しが好きなあなたとは違います」
「おいおいそれは心外だぜ! 俺だって殺しが好きって訳じゃないんだぜ? 」
二人の雰囲気が悪くなっていく。
……今ここでの仲間割れは面倒だ……仕方ないか……
意を決した清火はメテュスの方を見る。
「……今ここで仲間割れは非常に効率が悪い……だからここは穏便に行きましょう……とにかく……」
『その手を離してもらえます……? 』
その瞬間、 メテュスから見える清火の姿が大鎌を持った死神の影に見えた。
「ッ……! 」
あまりにもの威圧感にメテュスは思わず手を離した。
「……一緒に行きましょう……その方が早いですし……」
清火はそう言って先に城の中へと入っていった。
メテュスはそんな清火の姿を見て自身の爪を噛む仕草を見せた。
そして少しすると気を取り直したのか、 メテュスは清火の後を追うように城の中へ入っていった。
後編へ続く……




