第17話【広き世界へ】
「……参ったなぁ……またいるよ……」
ある日、 清火は自宅であることに頭を抱えていた。
その問題とは……
「私がZランクになった事を公表させちゃったのが失敗だったなぁ……マスコミが毎日のように押しかけてくる……」
そう、 清火がZランクの攻略者となったのが切っ掛けで世間が大騒ぎとなったのだ。
そのせいもあって清火の自宅前には常にインタビューなどが目的で取材者たちが待ち伏せするようになってしまったのだ。
ギルドを結成してから少しは落ち着いたと思ったんだけどなぁ……
すると横からゼヴァが現れた。
『モルス様、 外の人間共を全員消し去りましょうか? 』
「いや駄目だからね! ? 」
はぁ……瞬間移動で回避はできるけど……ずっと居座られたら近所迷惑だし……かと言ってこのままじゃ埒が明かないしなぁ……仕方ない……
意を決した清火は外に出た。
すると案の定、 清火の姿を見た取材者達は一斉に清火の元に押し掛けた。
「攻略者モルスさん! この度Zランクへの昇格おめでとうございます! 何か一言! 」
「モルスさん、 これからどのような方針で活動をするおつもりですか! 」
「殲滅ギルドの方もこれからどのようにしたいとお考えですか! 」
取材者達は次々と清火に質問を投げかける。
……やっぱりこうなるか……あれを使うしかないかぁ……
すると清火は取材者達を睨み付けた。
次の瞬間、 取材者達は何を感じたのか、 一斉に静かになり、 清火から退いた。
「……申し訳ありませんが取材に答えるつもりはありませんので……それでは……」
そう言うと清火は道を開ける取材者達の間を通っていく。
集団を抜けると清火は一度立ち止まり、 取材者達の方を振り向いた。
「あと……あまりここで固まられると近所迷惑なので……もうウチの近くで居座ったりしないでください」
それだけ言い残すと清火はその場から姿を消した。
…………
「はぁ……何とか切り抜けた……」
取材者達がいない場所まで瞬間移動した清火は一息ついた。
まさか『威圧』の能力がこんなことで役に立つとは……
そう、 先程清火が使ったのは新しい能力『威圧』である。
この能力は複数の対象に効果を発揮し、 自身の魔力をオーラとして放つことで相手を畏縮させる。
しかしこの能力は精神力が弱い者にしか効果を発揮せず、 普通の魔物にはほとんど効き目を見せる事は無い。
つまり普段の戦闘においては全くの役立たずなのである。
多分こういう場面でしか使わないだろうな……
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しばらくして……
「……って事があって」
殲滅ギルドに来た清火は今朝起きた事を雷に話した。
「ハハハ! 人気者は大変だねぇ」
「笑い事じゃないですって……これじゃロクに外も歩けない……」
「まぁしばらくは耐えるしかないわね」
まぁそれしかないかぁ……そういえばローナは何しているんだろう……
清火はふとローナの事が気になった。
すると突然ローナが研究室から飛び出してきた。
「遂に完成したぁぁ! ! 」
「うわッ! いきなりどうしたの! ? 」
するとローナは清火の手を引き、 研究室まで連れて行った。
そして研究室に入った清火の目に飛び込んできたのは……
「え……これは……」
「そう……あなたの服よ……」
ガラスケースに入った清火のものと同じ見た目をしたパーカーだった。
しかしその服からは強い魔力を感じる。
後からついてきた雷もその服を見たとたん、 驚いた表情を見せた。
「凄い……これ……服全体が魔力に覆われている……」
「ローナ……これは……」
「フフフ……これはあなたがくれた魔物の素材を合成して作り上げた強化線維で出来たスーツなの」
またとんでもないものを……下手な鎧なんかよりもずっと丈夫なんじゃ……
ローナは話を続ける。
「この服は耐火性、 衝撃耐性、 斬撃耐性、 魔法攻撃耐性……といった、 ありとあらゆる攻撃に対して高い防御力を持っているの。 その強度は何と鉄の2500倍! なのにも関わらず通常の線維と同様の柔軟性を持っているの! 」
「こんなの……協会が販売している防具なんか比べ物にならない程強いじゃない……そんな強度をどうやって引き出したのよ……」
「ふふん……キョウカがくれたあの石よ! 前にあの石には凄まじい魔力が宿っているって言ったでしょ? 実はずっと前からあの石の魔力を抽出できないかと思って研究に研究を重ねていたのよ」
あぁなるほどね……あの時預かるって言った理由はそれか……
「まぁ流石に全部とはいかなかったけど……あの石にあった魔力の殆どを抽出することに成功したわ、 しかも加えて謎のエネルギーもね……」
「謎のエネルギー? あの時言ってた魔力とは違う奴の事? 」
ローナは頷く。
「まぁ理由はどうあれ危険性はその服に付与する際に無くなったみたいだからあまり気にする必要は無いかもね……結局どんなエネルギーか分からなかったし……」
えぇ……正直そんな得体の知れないエネルギーを纏った服とか着たくないんだけど……
そんな事を思う清火を余所にローナはパーカーをケースから取り出し、 清火に差し出した。
「これはあなた専用の戦闘スーツよ……ランク昇格祝いに」
「えっ……いいの……こんな凄いものをタダで……? 」
「いいの! ほら、 早く着て見せて! 」
そう言われるままに清火は別室で服を着替えた。
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「……どう? 」
着替えた清火は二人に見せた。
「フフッ、 サイズはバッチリみたいね」
「前と殆ど変わらないけどね」
……凄い……この服から溢れる強い魔力が私の体全体を覆ってる……危険な感じは……まぁしないからいいか……
すると突然ローナは服から拳銃を取り出し、 清火の腹に向けて弾丸を撃ち込んだ。
しかし弾丸は服に当たる数ミリの所で謎の透明な膜のようなもので弾かれた。
「……びっくりしたぁ……でも凄い防御力……! 」
驚いていたのは雷だけだった。
「流石Zランクの攻略者ね、 このくらいじゃ驚きもしないのね? 」
「まぁ……弾丸くらいの速さだったら普通に見えるし……それよりも……確かに凄い防御力……」
これ……普通に買ったらいくらになるんだろう……
清火は服の防御力を身をもって感じた。
そしてローナは拳銃をしまうと今度は横長のケースを取り出した。
ローナはそのケースを開けると
「……服を作るついでに雷専用の武器を作ってみたわ」
「これは……刀……? 」
一本の日本刀が入っていた。
その刃は青白く反射しており、 清火の服のように魔力を帯びていた。
「日本のサーベルは作るのに一苦労だったわ……これはあなた自身の魔力を電気的エネルギーとして帯びて対象を焼き切る事ができる武器よ……正に雷というニックネームにはぴったりの代物ね」
「これ……私が貰っていいの? 」
そう言う雷にローナはどうぞと言うように仕草を見せた。
そして雷は刀を手に取った。
すると雷は刀を振って見せる。
刀からは青白い稲妻が走り、 刃の残像を作っている。
「……凄く軽い……これなら何でも斬れちゃいそう……」
「実験でも厚さ5センチの鉄板を軽々と斬ってたからね」
それを聞いた雷は再び驚く。
……珍しい……ローナが知り合い以外にタダで作った物を提供するなんて……
「一応ギルドの一員だしね……これくらいはしてあげなくちゃ」
「……ローナ……」
清火はローナの変化を感じた。
そんな事をしていると突然清火のスマホが鳴った。
「ん……? 」
電話の相手は拳一だった。
「また……? 」
そう言いつつも清火は電話に出た。
『もしもし? 』
「また何かあったんですか? 」
『……はい……実は……』
そして電話の内容を聞いた清火は驚く。
「え……アメリカへ! ? 」
「どうしたのキョウカ? 」
何があったのか聞くローナに清火は言った。
「……攻略者モルスにアメリカの本部へ来て欲しいと……アメリカの会長が……って……」
「え……」
という事で清火はアメリカへ向かう事となった。
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数時間後、 空港にて……
「はぁ……なんでこんな……」
「申し訳ありません……何せ急な事でして……私にも詳細は分からないんです」
まぁ拳一さんはただの伝言役でしかないから仕方ないか……全く……攻略者協会の会長って無茶苦茶な人しかいないの?
清火がそんな事を考えていると
「そう心配せずとも、 アメリカは結構楽しい所よ? キョウカ」
ローナが横から話し掛けてきた。
……付き添いで好きな人を一人だけ呼んでいいって言われたから英語に強いローナを呼んだけど……何か不安なんだよなぁ……
そんな事を思いつつも清火は飛行機に乗り、 アメリカへ向かった。
…………
飛行機が離陸してしばらく経った時、 拳一は清火にイヤホンを渡してきた。
「アメリカの会長がモルス様にと……恐らくモルス様にだけお話したい事があるのかと……」
それは録音装置のようで、 録音された会長からの伝言がイヤホンを通して伝えられるようだった。
そして清火はイヤホンを装着し、 スイッチを入れた。
『攻略者モルス君、 この音声を君が聞いているという事はアメリカへ向かっているという事だろう……』
これが会長の声……普通に日本語が話せるんだ……
『さて、 まずはZランクへの昇格おめでとう……日本でZランクの攻略者が現れたのは君で三人目だな』
イージスさんとザヴァラムさんの事を知っている……まぁ当然か……
会長は話を続ける。
『まぁそれはそれとして……早速本題に入ろう……今回私が至急で君を呼んだのは他でもない……君にある次元迷宮の攻略を依頼したい……』
……やっぱり次元迷宮の攻略依頼か……
『日本人である君も耳にした事があるだろうか……『ドラゴンズテリトリー』を……』
「! 」
その言葉を聞いた清火は耳を疑う。
それもそう、 『ドラゴンズテリトリー』というのは一種の都市伝説として存在する区域だからだ。
その区域は次元迷宮から溢れ出した人型のドラゴン、 すなわち竜人によって侵略され、 人が住めなくなってしまった町なのである。
その竜人達は次元迷宮を守るように周囲を徘徊しており、 槍や剣などの武装もしているという。
しかしこれはあくまで都市伝説であり、 真実であるかは町の住人以外誰も知ることは無い。
そしてその町の住人達は次元迷宮出現時に全員抹殺されてしまったため、 その事実を調べる術は無かったのだ。
『知っているならば、 君は今驚いている事だろう……『ドラゴンズテリトリー』は都市伝説として扱われる眉唾物だからな……しかしそれは確かに存在する』
……まさか……協会や政府が今まで隠していたって事……
『話を続けよう……近年、 その区域に動きが出始めてな……竜人共が居住区域を広げ始めたのだ……』
「……」
『このままではいずれ近くにある街が襲撃されかねない……そうなれば我々や政府はこの事を隠し切れなくなってしまう……結果的に国中は大騒ぎ……我が国は大混乱になりかねん……』
なるほどね……大体話が読めてきた……
『そこでだ……我が国に存在するZランクの攻略者達を含め、 日本の優秀な攻略者である君にこの迷宮の攻略を緊急で依頼したい……なんせ我が国のZランク攻略者だけでは数が心もとなくてな……あと信頼できるのは日本の攻略者である君しかいないのだよ……』
……嘘ね……私じゃなくても他にも優秀な攻略者なんて世界を探せば絶対何人かは存在するはず……その中でわざわざ私を指名するという事は……私の実力を試そうとしているのか……
清火はすぐに会長の嘘を見破る。
『これは我が国の存亡にも関わる問題だ……作戦の詳細は本部にて直接伝える……では、 またすぐに会おう……』
音声はここで終わった。
……さっき言ってたけど……アメリカにもZランクの攻略者がいるのか……あまりに数が少ないから今まで噂程度にしか広まっていなかっただけで……世界中にも存在していたのか……
清火は自分以外のZランク攻略者の事が気になった。
「ねぇキョウカ、 会長は何て? 」
「……人には言えない情報らしいけど……まぁ簡単に言えば……」
「人間と次元迷宮との戦争が始まる……って、 ところかな……」
「あ、 キョウカ見て見て! 大きな雲よ! 」
ローナは全く聞いていない。
「聞けぇい! ! ……全く」
大丈夫かなぁ……もっと別の人を呼ぶべきだったか……
清火はローナの様子を見て先が思いやられた。
…………
その頃、 アメリカの攻略者協会本部では……
「もうすぐ攻略者モルスがここへ来るそうだぞ……」
「それは楽しみね……何せその攻略者は私と同じ女性攻略者らしいじゃない? 」
「果たしてその名にふさわしい強さの持ち主だろうか……」
「この中で女性の攻略者は姉さんだけだからね……気の合う友人ができそうで良かったよ」
建物のとある一室に五人の攻略者達が集まっていた。
そしてその集団の奥にいる攻略者は一際雰囲気が違っていた。
「……『モルス』……果たして君は……俺と同等の実力の持ち主か……会うのが楽しみだ……」
その攻略者は不敵な笑みを浮かべながらそう呟いた。
続く……




