表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

02.パレード

 空は曇っていた。

 まだ夏だというのに少し肌寒いと感じてしまう昼下がり。

 街道には人が多く、この時間には珍しく賑わっていた。


 いや、「賑わっていた」というのは正しくないだろう。

 正確には「人で埋め尽くされている」だ。


(みんなこれを見に来てるんだなぁー)


 黒田・N・集は、人ごみを掻き分けるように進む。

 目指すは車道。

 何故なら、そこにはまるでパレードのように行進する軍の機動部隊の姿があった。



 西暦2503年に278年も続いた「国家再編戦争」が終結し、西暦は終わりを告げた。

 世界を一国残らず巻き込んだこの戦争は、その名の通り、世界中の国家を解体・再編し、国のあり方、ひいては世界のあり方を大きく変えた。

 そして、最後の一国が新政府樹立を発表したその瞬間、西暦という時代は過去のものとなり、「旧文明時代」と呼ばれるようになった。

 同時に、暦は「新世紀」元年と改まり、世界中の人々が長い戦争の終わりに歓喜した。


 それから2015年。


 新世紀2015年11月27日となるこの日は、日本皇国の建国2100周年記念日で、各都市では朝から記念式典が行われていた。

 古くから続く「日本国」は、西暦2416年に「新大和皇国」となり、西暦2418年に今の「日本皇国」へとその姿を変えた。

 それから2100年。日本皇国は世界有数の大国という地位を維持し続けている。

 建国以来、日本皇国が大々的に関わった戦争は無かったが、その技術力と真面目な国民性のおかげで、軍事・科学の両方で世界トップクラスの実力を保っている。


 この日の記念式典でも、その技術力は惜しげもなく国民へと披露されていた。


「おお、最新型の多脚機動戦車だ!」

「ホントだ! 今度のモデルは流線美があってなんかデザイン性が高いな!」


 最新鋭兵器のお披露目とばかりに、眼前を巨大な蜘蛛のような戦車が通り過ぎていく。

 その後ろにも多くの兵器が続いており、その様はパレードのようでもあり、閲兵式のようでもあった。


「6本の脚にそれぞれフローターが付いているぞ!」

「いや、あれはフローターじゃなくて重力制御コアじゃないか?」

「馬鹿な! あんな小型の重力制御コアがあってたまるか!」

「いや、軍科研では手のひらサイズの重力制御コアを研究しているってもっぱらの──」


(濃い内容の話してるな〜)


 パレードを見る人波の最前列付近で議論を交わす、軍事オタクらしき数人。

 そんな彼らの話に、集は感心したようにそう心の中で呟いた。




 黒田・N・集。18歳。

 ミドルネームがあるように見えるが、彼は血統書つきの日本皇国人である。

 いまどきハーフなど珍しくもないが、この「N」はミドルネームではない。

 姓と名の間に出生国名を入れることは、国際法で定められている。この「N」は日本皇国の国名の略称である。


 この閲兵式のようなパレードを見に来ている集だが、彼は別に軍事関係者でもなければ軍事マニアでもない。


 彼はただの公務員である。






 集は、日本皇国の一般家庭に生まれた。

 母はエンジニアであり、父は「旧文明技術学者」であった。

 今の時代、考古学や歴史研究はほぼ道楽のようなもので、仕事としては殆ど成り立っていない。特に父が専門としている旧文明時代の技術は、もはや変人のおかしな趣味とまで言われている。

 そのため、高給取りの母と違い、旧技術学者である父は周りから売れないバンドマンかプー太郎のような扱いをされていた。


 それもが仕方ないことである。

 なぜなら、現代の技術が余りにも進みすぎて、過去の技術が現代では完全に役に立た亡くなっているからだ。



 西暦2120年、資源枯渇によって「旧資源戦争」と呼ばれる世界大戦が起きた。

 夥しい数の死者と多大な環境汚染を生み出したその戦争は、勃発から99年後──西暦2219年に幕を閉じる事になった。

 そのきっかけは、新エネルギーの発見だった。


 人類を救う新エネルギー。

 それは「アークエネルギー」と呼ばれる、全く新しい形態のエネルギーだった。


 結果論で言えば、人類にとってこの99年に渡る長き戦争で得たものは、失ったものと比べてあまりにも大きかった。

 地球中心部で生成される「アーク結晶」から抽出されるアークエネルギーは、世界のエネルギー事情を一変させた。

 電気を基盤とする従来のエネルギー体系は完全淘汰され、より高出力でよりクリーンなアークエネルギーを基とする社会が構築された。

 人類を悩ませ続けていたエネルギー枯渇は瞬く間に解消され、それどころか宇宙の彼方まで進出させる力をも得ることが出来た。

 今では銀河系内に八つものテラフォーミング可能惑星を発見し、内六つはすでに西暦2000年頃の地球規模にまで開発が進んでいる。


 そんな新エネルギーを社会の基盤とし、新エネルギーをベースに科学技術を発展させ、新エネルギーを用いて新天地開拓に勤しむ現代において、父のように遥か遠い過去の技術に目を向けて研究する者は、あまりにも少なかった。


 ただ、周囲の視線や社会の風潮など、父は気にしなかった。


 集の父は、よく集に言っていた。

 ──「人はね、過去から現在を経て未来に向かって生きるもんだ。過去から学び、今を工夫し、未来を夢想する。だから、歴史もそれなりに大事なんだよ」と。

 父の言葉は当時の4歳の集には難しくてよく分からなかったが、「お父さんはみんなにとって大事な仕事をしているんだ」ということだけはなんとなく分かった。

 いつも「しょうがない」と言いながらも嬉しそうに父の仕事を応援していた母の影響もあり、幼い集は父の仕事──特に旧文明時代の文化や技術──に興味を持ち始めた。


 だが、集の穏やかな日々は長く続かなかった。

 星間飛行船事故のせいで、両親を失ってしまったのである。

 まだ集が5歳になったばかりのことだった。


 両親をいっぺんに失った集は、施設に入ることになった。

 幼い集は、両親の死を知ったときは茫然自失となり、毎日を泣いて過ごした。

 が、ひと月ほどで立ち直り、彼は幼いならがに精一杯意生きることを決心した。

 きっかけは「過去から学び、今を工夫し、未来を夢想する」という父の言葉。


 父と母はもう居ない。過去となってしまった。

 ならば、自分は父と母の分まで未来を生きよう。

 そう思い、集は両親の悲劇を乗り越えた。


 そして彼は、父の言葉に人生の進路を見出した。


 未来へ進むには、今を工夫する必要がある。

 そして、今を工夫するには、過去に学ぶ必要がある。

 それが父の職業であり、父の本望であり、母が応援した思いである。


 だから、集もそんな父と同じ職業──「旧文明技術学者」に成りたいと思った。


 現在の技術を発展させて未来を作るのが現代技術の研究者ならば、過去から学んで現在の発展の糧とするのが旧文明技術学者だ。

 ならば、自分は過去から学ぶ旧文明技術学者となり、現在に糧を提供し、未来に貢献しよう。

 自分の父がそうした様に。


 そんな夢のために、幼い集はがむしゃらに勉強した。

 施設の他の子供が遊んでいる間、集はデータベースを読み漁り、目標である旧文明技術者に成るために必要な知識を貪欲に吸収していった。

 勉強することは苦手ではなかったし、もともと旧文明時代の技術に興味を持っていたのも功を奏し、彼の成長は留まるところを知らなかった。

 ただ、その目標のニッチさと自身の興味の独特さが災いし、吸収する知識には多大な偏りが生まれてしまい、彼は所謂「ヲタク」という人種になってしまった。


 学校に行く間も、その興味と注力の偏り方はそのままだった。

 義務教育課程での成績は、その殆どが中の下だったが、歴史学・古典物理学・数学といった旧文明技術学者への職業適性に直接関連する教科だけは、オールAという優秀な成績を収めていた。


 そして、15歳で職業適性判断を受けた集は、他の職業適性で殆どCランクしかもらえない中、旧文明技術学者の職業適性だけは最適判定のAランクを取得することに成功したのだった。

 正に「天職」である。


 こうして集は16歳で成人すると同時に、かつて父が所属していた政府機関に就職することとなった。

 機関の名は「旧文明技術研究所」。

「過去の技術から新しい技術のヒントを得る」という目的のもと設立された、所属人数脅威の一桁という零細を超えた微細組織である。

 人員も予算も少ない研究所だが、調査とも研究ともつかない報告書を定期的に国に提出する義務があるため、一応、立派な政府機関ではある。

 窓際とは言わないであげて欲しいところである。


 集は就職して初めて知ったが、旧文明技術研究所は他の技術者集団と仲が悪い。

 所長曰く「今の技術屋連中に言わせれば、我々の研究は無駄すぎるんだと! ケビンの野郎なぞ『アーク自動車に比べたらガソリン燃焼型走行車も石斧も変わらんだろ(笑)』とほざいとったわい! 思い出しただけで忌々しい!」

 8年ぶりにして唯一の新入所員である集を捕まえて、所長はオリエンテーションと言う名の愚痴を集に溢していた。


「確かにアークエンジンは出力が膨大で残留物質排出もゼロだが、旧文明時代は石炭やガソリンくらいしかエネルギー源がなかったのだ!

 燃焼機関は如何にガソリンを効率よく利用するか、創意工夫を尽くされておった!

 そこにこそ人類の英知の素晴らしさがあるのではないか!」


 その熱狂ぶりに若干引きながらも、集は所長の意見には賛成だった。


 アーク結晶とそれから抽出されるアークエネルギーのおかげで、人類は銀河系内の開拓を実現した。

 僅か10キログラムで星間飛行船を飛ばせるアーク結晶は、ナノ技術と共に今の文明の礎となっている重要な存在だ。

 しかし、それは逆に石油というアーク結晶よりはるかに劣った資源のみで文明を成り立たせていた旧文明の凄さをも同時に物語っている、と集は考えている。


 集は現代技術よりも、旧文明技術が好きだった。

 謂わば、一種のレトロマニア、あるいはアンティーク好きなのである。


 小さい頃、大昔に人類がアークエネルギーを使わず、大気もまだなかった月面に着陸したことを本で読んだときは、一体どうやったのか気になって、関連技術書を一晩で3冊も一気読みしたことがある。

 電脳インプラントで脳機能が発達している現代人にとって、知識の習得は非常に容易であるが、まだ小さい子供だった集はあまりにも無茶な連続学習をしたために知恵熱を出してしまい、施設の先生にこっ酷く怒られた。

 ただ、それでも彼の知的好奇心は失われず、今でもたまに電脳インプラントの連続学習可能時間ギリギリまで勉強する事がある。

 それだけ、旧時代の技術とは魅力的で、集を引きつけるのである。


 そんな集にとって、旧技術研究所はまさに天国のような場所だった。

 過去2500年分のさまざまなデータが無数に保管されているこの研究所で、集は引きこもるように仕事という名の趣味──または趣味という名の仕事とも言う──に没頭した。

 膨大な量のデータは電脳インプラントの学習機能をフル活用しても一朝一夕では終わらず、しかしそれ故に集はやりがいを感じ、データサーバーに齧りつくように研究に明け暮れた。


 もちろん、引きこもっているせいで同僚以外との触れ合いなど皆無なのだが、集は一向に構わなかった。

 旧技術とは何処までも深奥で、その量は膨大だ。

 文明の萌芽である原始石器から始まり、農耕時代を経て鉄器時代へと進み、蒸気機関の発明が文明を加速させた。その後すぐに電気エネルギーをベースとした電子時代へと足を踏み入れ、それがアークエネルギーの発見までずっと続いた。

 人類が歩んできた歴史は短く、しかしその密度は信じられない程に濃い。

 新しい技術が生まれたかと思えば、すぐにより優れたもの発明される。新開発と淘汰の繰り返しはまるで生物の進化のようで、興味は尽きない。

 どれだけ研究してもしたり無いし、終わりも見えない。

 時間が許す限り旧技術を研究していたい集にとって、友達が少ないことや出会いが皆無なことなど些細なことだった。正にヲタクの性である。


 ただ、そんな状態が健全なはずもなく、研究所の皆が集のことを心配した。


 集はもともと人付き合いが苦手なタイプであり、仕事(趣味)が楽しくてしょうがないと感じていることは、研究所の皆も知っていた。

 しかし、さすがに二週間研究所から外出しないというのは、少し度を越している。


 見かねた所長が、一計を案じた。

 食事すら適当になるつつあった集に、所長は「『現代兵器と旧文明兵器の類似点および差異」に関する報告書を提出せよ」という名目で、建国記念式典のパレードへの強制参加を命令したのだ。

 普段は全く上役らしい命令など出さない所長が珍しく下した命令に、集は引きこもりを中断して従うしかなかった。


 こういった経緯のもと、集は今こうして人ごみに紛れながらそれそんなに興味もない行軍パフォーマンスを見ているのである。






「お、おい見ろよ!」


 軍事オタクらしき一人が、左から近づいてくるパレードの一団を指差しながら、大声で捲し立てる。


「あ、あの兵士たち、機動外骨格を着ていないって事は、全員『ナノサイボーグ』だぞ!」

「ナノサイボーグって、適合できる人間が滅茶苦茶少ないんじゃなかったか? そんな貴重な存在があんなに集まっているなんて……やっぱり来てよかったな!」


 前にいる軍事オタクたちが興奮した様子で会話しているのを耳にしつつ、集は視線をパレードに向けた。


(よく分からないけど、とっても凄いんだな〜ナノサイボーグって)


 様々な兵器や色んな兵科の兵士が一糸乱れずに行進するのを眺めながら、集は今朝の会話をなんとなく思い出す。


(この頃、人民統合国が国内で物騒な動きをしているって課長が言ってたけど、それに対する牽制の意味合いもあるんだろうなぁ)


 複雑な世界情勢に、集はさほど興味はない。

 が、何も知らないわけでもない。

 関心は薄いが、常識としては知っている。

 特に、愛国精神が強い所長のおかげで、政治の話題にはそれなりに精通している。



 そんなことを思いながら、集は何気なく目の前を通過した多脚機動戦車に視線を向けた。



 次の瞬間──



 その多脚機動戦車が突如、爆散した。


 大幅な添削をいたしました。

 我ながら酷い文章を書いていたものだと、汗顔するばかりです。

 今でも酷いものしか書けていませんが、ご笑覧いただければ幸いです。(シ_ _)シ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ