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俺、転生者! ヤンデレ彼女が魔王に転生したので封印することになった。

作者: おむすびころりん丸

 拝啓、真央(まお)。クラスの女子と話していたら、突然に背を刺した真央。でも俺こと、勇士(ゆうじ)は真央を恨んでません。なぜなら俺は今、異世界に来ているのだから。


「いよっしゃぁああああああ!」


 天に拳を突き上げて、解放の時を喜ぶ。黒髪清楚な見た目からは想像もできない、重度のヤンデレ束縛女だった真央。その真央からようやく逃れて、俺は自由を手に入れることができたのだ。


「いやぁあああ、死ぬほど痛かったけど、つうか死んだけど。まさかその後に異世界転生できるとは、夢にも思ってなかったぜ。おまけに――」


 握る拳をそのまま、近場の岩へ振り抜くと、後には一帯が更地に変わる。


「このパワー! 勇者として転生してくれるとは。おまけに顔もイケメンだ。これで第二の人生は満足満足。さて、この力を使って、異世界生活を堪能してやるぜぇ」


 そうして俺は仲間を求めて、世界各地を旅して回った。初めの出会いはビキニアーマーの映える女騎士、魔物に襲われているところを助けてやった。


「つ、強い! ぜひ私も旅に連れて行ってくれ!」

「もちろんだよ、愛しのハニー。君に剣は似合わない。俺と共にちゅっちゅしよう」

「いやん」


 次に向かうは魔法都市。魔法の研究を生業とする魔法使いに、伝説の魔法をお披露目する。すると目を丸くしては腰を抜かし、純白の下着が露わとなる。


「あ、あわわわ……」

「大丈夫かい、僕の可愛いエンジェル。一緒にぎゅっぎゅしよう」

「あん……」


 その後は王の住まう大都市へと。遊戯も栄えてバーにカジノに、そこでハートを射止める、いかがわしきウィンクが飛んでくる。


「お兄さん、楽しまない?」

「生憎、俺はクールでね。ぱふぱふだったら嗜んでもいい」

「ぱふ……ぱふ……」


 こうして四人パーティを組み上げて、目指すは魔王の住む大陸だ。一応勇者として生まれた訳だし、王女とイチャコラを楽しんだ後、船を頂戴しては海を渡り、塔を上っては空島へ。天女を両手に抱えて高笑いを、そして竜の背に乗って、魔王の城へと辿り着いた。


「勇士さまぁ、早く終わらせて、夜の剣技を楽しみましょ」

「ずるいぃ、私を愛の魔法で虜にしてぇ」

「勇士さま、私もよければ……あぁ、神よ、お許しください」


 大都市で仲間にした遊び人は、転職して僧侶となった。しかしまたこれはこれで、別にそそるものがあって魅力的だ。


「よぉし、お前ら全員、まとめて相手してやるぜぇ。それにしても、魔王には四天王がいるとのことだが、未だ誰とも出会ってないな。仮に女の子の魔物がいるなら、ぜひともお手合わせ願いたいなぁ」


 そんな期待を胸に抱き、魔王の城へと突入する。しかし城内は空っぽで、トラップらしきものも一切ない。これほど凝った世界観だというのに、最後がちょっと手抜きやしないだろうか。


 そうして易々と城内を進み、玉座へ続く扉の前へと辿り着く。魔王を倒せば俺は英雄。世界全土の女の愛を、一身に受けることになるのだ。フィナーレにして、そして始まり。俺の人生に終わりはない。


「魔王ぉおおお! その首、貰い受けるぅうううぅぅぅ……おや?」


 天蓋の下の玉座にちょこんと、小さな少女が俯いている。魔王というからには凶悪な容姿を想像したが、これは最近よく見る可愛い系の魔王だろうか。


「可愛らしい魔王さんだ。もしよければ、この俺と一緒にイチャイチャしないか?」

「……イチャイチャ……」

「そう、イチャイチャだよ――」


 ゆったりと、伏せた顔を見上げる魔王は、なんだか見覚えのある顔付きで、目元を覆う黒の濡れ髪からは、深淵の暗闇を覗かせる。


「するぅぅぅ……」


 べったりと耳にこびりつくその声質、くっきりと目に焼き付いたその微笑み。それは世界を別にしたいと願い続けた、紛うことなき真央だった。


「げっ……ままま、真央!?」

「私のこと、知ってるのぉぉぉ?」


 ままま、待て。待て待て待て! 俺はこの世界に来てからというもの、イケメンに生まれ変わって、声だってイケボなのだ! なんで真央が異世界にいるのかは分からないが、気付かれる訳には――いかない!


「ま、魔王って言ったんだよ! そして、覚悟しろ!」


 少し可哀そうな気もするが、しかし真央はこの俺を殺したのだ。故に、打ち倒したって構わないはず。


「覚悟するぅぅぅ。一緒に楽しく、いちゃいちゃしよぉおおお」


 真央が立ち上がったその直後、玉座の間は吹き飛んだ。荒れ狂う魔力が空気を切り裂き、立ち昇る闘気が天を貫く。そしてこの瞬間、俺は悟った。


 勝てない、絶対に。


 どうしてここにいるかは知れないが、真央も恐らく転生したのだ。絶大な力を与えられて、魔王として転生した。


「あ、あは、あはははは……なんちゃって、冗談ですよ、冗談。お邪魔しました、大人しく帰ります」

「駄目だよぉぉぉ、ぜぇぇぇったい帰さないんだから。ね、勇士?」

「ひえ……はい――って……」


 真央のやつ、まさか俺を俺と分かってて……


「ぼぼぼ、僕は勇士なんて人は――」

「嘘だよぉぉぉ、嘘は良くないよぉぉぉ。だぁって、喋り方とか仕種とか、ぜぇんぶ勇士と同じだものぉ。真央の目は誤魔化せないよぉぉぉ」


 間違いない、こいつは真央だ。俺のスケジュールを一分一秒と監視し続け、食事もトイレも管理する。愛の告白を毎日百回は強要して、俺の背中をぶっ刺した、ヤンデレ束縛女の真央に間違いない。


「な、なんで! なんで真央がこの世界に!」

「真央はぁ、勇士を追って自殺したのぉ。勇士に会いたくて会いたくて、それで天国に会いに行ったの。そしたら勇士は転生してて、それで女神様にお願いしたの。勇士と同じ世界に転生させて欲しいって。そしたら快く、神様はオーケーしてくれたぁ。恋の神様は、やっぱり私たちの味方だねぇ」


 畜生、恋の女神め! 余計なことしてくれやがって。


「それで私は魔王になったの。魔王になれば、勇者の勇士が来てくれるって。一途に一途に、雄だった魔物や四天王、そいつらは全員殺して、清く正しく純潔を守り続けたのぉ。そうして勇士は来てくれた。私はとても嬉しいの。でも……」


 再びの膨大な魔力が真央の身体を包み込む。しかし荒れていた先と違って、次は重く沈むように。


「だぁれぇ? その後ろにいる雌は、だぁれぇぇぇ? なんで勇士と一緒にいるのかなぁ。ねぇ、教えて勇士。答えてよ勇士。もしそいつらが勇士の知り合いなら、仲間なら、恋心を欠片でも抱いていたら。ぜぇぇぇったいに許さないからねぇぇぇ」


 ひ、ひぃぃぃ。こここ、怖い、怖すぎる! しかし彼女らは、旅を共にした大事な仲間! 易々と殺させる訳には……


「勇士殿! 脅える必要はない!」

「貴方は勇者で、相手は魔王!」

「だったらすることは一つです」


 お、お前ら……共に戦おうというのか。皆で力を合わせれば、もしかしたら魔王にも勝てるかも――


「付き合ってあげてください!」

「というか、私たち勇士の案内人です!」

「魔王様にお似合いだと思い、ここに連れて来た次第です!」


 え?


「いやはや、これにてお役御免ですな」

「とぉってもお似合いなカップル! ヒューヒュー、魔王様!」

「元はニートの遊び人だしぃ、帰ってクソして寝よぉっと」


 ちょちょちょ……


「なぁんだ、そういうことだったのかぁ。ご苦労様ぁ、もう消えていいからね?」

「はっ! かしこまりました」

「迅速に――」

「すぐにこの場から立ち去ります!」


 そうしてスタコラサッサっと、俺の仲間たちは、さびしそうにもとい、嬉しそうに俺の下から去っていった。


 振り返れば、そこには魔王の真央がただ一人。俺を一心に見つめている。


「…………」

「…………うふっ」


 こうして、この世界は救われた。勇者の勇士は身を犠牲に、魔王を封印してみせたのだ。その伝説は語り継がれ、世界中で英雄と持て囃される。中には勇者に憧れを抱く女もいるそうだが、その愛が届くことはありえない。


 真央は魔王に生まれ変わり、不死身の肉体と最強の力をものにした。そして回復に蘇生に、探知能力も召喚魔法ですら思いのままの、ヤンデレ束縛女としての完全体に辿り着いた。逃走は無意味で、俺に逃げ場なんてなくて、そして俺の胸に収まる真央は、永遠の拘束を望んでいる。


「お、お願い……逃がして……」

「駄目ぇぇぇ、ぜぇぇぇったい逃がさない。死ぬまで逃がさない、死んでも決して逃がさない。このままずぅっと永遠に、真央を封印し続けてねぇぇぇ……」

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