ルイヴァン・ベルガルドという男 3
そして次の日の昼。
侯爵との対談を終えたアレンは、真っ先に執務室にやってきた。
「おはようございます、我らの主。
昨日はどうでしたか?ほかの貴族に見つからないように、顔変えて気配消して、エミリアだけに素顔見せるの大変だったなあ〜」
魔界で俺の次に地位が高いくせに、昨日はそんなことをしていたのか。
まあ、アレンが行動していなかったら、
昨日の夢のような時間はなかった。
「アレンには感謝してる。少し話して、エミリアの下手な魔法に付き合って、すぐに会場に帰したけどな」
エミリアを思い出し、思わず頬が緩む。
そんな俺とは対照的に、アレンからは冷ややかな視線を浴びる。
「え!?あの魔王様が!それだけ!?
もっとこう…愛を伝えたりだとかしなかったの!?
僕はてっきり口説き落としているんだと思ってました…」
「アレン…婚約者の件を忘れたか?」
「ああ!そういえば伝え忘れてた。
エミリアに婚約者はいないし、恋人もいないみたいだよ」
願ってもみない情報に、慌てて椅子から立ち上がった。その反動で椅子が大きな音を立てて倒れる。
「そこまで話してたのか!」
アレンのがそこまで踏み込んだ話をしているとは。女の扱いに長けているしこの顔立ち…かなり要注意人物かもしれない。
「それが異性からは人気がないって言ってたんだよね。昨日エスコートしてたのは、この城の騎士のホーラン・ベルガルドで、幼なじみなんだって」
ホーラン…
初めてエミリアを見かけたときに一緒にいたのは、幼なじみだったのか。【ウィリアム】と偽っていた時には、敢えてホーランだとかいう男の話はしなかったから。こんなことならさっさと聞いておくんだった。
というか、エミリアに人気がない?
周囲の男共は馬鹿だな。馬鹿でよかった。馬鹿最高。
「アレン・ローズベルグ君、有益な情報をありがとう」
「さー、これからどうするかはルイ次第だね!
あの魔王様が平民に近付くなんて、最初から好意が
あるってバレバレだよね!もう楽しみで楽しみで」
「 心底楽しそうだな?」
こんなことしてる間にもエミリアが他のやつに取られたらと気が気じゃない。エミリアの中での俺は一回顔を合わせただけのやつだし。
と言っても突然家に押しかけるのも違うし、偶然道で会うこともないし、貴族じゃないからパーティーや茶会で顔を合わすこともない。
「…とりあえず城に呼ぶしかないよな」
俺が下手に動いて、外部の人間にエミリアのことを勘繰られたくない。大声で自分の弱点を晒しているようなもんだ。
「ええ!大胆!さっそく自室に呼ぶなんて!」
ニタニタしながら、大袈裟に驚くアレン。
「いきなり部屋に呼んで幻滅されたらどうすんだよ。ここだここ、俺の執務室だよ」
「冗談だって〜」
エミリアのことだけを考えていたいが、そろそろ職務にも手を付けないといけない。
「…そういえば、アレンが保護した人間どうなってんだ?まだ城にいるのか」
「あー…うん。俺に送ってほしいって頑なでね。こっちも忙しくてさ。明日には急ぎの件が片付くから、それからになるかなー」
「転移魔法で強制送還させたらどうだ」
「いや、言ったよね?王家の血筋の人間みたいで、強力な魔返しがかかってるって。それに女の子だから下手に拷問とかできない、無理。魔王様助けて」
…アレンの弱みは、全ての女に優しすぎる事だな。
拷問なんてしなくても吐かせる方法はいくらでもある。血を見せるのが手っ取り早い。
「…というか、魔返しぐらい解除できるけど」
「え!?さすが魔王様…!なんだ、最初からルイに言えばよかった。いや、ラナ・サルーデン嬢を保護した日に報告したけどね?」
「あー、よっぽど興味なかったんだろうな」
「酷いなあ!」
面倒なことは今すぐ片付けて、はやくエミリアの件についてゆっくり考えたい。
「でもさ、人間界に強制送還させた後、誰がサルーデン嬢の魔返し魔法をかけるの?」
「別にかけ直さなくてもいいんじゃね?人間界行くの面倒だし」
この件はアレンに一任してるし、どうにかするだろと呑気に構えていたら。
「もうーそれじゃ駄目でしょ。でもルイは忙しいし仕方ないね。俺も顔合わせ続くからなー。うーん、一週間後かな。一週間後人間界に送り届けてくるよ」
「…その日は王都で祭りがあるだろ?城の人員少ないぞ。1人で行けるのか?」
「それくらいどうってことないけど…そうだ。道中エミリアについてきてもらおうよ。城に来てもらう口実にもなるし!」
「天才かよ。防御魔法バチバチにかけるわ」
「え、それ俺にもかけてくれるよね?」
「はいはい、アレンにもかけとくから何かあってもすぐに片付けて最速で送り届けてね?」
「なんか俺、ついですぎない?」
「エミリアの防御魔法に反応あったらすぐ行くわ」
「あれえ、人間界いくの面倒なんじゃなかったっけえええ」
もう下心しかない。
でもまあアレンの任務に必要な人材だだし?人間を送り返したら、礼がしたいとか何とか言ってまた城に呼べばいい。はい、俺天才。
こうして、エミリアを城に呼ぶことになったのだった。