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初めての魔王城。


ホーランから王城のパーティーへ誘われて一週間が経ち、ついにこの日を迎えた。


気合い十分な私は、日が明けてすぐに入浴を済ませる。


背中の半分ほどまで伸びた髪に、首都の流行りの店で購入したオスマンサスの香りのオイルをつける。巻き髪にして、ハーフアップで結いあげる。


先日、アストラの湖の人魚にお土産として貰った真珠を髪に散りばめ、母デザインの淡い水色のドレスを身につける。ドレスの裾に広がる銀糸は、光を受けると綺麗な輝きを放っている。


軽く化粧をし、コーラルピンクのリップを塗る。


「エミリア、とっても綺麗ね」


「これは皆が見惚れてしまうな」


親バカである両親の激励を受け、私は二人に何度もお礼を言った。


普段は真っ黒のローブしか着ない洒落っ気のない私が、こんなに素敵なドレスを着られるなんて。本当に転生した甲斐があった。これからはお洒落も楽しもうと、密かに誓ったのだった。


ドレスを着られたことが嬉しくて、しばらく鏡の前で過ごしていると、ホーランが馬車で迎えに来てくれた。


これよこれ!お姫様といえば馬車!馬車のデザインにもうっとりしてしまう。


私とホーランは、お互いの両親に見送られ王城へと向かう。


ホーランは普段の騎士服ではなく、深い紺色がベースで袖や裾に銀色のアクセントがきいた正装だ。今日の彼はいつになく輝いており、外を見つめる横顔にはうっかり見惚れてしまうほど。私の熱い視線に気付いたのか、茶化すように口を開く。


「エミリア、俺に見惚れてた?黙ってればいい男だろ?」


「…その通り過ぎて反論できないわ。今日はホーランに会えただけで満足よ。もう帰ろうかな」


幼少期の頃だが、私の初恋相手はホーランだった。

ただ彼はその頃からものすごくモテていたし、ホーランは私のことなんて全く興味なかった。


ついでに言うと、私の次の恋はそれから十数年後。

魔法学校のクラスメイトだったサイラスに恋に落ちる。学年一の秀才だった彼にアピールを開始しようとした矢先、サイラスは他の女子生徒と付き合い始めたためあっけなく失恋した。


その次は年下の人で、その次はパン屋の見習いで、その次は魔法学校の同級生。


妄想ばっかりが先行して、どれもこれも見てるだけだった私の青春時代……


魔法学校を卒業きてしばらくは、恋だの愛だのは小説の中だけで楽しんだ。彼氏なんてできる気配もない。


と思っていた矢先、ウィリアムという青年を好きになった。いつも決まった場所に待ち合わせて、他愛のない会話をたくさんした。素直で、笑顔が可愛い彼に夢中だった。でも、私の発言が気に入らなかったのか、彼の身の上に何かあったのか…彼は突然私の元から姿を消した。これもまた失恋というやつだろう。


私の恋愛経験なんてこんなもの。


だから幼なじみがちょっと正装しただけで、簡単にときめいてしまう。


「やけに素直だな?まあパーティで俺よりいい男はいないだろうけど、頑張れよ!」


「…絶対彼氏をつくって、ホーランにギャフンと言わせてやる」


「何だよそれ、もう手っ取り早く俺にしとけば?」


冗談だとは分かっているのに、驚きのあまり、馬車を丸ごと転移させてしまった。

動揺して魔法を発動させるという、魔術師として有るまじき行為だが、私はたまにやってしまう。


しかし運がいいことに、王城のすぐ側まで来ているではないか。たまにはやるじゃない。さすが私、グッジョブ私。


「おーい、エミリア。大丈夫か?」


私が動揺して、突然転移させたものだからホーランは大爆笑している。彼からしてみれば日常茶飯事。


良いのか悪いのか、彼もこういうトラブルには慣れっこである。


「ホーランが余計なこと言うから怒っただけ!もう早く行こ!」


まったく…お調子者はこれだから困る。


「ごめんて。改めてエスコートさせていただきますね?エミリア姫」


「姫なんて大袈裟よ、本当にお調子者なんだから!」


心臓がザワザワしている。はじめてのパーティーのせいか、隣で私と腕を組むホーランのせいか…。


考え事をしている間に、いつのまにか広間へと踏み入れていた。沢山の魔族で溢れかえっている。


パーティー会場は想像以上に広く、とても華やかだ。いくつものシャンデリアや花、料理が並び、皆が美しく着飾っている。


私はこの場にある物全てに目を瞬かせた。


「ホーラン、すごくすごく、綺麗。素敵な場所ね」


彼は喜ぶ私を見て、「連れてきた甲斐があるよ」と笑顔で答えてくれる。


会場の奥へと進むと、丁度パーティーの主催者であろう人の挨拶が始まる。

身につけている物を見ると、魔界の中でも結構な身分の方なんだと思う。

平民の私からしたら、物の価値なんて正確にはよく分からないのだけど。


主催者の挨拶が終わると、優雅な音楽が流れ出し皆続々と男女のペアを組みダンスを踊り始めた。


その様子を見て、ハッとしながらホーランを見つめる。


「…私、ダンス踊れないよ?」


根っからの運動音痴で、身体が硬いのでダンスは超苦手。


綺麗なドレスとお城のことばかりに集中してしまい、メインが舞踏会だということをすっかり忘れてしまっていた。


「ごめんごめん。いい加減できるようになってるかと思ってた。来る前に練習しとけばよかったな?」


ホーランは大笑いをしながら、茶化してくる。


今日は城で働く騎士や使用人たちを労るために開かれたパーティ。


「お姫様が踊れないなんて致命傷だわ…」


私がガックリと肩を落としている間にも、ホーランは知人に声をかけられている。


「ホーラン、みんなとお喋りしてていいからね?私向こうで何か食べてくる!」


さすがはホーラン。職場で人気らしいというのは本当のようで、周りに人がワラワラ集まってきたので、私はコソッと耳打ちしてその場を去る。


お腹が空いては戦ができない!それに今日は普段食べることの出来ない豪勢な料理が並んでいる。報酬+お姫様気分も味わえるなんて…定期的に開催してもらいたいものだ。



新たな出会いを期待しつつ、下心丸出しで会場の隅へ行く。


会場の一角でお喋りをしたり、料理や酒を楽しむ人たちもいるから、そこに紛れるのだ。


一人ぼっちの私だって馴染めるはず。



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