―75― リーガル
僕とリーガルは校舎裏で相対していた。
決闘の始まりをつげる者はいない。お互いの呼吸が揃ったタイミングが合図だ。
「――我は汝をリーガルの名の元に命ずる。ここは世界。我が悠然と闊歩する独善的な世界。我の世界が貴様を散らす。固有魔術起動――銀色の世界」
最初からリーガルは固有魔術の使用をする。
前回みたいに手を抜くつもりはないらしい。
「死ねぇ!」
そう言って、リーガルは膨大な数のナイフを生成しては俺に対しそれらを放つ。
どうにか防ぐ必要があるな。
「――第28位ベリト」
そう言って、ベリトの能力を右半身に宿す。
ベリトの能力。それは物質の劣化。
「腐食しろ」
瞬間、向かってくるはずだった無数のナイフが錆びては砕け散っていく。
僕に当たるのはすでに粉々になったナイフたち。
「おい、なんだよそれ……」
リーガルは驚きを隠せないようだった。
まぁ、驚くのも無理はないか。こんな魔術、他に使う人なんて僕は知らない。
「――第23位アイム」
防御はベリトに任せる。
次は攻撃の手段を用意する必要がある。
だから、左半身にアイムを宿した。
「驚いている暇なんてないぞ、リーガル」
そう言って、僕は左手から炎の球を出す。
「モード盾ッ!」
リーガルは無数のナイフを盾の形状になるよう重ね合わせ、身を守る。
なるほど、そういった使い方もできるのか。
ならば、近接戦に持ち込もう。
そう決めた俺は足に力を入れて前に踏み込む。
ベリトの能力には有効射程が存在する。一定範囲内でないと、対象を腐食することができない。
だからこそ、近づいて盾を腐食させた上で、火球を叩き込もうと考えた。
とはいえ、リーガルにその意図を見破られたようで、僕から離れるように距離を取ろうとする。
まいったな。このままだとジリ貧だ。
リーガルの攻撃は僕に効かない。
僕の攻撃もリーガルには効かない。
これだと、どちらかの魔力が切れるまで、この状態が続くことになる。
「火炎球」
ふと、膠着状態を崩そうとしたのか、リーガルが僕に対し、火炎球を放った。
固有魔術を起動している最中でも、通常の魔術が使えなくなるわけではない。
ナイフ以外の攻撃がやってくる可能性を失念していた。
だから、一瞬反応が遅れる。
とはいえ、防御間に合わないわけではない。
「第49位クローセル」
アイムを解除して、クローセルを宿す。
そして、水の盾を発現させて火炎球から身を守る。
身を守るだけで終わらない。
水の刃発射にて、反撃をする。
とはいえ、先程と同様リーガルの盾に防がれる。
やはり、決定打に欠けるな。
確実にダメージを与えられる一撃を狙うべきか。
「なんで、てめぇが魔術が使えるんだよ!」
ふと、リーガルの怒号が聞こえた。
いきなり、なにを言い始めるんだろうか。
「別に、僕が魔術を使えてもいいと思うけど……」
「うるせぇ! てめぇは無能のノーマンだろ。魔術が使えないままでよかったんだよ! こんなのおかしいだろ!」
なにを言い出すのかと思えば……。
散々僕を無能ってバカにしてきたくせに、僕が魔術を使えるようになると、それがおかしいって。
「決めた。僕は、君を倒すよ」
「調子のんじゃねぇ! 少し魔術が使えるようになったからって、俺に勝てるとか思い上がりもはなはだしいんだよ!」
「思い上がりか。じゃあ、予告しよう」
「あん?」
「僕は今から、君を圧倒的な力で捻じ伏せる」
「……は?」
「君は僕の圧倒的な力の前に、なすすべもなく倒されるんだ」
「ふ、ふざけるなっ!!」
血走った目を見開いて、リーガルは激高する。
「殺すっ! 殺すっ! 絶対にてめぇを殺すッ!」
リーガルはそう言って、次々とナイフの生成を始める。
今までの量の何十倍もの量だ。
ふと、リーガルの目から血が流れていることに気がつく。
どうやら、己の限界以上にナイフを生成するらしい。
「いくらてめぇでも、これだけの量をとめられるわけないよなぁ」
リーガルはそう言って笑う。
その頭上には、無数のナイフが。
無数のナイフがまるで巨大な龍をかたどっているように見える。
「さて、まずはこれを防ぐことからか」
そう言って、俺は唇を端を吊り上げる。
そうか、僕は今を楽しんでいるのか。
自分の魔術を十全と発揮できる絶好の機会。楽しくないわけがなかった。
下より評価いただけると幸いです。