こんなの嫌だ
真希さんは緒方さんを見ながら溜息を吐いた。それから口を開く。
「由真が子役をしていたときに面倒をみていた時期があってな」
緒方さんはそうそうと言いながら、懐かしんでいるようだった。
「あの頃の真希さんは綺麗でね、将来結婚してってせがんでいたかな。もちろん、いまも綺麗だとは思うよ」
それから緒方さんは瀬奈に視線を向ける。
「瀬奈も久しぶりだね、元気だったかい?」
どういうこと? 今日はすごく疲れそう……。
「……そうですね、由真さん。私を真希さんの事務所に捨てたとき以来でしょうか」
その言葉を聞いて、蓮川恋の表情に怒りの色が混じる。
「……瀬奈、あなたが勝手に出ていったんでしょ」
その声は震えていた。それでも、瀬奈は動じることもない。
「そうね、恋がメディア露出すると同時に移籍したのは私の意思。でも、そうさせたのは由真さんよ」
瀬奈はそう言いながら緒方さんに視線を向ける。
「そうだね、そうさせたのは私かもしれないね。瀬奈をクロノのリーダーにしようとしたから」
蓮川恋は怒りを露わにした。
「何が嫌だったの、瀬奈っ!? 私はあなたと一緒にトップを目指したかった!」
それでも動じない瀬奈を見つめていると、不意に私と視線が合った。それから蓮川恋に視線を戻す。
「私はソロでいたかったから。それに私といてもあなたのためにならない、そうでしょ、恋。ずっと私に依存してたことに気づいてないの?」
涙を浮かべる蓮川恋は小さな声で感情を吐露した。
「……き、だった。好きだったんだよ、……瀬奈のことが」
瀬奈以外の全員がびっくりしていた。私が言うのも変だけど、瀬奈って同性にモテ過ぎてない?
緒方さんが瀬奈に問いかける。
「でも、瀬奈はいまソロではなくユニットを組んでいる。それはどういうことかな?」
瀬奈は黙ったまま私の方に顔を向けた。その顔は何かを伝えていた。
「……えっ?」
私は修羅場に油を注ぐしかなかった。
……ぐすん。




