厄日ってこのことでしょ
すみだ水族館近くの円形ベンチで無言のまま、私と結愛と凛は座っていた。佐奈たちは凛が席を外してほしいとお願いされていまは水族館の物販を見ている。
いくつか冷たい風が頬を撫でていくと、凛が空を見上げながら話しだした。
「だんだんと寒くなってきたね」
「仕方ないんじゃない、そろそろそういう季節だし」
予想通り結愛は黙っている。
「麻衣もそろそろ変わったほうがいいと思うんだけど」
「もう本題? 早い気もするけど」
もう少し話しない? と持ちかけても凛は相手にしてくれなかった。
「麻衣の揺らいでる気持ち、僕はわかってるつもりだけど」
私自身は理解しているのかと聞いてきた。
わかってるから揺らいでるんだけど。
「ムカつく。はっきり言えば?」
「結愛がいても?」
「だから佐奈たちにいなくなってもらったんでしょ」
「そうだね、佐奈さんたちには悪いけどね」
少しだけ、申し訳なさそうな表情を浮かべる凛。その申し訳なさを私にも向けてくれないかな。
「麻衣は結愛のこと好きだよね?」
「馬鹿じゃないの、そんな事あるわけない。それに、結愛が好きなのはあんたでしょ」
少し早口で返す。
「……そんなことない」
不意に隣から声が聞こえた。さっきから話してなかったからか小さいというか掠れてるというか、結愛の声は細かった。
「そんなことない。凛のことも好き、でも麻衣のことも……」
「好きかもしれないんだね?」
最後まで言い切れなかった結愛に代わって凛が優しく聞いていた。
凛の問いかけに結愛は頷く。
「でも、でもわからない。麻衣といると頭ぐちゃぐちゃになっちゃって」
だんだんと声が小さくなる結愛に凛は視線を落として数回頷く。
凛も最近の結愛の変化を気づいていた。その理由がいま確信に変わってしまった。
「凛にしてはめずらしく弱ってるわね」
「まあね、そういう麻衣は変わらないね」
皮肉を言う余裕はあるらしい。
すると視線を落とし俯いていた凛は起き上がって私の目の奥を覗き込むように見つめてきた。
「結愛のことはわかったけど、まだ麻衣の気持ちがわからない。いま、この場で教えてくれないかな?」
「私はさっき言ったでしょ、なんとも思ってないって」
真っ直ぐすぎる凛の視線から逃げたくて逸らそうとすると手を握ってきた。
びっくりして凛と目が合う。どうしても逃してくれないらしい。
「っ! あぁもう!! わかった、わかったわよ!! 言えばいいんでしょ、言えば」
ここまで来たらやけっぱち。いまから言うことに責任は持たないでおこう。
覚悟を決めて私は空を見上げる。
「気になってるわよ! これだけ結愛と一緒にいるんだから!!! でもね、結愛は凛のこと大好きだから戸惑ってたの!!!」
もういいでしょと言い切ってから凛を睨みつける。
「こんな感情的な麻衣は初めてだね」
「何を圧倒されてんのよ、いまからライバル、後戻りはできない。いい!?」
そう言って握られていた手を払って凛に人指人差し指を向けた。
「ふふ、僕は不利かもしれないね」
「いま鼻で笑ったでしょ」
なんて言い合っているうちに私と凛は笑い合っていた。
すると置いてけぼりの結愛がいつもの調子に戻って私と凛の間に割って入る。
「ねぇってば、わたしどうしたらいいの?」
戸惑いを見せる結愛。
「これからゆっくり答えを出せばいいんじゃない?」
「僕も麻衣と同意見だよ。もしかしたら僕たちじゃないかもしれないけど」
沙紀とか? と言いながら笑っていると結愛も同じように笑いだした。
「もう解決した?」
物販から佐奈たちが戻ってきた。
「タイミング良すぎ、どっかから聞いてた?」
なんて冗談を言うと佐奈がバレた? と返してきた。問い詰めると凛と佐奈のスマホが通話状態で繋がっていた。
「あんたなに考えてんの?」
呆れて凛を見るとごめんと視線を返してきた。
「二人には知ってもらいたくてね、麻衣のこと心配してくれていたから」
「うん、だからほら」
佐奈は左耳に掛かっている髪を上げて私に見せてきた。
ワイヤレスイヤホンがひとつ。もしかして、そう思っていると瀬奈は右耳を二回ほど指でトントンと指している。
「あんたたちねぇ!!!」
この二人にまで知られるなんて最悪。
ほんっとう最悪。




