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やっぱりこのアイスコーヒーは味がしない

「初めまして、佐奈先輩」


 息を飲み込んだ私の視線は目の前に立っている優歌さんを見上げたまま言葉を失っていた。毅然としたままの優歌さん、怖くない?

 固まっている私を見た真希社長は「落ち着け」と声を掛けてくれた。そのひと言で金縛りから解放されたように現実に戻ってきた。

「そんなに驚かないでくれ。会ったほうが早いと思って呼んでいたんだ」

 真希社長の勝手な行動にジト目で返事をする。

「優歌も突っ立ってないで座ってくれ」

 優歌さんは横に座れと促している真希社長の隣の椅子に落ち着いた。よく見れば綺麗な顔立ちをしている。めぐさんの娘さんというのは本当みたい。

 私が魅入っていると優歌さんは「どうしましたか?」と首を傾げてきた。

「ご、ごめんなさい。綺麗な顔してるなぁ〜って」

「それは佐奈先輩もですよ」

 そう言われて嬉しいけど、なんか負けたように感じる。何故?

「そういうところはめぐ譲りか」

 私と優歌さんのやり取りを見て、微笑みながら口を開いていた。

「まぁいい。それから佐奈、さっきの話の続きだが……」

 そこまで言ってからアイスコーヒーを一口含む真希社長。心臓に悪いんだけど……。

「優歌は私のことが好きらしくてな、今後一切瀬奈に好意は抱かないと話している。

 どう言えばいいのか難しいが、こいつは生まれてから本当の意味での愛を知らないらしくて、愛と依存の違いが分からないんだ。瀬奈に対しての感情も、愛ではなく依存だった。その結果であの騒動を引き起こすぐらいにはこいつは弱い。だから私が面倒をみることにした」

 疑問符がいっぱい浮かんできた。真希社長のことが好き? 愛が分からない? 面倒をみる? どういうこと? ひとつ浮かんだ言葉を口にする。

「真希社長……、その、言いにくいんですが……。優歌さんと付き合うんですか?」

 それを聞いた真希社長は肩で笑うようにクスクスと笑い始めた。それから私を見て「付き合うわけないだろう、可笑しなことを言うな」と笑いながら言葉を返してきた。

「近々、優歌は私の家に住まわせようと考えている」

「それはどういうことですか!?」

 そう叫んだのは優歌さん。

「優歌にも言ってなかったな。まぁそういうことだ。決めたことだから拒否は許さんぞ」

 血の気が引いていく優歌さん。気持ちは分かるよ。真希社長ってこういう人だから諦めて。

 声を失った優歌さんに代わって私が聞いた。

「住まわせてどうするんですか?」

「愛というものが理解できるまでは私が教える。相手でもできたときは解放する予定だ」

 なんかサラッと爆弾発言してない?

「教えるって何考えてるんですか!?」

 また笑い出す真希社長。

「お前は何を勘違いしているんだ、佐奈。優歌と関係を持つとか思ったのか?」

 笑っている真希社長に優歌さんはさっきより固まってしまった。顔も赤い。

 笑っていた真希社長は優しい表情を浮かべ、ゆっくりと話し出した。

「普段から人の愛情をちゃんと受け取れてなかったんだ。だから私との生活の中でそれを知ってくれればいい」

 次は優歌さんを見ながら。

「めぐが教えてくれたようにな」

 それを聞いて優歌さんはコクリと頷いた。

 三人で話したかったのはこのことだったらしい。私は真希社長の決めたことには納得できた。できたのに、何故かもやもやしていた。

「瀬奈にも伝えておいてくれるか? 瀬奈ならそれだけで理解してくれるはずだから」

 理解はしてくれると思う。真希社長の瀬奈への信頼は私が考えている以上に厚い。理由は聞いたことはないけど、実は気にはなっている。

「分かりました、話はそれだけですか?」

 帰国後で疲れている私は、帰るために区切りを付けようとした。なのに

「もうひとつ話がある」

 真剣な表情をしている真希社長はとんでもない事を言い出した。

「瀬奈と佐奈、二人で一緒に住め」

 真意も分からずに、目をぱちくりする私。

 気づけばまだアイスコーヒー飲んでないよ……。

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