許せない 1
「瀬奈お姉ちゃん……」
私たちがスタジオに入るとアリスは揺れている目で瀬奈だけを見ていた。
「大きくなったね、アリス」
アリスの声に瀬奈は微笑みながらそう返した。
ただ私だけは気づいた。瞳の奥は一ミリも笑っていない。
アリスを見ていた瀬奈はスタジオを見渡す。
「由真から聞いてはいたけど、落ち着いたスタジオね」
「うちがお願いしたら何でもしてくれたから。じゃあそこに座ってて、コーヒー淹れるから」
横川さんに促された私たちは午前中座っていたソファに向かい腰を下ろした。
瀬奈と私の向かいにはアリスがちょこんと座る。
それにしても、アリスはさっきから瀬奈しか見ていない。なんというか病気みたいに。
三人が無言のまま張り詰めた空気にさらされていると、横川さんが人数分のコーヒーを持ってきて私たちの前に置いていく。
それからアリスから一人分空けて座った。
「三人ともどうしたの? てっきり血でも流れてると思ったのに」
そう言って不思議そうに首を傾げる横川さんは突然爆弾を投下した。
「血なんて流しませんっ!」
アリスが大きな声で否定する。が……
「そうなの? 私は血を流す覚悟で来たんだけど」
それからまた無音が広がる。
その空気を破ったのは意外にも横川さんだった。
「うちにはわからないことが多いけど、話もしないし、それが佐奈に被害が及ぶんだったらいますぐ出ていってくれない? うちにとってはチャンスだし」
今日の横川さんは逆立ってるというか、苛立ちを隠さない。なんというか、瀬奈より怖い。
「……愛理、もしかして佐奈が好きなの?」
その発言を見過ごさなかった瀬奈が横川さんに視線を移す。
今日は厄日なのかな……。
アリスは目の前のことに震えてるし、なんか泣きたくなってきた。




