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Tansy in the mind #1

 話があると優歌から連絡があったのはあの二人がフランスに向かった日だった。ただ、話自体には私は興味がない。というより興味が湧かないと言った方が分かりやすいかもしれない。

 いまもひとりだけの社長室には昼から降り続いている雨の音が響いていた。雨は無心になれるから好きだ、乾ききった心を何も言わず潤わせてくれる気がして。

 椅子に座ったまま雨に耳を傾けていると、ふと昔のことを思い出した。同時に心が乾いてしまったきっかけも。すると、ドアをノックする音が聞こえた。私の返事を聞くこともなくドアが開く。

「真希さん、今日はお時間を作っていただきありがとうございます」

 社長室に入るなり私を見てかしこまった口調で話し出す。全くもって面白くない。

「優歌、いつもの砕けた態度で構わない」

 私の要求に戸惑う優歌を無視して、近いソファに座るよう促した。それから戸惑いのままに優歌はソファに座る。間髪を入れずに私は聞いた。

「それで、話とはなんだ?」

 少しやり過ぎてしまったか、優歌は狼狽えていた。

「すまない、めぐのように接してしまった」

 それを聞いた優歌は苦笑していた。

「いつもそんな感じなんですか、真希さんは?」

 そういう優歌の表情はめぐに似ていた。

「そうかもしれない。気にしてはなかったが、お前は優歌だったな。懐かしくて忘れていた」

「……母と仲が良かったんですね」

 めぐはあまり話していないんだろうか。

「めぐと私はライバル同士で、……恋人同士だった」

 目を丸くしたまま動かない優歌をまた無視して私は窓に目を向けながら話を続ける。

「私たちの交際は短かった。世間が私たちの関係を許してはくれなかったからな。それはいまでも恨んでいる。ただ……」

 優歌に視線を移す。流石はめぐの娘、面影もあってよく似ている。

「お前に出会えたことは嬉しくもある」

 自分でもわかるぐらいには優しい口調になっていた。

「……そうだったんですね」

 優歌は目を伏せがちにそう言うと、少し挑発的な視線を私に向けた。

「真希さん、今日伝えたかったことなんですが……」

 ひと息置いた優歌は切り出した。

「私と付き合いませんか?」

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