新たな逆風?
「ということで真希さん、私たちは緒方プロに残ります」
瀬奈の想いを再確認した翌日、私はひとり真希さんのいる六本木の事務所に向かい移籍の意向がないことを伝えた。
「そうか、ちゃんと向き合って決めたことなら私は構わない。瀬奈のこと大事にしろよ」
優しさに満ちたような、真希さんはどの答えでも良かったらしく私たちの出した答えに微笑んでいた。
ただ、同席していたすみれはなんとも言えない顔をしている。
「すみれはなにか不服か?」
それは真希さんも気づいていたらしく、すみれに視線を移していた。
「不服なことはないです、ただ……」
「ただ?」
「また立ちはだかるんだって思うとこれからが大変だなって」
すみれはA-Z時代から変わらないかもしれない状況に嘆いていたらしい。
「それはないよ、私から提案したいことがあって」
「提案?」
すみれの顔がだんだんと怪訝なものになっていく。変なこと言うつもりはないんだけど……。
「デビュー前に私たちと合作で曲出さない?」
すると真希さんが吹き出したように笑い出す。
「いいな、やろうかそれ! もう由真に許可は取ってるのか?」
私はもちろんと首を縦に振った。
「なら決まりだ、すみれや凛の門出に相応しい」
「相応しいって……」
困惑するすみれを安心させるように真希さんが話し出す。
「現A-Zメンバーとお前たちは戦っている場所が違うと大衆に印象づける。これはなかなかに面白いと思うぞ」
熱くなる真希さん。ちょっとどころかだいぶウザいけど、こういう時の真希さんのイメージは大体当たっている。
「そこまで言うなら乗せられるのも悪くないかもね、凛には私から……」
すみれがそう言ってスマホを取り出した瞬間、勢いよく扉が開かれた。
「邪魔するわよ!」
「なら帰って」
入ってきてそうそうお帰り願われたのはA-Zのリーダー、沙紀だった。
すみれは沙紀に視線を移すこともなく、淡々とあしらっている。私は沙紀の方に目を移す。帰れと言われて涙目になっているのがわかった。
なんだろう、負けヒロインというか不憫な雰囲気がする……。




