on air
世界は広いと窓に映る景色が教えてくれる。
修学旅行以来の飛行機にまだドキドキしながら、隣に座る瀬奈に視線を移した。
「……綺麗」
「どうしたの佐奈?」
ただコーヒーを飲んでいるだけの姿なのに、窓から差し込む光に包まれるだけでこの世と思えない存在に感じて、声をとして漏れていた。
「い、いや、あの……、ほら、瀬奈が可愛いなぁ~と思って」
咽る瀬奈。ごめんね、嘘吐けなくて。
「……そういうのはフランスに着いてからにして」
本当に可愛い。いますぐ抱きしめたいけど我慢我慢。フランスに着いたらいいってことだもんね。
「そうそう、機内誌見た? 私たちも載ってたよ、嬉しくない?」
そう言って、瀬奈にそのページを見せる。
「本当だ、こんなところにまで露出してたんだ」
私も多忙すぎてどんな仕事を受けたのか忘れていて同じ意見だった。
「びっくりだよね。でも見て、クロノも載ってる。世界進出もあと一歩だって」
クロノとは私たちの実質的なライバルだ。ダークでクールな基調をしている人気急上昇中の3人組アイドルグループ。私たちもよく比較されているから知ってはいる。いるんだけど。
「まぁ、良いんじゃない。私たちには関係ないし」
といった感じで、瀬奈はあまり興味がない。トップだとかライバルよりも、私と一緒であればいいって前に言われたことがあったから私自身もあまり興味はないんだけど、そのグループにいる唐澤麻衣だけは気を付けないといけない。
いつかの歌の収録ですれ違った際に「瀬奈さんは私のもの!」とか言って私に敵意を向けてきたからだ。あれは何とかした方が絶対にいい。
頭の中でどうしてやろうか考えていると、瀬奈が不思議そうに私を見ていた。
「佐奈、もしかして飛行機が怖いの?」
ウッ! どうやらバレたらしい。ここは正直に答える。
「瀬奈さんのおっしゃる通りです」
片言に返事をすると、額に手を当て呆れる瀬奈。
「だって怖いじゃん、鉄の塊だよ!? そんなのが飛んでるんだよ!? 信じられる!?」
それを聞いて、ため息を吐く瀬奈は私の手を握ってきた。
「これなら安心するでしょ? 着くまでこうしててあげるから」
あ~、このまま死んでも良いかも。と幸せな表情を浮かべていると、瀬奈は窓の外に視線を向けた。
「私も、よ」
あーっ!
我慢できずに瀬奈の頬にキスをした。
気にする素振りもなく受け入れてくれた。
瀬奈がいれば飛行機も怖くない。




