atonement [penser] #2
先輩記者に連れてきてもらった日比谷ミッドタウンのバーで、私はひとりでモヒートをあおっていた呷っていた。見かねたバーテンダーの三神に心配そうに「優歌さん、今日は飲み過ぎでは?」と優しく首を傾げていた。
「今日はいいの、騙し騙し生きてきた私の答えが欲しいから」
投げやりな返事に、三神さんは苦笑交じりに私に向けていた視線を自身の手元へ外した。すると、冷蔵庫から冷えたグラスをひとつ取り出しカクテルを作り始めた。どうやら一杯サービスしてくれるらしい。
「ありがとう、三神さん」
ぽつりとお礼を告げると、ウインクで返事をしてくれた。それから程なくして、私の前にグラスが運ばれた。
鮮やかな黄緑色のドリンクで、飲みやすそうではあったが私の知らないカクテルだった。
「これはなんていうカクテル?」
「メロン・ボール。甘さと苦さを両方味わえる、いまの優歌さんにはこれだと思ったんです」
口角を上げる三神さん。私が来たときはいつも気を使わせてしまっていて、本当に情けなくなってくる。厚意に甘えてグラスを口まで運び、一口だけ付けた。
「何だろう、いまの私に本当にぴったりな味。勝手に恋して、ひとりで失恋して……。気づけば母と同じようにアイドルになれって。私の人生って私のためにあるはずなのに」
そこまで言い切ると、諦めたような気持ちに包まれた。すると、三神は週刊誌に目を通していたのか深く優しく頷いてくれた。
「三神さんになら心を預けられそう」
「そう言っていただけるのは嬉しいですね。ただ、泣いている人に言われるのは心が痛む。だから、今日はここで枯れるまで泣いていってください。それが私にできることです」
小さいため息が漏れた。私はいったいどれだけの人に迷惑を掛けて生きているんだろうか? 三神さんのくれた優しさにどう返せばいいのかもわからない。親からももらえず、本当の愛も知らないままここまで生きてきたことを後悔してしまう。
溜まっていた感情の全てが心から決壊していく。それは涙にもなって溢れ零れていく。
多分、有栖川瀬奈に抱いた感情も本心からではなかった。似ている境遇の有栖川瀬奈という存在なら依存できると感じたことから勘違いしていたんだと、今ならわかる。
私は誰でもよかった。それは異性も同性も関係なく……。
誰にも届かない懺悔に過ごした夜、反抗心だけでは人間社会には適応できないということを初めて知った。




