瀬奈と佐奈
愛を口にするのは難しい。
それはそうだ。
今もこうして唇を塞いでいるのだから。
誰もいないレッスン場で瀬奈の唇を奪うのは何回目だろう。新曲のダンスの振付が激しかったせいか、いつもより瀬奈の匂いを強く感じた。その匂いを体に染みこませるように私は強く抱きしめる。
「……んっ!」
瀬奈の吐息が口内から響いてきた。それだけで幸福感に包まれて、世界がどうでもよくなってくる。
どれくらい長く深く繋がったかわからない瀬奈の唇をゆっくりと離していく。
「……もういいの、佐奈?」
瀬奈は上目遣いに聞いてきた。
「これ以上は我慢できないから」
いま、一線を越えてしまったら隣の事務室にいるマネージャーにバレてしまう。そう考えていた。
「佐奈は真面目だね」
「そういう瀬奈こそわかってるくせに」
見つめ合ったままのやり取りに思わず笑ってしまった。
瀬奈は落ちつきを取り戻すと以前にも聞いてきたことを口にする。
「このやり取り、前にもしたよね。私たちの関係、世間が知ったらどうなると思う?」
それは私たちにとって絶対にバレてはいけないものだった。
「事務所もファンの人たちも裏切ることになるでしょうね」
「……じゃあ、一緒に裏切らない?」
今日の瀬奈は積極的過ぎる。どうしたんだろう、切り出しづらいのか表情が曇っていく。すると、瀬奈は私の目を見て真っ直ぐに問いかけてきた。
「佐奈はまだアイドルでいたい?」
その問いに、私はゆっくりと首を横に振った。
これがトップと言われるスタープロモーション所属のアイドルユニット【lune de miel】
瀬奈と私の誰にも言えない秘密の関係のはじまりだった。
天ヶ瀬衣那です。
毎日投稿、頑張ります。
……頑張ってみます。