表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

三国志演義

三国志演義・弓腰姫~鴛鴦の契り~

作者: 霧夜シオン

この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容できる方は是非演じてみていただければ幸いです。

なお、人名・地名等に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。

何卒ご了承ください<m(__)m>


なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。

     

ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他のキャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、注意してください。



声劇台本:三国志演義・弓腰姫~鴛鴦えんおうの契り~


作者:霧夜シオン


所要時間:約70分


必要演者数:8~16人(最低6:2:0)~(最大13:3:0)


※兼ね役無しでいくと最大16人ですが、それだと色々と大変だったり不都合も

 生じる可能性もあるので、ある程度の兼ね役は推奨です。女性演者数は最大で

 2~3人(孫尚香役、呉夫人役、ナレ【呉夫人役とナレはコラボキャス最大数

 に合わせる為、セリフを被らないように配置したので兼ね役可能】)になりま

 す。


試読を例に挙げると、


劉備

諸葛亮/潘璋

魏延/周泰

趙雲/魯粛

孫尚香

周瑜/孫権

関羽/丁奉

喬国老/黄忠

呉夫人/ナレ


で兼ね役して上演しました。(8人だと劉備役を魏延/周泰役に更に兼ねさせると

良いかと。)

もし、この役の組み合わせ・人数割りでもいけるよ!というのを発見しましたら是

非教えていただけると幸いです<m(__)m>



はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種

     ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で

     きる方は是非演じてみていただければ幸いです。

     なお、人名・地名等に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打て

     ない)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。

     何卒ご了承ください<m(__)m>


     なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。

     また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。

     

     ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の

     キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、

     注意してください。



●登場人物(※年齢に関しては一部の人物はおおよその予想で書いております。)


劉備りゅうび・♂:あざな玄徳げんとく。 中山靖王ちゅうざんせいおう劉勝りゅうしょうの末孫。

     現皇帝の叔父、いわゆる皇叔こうしゅくにあたる人物。義兄弟達に支えられて

     流浪の末、諸葛亮という不世出の傑物けつぶつを得る。

     赤壁せきへきの戦いを経て大陸中央部にあたる荊州けいしゅうに拠って立つ地を得る。

     五十歳。


諸葛亮しょかつりょう・♂:字は孔明こうめい

       劉備が三顧さんこの礼をもって軍師に迎えた三国志上屈指の人物。

       その能力を劉備の為に使い、共に漢王朝の再興を目指す。三十代。


趙雲ちょううん・♂:字は子龍しりゅう

      劉備の義兄弟である関羽かんう張飛ちょうひと並んで、劉備軍の武の中核をなす

      人物。

      豪胆かつ知勇に優れ、長坂ちょうはんの戦いの際に劉備の子の阿斗あと【後の

      劉禅りゅうぜん】を抱いて、曹操軍数十万の中をただ一騎で駆け抜けて主君劉備

      の元まで辿り着き、人材収集癖の塊である敵君主、曹操に配下にした

      いとまで言わせている。四十代。


孫尚香そんしょうこう・♀:呉の君主、孫権の妹。男勝りの気性で、呉の将や兵士に恐れられてい

      る。常に腰に小剣や弓を帯びている事から、弓腰姫きゅうようきとあだ名されてい

      る。

      また、彼女の部屋の前には常に武装した侍女が控えている。十七歳。


孫権そんけん・♂:字は仲謀ちゅうぼう

     呉の君主・呉侯ごこう。兄、孫策そんさくから領土を受け継ぎ、赤壁の戦いを経て父、

     孫堅そんけんに因縁のある荊州を手に入れようと水面下で劉備と対立している。

     軍師である周瑜しゅうゆの策を用い、劉備を自分の妹である孫尚香との偽りの

     婚儀を設け、誘き寄せて殺そうとするが、策を見抜いていた諸葛亮に

     逆用されてしまう。三十代。


周瑜しゅうゆ・♂:字は公謹こうきん

     美周郎とあだ名される美男子。水上の戦いに優れ、大都督だいととくとして呉の

     軍を統括している。呉の前主、孫策に「内政の事は張昭ちょうしょうに、軍事の

     事は周瑜に問え。」と遺言される程の傑物。

     荊州を呉のものとするべく、君主、孫権の妹君を劉備と結婚させるふり

     をして殺害しようと画策する。

     なお、音楽にも堪能で、【曲に誤りあり。周郎(周瑜)かえりみる】

     という歌詞があるほど。三十五歳。


魯粛ろしゅく・♂:字は子敬しけい

     諸葛亮が劉備に対して進言するよりも先に、自分の君主・孫権に対して

     天下三分の計ならぬ、天下二分の計を提唱する程の、本来は非常に優れ

     た人物。だが、演義では割と周瑜と諸葛亮の間でオロオロしている印象

     が強い。

     温厚な人柄で周囲の尊敬を集めており、かつて周瑜が困っていた折に兵

     糧米三千石を援助した事がある。大体四十代。


喬国老きょうこくろう・♂:呉の孫策、周瑜にそれぞれ嫁いだ絶世の美女と謳われる大喬、小喬の

      老父。呉の国主や重鎮の二人に嫁がせても、温和で誠実な人柄は変わ

      らない為、呉の臣民からの尊敬を集めており、喬国老と尊称されてい

      る。六十代。


呉夫人ごふじん・♀:孫権、孫尚香の年老いた母親。娘可愛さの為、孫権、周瑜らが偽りの

      婚儀に劉備を誘き寄せて殺害しようとする策を台無しにしてしまう。

      五~六十代。


関羽かんう・♂:字は雲長うんちょう

    劉備の義弟。重さ八十二斤の青龍偃月刀を操る、知勇兼備の豪傑。

    曹操に是非配下にしたいと熱望され、劉備達と生き別れた際、一時的に

    彼の元にいた事がある。

    見事な顎髯あごひげを蓄えている事から、現皇帝の献帝けんてい美髯公びぜんこうとあだ名された。

    義に厚い人物で、目下の者には優しいが、義兄弟を除く目上の者や同僚

    には不遜な態度を取る事が多い。五十三歳。


黄忠こうちゅう・♂:字は漢升かんしょう

     齢六十に近い老将だが、その技の冴えや気力は若い者を遥かに凌ぎ、

     関羽と一騎打ちをして互角に戦う程の力量を持つ。

     また、弓の腕は百発百中で、馬に乗った状態で関羽の兜の緒を見事に

     射切っている。

     現代でも、老いてなお盛んな人の事を黄忠と呼ぶ。


魏延ぎえん・♂:字は文長ぶんちょう

     荊州南四郡の戦いの際に、劉備に帰順する。関羽や黄忠にも劣らぬ武

     勇を持つ猛者。ただ、反骨の相という謀反人によくある人相をしてい

     た為に、危うく諸葛亮に処刑されかけたのを劉備にとりなされたとい

     う経緯を持つ。この為、諸葛亮とはわだかまりのある間柄。三十代。


丁奉ていほう・♂:字は承淵しょうえん

     孫権の時代から呉に仕えた人物で、何度も敵将を討ち取り、軍旗を奪

     うなど、大いに武功を挙げた勇猛な人物。

     よく負傷もしたと伝えられる。のちの時代には知略を発揮する場面も

     あったという記述がある。呉の滅亡に近い時代まで生き抜くことにな

     る。三十代。


周泰しゅうたい・♂:字は幼平ようへい

     呉の諸将の中でも一、二を争う程の武勇に優れた勇敢な人物。

     宣城せんじょう濡須口じゅしゅこうの戦いなどでは、主君の孫権を傷だらけになりながらも

     守り抜いている。

     もとは蒋欽しょうきんと湖賊をしていたが、呉の前主、孫策が江東の地を平定に

     赴いて劉ヨウと戦った際、砦に忍び込んで内応し陥落させると、それ

     を手土産に手下を率いて帰順。三~四十代。


潘璋はんしょう・♂:字は文珪ぶんけい

     孫権の時代から仕えた。気ままで粗暴な性格ではあったが、判断力に

     優れた将軍であったと伝えられる。

     後年、部下が関羽を捕え、彼の愛用していた青龍偃月刀を褒美として

     与えられるが、劉備が復讐戦を挑んできた夷陵の戦いにおいて、関羽

     の息子の関興に斬られ、奪い返されている。三~四十代。


ナレーション・♂♀不問:雰囲気を大事に。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:赤壁せきへき及び荊州けいしゅう、その南四郡みなみよんぐんの戦いを経て、劉備りゅうびは流浪の末にやっと自分の

   領土を得る。

   しかし、赤壁の戦いの際に同盟して共に曹操そうそうを破った呉の国主、孫権そんけんの目的

   も荊州であった為、水面下での対立は消えていなかった。

   孫権は赤壁の大戦後、曹操の領土の重要拠点である合肥がっぴへ侵攻。

   しかし、城を預かる名将・張遼ちょうりょうらの猛烈な反撃を受け、撤退を余儀なくさ

   れる。同時に劉備の身辺でも、荊州の前領主である劉表りゅうひょうの長男、劉琦りゅうきが病

   の為、この世を去った。


劉備:軍師、劉琦りゅうき殿が亡くなれば、荊州は呉へ返すという約束をしていた。この事

   を知れば、必ず呉から待っていたとばかりに返せと来るであろう。

   何か良い思案はないだろうか?


諸葛亮:そうですな。すぐにでも来るでしょう。しかし、ご心配には及びませぬ。

    私にお任せ下さい。まずは曹操への守りを固める為に、関羽かんう襄陽じょうようの城

    へおつかわし下さい。


劉備:うむ、わかった。 関羽をこれへ呼んでくれ。


【間】


関羽:我がきみ、お呼びでございますか。


劉備:おお雲長うんちょう、呉の孫権が合肥がっぴで敗北したそうだ。

   そして知っての通り、劉琦殿も病の為亡くなられた。曹操そうそうめ、荊州の隙を突

   くやも知れぬ。

   重要拠点である襄陽じょうようへ向かい、守りを固めてくれ。


関羽:呉が・・・ふふふ、赤壁の勢いに乗って攻めたまでは良かったが、やはり彼

   らに陸の戦いは荷が重かったようですな。承知しました、それがしにお任せ

   下さい。


諸葛亮:頼みましたぞ。守りについてはこれで十分です。さて、呉への対応ですが

    ・・・。   


ナレ:それからしばらくのち、諸葛亮の予見どおり、呉から弔問ちょうもんの使者として魯粛ろしゅく

   が訪れた。名目は弔問だが、その真意は荊州の領土所有問題にある事は明白

   であった。酒宴の席で魯粛は、やはり荊州の返還を迫ってきた。


魯粛:以前、亡き劉表りゅうひょう殿の子である劉琦殿が生きておられる限り、荊州の領主で

   あると言われました。今やその劉琦殿も亡くなられたからには、この荊州は

   速やかに我が呉にお返しあるべきでしょう。


劉備:魯粛ろしゅく殿、ここは酒の席です。

   そのお話はまた、後日にいたしましょう。


魯粛:後日でも構いませぬが、約定は必ずお守り願いたく存じます。


諸葛亮:魯粛殿! 貴公は呉の重臣の中でも、ものの解った方と思っていたが、先

    程から聞いておればあまりに非常識ではないか! そもそも我が君は現皇

    帝の叔父、皇叔こうしゅくであらせられる上に、亡き荊州の前領主・劉表殿とも血縁

    関係、劉琦殿が亡くなられたとはいえ、その後を受け継ぐのに何の不足不

    満がありますか!


魯粛:そっ、それは・・・・!


諸葛亮:赤壁せきへき曹操そうそう軍を打ち破ったのは呉軍であるからと言いたいのであろうが、

    我が軍も華容道かようどうへ兵を伏せて曹操軍を追い詰めている。

    血縁からこの荊州を受け継いで守ろうとする我が君と、力に頼って荊州を

    奪おうとする孫権、世間はいずれを正しいと見るでしょうな?


【間】


魯粛:っ・・・そうまで言われては、返す言葉もありません・・・ですが、かつて

   そちらが曹操軍に追い詰められた時、諸葛先生、貴方を呉へお連れしたのも

   私、貴方の意見をもっともだと賛同して呉侯ごこう周瑜都督しゅうゆととくを説得したのも私で

   す。

   その私は今、主君や武官ぶかんたちに疑われ、おめおめ国に帰る事さえできない

   立場に陥っています。

   先生は私の立場に、何の同情もお持ちにならないと見える。


諸葛亮:むう・・・・・


    【少し長めの間】


    では、貴方の面目を立てて、荊州はしばらく我が君がお預かりしている事

    にするのはいかがですかな?

    そして、曹操にも貴方の呉にも接触していない、長江ちょうこうの源流のある地、

    しょくを手に入れたあかつきに荊州をお返ししましょう。

    我が君、証書をしたためてくだされ。


劉備:わかった。すずりと筆を。


   【長めの間】


   軍師、これで良いか?


諸葛亮:はっ。では私も署名して・・・・魯粛殿、我が方だけが署名しても意味は

    ないゆえ、貴公の名も連名で書かれた方が良いでしょう。


魯粛:むむ・・・わかりました。では蜀を手に入れたら、必ずこの荊州をお返しい

   ただきますぞ。


劉備:もちろんです、魯粛殿。さ、硬い話はこれまでにして、さかずきを重ねられよ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



ナレ:魯粛は言われるままに署名すると、荊州からの帰り道、柴桑さいそうへ立ち寄った。

   矢傷やきずの療養中である大都督・周瑜しゅうゆの病状を見舞い、荊州での事の顛末てんまつを語っ

   た。


周瑜:魯粛よ、またしても貴公は諸葛亮に上手く利用されたな。お人よしにも程が

   あるぞ・・・!

   確かに蜀を取れば荊州を返すという証書だ。だが、奴らが蜀を攻略するのは

   いつだ? 十年後か? 百年後か!?

   こんな紙きれ一枚を呉侯ごこう御前ごぜんへ持って行ってみろ。間違いなく貴公は罪に

   問われる。いや、貴公の一族にまで類が及ぶぞ!


魯粛:う、うう・・・い、言われてみれば・・・しかし、再び荊州へ行ってもおそ

   らくは口実を設けて会おうとはしないはず・・・都督、どうすればよいでし

   ょうか?


周瑜:むうう・・・今更後悔しても始まらん。何か策はないものか・・・・・。


   【長めの間】


   ・・・そうだ。魯粛よ、貴公は呉侯ごこうの妹君に拝謁はいえつした事はあるか?


魯粛:はい、一、ニ度お目通りした事はございます。武芸を好み、常に腰に弓をさ

   げている為、皆から弓腰姫きゅうようきとあだ名されておりますな。

   それが・・・?


周瑜:その妹君を劉備の後添のちぞえに勧めるのだ。これこそが此度の貴公の失敗を償う

   策であり、荊州を手に入れる絶好の機会だ。


魯粛:えっ!? し、しかし、劉備には正妻の甘夫人かんふじんがいたはずですが?


周瑜:いや、その甘夫人かんふじんは既に病に倒れて亡くなっている。戦いが続いて葬儀が先

   延ばしになっていた事もあったが、間者かんじゃの報告によれば、劉琦りゅうきの死の前に、

   荊州けいしゅうの城に弔いの白旗を掲げていたというから、間違いはあるまい。


魯粛:なるほど、それは少しも存じませんでした。ですが・・・劉備は既に五十歳

   、妹君はまだ十七歳。年齢が釣り合わぬのではありませぬか?


周瑜:【溜息】どうも貴公は、物事の表面を見すぎるきらいがあるな。

   これは謀略だ。謀略でなくてこんな事が言い出せると思っているのか。

   後添のちぞえの縁談を勧め、呉へ劉備をおびき寄せた後は、婚儀の前に殺してしま

   えば良い。

   さきに諸葛亮めにはかられたゆえ、今度はこちらから彼奴きゃつらへ計略を仕掛けて

   やろうというわけだ。


魯粛:むむ・・・しかし、呉侯ごこうが承知なさるでしょうか。それこそ目に入れても痛

   くない程、可愛がっている妹君ですからな。


周瑜:【少々苛立たしげに】分かっておらんな。婚儀は結んでも輿こし入れまでする必

   要はない。式典は呉で上げて、その後荊州へともなわせるように持っていけばよ

   いのだ。

   どうせ、劉備が生きて呉を再び出ることは無いのだからな!

   ・・・しばし待て、呉侯への手紙に私の策を記すゆえ、持って行くがいい。


   【間】


   よし、貴公はこれを持ち帰って今回の事の次第を報告の折に、呉侯へ渡して

   くれ。この件で貴公が罪に問われることは決してあるまい。


魯粛:か、かたじけのう存じまする・・・。では、それがしはこれにて。


ナレ:一方、呉の南徐なんじょにある城の中の練兵場。その場にはおよそ似つかわしくない

   可憐さと美貌、そして凛とした雰囲気を軽装の甲冑と共にまとった一人の

   しょうとも言うべき女性が、屈強な男の武将相手に模擬戦を行っていた。


孫尚香:参りますよ、はああっ! せい! りゃあッ!!


潘璋:くっ、ぬうっ! やりますな姫様! 


孫尚香:どうしたのです潘璋はんしょう、何故打ち返さないのですか! 呉侯の妹だからとて

    遠慮は無用ッ!


潘璋:ッならば・・・うおおおッ!


孫尚香:真正面から来るとは・・・甘いッ!


潘璋:ぬおっ、槍がいなされて・・・・・し、しまっ――!


孫尚香:【語尾に被せて】りゃあああッッ!!!


潘璋:ッま、参ったッッ!!


孫尚香:よし! 次の者、前へッ!!【次の自分のセリフまで、背後で小さく掛け

    声を喋るのもあり】


丁奉:おい周泰しゅうたい、また弓腰姫きゅうようき様は練武鍛錬か?


周泰:ええ・・・よくもまぁ、毎日熱心に飽きもせず・・・。男勝りとは

   この事です。


孫尚香:丁奉ていほう! 周泰! お前達も見てばかりいないで参加なさい!


丁奉:は、はっ!【溜息と苦笑】・・弓腰姫というより、じゃじゃ馬姫だな・・・

   行くか、周泰。


周泰:たははは・・・仕方ありませんなぁ・・・・・姫様、今参ります!


ナレ:あれから魯粛は南徐へ急いで戻ると、主君孫権に拝謁していた。まず今回の

   事の一部始終を報告し、劉備からの証書を差し出した。


孫権:【間をおいて唸った後机を叩く】

   ~~~・・・魯粛ッ! これではまるで子供の使いではないか!!

   こんな証文一枚が何の役に立つ!

   汝に任せておいては、いつまでたっても荊州は手に入らぬわ!!!


ナレ:案の定孫権は苦虫にがむしを噛み潰したような顔をすると、今にも剣を抜いて魯粛を

   斬り捨てんばかりの剣幕で怒鳴り散らした。予期していた事とはいえ、魯粛

   は青ざめながら、次に周瑜からの手紙を差し出した。


魯粛:も、申し訳ございませぬ! ・・・ですが、帰りに柴桑さいそうの周都督の元へ立ち

   寄った際に、都督から今回の一件を逆手さかてに取る秘策を授かって参りました。

   なにとぞ、ご披見ひけんを・・・。


孫権:なに、周瑜から・・・? 見せよ。


   【少し長めの間】


   むうう・・・流石は周瑜、これは妙計だ。成功すれば劉備は呉へやってこな

   ければなるまい。その時に・・・!

   魯粛よ、長旅大儀であった。しばらく休息するがいい。


魯粛:ははっ。


ナレ:数日後、魯粛は同じ重臣の呂範りょはんと共に呼び出されると、周瑜の献策について

   額を寄せ集めて評議を重ねた。その結果、呂範は主君孫権の密命を帯びて、

   荊州へ修好使節としてやってくると、さかんに両国の緊密な結びつきの必要

   性を論じた後、孫権の妹、孫尚香との婚約を勧めた。


劉備:皆、どう思う? 妻が死んでからまだそのむくろも冷えていないうちに後妻を、

   しかも年が三十以上も離れている姫をめとるのはいかがなものかと考えるのだ

   が・・・。


趙雲:おそらくは、周瑜あたりの計略ではございますまいか。

   それがしは不安を覚えます。


諸葛亮:趙雲将軍、その心配は最もながら、先程呂範と我が君との対談中に占いを

    立ててみたところ、大吉の結果が出た。

    我が君、ご心配あそばしますな。確かに此度の申し出は周瑜の策でしょう

    。しかし、ここは彼の策にかかったふりをして、かえって我が策を為すと

    ころかと存じまする。


黄忠:我が策を為す、とは・・・軍師、いかなるわけじゃろうか?


諸葛亮:うむ、良いかな? 黄忠殿。

    この婚姻を結ぶ事によって、荊州の領土問題における孫権との衝突を避け

    つつ、地盤を固めるのです。曹操に対しても、見せかけとはいえ、親密を

    深めているように見せることができる。


劉備:うむ、何といってもまだ、南郡や南荊州みなみけいしゅう四郡よんぐん傘下さんかに収めて日が浅い

   からな。


魏延:なるほど・・・時間を稼ぐ意味合いもあるのですか。しかし、ご主君の身に

   危険が及びはしますまいか。求めて虎の口の中に入っていくようなものでは

   ・・・。


諸葛亮:万事、私にお任せあられたい。決して諸将の案じているような事態に我が

    君を陥らせるような真似はしませぬ。


黄忠:魏延よ、軍師殿があれほどまでに言われるならば、万に一つの誤りもあるま

   い。


魏延:ううむ、確かに・・・。して、ご主君と共に呉へ赴く者は誰でしょうか?


諸葛亮:うむ、我が君に随行するのは・・・趙雲将軍! そなたに命じる。兵五百

    と共に、呉へ赴くのだ。身命を賭して我が君をお守りせよ。


趙雲:ははっ! この身に代えても必ず我が君をお守りします。お任せください。


諸葛亮:そして、これを持って行くがよい。 思案に余るような事態になった時に

    は、この三つの錦の袋を開け。それぞれに起きるであろう事案の解決策を

    記してある。これで私も我が君と共にあるものと思い、恐れずに行くのだ

    。


趙雲:ありがとうございます、軍師。


ナレ:建安十四年の冬の初め、劉備主従は長江を南下して呉へ向かった。

   上陸後、趙雲は諸葛亮から授かった錦の袋を思い出し、一番目の袋を開けて

   みた。


趙雲:まず、喬国老きょうこくろうを訪ねよ、か・・・・・、我が君、軍師の策によれば、まず初

   めにこの国の元老である喬国老を訪問せよ、との事です。


劉備:そうか。よし・・・皆の者、喬国老の屋敷へ向かう!


ナレ:喬国老。当時絶世の美女と謳われ、曹操ですら傍にはべらせたがった大喬と小

   喬の父親である。姉の大喬は呉の前主・孫策に、妹は呉の現大黒柱である周

   瑜の妻になったが、それでもその誠実な人柄は変わることなく、国中から尊

   敬されている人物である。

   不意に劉備一行を迎えた彼の屋敷は、家じゅうをあげての接待に追われた。


喬国老:これはこれは劉皇叔、ようこそ呉国へお越しなされました。して、突然の

    ご来訪は何故なにゆえでございましょうか?


劉備:実は、呉侯の妹君との婚儀の為、まかり越しました。


喬国老:えっ、皇叔こうしゅくと呉侯の妹君の間に婚儀の話があったのですか?


劉備:おや、ご存知ありませんでしたか?


喬国老:いや、少しも知りませんでした。何故このような大事な話を・・・、しか

    し、これは両国にとって限りなくめでたい話ですな。

    時に、城の方へは既に入国のお届けは出されましたかの?


劉備:いえ、まずはこの国の元老たる、国老にご挨拶をと思いまして。


喬国老:それはいかん、早速にでもこの旨を城へ届けてきましょう。皇叔にはそれ

    まで、ごゆるりとお待ちくだされ。


ナレ:喬国老は、あたふたと城へ赴くと、まず孫権ら兄弟の母親である、呉夫人ごふじん

   元へ急いだ。


喬国老:おお、御母公ごぼこう様。知らぬ事とはいえ、お喜びを申し上げるのが遅れまして

    誠に申し訳ございませぬ。


呉夫人:国老、どうしたのです。そんなに慌てて・・・それにお喜び、とは何の話

    やら・・・? なんぞ、めでたい話でもあるのですか?


喬国老:はい、呉侯の妹君の孫尚香様と、荊州の劉備玄徳とのご婚儀の話がまとま

    ったそうで・・・既に入国を済ませ、わたくしの屋敷にておもてなしして

    おる次第です。


呉夫人:なんですと!? 荊州の劉備が我が娘を貰いに来たと!? なんという・

    ・・・・厚かましいにもほどがあります!


喬国老:いえいえ、呉侯の方から重臣の呂範をつかわしてこの縁談を持ち掛けられた

    そうで・・・。


呉夫人:な・・・まさか、そのような事が・・・いいえ、嘘じゃ。信じませぬ。

    あの五十路いそじ男が我が娘となど・・・国老はわたくしをかついで

    おられるのじゃ。


喬国老:なんの、まさかにこのような事を戯れに申し上げられませぬ。

    お疑いとあらば、城下へ誰か見に行かせてご覧下され。


ナレ:呉夫人はまだ信じられない様子で、人をやって様子を探らせた。まもなく戻

   ってくると、街の様子は非常に賑やかで、劉備の兵達は街を見物しながら物

   を買い歩き、我が君はこのたび呉侯の妹姫君いもうとひめぎみと婚礼を挙げるのだと自慢げ

   に喋って歩いた為、街中がお祝い気分であると報告した。


喬国老:どうです、真実だったでしょう。それゆえこうして、お喜びを申し上げに

    参った次第です。


呉夫人:【泣く】おおぉぉおお、何という事じゃ・・・わらわの知らぬ間にこのよ

    うな事に・・・!

    そうじゃ、この婚儀は一刻も早く止めねばならぬ・・・こうしてはおれぬ

    ・・・権、権はいずこじゃ!


喬国老:あっ、御母公ごぼこう様、どちらへ参られるのですか!? おお、皆、後を追うの

    じゃ!


呉夫人:はぁっ、はぁっ、なりません、なりませんぞ・・・! 我が娘を相談もな

    く嫁にやるなど・・・・・!!


    【少し長めの間】


    ・・・・・・権!


孫権:おお、母上。いかがなされましたか、そのように慌てて。


呉夫人:【息切れ】権よ、いかに老いたりとはいえ、わらわはそなたの母じゃぞ。


孫権:ははは、何を今更そのような事を仰せられますか。


呉夫人:そう思っているのなら、何故わらわに相談もせずに大事な娘の嫁ぎ先を決

    めたのじゃ!


孫権:はて、一体、何の事ですか? わけがわかりませぬが・・・?


呉夫人:まだそのように空とぼけるのですか!! そなたの妹はわらわにとっても

    娘、荊州の劉備玄徳へ嫁がす事など、わらわがいつ許しましたか!


孫権:ッッ!! そ、それを一体、誰に聞いたのですか!?


呉夫人:喬国老に聞いて御覧なさい!! わらわも国老から聞いたのじゃ!


喬国老:まぁまぁ、そうご親子しんしの間で争う事もございますまい。もはやこの事は呉

    の国中の民達に知れ渡っている事ですし、わたくしもこうして、お祝いを

    申し上げに来たのでございます。


孫権:い、いや、実はこの婚儀は周瑜の謀略なのです。赤壁の大戦を経て今また荊

   州を攻めようとすれば、また莫大な軍事費と兵力を投じなければなりません

   。それゆえ、婚儀と偽って劉備を誘き寄せてこれを殺してしまえば、荊州は

   たやすく我が呉のものとなるのです。


呉夫人:な・・・な、なんという愚かな周瑜じゃ! 呉の大都督として六郡八十一

    州の兵権を預かりながら、我が娘を生贄にせねば荊州を奪えぬというのか

    ! 己の手柄の為なら主の妹も利用するというのか!! 無能にも程があ

    る!


孫権:そ、それは・・・・・


呉夫人:【孫権に構わず】それにもし劉備を殺したら、娘はあの年で後家になるで

    はないか!

    わらわの目の黒いうちは、娘を一生を台無しにする事など、断じて許しま

    せぬ!!

    もし周瑜めがそのような事を勧めたのなら、わらわが命じます。

    すぐにこの場へ呼び寄せて斬っておしまい!!


孫権:【小声】く・・・・っ。手がつけられぬ・・・!


喬国老:我が君、わたくしもこの度の計略には反対でございます。いやしくも呉の

    国主兄妹が、婚礼に事寄せて荊州の劉備玄徳を殺したなどと天下に聞こえ

    ては、民達の心は離れてしまうでしょう。それこそ呉の国の歴史の大きな

    汚点になります。ここはかえって二人の婚姻を認め、彼の中山靖王ちゅうざんせいおうの血筋

    と声望を味方に加えた方が、呉の国益にかなうのではありますまいか?


呉夫人:しかし、劉備は既に年も五十路いそじというではないか。

    そんな男のところへどうして後妻になどにやれるものやら・・・。


喬国老:いやいや、年を取っていても、若い者を遥かにしのぐ気力を持つ人もござ

    います。

    劉備玄徳がそれです。彼は当代の英雄、年齢で測れないものがございまし

    ょう。


呉夫人:まだ認めるわけにはいきませぬ。明日、城の西にある甘露寺かんろじへ連れておい

    で。わらわは劉備玄徳という人物を見知らぬゆえ、会って見た上で決めま

    しょう。


喬国老:そうなさいませ。わたくしは早速その旨を伝えましょう。呉侯、御母公、

    ではこれにて。


呉夫人:頼みますぞ。・・・権、良いですか。明日わらわが会ってみるまで、勝手

    な真似は許しませぬ!


孫権:わ、わかりました、母上・・・・・。

   

   【小声】ぬうう、なんという事だ・・・!

   これではせっかくの周瑜のはかりごとが・・・ッ!


ナレ:孝心のあつい孫権が何も反論できずにいるうちに、呉夫人と喬国老は明日の対

   面場所まで決めて去ってしまった。孫権は陰でこの様子を聞いていた呂範の

   献策に従い、大将の賈華かかに兵三百を預け、甘露寺に潜ませた。

   そして、翌日。


孫権:【独り言】【唸る】・・・どうか、母上の気に入らぬ人物であってくれ・・

   ・・・!!


喬国老:おお、御母公様。劉備玄徳が来ましたぞ。


呉夫人:どれ・・・・、おお・・・・!


孫権:う・・・っ、これは、さすがに堂々とした態度、気品・・・・・いかん、余

   とした事が畏敬いけいの念を覚えかねぬだと・・・・・!


劉備:御母公様、劉備玄徳にございます。本日こうしてお目にかかれました事、誠

   に嬉しく存じます。


喬国老:【小声】威にしてたけからず、温和にしてへつらわず。まさに清風せいふうの流れるが如

    し。

    ・・・どうです、御母公様。

    これ程の婿を求めようと望んでも、そう得られるものではありますまい。


呉夫人:【小声】ええ、ええ、年を聞いて不安に思うていましたが、なんと素晴ら

    しい・・・。

    【普通に】おお、婿殿、ようこそ参られました。我が娘をやる前にどうし

    ても一度会っておきたかったのじゃ。


劉備:お互いに初顔合はつかおあわせなれば、当然のことにござります。


呉夫人:しかし、一目見て安心しました。娘をとつがすにもはや、何の不安もありま

    せぬ。さあ婿殿、こちらへ。


劉備:ははっ。


趙雲:!! うっ、これは・・・そこかしこから殺気が感じられる・・・!

   おのれ孫権、兵を伏せているな。我が君に急ぎお知らせせねば・・・!


呉夫人:さぁさぁ、ここにいるのは皆、内輪うちわばかり。くつろいでさかずきをあげてたも

    れ。

    国老からも婿殿にお勧め申し上げて。


劉備:はっ、喜んでいただきまする。


孫権:【小声】ぐぐぐ・・・母上がすっかり劉備めを気に入ってしまわれている・

   ・・!! 


呉夫人:ところで婿殿。後ろに控えておる大将は?


劉備:あ、これなるは家臣の趙雲であります。


呉夫人:おお! ではあの当陽とうよう長坂ちょうはんにおいて、婿殿の和子わこを守って曹操軍数十万

    の中をたった一騎で駆け抜けたという名誉の武将か。

    これこれ、趙雲将軍、こちらに参られよ。さかずきをつかわす。


趙雲:光栄にございます。では、ありがたく頂戴を・・・・・。 

   【小声】・・・我が君。


劉備:【小声】どうした、趙雲。


趙雲:【小声】ご油断はなりませんぞ。回廊の陰、縁の下、植込みの中、それぞれ

   に兵を潜ませている様子です。


劉備:【小声】そうか・・・よし。 


   【少し長めの間】


   【普通に】・・・御母公様。


呉夫人:いかがしたのじゃ、婿殿。 ? おお、どうなされたのじゃ、そのように

    涙を見せて。


劉備:【涙ぐんで】もし、私めを気に入らぬと思召おぼしめさば、どうか剣を

   お与えください。寺院内のあらゆる所に兵が私を害さんと潜んでおるようで

   す。


呉夫人:なんですと!? 権、お前ですか、そのようなことをしたのは!?


孫権:い、いえ、私ではありません。呂範ではありませんか?


ナレ:孫権は呂範に、呂範は賈華かかに責任を転嫁した。呉夫人は激怒して賈華を斬捨

   てるよう命じたが、めでたい日に寺院内を血で汚すは不吉、と劉備が命乞い

   し、事なきを得た。酒宴は夜に及び、劉備は大いに酔って庭へと出た。


劉備:ううむ、いささか呑みすぎたか・・・、む、庭石か・・・・。


孫権:ん? あれは・・・劉備か? 一体何を・・・。


劉備:・・・・・この岩、我が大望たいぼう成らねば斬れぬ。もし成るならば、この岩斬れ

   よッ!! はあッ!!

   !・・・・・おお・・・!


孫権:皇叔、いかがなされた?


劉備:おお、呉侯。実はこうです。呉侯の一門と共に曹操を滅ぼせるならこの岩は

   斬れる。出来なければこの岩は斬れぬ、と天に念じて斬りつけてみたらこの

   通り、見事に斬れた次第で。


孫権:ほう、では余も試みてみよう。・・・劉家りゅうけと共に曹操を滅ぼせるなら、この

   岩斬れよッ! はああッ!!!


劉備:おお!! 斬れた!


孫権:斬れましたな!


劉備・孫権:はははははは・・・・・!


ナレ:この奇跡は、後に甘露寺の十字紋石として寺の名物になったという。また、

   他にも寺の門に劉備が周囲の絶景を賞した言葉、「天下第一の江山こうざん」を記し

   た書が掛けられたりと逸話が多い。

   劉備は呉へ十数日も逗留とうりゅうしていた。だがその間、孫権とその重臣達に

   何とか世間に通る理由をつけて殺害しようと、命をおびやかされる事しきりだっ

   た。

   この事態を憂えた喬国老は、呉夫人に勧めて輿入れの日を早め、華燭かしょくの典

   を急いであげさせたのである。

   そして婚礼を挙げて初めての夜、孫尚香の部屋の前にて。


劉備:・・・・・・うっ、こ、これは!?


孫尚香:ようこそ参られました、我が夫君おっとぎみ。さあ、こちらへ。


劉備:う、うむ。だがこの部屋はどうだ。槍や弓などが壁に掛けられている。

   それに、この武装した女性たちは・・・!?


孫尚香:この者らはわたくしの侍女でございます。わたくしが武芸を好む事は、

    とうにご存知のはず。


劉備:確かにそう聞いてはいたが・・・しかし、この場に武器はどうも落ち着か

   ぬ。


孫尚香:うふふ、面白いお方。乱世という殺し合いの世界に生きておられるはず

    なのに、武器を見て落ち着かぬ、とは・・・ほほほ。


劉備:お、おかしいであろうか? 


孫尚香:うふふ・・・ええ。でも、そのような所にも、たまらなくかれます。


劉備:むう、そうか・・・ははは。


ナレ:劉備と孫尚香。二人は親子ほども年の離れた夫婦であったが、非常に馬が

   合うというのか、その仲はむつまじいものであった。

   七日間にわたる婚儀の催しに呉の国中が沸き立ち、万歳を唱えている一方

   で、呉侯孫権は事態の意外な展開に、病と称して奥へ隠れていた。

   また柴桑にある周瑜も、己の計略が齟齬そごをきたした事を伝え聞いて驚き、

   急いで孫権へあてて筆を執っていた。


孫権:何という事だ・・・おのれ・・・! このままではまたしても劉備と諸葛

   亮めにうまうまとしてやられているだけではないか・・・!【机を叩く】


潘璋:【小声】無理もない、目に入れても痛くない妹君を劉備に取られての事だ

   からな・・・。


周泰:【小声】確かに・・・、しかし、この事態は既に周瑜大都督のお耳にも入

   っているはず。きっと、知恵を絞っておられるに違いない。


丁奉:申し上げます、我が君。柴桑の周都督より、書簡しょかんが届きました。


孫権:!なに、周瑜から・・・見せい!


丁奉:ははっ。


周瑜:(先の南郡での戦いにて負った矢傷がまだ癒えぬ為、参るに参られぬのを

   病床びょうしょうにて歯噛はがみしている次第です。御母公が劉備を気に入られた事は予想

   外でございました。策が裏目に出てしまった事は慙愧ざんきの念にたえませぬ。

   しかし劉備の半生をかんがみるに、これにまたつけ入るべき策がありますゆえ

   、書面をもって申し上げます。なにとぞ、賢慮けんりょを垂れたまえ・・・。)


潘璋:我が君、大都督からは、なんと?


孫権:うむ・・・周瑜からこんな献策があった。汝らはどう思う?


丁奉:失礼いたします。

   

   【長めの間】


   なるほど、これは妙計ですな!

   劉備めは幼いころはむしろを織って売り歩くなど極貧ごくひんにて過ごし、

   また成人してからも各地を転戦、流浪を繰り返し、贅沢の味をまだ知りま

   せぬ。


潘璋:おお、ならば豪奢ごうしゃな宮殿に無数の美女、甘い音楽、淫らな香料、山海の珍

   味と良い酒、あらゆる悪魔の歓楽を与えてほしいままに贅沢をさせてやり

   ましょう!


周泰:彼奴きゃつめの英気をにぶらせて、荊州へ帰ることを忘れさせてしまうのですな。

   さすれば、関羽や張飛、諸葛亮ら優れた将も愛想をつかし離散する事はひつ

   じょう、その時を待って荊州へ侵攻する・・・流石は大都督殿!


孫権:張昭ちょうしょうをはじめ、皆も賛成か。

   よし、劉備の奴に骨も腐り堕ちる程の快楽の味を覚えさせ、贅沢の蜜に漬

   けてくれるわ!

   まずは城の東に楽園を建築せよ!


丁奉・潘璋・周泰:ははっ!!


ナレ:孫権と重臣らは周瑜の策に従い、直ちにその方針へと動いた。建てられた

   豪華絢爛ごうかけんらんな宮殿の結構は言語に絶し、朱の欄干には金銀をもってちりばめ

   、床は全て大理石や孔雀石くじゃくいしを使った。庭には四季折々の花や木を植え、広

   大な池には大勢がうたげを催せる船をつないだ。


孫尚香:兄様もやはり妹が可愛いのですね。わたくし達夫婦の為にここまでして

    くださるなんて・・・。


劉備:うむ、そうだな・・・。


孫尚香:さ、奥へ参りましょう。兄様から南方の良い酒が届いております。


劉備:おぉそうか。では参ろう、我が妻よ。


孫尚香:はい。


趙雲:・・・・・・ぬうう。


ナレ:若き新妻にいづまと共に劉備はこの宮殿へ移り住んだ。

   食えば美味美食の極みに腹は満ち。

   美酒を呑めば鼻から脳へ突き抜ける。

   耳にまとわりつくは甘い歌曲。

   いつしか劉備は月日を忘れて過ごしていた。

   一方で、護衛として共に呉に来ていた趙雲は、苛立ちを隠せずにいた。


趙雲:むうう、我が君はいったい、どうしてしまわれたというのだ・・・!!

   漢王朝復興と、億兆の民達の救済の志を忘れられたのか!?

   荊州を忘れられたのか・・・!?

   このままでは我が君に今まで従ってきた者達はどうなります!!

   【机を叩く】



   【間】


   !・・・そうだ、こんな時の為に軍師は、私に錦の袋を託されたのではな

   いか・・・!

   今こそ二つ目の袋を開ける時に違いない・・・!!


   【間】


   ・・・おお! この秘策、正に今の状況に合致がっちしておる! ・・・よし。


ナレ:趙雲は、荊州をつ時に諸葛亮から与えられた錦の袋に大いに力を得ると

   、急いで劉備の元へと走った。


趙雲:劉皇叔が家臣、趙子龍ちょうしりゅうにござる! 我が君に火急の用あって、お目通りを

   願いたい!


劉備:【酔っている】なに、趙雲が・・・? 後で参ると申しておけ。


孫尚香:貴方、お行きなされませ。何か重要な事かもしれませぬ。


劉備:むぅ・・・そうか、わかった。


   【少し長めの間】


   ・・・一体どうしたのだ、何事だ?


趙雲:我が君、一大事にございます。先の赤壁の敗北の恨みをそそぐと称し、曹操

   自ら五十万の大軍を率いて荊州に攻め込んできたと軍師からの急使にござ

   います!


劉備:な、なんだと、曹操が!?


趙雲:軍師みずから呉との境まで注進に参っております。一刻も早く我が君を迎

   えて手を打たねば荊州の滅亡は避けられぬと・・・さ、すぐに荊州へお戻

   り下さいませ!


劉備:むうう、そうか・・・・・、よし、帰ろう。が、しばらく待て。妻にもこ

   の事を相談する。


趙雲:ッそれはなりませぬ。奥方様に相談あらば、お引止めあるは必定です。


劉備:案ずるな、余にも考えがある。信じて待て。


ナレ:劉備は趙雲をそこに待たせると、奥へと戻っていった。そして妻・孫尚香

   にこの事を話そうとすると、彼女の方から先に口を開いた。


孫尚香:貴方、此度はやはり荊州に帰らねばなりませぬか?


劉備:! そ、それを誰に聞いたのだ?


孫尚香:ほほほ・・・貴方の妻ですのに、そのくらいな事がわからないでどうし

    ますか。


劉備:そうか、ならば多くは言わぬ。荊州は今滅亡の危機に晒されているそうだ

   。

   今帰らねば、妻との愛に溺れて国を失ったと末代までの物笑いになる。


孫尚香:その通りでございますわ。この期に及んで未練を申されるような方を夫

    として選びませぬ。


劉備:よく言ってくれた。思えばそなたとの生活も短い月日であった。戦場に臨

   むからにはいつ討ち死にを遂げるやも知れぬ。


孫尚香:そのような不吉を仰せられますな。わたくしも共に荊州へ参ります。

    たとえ火の中、水の中であろうと、どこまでも。


劉備:おお・・・妻よ・・・! しかし、呉侯が許すまい。そなたの母君も。ま

   た、この城をどうやって出るか、だ。


孫尚香:もう今年も暮れます。明日の朝までお待ち遊ばせ。

    確かに兄様に知れたら大変です。けれど母様は信心深い方なので、元旦

    の朝早くに、長江のほとりで祖先をおまつりすると申しておけば、難なく

    城門を出られます。


劉備:なるほど、それは名案だ。だが、今一度聞こう。そなたがこれから行こう

   としている荊州は戦乱の地だ。平和な呉を離れた事を悔やむかも知れぬぞ

   。


孫尚香:重ねて仰せられますな、貴方。夫の傍にこそ、わたくしの生き甲斐はあ

    りますわ。


ナレ:妻の固い決意に劉備は思わず涙を催した。そして趙雲を密かに人無き所へ

   呼ぶと、妻の思いや城門を出る策を告げ、長江のほとりで自分達を待つよ

   うに指示した。


   【間】


   年明けて、建安十五年。昨夜から城には除夜の燈明とうみょうがともされ、呉の文武ぶんぶ

   百官ひゃっかんは城中にて呉侯孫権に年賀の挨拶と万歳を唱え、日の出と共に孫権か

   ら酒を賜るのが吉例となっていた為、人目は少なかった。


劉備:よし、城門は無事に通過し、呉の従者達は口実を設けて追い払った。


孫尚香:貴方、うまくいきましたわね。


劉備:いや、無事に荊州まで着けるか、生死の分かれ目はこれからだ。


   【間】


   おお、趙雲!


趙雲:我が君! それに奥方様もご無事で! 


劉備:ここまでの首尾は上々だったが、すぐに追っ手がかかるだろう。急がねば

   ならぬ。   


趙雲:覚悟の上でございます。この趙雲がお供仕るからには、命に代えても荊州

   までお護り致します。どうか、御心みこころを安んじたまえ。


ナレ:一方、呉の城中では新年の宴もたけなわであった。この為、劉備達が逃げ

   た事が呉侯孫権の耳に入るまで半日以上もかかった。孫権は大いに酔って

   眠っていたが、夕方になって家臣達に起こされ、急を告げられた。


孫権:おのれッ、むしろ売りが!! 恩を仇で返すだけでなく、我が妹をさらって逃

   げたかッッ!!! 陳武! 潘璋ッ! 兵五百を率いてすぐに劉備めの後

   を追えッ!! 更には早馬をもって呉の水路、陸路の全てを封鎖するよう

   伝えィ!!


ナレ:孫権は怒りのあまり、傍らの机の上にあったすずりを掴んで床に叩きつけ、追

   っ手を出した。夜になっても彼の罵る声が城中に響き渡っていたという。

   更には重臣、程普ていふに追っ手の将の力量不足を指摘され、周泰、蒋欽しょうきんのニ将

   に自分の剣を預けた。

   劉備だけでなく妹、孫尚香の首まで持ってくるよう厳命して後を追わせた

   のである。

   一方、劉備一行は、ようやく柴桑さいそうの近くまで逃れてきた。しかし、目の前に

   立ち塞がったのは、徐盛、丁奉率いる三千の兵だった。


劉備:いかん、もうここにも手が回ったか・・・!


孫尚香:彼らの気性はよく心得ていますわ。わたくしにお任せを。


    【少し長めの間】


    そこへ来たのは何者ですか! 呉侯の妹たるわたくしに指でも向けてご

    らん、母様がお前達の首を決してそのままにしておきませんわ!!


丁奉:おお、姫君におわしますか!


孫尚香:丁奉に徐盛ではないか。暴兵を擁し、剣槍けんそうを連ねてわたくしの前に迫る

    など謀反人の所業です、おさがりッ!


潘璋:ッし、しかし、呉侯と周都督の命にございますれば・・・


孫尚香:【語尾に被せ気味に】兄孫権とわたくしの事なら兄妹の仲、お前達ごと

    き家臣の出る幕ではありません!


丁奉:いえッ、あなた様に危害を加えようというのではございませぬ! 我らは

   ただ劉備を・・・


孫尚香:【語尾に被せ気味に】お黙りッ! 我が夫は漢の皇叔、わたくし達は母

    様から許しをいただいて、天地神明の前で婚礼を挙げたのです。もし指

    一本でも触れたら、わたくしがお前達をこの場で斬り捨てます!!


潘璋:ぐ・・・っ・・・。


孫尚香:それッ、車を進めなさい! 駆けよ!


ナレ:丁奉、徐盛はみすみす劉備を目の前にしながら、孫尚香の激しい言葉と殿しん

   がりに控えていた趙雲の凄まじい眼光にすくまされ、空しく見送ってしまった

   。そこへ陳武と潘璋が兵を率いて駆け付けた。


潘璋:おお、丁奉! 徐盛! 劉備はどうした?


丁奉:いや・・・その、いかんせん向こうは呉侯の妹君、こちらは臣下、頭ごな

   しに叱られてはどうにもならなかったのだ。


潘璋:な、何ィ、取り逃がしただと!? 何という弱腰な!! 呉侯からの厳命

   だぞ! 周都督も軍を出しているのだぞ!!


丁奉:いや、それはそうだが・・・。


潘璋:ええい、ここで問答などしている暇はない! 我に続いてこいッ!


ナレ:先へ逃れていた劉備達は、ひたすら長江の岸沿いに逃げ続けていたが、す

   ぐに潘璋らに追いつかれた。孫尚香は再び車から降りるや、四将へ向けて

   凛と声を張った。


孫尚香:お前達、その様は何ですッ!! 馬を降りなさい!! 


潘璋:ははッ、妹君様!


孫尚香:お前たちは一体何の真似ですか! 海賊か、山賊か! 我が兄様の家臣

    ならばそのような無礼な態度をとるはずがない。ひざまずきなさい! 主君の

    妹に対して礼を尽くしなさいッ!!


潘璋・丁奉:・・・はっ・・・。


孫尚香:またこれへ何をしに来たのですか。


丁奉:お迎えに参りました。


孫尚香:私は呉へは帰りません。夫と共に荊州へ行きます。


潘璋:しかし! 呉侯の命令ですぞ!


孫尚香:わたくし達は、母様のお許しを得て城を出たのです。親孝行な兄様が逆

    らうわけがない。お前たちは何か聞き違えたのでしょう。


潘璋:いえ、呉侯の仰せられるには、首にしてでもとの事でした。


孫尚香:わたくしを・・・首にしてもですって!?


丁奉:あ、いや、その・・・失言しました・・・、劉備の事です。


孫尚香:お黙りッ!!!


丁奉・潘璋:ははァッ!!!


孫尚香:わたくしへ刃を向けるも、我が夫へ刃を向けるも同じです!

    たとえわたくし達夫婦がここに死すとも、ここにいる趙雲がお前達を決

    して生かして帰しはしません。また、生きて帰れたとしても母様がどう

    してお前達をそのままにしておくものですか!

    その覚悟があるなら、剣なり槍なり持って、我が前に立ちなさいッ!!


ナレ:四人の将軍は、誰一人として立ち得なかった。趙雲が兵達を率いて殿軍しんがり

   位置し、目を怒らせて四人を睨みつける。その中、孫尚香は車に飛び乗る

   なり、さっさと先へ進めて行ってしまった。


潘璋:・・・残念だが・・・どうにもならんな・・・。


丁奉:あのじゃじゃ馬姫にはかなわぬ・・・。


潘璋:まったくだ・・・、呉侯になんと復命したものか・・・。


丁奉:うっ、あれは・・・蒋欽に周泰ではないか?


   【間】


周泰:やあ、丁奉殿に潘璋殿ではないか。劉備はいかがした?


潘璋:いや・・・その、面目ないが通してしまった。


周泰:な、なにィ!? どういうことか!


丁奉:呉侯とは兄妹の仲、家臣が差し出がましい・・・だそうだ。


周泰:ッそんな事では、追っ手の任を果たす事などできないではないか!

   これを見られぃ!

   呉侯の剣を預かって参った。もし従わぬとあれば、二人とも首にして持ち

   帰れ、との厳命であった。


潘璋:ぬうう、御剣ぎょけんとは・・・、我が君のお怒りの大きさが分かろ

   うというものだ・・・。


周泰:丁奉殿、徐盛殿、貴公らはこの事を周都督に報告し、水上から長江の岸と

   いう岸を塞がれよ! 陳武殿、潘璋殿は我らと共に劉備を追うのだ!

   必ず、柴桑の地にて彼奴きゃつらを網の中の魚とするのだ!!

   

丁奉、潘璋:おうッ!


ナレ:一度は窮地を脱したかに見えたが、劉備らの向かう道は刻々とせばめられて

   いった。そして柴桑の城を横目に遠く迂回うかいし、また長江の岸沿いを逃げに

   逃げ、いつしか諸葛亮に錦の袋で指示された、劉郎浦りゅうろうほと呼ぶ漁村へと辿り

   着いた。

   しかし、漁村という割には船のひとつも見当たらず、劉備の顔には焦りの

   色が浮いた。


劉備:趙雲・・・ついに、進退窮しんたいきわまったな・・・。


趙雲:いえ、まだご落胆には早いかと。先ほど軍師から預かった錦の袋の最後を

   開けてみました。

   激しき波の如き呉軍の追撃にあうも惑うなかれ。劉郎浦りゅうろうほあしよしがこれに

   応えん。天蓋てんがいの破れた車や馬はここにその役目を終え、舟にて一同にかい

   ん・・・との事です。

   思うに、軍師には必ず考えあっての事かと存じます。信じて待ちましょう

   。


劉備:そうか・・・、うっ、あれは・・・人馬の土煙つちけむり!!


趙雲:ぬうう、呉軍が追いついたか! 陳武と潘璋に・・・蒋欽、そして、周泰

   ! 呉でも一、ニを争う勇者が・・・!


孫尚香:今は・・・もはやこれまで。 覚悟を決めなければ・・・!


ナレ:その時である。劉郎浦の湾内が一度にさざなみ立ち、あしよしの陰からニ十艘にじゅっそう

   の早舟はやぶねが見る間に帆を立て、岸に漕ぎ寄せてきた。

   そして口々に劉備達を呼びたて、いざ早く乗り込ませたまえと叫んだ。

   それらの中に一際ひときわ目立つ、輪巾りんきんをいただいた道服の人物。

   すなわち、諸葛亮孔明であった。


周泰:ぬうう、その舟、待てぇッ!!!


潘璋:くそっ、間に合わなかったか・・・!!


ナレ:遅れて岸までやってきた呉軍は、ひしめき合いながら口々に叫んだ。諸葛

   亮はそれらを白羽扇びゃくうせんで指すと、他の多くの舟から陸に向けて沸き起こる

   嘲笑を背にして、高らかに声を投げかけた。


諸葛亮:既に我が荊州は一つの国。一国が一国を計略に掛けるも良し、攻めるも

    また良し。だが、美人をもって相手を釣るような策は下策げさく極まる。

    汝ら、帰ったらよく周瑜に伝えるがよい。再びこのようなつまらぬ策は

    ろうするなと!


諸葛亮・孫尚香・周泰・ナレ以外:【嘲笑う】


周泰:ぅおのれぇ、矢を射ろッ! 


潘璋:よせ、周泰! どうせ当たらん! それよりは周都督や丁奉達の水軍に合

   流するのだ!


周泰:くっ・・・承知した。


   【長めの間】


劉備:ふう、一時はどうなる事かと思ったが、これで一安心だ。


諸葛亮:いえ、まだ安堵なさるのは早いかと。周瑜がこのまま我らを逃がすはず

    がありませぬ。柴桑から出てくるとすれば、そろそろかと。


趙雲:軍師、前方から呉の軍船が!!


孫尚香:追っ手ですか・・・!?


諸葛亮:はい、恐らく。


    【間】


    ほう、すいの旗印が翻っているところを見ると、周瑜直々に出陣してきた

    か。ふふふ、まだ矢傷も治りきっていないだろうに・・・。

    よし、かねてからの指図どおり、舟を岸につけるのだ。


劉備:軍師、どういうことか?


諸葛亮:軍船を操らせ、水上に戦わせては、周瑜は天下に並ぶ者がおりませぬ。

    それゆえ、我らは陸路を取ります。孫夫人、こちらへ。


孫尚香:はい! しかし、さすが聞きしに勝る方ですわ。全て見通されているか

    のようです。


諸葛亮:いえ、至って小さな才覚しか持ち合わせておりませぬ。さあ、皆急ぐの

    だ。


丁奉:都督、劉備らが陸路を取りました。


周瑜:よし、我らも上陸せよ。劉備を逃がすなッ!


ナレ:呉の水軍は上陸して劉備らの後を追った。丁奉、潘璋、周泰らと共に周瑜

   も飛ぶがごとく馬を早めた。


周瑜:ええい、まだ追いつかんか! ここはどの辺だ?


丁奉:黄州こうしゅうの境にあたります。・・・うっ!?


周瑜・丁奉役以外全員:【喚声】


周瑜:こッ、これは! 劉備の軍か!?


関羽:我が君に刃を向けんとする者共、この関雲長かんうんちょう青龍偃月刀せいりゅうえんげつとうさびにしてくれ

   るわ!!


周瑜:ぬうう、小癪こしゃくな! ええい、蹴散らせィ!!


関羽:どけィ、武者共ッッ! 邪魔するな!! ぬおうッ!!!


周瑜:な、なんという豪勇だ・・・このままでは・・・うッ、あれは!?


黄忠:ふふふ、軍師殿の策にまんまとかかりおったわい。

   長沙ちょうさの黄忠これにあり!! わしの手にかかるとは、

   うぬらは果報者ぞ!!


周瑜:何い、左手から伏兵だと!! 我らの動きが読まれていたのか!?


黄忠:逃がしはせぬぞ! それッ、者共! 周瑜を生け捕れィ!!


丁奉:うっ、都督ッ、右からも劉備軍が!!


魏延:我こそ劉皇叔の配下、魏延なり! いざ、周瑜に見参けんざんせん!!

   うおおおお雑魚共どけえぇぇいッ!!


周瑜:しまった! おのれ諸葛亮め、ここまで備えていたというのか!!

   退け、退けぇーーーッ!!


魏延:待てィ、周瑜!! せっかくここまで来ておきながら、一戦も交えずに

   逃げるか!! 返せッ! 戻せッ!!

   潔くこの魏文長ぎぶんちょうと一騎討ちしろッ!!


周瑜:ぬううう、急いで船へ戻るのだ!!


ナレ:あらかじめ諸葛亮の指図で潜んでいた伏兵に襲われ、呉の将士は満足な戦

   いもせずに続々と討ち死にを遂げていった。慌てて退却し、船へ乗り込み

   流れに向かって漕ぎ出させると、追ってきた劉備軍の将兵が岸に並び、

   散々に罵声ばせいを放った。


関羽:見よ、者ども! あの見事な逃げっぷりを!! ははははは、笑え笑え!

   周瑜の妙計は天下に高し、夫人は取られ、兵も討たれたわ!


黄忠:まったくじゃ! いったい何の面目あって呉へ帰ろうとするやらのぉぅ!

   はははは!!


周瑜:おぉのれえええ!! ならば、陸へ戻ってもう一度決戦してくれる!!

   船を岸へ寄せろッッ!!


丁奉:お待ちくだされ! この傷ついた軍で再び戦いを挑むのは無謀でございま

   す!!


周瑜:ぬっ、ぬぐぅぅぅうう! ええい、離せッ!


周泰:お鎮まりください、都督!! ッ早く船を出せィ!


周瑜:【船の縁を叩く】

   ぬぐぐぐぐッ、無念! 実に無念だ!! こんな屈辱を受けて、この大都

   督周瑜たる者が、なんでおめおめ呉侯や呉の民、将兵達に顔向けがなるも

   のか!!

   わしは、わしはッ!! 恥を知っているッッッ!!!

   う、うぐっ、げほッ、ぐはァッッ!!!【吐血】


潘璋:ッ都督っ、周都督ッ!? お気を確かに!!


周瑜:・・・・・。・・・・・・・う・・・ッ。


周泰:おおっ、都督! ・・・お気が付かれましたか!


周瑜:・・・ッ船を・・・船を、呉へ・・・向けてくれ・・・。


潘璋:はっ・・・! 柴桑へ急げ!!


ナレ:計略全て水泡に帰した周瑜は、恨みの涙をのみながら再び病床びょうしょうに親しむほ

   かなかった。この始末を知った呉侯孫権は怒りのやり場も無く、周瑜に勧

   められたのもあって荊州侵攻の軍議を開こうとしたが、重臣・張昭ちょうしょういさ

   られる。

   曹操に劉備との不仲を悟られぬ為、そしてそれに付け込まれて両者が同盟

   を結ぶのを阻止する為、平原出身の人物、華キン、あざな子魚しぎょを招くと、

   劉備を荊州太守けいしゅうたいしゅに推薦するべく、朝廷へ使者を出したのである。



END


はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。

・・・うん、街亭の戦いだけじゃ終わんないって思ってた(;^ω^)

まぁ、全部青い人が悪い(わりと冤罪←

好きで書いてるから良いんですけどねェ( ・∀・)ノ

例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)


もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた

だければ聞きに参ります。録画はぜひ残してください。

ではでは!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ