子竜、本気出す
「きゅきゅきゅきゅ!」
フィズの軽快な鳴き声? が響く。
今日のフィズは手加減をしてるのか少しばかり怪しい。
騎士団の皆さんと精霊さん達は巨大なエレキキュールの一撃によって恐慌状態になり、まともに動けていない。
そんな人たちに向けてフィズは追撃に小さなエレキキュールを放ち、確実に戦闘不能へとしていく。
「ぎいや!」
『ぐぇ……』
『な、なんなのですあれ! きゃぁぁ!』
人間も精霊も関係なく平等にエレキキュールを食らわせていくフィズ。
当然、その平等の中には今まで精霊さん達と争っていたリリィも含まれててたみたいで、エレキキュールを食らったらしいリリィは体を痙攣させ、白目を向いて光の粒子となって姿を消した。
「リ、リリィ!」
「多分、精霊界に帰ったんだと思いますよ」
リリィが消えた事でアリスが凄く動揺してるけど、私にしたらよく見る光景だから特に驚かない。
たまに精霊さん達が魔法で自爆したり、ソラウに吹き飛ばされたりしてあんな感じに消えてるのを見たことあるし。翌日にはケロっとした顔で戻ってきて遊んでますからね。
それにしても騎士さん達は反撃しようにもフィズは空を飛んでいるわけだから武器による攻撃は届かないみたいだ。
魔法を撃てる人は魔法による攻撃を放っているけとフィズに当たる前になんか障壁みたいなものにぶつかったかのように霧散していく。
私の風の壁と同じようなものかな?
「すごいね。上級魔法無効化してるよ」
「あれが竜だけが持つと言われる魔力障壁か」
皇帝さんとレオンさんの呟きを聞いてるとどうも違うみたい。
確かに私の風は防ぐのであって無効化なんて出来ない。風より威力が高い魔法なら楽々と貫いてくるだろうし。
ということはフィズは本人が言うみたいにかなり強かったって事になる。
皇帝さん曰く上級魔法を無効化してるわけだしフィズにダメージを与える事ができる存在ってもしかしてかなり少ないんじゃないかな?
『うう、はやぃぃ』
『おいかけてくるぅ!』
『このびりびり、かたこりにきくぅ』
リリィの攻撃は軽やかに避けてバカにするだけの余裕があった精霊さんだけど、どうやらフィズの攻撃を避ける時には余裕がない。
いや、一部の精霊さんには好評だ!
『むう!』
『やられてばかりのぼくたちではないのです』
『ばいがえしだー』
ひたすらに上空からのフィズの攻撃を一方的に受け続けるだけだった精霊さん達が一斉に身を翻してオリハルコン像へと飛んでいった。
「きゅううう!」
それを見たらしいフィズは再び口を大きく開くと青白い魔力を溜め始めていた。
『おりはるこんぼでぃーに!』
『まほうはきかない!』
『まりょくたいせーあり』
精霊さん達が入り込んだオリハルコン像、カラミティの瞳が怪しく光りを放ち、大量の手で握っていた武器を放り投げるとその大量の手が拳を作り構えた。
「きゅぅぅぅぅぅぅ!」
フィズが大きく口を開けて溜めていた魔力を放つべく、照準をカラミティへと向けていた。
『あ、ふぃずさまほんきだ』
「え、本気?」
今まで本気じゃなかったの⁉︎
あの威力で?
『ふぃずさまのさいきょうひっさつ、えれきぶれすだ!』
再び巨大球体…… じやない⁉︎
今度は一筋の青白い閃光がフィズの口から放たれた。
『こぶし』
『れんだ』
『ふんさい!』
それに対してカラミティは大量の拳を構えると迫る青白い閃光、エレキブレスに向けて連続で拳を叩き込んでいく。
拳がエレキブレスに叩き込まれるたびに凄い音が鳴り響き、閃光が弾け飛び、至る所に飛んでいっては着弾地点に穴を開けているし。
「へぶし⁉︎」
「なんだあれ! 盾で防げないぞ!」
余波を食らったらしい騎士が盾で防いでたけどあっさりと吹っ飛ばされてる。
どれだけ強い攻撃なんだろぅ。
「こ、こっちきたぁ!」
「にげろぉ!」
カラミティが弾いた閃光の一部は一時的に空高く舞い上がってはいたけどやがて引っ張られるように地面に向かって雨のように降り注ぎ始めた。
「これ、面倒ですね」
『つらーい』
『おもーい』
私が降ってくるブレスの欠片を防ぐために頭上に翡翠色の風を放っていると周りにいて防御魔法を使っていたらしい精霊さん達も苦言を言っています。
精霊樹のおかげかダンジョンコアのおかげか魔力をめちゃくちゃ食う翡翠の風の発動も今はかなり楽になってます。
魔力はあって困らないものですからありがたい話です。
というかフィズがやばい。
ひたすらにエレキブレスを口から吐き出し続けてる。あれって扱いが魔法なのか竜特有の物なのかわからないけどそんなに撃ち続けれるものなのかな?
まあ、それをひたすら拳で打ち払っているカラミティも凄いんだけどさ。
結構離れて見ているんだけどカラミティの拳とエレキブレスが激突するたびに発する衝撃だけで怪我人が出てるし。
でも徐々にだけどカラミティの大量にあったはずの腕が減ってきてるんだよね。
『ひぃー』
『おりはるこんぼでぃにひびが!』
『はやすぎたんだー』
『まだまだー』
カラミティについているらしい精霊さん達からなんか悲鳴みたいなのが上がってるし。ついでに注意して見てみるとカラミティの体のあちこちにヒビが入っていたり欠けていたりする事に気付いた。
これは…… 勝負あったのでは?
というか伝説上の鉱物であるオリハルコンにヒビを入れてるフィズって一体……
『我も混ぜるのじゃぁぁぁ!』
ちょっとばかし思考している私の真上からソラウの声が聞こえた為、上を見上げるとドレスと髪をなびかせながら両腕に巨大な氷の籠手を装備したソラウが猛スピードで飛んでくるのが目に入った。