精霊、苛立つ
「異界化かぁ」
『このまま魔力が渦巻けば俗に言う魔界になるのぅ』
いまいちピンとこない。
異なる世界、異界と言われてもその真ん中にいる私になんら影響があるわけではないからなぁ。
あと魔界と言われてもよくわからない。
ま、わからないんだから考えても無駄か。
「魔法だ! 魔法をひたすらに打って援護しろ!」
そんな思考から魔鏡に映る光景へと視線を戻すと私の眼に映る光景はまるで地獄みたいだった。
いや、地獄とか見たことないんだけどね。
なにせオリハルコン像からは絶え間なく魔法が飛んでくる。
しかも普通ならば一発撃てばしばらく撃てないはずの魔法を連射してきてるわけだから、それを迎撃しようとして魔法を放っている魔法使い達なんだけど、数が違う。
インターバルが必要な魔法使いと違って数で押す精霊さん達はひたすらに撃ちまくる。
当然、防げない魔法は前線にいる騎士の皆さんに向かい、面白いくらいに吹き飛ばしてる。
それでも魔法だけならまだあの聖女って呼ばれてる人の不思議な壁で防げるみたいなんだけどさ。
『ふぁいあーぱんち!』
『みずぱんち』
『かぜぱんち』
『えーと、かたいぱんち!』
せっかく持っていた武器を放り投げ、武器の有利性を捨てたカラミティが四本の腕へと違う属性の魔力を帯びさせて殴りつけた。
その拳が壁に突き刺さるたびに壁が揺れる。
しかし、さすがは聖女と呼ばれる人が張った壁、簡単には破れないらしい。
それに腹を立てるかのように拳の連打が更にえげつない速度へと変わっていく。
拳がぶつかり、壁が揺れるたびに聖女の顔が歪んで歯を食いしばってるし、額には脂汗が浮かんでる。
あの壁、張るのが結構辛いのかもしれない。
『むぅわれない』
『かたーい』
『なんでー?』
精霊さん達が不思議そうな声を上げているわけですが、精霊さん達からは聖女さんの顔は見えないだろうね。
魔法の連射により騎士を蹂躙し、さらには属性魔力を纏った拳をひたすらに打ち続けるという人という種ならば絶対にできない芸当をし続けながら精霊さん達は会話をしていた。
『まほうはれんしゃ』
『こぶしはふやそう』
『そうしよう!』
『ぼくたちもやくわりがふえるー』
どれだけの数の精霊さん達が中に入ってるのかは知らないけど役割がない精霊さんもいるみたいだ。
『あのきらきらさんねらって』
『だんまくうすいよー』
『もっといりょくあげるー』
きらきらさんというのはどうやらレオンさんの事みたい。彼の手にしている聖剣が一瞬眩く光ったと認識した時にはオリハルコン像の腕が一本、宙を舞っていたりする。
オリハルコンって一番硬い鉱物って話だったよね?
しかも飛んでくる魔法も剣で斬ってるし。どれだけ凄い人なんだろう?
精霊さん達はというとカラミティの背中から気持ちわるい数の腕を増やし終えていて、すでに何本あるかわからないようになってるし、その腕が魔法と一緒に雨のように降り注ぐ。
「こ、こんな数はむりぃ⁉︎」
『アリス、泣いてる場合じゃないわ!』
聖女さんは涙目です。
その側の小鳥さんはなんか言葉を喋ってる。凄い!
もしかしてあれも精霊さんなのかな?
「とりあえず斬るしかねえ!」
レオンさんも聖剣を今まで以上の速さで振って拳を叩き切ってる。でも飛んでくる拳の数も尋常じゃないから何発かいい感じの拳がレオンさんにも突き刺さっていく。
『まあ、歴代の聖剣使いならあれくらいは普通じゃな』
『そうですね。驚くほどの事ではありません』
「え、あれって普通なの?」
達人技とかいうやつじゃないの?
『勇者とかならもっと凄いぞ? あいつら剣一本で谷とかつくれるからのぅ』
『魔法特化の勇者なら特大の雷を落としたりしてきますし』
会いたくない。絶対に会いたくないよ。そんな化け物みたいなの。
『むきぃぃぃ! たおれないぃぃぃ』
魔鏡からは苛ついたような精霊さんの声が響いてた。