聖剣使い、放つ
「こ、ここは共同戦線といきませんか?」
「それがいい! いや、そうしないと生き残れる気がしない!」
災害の森の中で帝国と神国の面々は遭遇していた。
どちらも魔獣に追いかけ回されてボロボロの状態であった。そのせいか両国のトップ、皇帝と聖女による共同戦線は簡単に結ばれた。
攻めの帝国と守りの神国。
剣と盾の両国が手を組むことにより魔獣からの攻撃を幾分か楽に対応できるようになっていた。
これが戦争などであれば最強の共同戦線となったであろう。そう、人と人が争うような戦争であれば。
そして空から現れるものがただの魔獣であれば問題なかっただろう。
「止まれ」
空からの異様な気配に気づいた俺は聖剣を持っていない手で後ろを静止させた。
今までも魔獣の攻撃にいち早く気づいてきた俺の言葉に異を挟む者など誰もおらず皆が一斉に足を止める。
「なに? 何かくるの?」
災害の森に入ったばかりの頃と同じように危機的状況にありながらも帝国皇帝ヴィンラントは笑う。
こいつもかなり聖剣に魔力を喰われているはずなのにまだ元気だ。
さすがにこの森で歩けなくなるのは面倒かと思って魔力を吸い上げるのをある程度加減していたんだが、もう少し吸い取ってもいいかもしれないな。
「空から何かくる。防御姿勢を取れ」
帝国騎士達はその言葉で盾を構え、神国側は魔法による防御陣を張り始めていた。
空からの威圧感が増すごとに周囲で俺たちを狙うために潜んでいたらしい魔獣の気配が薄くなっていく。
まるで空から来る何かに怯えるように。
『からみてぃほうふぁいゃぁぁぁぁぁぁ!』
子供のような声が空から響いた。
それと同時に脳内に警鐘が鳴り響いた。
その感覚に従うように俺は聖剣を構えようとしたが即座にやめる。
近くにいたヴィンラントと聖女アリスを抱えて全力で後ろに飛ぶ。入れ替わるようにして赤、青、白、黒と様々な色が混じった魔力の塊が先程まで俺がいた場所へと着弾。凄まじい光と爆音、そして周辺の騎士達を吹き飛ばしていく。
「あれはヤバい!」
空から羽をはためかせながら姿を現した魔獣? いや石像か? とりあえずはよくわからないものを警戒しながら俺は見上げる。
空を飛ぶのは全身から魔力を吹き出しながら空を飛ぶ女性型の石像だった。虹色の輝きを放ち、四本の腕それぞれが違う武器を手にしており、その武器もまた控え目に見ても俺の手にある聖剣と同格の武器のように見えた。
『そらうさまとふぃずさまはあそんだから』
『つぎはぼくらのばん!』
『せいれいへいきからみてぃ、まんをじしてとうじょう!』
子供の声、おそらくは精霊だろう。
その声に合わせて精霊兵器カラミティとやらはポーズを取った。あんまりカッコ良くはないが。
『というわけでここをとおりたくば』
『からみてぃをたおしてゆけー』
『たまにはわたしたちもじゅうりんしたい』
精霊の声が喋り終わると中に浮かぶ像がさらに発光する。そして四本の腕に握られている剣、槍、斧、鞭のそれぞれの切っ先が俺達へと向かう。
「おい、ヴィンラント魔力ありったけよこせ!」
了承を得る前にヴィンラントから無理やり魔力を引き出し、聖剣へと充填し即座に振るう。魔力を閃光として放ち先制を取る。
普通の魔獣ならば消し去るほどの一撃。
この災害の森の魔獣でも多少は手傷を負うくらいの一撃だ。そんな魔獣らが怯えて距離を取るような物に対してどれくらいのダメージが与えれるのか、想像もつかない。
『わ、なんかきた』
『みぎににげよう!』
『ひだりだよ!』
魔力の閃光が迫っているというのに宙に浮かぶ像は微妙に体を左右に揺らすだけで避けるような素振りを見せなかった。
そうして魔力の閃光は像へと迫り、
『『『ギャァァァァァァァァ!』』』
何事もなく直撃し、爆発すると精霊の甲高い悲鳴が森に響いたのだった。