エルフ、バレずに安堵する
「なんかこっちにくるよねぇ」
魔鏡に映る二つの軍勢の様子を見るまでもなく頭の中に浮かぶ地図にこちらに向かってくる反応を感知していた私は椅子に座りだらけながら呟いた。
片方は進む度に周りの反応が消えている感じからソラウが期待する聖剣とかなんだろうなぁ。
魔鏡に映るレオンさんがなんか女の子を抱えながら白く輝く剣を振り回して迫る魔獣を薙ぎ払ってるからこっちが聖剣ぽい。
もう片方は魔獣に追われてるような感じ。よく探せば精霊樹に向かうための安全なルートとかもあるんだけど、そんなものは一切無視して一直線にこちらに向かってきてる。
なんか防御系の魔法でも使ってるのかもしれない。やたらと豪勢な白い服を着てる女性が悲鳴を上げながら魔力を振りまいてるし。壁みたいなのを作ってるけど何度か魔獣がぶつかると壊れてる。そのたびに張り直してるみたいだけど。
『ぐぬぬ、このままじゃ突破されてしまうぞ』
「きゅうきゅう!」
魔鏡に齧り付くように見ているソラウとフィズはなんだか悔しげ。
ソラウは担当場所が違うことからだろうし、フィズの場合は自分のエリアが突破されてしまいそうからだろうな。
『ソラウ様』
そんな中でイーリンスだけがやたらと厳しい顔つきをしていた。
え、私は別に怒られるようなことしてないよね?
この前イーリンスの隠してたおやつを精霊さん達と一緒に食べたことバレてないよね?
『わかっておる』
名前を呼ばれたソラウも苦笑を浮かべていた。
よし! バレてないぽい。
『イルゼ』
「なーに?」
ソラウの声かけに気怠げに応える。
いや、気怠いので帰って寝たい。
『小粒のエリアにいる連中はこちらに招きたいんじゃがいいじゃろか?』
「え、好きにしていいよ。私、別に興味ないし」
「きゅ⁉︎」
むしろ勝手にしてくれて構わない。わたしの安眠に繋がるならそれは大歓迎だよ。
フィズは嫌そうな顔をしてるけどね。
『あ、さいきんみないとおもったら』
『あんなとこにいるー』
『ずるいずるい』
なんだか私の周りにいた精霊さん達も何かに気づいたのか魔鏡の方に釘付けになっていた。
興味を引くようなものが写ってるのかな?
「あ、レオンさん達はどうするの?」
『あー、あいつらな。放っておいてもくるじゃろ?』
ソラウは一枚の魔鏡を指差す。
その魔鏡に映っているのは魔力により白く輝く聖剣と吹き飛ばされている魔獣の姿だった。
『魔力切れにならなかったら問題ないじゃろ』
「まあ、確かに……」
イーリンスも否定しなかったし多分それくらいの力はあるんだろうなぁ。
そもそもあれ、反則じゃない?
聖剣を振る余波だけで魔獣が吹き飛んでるし。
聖剣がどんなものか知らないけどあんなのと戦いたくない。相対したら絶対に一瞬で切り刻まれそうだし。
『まあ、業腹じゃが我では相性の問題もあるから苦戦するかもしれんが負けはせんじゃろ。それにあの程度の使い手ならば小粒でも楽に倒せるぞ』
「きゅい!」
まるで「まかせて!」と言わんばかりにフィズが声を上げる。
え、フィズってあんな歩く人間を圧倒できちゃうの?
歩くトラブルメーカーのソラウなら納得できるんだけど……
『また失礼なことを考えとるじゃろ?』