大精霊、やる気になる
そんな大熱狂していた精霊さん達プラス大精霊と竜はというと盗賊風の方々が全滅したというのに興奮が冷めない様子。
ソラウに至っては『どうじゃ! 我のエリアのボスは強いじゃろ!』と鼻息荒く言ってくる。
途中から精神に影響をもたらしそうな残酷な光景が映り始めたので私とイーリンスはそちらに視線を向けずにイーリンスの入れてくれたお茶を飲んでたけどね。
さすがは植物の精霊、入れるお茶が美味しい。
『ソラウ様、いつも言っておりますが人間を叩きのめしたくらいで調子に乗りすぎです』
イーリンスはカップを片手に持ちながら深々とため息をついている。それに対してソラウは頬を膨らませて不満げだ。
『相変わらずお高い奴じゃのう。我だって時と場合を弁えておる。イルゼの前じゃなきゃ我も一応大精霊ぽい姿でおるわ』
そうだね。でもソラウが精霊ぽかったのは初めて出会った時だけだったしね。大精霊というのも最近知ったし。
『そんな事よりイルゼよ。残りの侵入者を締め上げるぞい!』
『いや、別にいいけどさ。どうしてそんなやる気になってるの?』
今のソラウはやる気ではなく殺る気だ。
なんでこんな興奮してるのか私には全然理解できないんだけど。
『それは多分、聖剣のせいかしら』
「せいけん?」
『おお、さすがはイーリンスじゃのう。気付いておったか!』
私が聞き返した言葉にイーリンスがええ、と頷いたわけだけど、ソラウはそんな声など掻き消すように上機嫌な声を上げる。
『聖剣使いがくるわけじゃからな。それなりの戦いが期待できるというものじゃ』
なんでこんなに好戦的なのかなぁ。
精霊って楽しい事が好きなのはわかるんだけど、大精霊は戦うのが好きなのかな?
まぁ、それは他の大精霊にでも会えた時にでも聞いて確認すればいいか。
それよりも今は気になる言葉が出て来た。
「ねぇ、聖剣? ってなに?」
『簡単にいうなら人の限界をあっさりと超えることのできる武器かしら』
カップをテーブルに戻しながらイーリンスが答えてくれた。
『本来の用途は人では対応できない困難に立ち向かうために創造神が作った物なのよ。それもすっごく強いものなの』
「へえ」
『ちなみにこの世界で魔剣と呼ばれる類の武器というのは聖剣の模倣品ね』
知らなかった。
そんな武器があるのか。
でもそれでソラウのテンションが高くなる理由にはならない気がするんだけど……
『……ソラウ様は聖剣とか魔剣とかそう言った強い力を持つ物が大好きだから。今ソラウ様が追いかけてるディアフロ様もソラウ様よりも強いから追いかけてるみたいだし』
ああ、そういえばソラウはそのディアフロって精霊に振り向いて欲しくて気持ち悪い肉体を作ってたなぁ。最近は見ないけど。あの肉体になるとフィズが吐くから大変よろしい。
それにしても、
「なんか、大精霊ってやっぱり子供だよね」
『あたしもたまにこのまま大精霊になっていいのか迷う時があるわ』
肩を落としているイーリンスの視線の先にはダンジョンコアの周りで騒ぐフィズとソラウの姿があった。
「きゅーきゅー!」
『あんなのノーカンじゃノーカン! 次も我の魔獣でやるんじゃ!』
「きゅー!」
『こら! 噛みつくのは反則じゃろう!』
人の命を左右する選択をしてる割にはなんとも言えないほのぼのとした空気が部屋には広がっていた。