エルフ、精霊樹という名前を知る
精霊樹、それは魔力を生み出す樹でさらには精霊が生まれたりするすっごい貴重な樹らしい。
らしいというのはソラウの話だから、らしいと言っている。
なにせソラウは楽しい事のためなら結構嘘をつくし。それは精霊全体に言える事なんだけどね。
さすがに命の危機に関わる様な嘘はつかないけど私は結構な頻度で騙されていたりする。
でも今回は嘘をついている感じはしない。
だってソラウの目は完全に見開いて信じられない物を見るような眼だし、体を震わせてるからね。
「の、のう」
「なに?」
いつも人を小馬鹿にした様な発言ばかりしてくるソラウが動揺しているのを見て楽しんでいた私にソラウが震えた声で尋ねてきた。
「あの精霊樹はいつからここにあるのじゃ? 我の知る限り精霊樹はこの世界には三本しかないはずじゃ。その三本のある場所の中に泉が近くにある所はなかったはずなんじゃが……」
いつからと言われると……
「昨日からかな?」
「そんなバカな⁉︎ 精霊樹じゃぞ⁉︎ この大きさに育つなら普通は何百年とかかるんじゃぞ⁉︎」
残像が残るくらいの速さでソラウが私へと振り返る。
そんなこと言われても私にはわからないわけだし。
でもあの精霊樹が生えてるあたりって……
「昨日、魔法陣を書いた時に使った枝を突き刺したあたりかな?」
「きゅう」
私に同意するようにフィズも頷いてた。
気分が悪いのはソラウが元の少女の姿に戻ったからかなくなったみたい。
「精霊樹の苗木じゃと…… どんだけ貴重なものかわかっておるのか?」
母様が多分適当に放り込んだ木であることは黙っておこう。なんとなく面倒な小言を聞かされそうな気がするし。
「しらないよ? 世界樹とどう違うの?」
そもそも精霊樹っていうのが初めて見たわけだし。
エルフの里にあったのは世界樹だったから違いが全く分からないんだよね。
「まあ、あまり変わりはせんが、世界樹より精霊樹のほうが魔力を生み出す量も精霊が生まれる数も桁違いに多い。数も精霊樹のほうが断然少なくて貴重じゃな。なにせ世界に三本しかないしのう。これを合わせれば四本じゃが」
「ふーん」
とりあえず貴重なものらしい。
でも確かに初めてこの泉がある場所に来た時よりも周りの魔力がなんとなく濃いということはわかるかな。
「それにこの近くにいると魔力の回復が段違いじゃろ?」
「そう言われると……」
確かに意識して体内の魔力を調べてみるとソラウを喚んだ時にゴッソリと搾り取られたはずの私の魔力は僅かな時間の間にかなり回復してるみたいだ。
精霊は竜などの生き物と違って肉体がない。だから召喚してからも世界に留めるために魔力が必要なんだ。
以前までなら精霊であるソラウを召喚して存在を維持するだけでも魔力がガンガン減っていってたし保てても数十分が限界だった。
それが今は減る量よりも回復する魔力量の方が多い気がする。
「精霊樹は生き物の力を増す樹じゃからのう。側にあれば心地よい物のじゃ。あれが側にある限りお主は魔力に困ることはないじゃろうよ」
むしろ増えるぞ、とソラウは朗らかに笑っていた。
「あ、我もそこの小粒と同様に暫くはこの世界におるからのう?」
「まあ、好きにしたらいいんじゃない? 周りを凍らすのはだめだよ?」
「わ、我だって力の加減くらいできるわ!」
氷の精霊であるソラウが顔を赤くして怒鳴ってくる様を私とフィズは笑いながら見ていた。