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皇帝、計画通り

 

 ガーディ・クロサム伯爵。

 一言で言うならばバカ。もう一言付け足すなら先のことを考えないバカだ。

 そんなバカだけど親が無駄に優秀だったがために資産だけは本当に無駄にある。

 ついでに言うなら雇っている文官もまた妙に優秀なため金に困るような事はなかった。

 そう、なかった。つまりは過去形。

 ガーディが当主になるまでは。

 まあ、貴族の典型である傲慢さがよくわかる人物だ。領地は文官が運営してるわけだけど上がバカなもので無茶なことばかり要求してくるものだからすでに領地は火の車。見栄えばかり気にする私設の騎士団の装備なんて作るからこうなるんだよ。

 しかもその騎士団がこれもまた見栄えだけでなくそこそこに強い。

 ボクを守る近衛騎士団には劣るけど中には騎士団で上位の実力を持ちそうな者までいるくらいだ。

 こいつのどこにそんな人望があるかは首をかしげるしかないね。

 そんな騎士団があるものだからこのバカは他の同様のバカを纏めて一つの派閥を作っていた。名前は忘れたけどね。


 そんなバカ(もうこいつはバカでいいかな)がボクの決定とも言える発言に異を唱えてきた。

 普通ならそんなことしない。

 皇帝は絶対的な決定権を持つ者なわけだしね。

 でも昔から親の金で好き勝手にしてきたバカにはそんなことは理解できないんだろう。

 いや、もしかしたら今の会議どころか今の状況すら理解できていない可能性がある。

 いやぁ、バカを会議に呼んでおいてよかった。これでボクの思惑通りに事が進むよ。


「それはどういう意味か? バ…… ガーディよ」

『バ?』


 危ない危ない。

 心の内でバカと呼んでいる事がバレるところだった。

 レオンだけがボクがガーディをバカと呼んでいる事を知っているので顔を背けて肩を震わせてたけどね。


「言葉通りです陛下。今ならば世界樹の主人とかいうエルフとその魔獣サロメディスとやらが争っているはずです。双方が争い疲弊した所を狙えば容易く世界樹を手にする事ができるでしょう」


 うん、こいつ話を聞いてなかったな。

 場所は災害の森だと言ってるだろ。

 周りへと視線を巡らせてみると主だった貴族達はため息をついていた。こっちは理解してるみたいだ。

 でも一部、バカの派閥の連中はというとやっぱり集まるのもバカなのか「確かに」と納得している奴らまでいる。

 バカはバカを呼ぶ。


「では貴公は世界樹のある災害の森へと兵を派遣しろと?」

「あの魔獣がうろつく森に兵を出すなどと」


 他の貴族達が否定的な言葉を投げかける中、バカは机を勢いよく叩き、言葉を止めさせた。


「それこそが弱腰なのです! 災害の森と我らが帝国が共にあるようになり何年になります! それに所詮は魔獣。我らも日々進歩しています。我らの力を合わせればあの森の中心へと至ることもできるはずです!

 今こそあの森を手にし、我が帝国を大帝国へと大きくする時なのです!」


 初めは我らだったのに我がに変わってるし。いつから帝国は君のものになったのだ。


「ではそのために騎士団を派遣しろと?」

「はい、その通りでございます」


 なんでそんな自信満々に言えるかなぁ? しかもなんでそんなリスクを負わないといけないんだよ。

 ま、ここの面々には森のエルフに大精霊とエンシェントドラゴンがいるということは伝えてないからか。でもそれもある程度調べればわかる程度にしか情報は隠蔽してないんだけど……

 それを調べる能力もツテもないのか。それを差し引いても現実的じゃないと気づかないものか。


「ならば貴公の私軍で行うがよい。なにあの森を貴公の軍だけで手に入れられたのであればあの森は貴公の領地に加えても良い」


 ここまで言えばいかにそれが無謀かという事が分かるだろう。


「それは本当でございますか?」

「……ああ、二言はないぞ」


 だめだ。笑ってはだめだ。

 こんなあっさりと計画通りに行くとは思わなかったけどこれで帝国に害をなす派閥を一掃できるかと思うと思わず顔がにやけそうになる。

 それを頑張って堪えて不敵な笑みくらいに見えるようにした。


「ならばその任は我らが派閥で行わせていただきましょう。では準備がありますので失礼します」


 バカはギラギラと欲望にまみれた瞳でボクに一礼すると早足で会議室を後にした。その後ろをバカの取り巻きが駆け足で追いかけていき、会議室からはバカの一派は姿を消した。そして今この場にいるのは情報を正しく手に入れる事が出来た者たちだろう。

 そんな彼らを見渡し、ボクは軽く笑う。


「さてこれからだが、レオンの述べた通り我が帝国の方針は防御だ。壁に騎士団と魔法使いを派遣する。騎士団は第一、第三騎士団を向かわせよ。第二、第四は街の巡回だ。森で異常が起こり民達が不安に駆られ変な動きをしないかを見ておけ」

『了解しました』


 その場にいた者達が皆綺麗に敬礼を返してきた。


「では、騎士団は動け。文官、貴族の皆は会議の続行だ。取り分けるケーキの分量のな」


 すでにこの部屋にいないガーディ派閥の面々は近いうちに確実に死ぬだろう。

 だったら領地を切り分けるのは早い方が混乱は少ない。


「陛下、顔に黒い笑みが浮かんでおりますぞ」

「おっと、誰か白い塗料を持ってきてくれないか? このままではバレそうだ」


 ボクの冗談に会議室に小さな笑いが響いた。


 後日、災害の森で爆音が響いていたのだが騎士団と魔法使いの尽力により帝国は大した被害は受けず、森に入ったガーディ派閥の私設騎士団は十日を数えても帰って来ず。領地は切り分けられた。


 計画通り。

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