幹部、悟る
「ひ、ひよこ?」
な、なんでこんな危険な森の中にひよこが?
でも、このひよこなんか見たことある気がするし、しかもこっち睨んでない?
「ぴよ!ぴよぴよ!ぴぴぴよ!」
な、何言ってるかわからないけど絶対怒ってる気がするわ!
私に言っていることが通じていないという事が分かったのかひよこは私が休んでいる木をその短い脚で蹴り始めた。
見ている分には非常に可愛らしい光景。でも実際はひよこが脚を打ち付けるたびに木が大きく揺れる。
「な、なにすんのよ!」
四度ひよこが蹴りを打ち付けた時点で木はあっさりとへし折れ、私は地面へと放り投げられたため、回転するように着地し、ダメージを軽減させてひよこに向かい叫んだ。
「ぴよ!ぴよよ!」
でもひよこはまるで聞いていないかのようにまだ怒ってた。そんなひよこの姿を見ていて私は思い出した。
「あ!あなた!私がこの森に向かってる途中にちょっかい出してきたひよこね!」
「ぴよ⁉︎」
驚いたような声を出してるけど思い出したわよ!
私がこの森向かってる途中、いきなり空からこのひよこは落下してきたのよ。しかも私のゾンビの軍勢を蹴散らすようにして巻き込んで。
自分で落ちてきたのにまるで私が悪いかのように怒りながら攻撃してきたものだからお腹が減っていた私はゾンビ達に命じて捕まえて焼き鳥にしてやろうと思ったのに逃げられたのよ。
まさかこの森で出会うなんてね!
残り少ない魔力で骨の剣を作り構える。
体のあちこちが悲鳴を上げているけどここで死ぬわけにはいかない!
「ぴよ、ぴよぉぉぉ!」
気合いを入れるように甲高い声を上げる。離れているのに声だけで私を痺れさせる声量。そしてひよこが構え、私に向かって走って……よちよち歩いてくる!
バカにしてるの⁉︎
よちよちと可愛らしさを見せながら歩いてきていたひよこが前のめりになった瞬間、今日、すでに何度味わったかわからないほど食らった衝撃を体に受けて私は空を舞っていた。
「なんなの……」
地面に打ち付けられた痛みと体中から感じる痛みで私はもう言葉を出すのも辛い。
片腕に至ってはあり得ない方向に向いてる。
なんとか体を動かして何が起こったかを見るべくひよこの方を見た。
「は?」
そこには丸くなった毛玉があった。
いや、多分ひよこだと思う。ひよこが丸くなってるんだ。
そのひよこの白いもふもふしているだろう毛には所々に赤黒い物が付着していた。
「まさか、転がってきたの……」
もし、ひよこが前のめりになっていたのが転ける前兆などではなく、攻撃をするための予備動作だったとしたら……
こいつの攻撃は体当たりってこと⁉︎
ひよこも一応鳥な訳なんだけど、鳥としてその攻撃はどうなの⁉︎
「ぴよ」
毛玉状態から元に戻ったひよこが一声鳴きながらのしのしと音を立てつつがら私へと振り返り、私が這いつくばっているのを見て不思議そうに首を傾げてる!
なに、あのなんで倒れてるの? って目は!
「この、ひよこのくせに……」
少し動かすだけでも激痛が走る体を無理やり動かして立ち上がる。その間にもひよこはまたよちよちと体を揺らしながら迫ってきてるし⁉︎
「ぴよ!」
今度は体当たりではなくあまり尖ってもいないくちばしで突こうとしているのか大きく体を仰け反らしている。
そう何度もやられる私ではないわ!
まだ動く片手を動かし、骨の剣を素早く作り出した私は迫るひよこのくちばしを体が痛まないように最小限の動きで躱し、その切っ先を攻撃を躱された事により無防備な姿を見せているひよこの翼へと向け斬りつける。
この森に来てからは自信を無くしそうだけど私の作る骨の剣は只の鉄の剣位なら切り裂くくらいの鋭さを持ってる。
そんな鋭い剣を生き物になんて使えば容易く切り裂く事ができるわ。
動きの遅いひよこへと確かに私は剣を叩きつけた。確かに叩きつけたのに……
「ぴよ?」
「……嘘でしょ?」
やっぱりこの森はおかしい。
ひよこは「なにかした?」と言わんばかりの顔をしてるし全く意に介してない。
なんで鉄の剣を斬り裂ける私の剣を受けてひよこの翼はまったくの無傷なの⁉︎ それどころかどうして私の剣がへし折れてるの。
「はは、むり」
勝てないことを悟った私の口から乾いた笑い声が出た。
そんな私の目の前でひよこはくるりと体を回転させ、その短い脚で回し蹴りを繰り出してきた。避ける気力も無くなっていた私はそれをまた腹にくらい、空高くへと凄い速さで吹き飛ばされた。
霞む意識の中で思った。
この森にはもう手を出さないでおこう、と。