幹部、泣く
「お、おかしいでしょ!」
刃が無いせいで死にはしない。死ぬほど辛い鈍い痛みが体を駆け回るだけ。
これやっぱり私が魔人じゃなかったら死んでるやつよ。
斬られたというか殴り抜かれた部分を手で押さえながら私は痛みを堪えながら立ち上がる。
それに対して黒騎士はというと悠然とした歩みでゆっくりと距離を詰めてきていた。
魔王軍幹部のこの私に対して格上のつもりでいるのね!
「私はやればできる子サロメディス! こうなったら本気で相手をしてやるわ!」
エルフは木の上で気を失ってるみたいだし、どう考えても今、目の前にいる黒騎士こそがあのエルフの最後の切り札! ならばこいつを潰せばわたしにも勝機はあるはずよ!
「来なさい! スケルトン!」
私は地面に手を当ててスケルトンを喚び出す。
すると地面のいたるところから音を立てながらスケルトン達が姿を現した。
ただのスケルトンならば死霊魔法使いである私なら幾らでも喚びだせる。
「あいつを蹂躙するのよ!」
命令を下されたスケルトン達は音を立てながら黒騎士へと向かっていく。
黒騎士のスリットの鬼火が揺らめき、巨大な鈍器が凄まじい速度で振るわれて私の喚び出したスケルトンを枯れ木をへし折るように粉砕していく。
でもそれは想定内よ!
私は魔力を流し続けてひたすらにスケルトンを作り続ける。
それを黒騎士は流れるような無駄のない動きで鈍器を操り粉砕していく。
「ボーンデスナイト!」
スケルトンを生み出しながら周りに散らばった骨を媒介にしてさらに高位のスケルトンを生み出していく。
死霊魔法のスケルトンを喚び出す魔法は媒介に使う骨の量で強さが決まる。
すでに黒騎士の周りは今まで喚び出したはいいけど簡単に粉砕されてしまったスケルトンの骨まみれ! 媒介には充分よ!
砕けた骨が私の魔力に反応して蠢き、今までのスケルトンよりも強大なスケルトンを生み出そうとしていた。
「Vaaaaaaaaaaaaaa!」
「ちょ! まだ作ってる途中!」
またしても咆哮を上げた黒騎士がまだ作成途中のボーンデスナイトに向けて容赦なく鈍器を上から叩きつけてきたし!
作成途中だったボーンデスナイトは満足な強度も得ることも出来ずにまともに動けなかったがためにいとも容易く粉砕。
再び骨の残骸へと戻ってしまった。
黒騎士はそれからも私が複数一気に作ろうとしているボーンデスナイトが現れそうになる場所をわかっているかのように次々と滅多打ちにしてるぅぅぅぅ!
なにあれ! 私が作ろうとしてる場所がわかるの⁉︎
「この鬼! 悪魔! 相手が準備してるなら多少は待ちなさいよ! それでも騎士なの⁉︎」
「Va?」
私が怒鳴ると黒騎士は他にも作られていたボーンデスナイトを潰す手を一時的に止めてしばらく考えるかのように首を傾げてきた。
あ、これってあれかしら?
もしかして会話が成立してる感じかしら?
「私がちゃんとしたスケルトンを作るのを待ってなさいよ!」
「Va」
まるで私の言葉がわかるかのように黒騎士は鈍器を持っていない方の手の親指を立てて了承してきた。
なんだ初めから会話をすればよかったのよ。
生き物? なんだから会話ができるってなんで思いつかなかったのかしら。
上機嫌になりながら私は再び魔力を地面へと流してボーンデスナイトの作成を開始する。
骨が蠢き、固まり、ボーンデスナイトが再び姿を見せ始め……
「Vaaaaaaaaaaaaaa!」
また咆哮を上げた黒騎士は作りかけていたボーンデスナイトへと鈍器を振るい容赦なく叩き潰してきた。
「なんでよぉ! わかったみたいな素振りしたじゃなぃぃぃ!」
知らないうちに流していた涙でボヤけた視界の私が見たのは残像が残るような速度で迫る鈍器の姿とフルフェイスの隙間から見える鈍く輝く紅い輝きとそして、お腹が爆発して消し飛ぶかと感じるほどの衝撃だった。