エルフ、ぶん投げる
なんであんな間抜けな顔をしてるのか疑問だけど。完璧に隙だらけだから私は容赦しないからね?
意外とあっさりと宙を落下していくサロメディスさんを目にした私は瞬時に魔力を翡翠色の風へと変え、即解放し身に纏う。同時に凄い倦怠感が襲ってきたけど歯を食いしばり耐える。
「きりさけぇぇぇ!」
剣を振るうように手で風を薙ぐ。私の手が振るわれた軌跡をなぞるようにして翡翠の風は斬撃のように宙を駆ける。
それは落下中のサロメディスさんへと瞬く間に迫りぶつかる。
翡翠の風がぶつかった瞬間、その場を中心に風が爆発する。広がった風は周りの木々を薙ぎ倒し、切断していく。
土煙が上がり、中心地は見えないけどおそらく木の根すら見えないくらいバラバラに切り裂いてるはず。
この威力なら多分死ぬよね?
一気に魔力を失ったせいで体が重い。
もうスケルトンはソラウ達に任せて今すぐ帰って寝たい。魔法が効かなくてもソラウなら潰しそうだしいいよね?
何もやる気が起きない、寝たい。それくらい体が重かった。
「死んだらどうするの!」
重い体を頑張って動かして帰ろうとした私の後ろの方から声がした。
あー聞いたことある声だけど彼女はもう死んだはず。だからこれは幻聴なんだよ。
「聞いてんの⁉︎この極悪エルフ!」
何かが風を切るような音が耳に入ったので体を一歩横に動かす。すると軽快な音と共に目の前の木にナイフ位の大きさの骨が三本ほど突き刺さった。
もう声の主が誰かわかるけど嫌々振り返る。土煙が晴れ、翡翠の風がぶつかったであろう場所が露わになっていた。
そしてその中心地には服が破けて色々と見えちゃっているサロメディスさんが怒りの形相で立っていた。
「……魔人って皆さん丈夫なの?」
「死にかけたわよ! 見なさいよあちこちに傷があるでしょ!」
額とか指差すサロメディスさん。
確かに血が流れてるけど、どう見ても致命傷じゃない。というか大袈裟に言っても擦り傷くらいにしか見えない。
変わったのは服の露出度と、手にしていた骨の武器がなくなったくらいか。
「かすり傷じゃない」
「女の肌に傷を残して!許さないんだから!」
元気すぎるサロメディスさん。
翡翠の風を喰らったとは思えないような速度でまた私に向かってきた。
「ボーンソード!」
サロメディスさんが何か唱えると両手に再び骨の剣が現れた。あれって何度も作れるような物なのか。なんてずるい。
迫る刃をサロメディスさんから奪った剣で受け止める。刃二本が奪った剣にぶつかり軋む。ついでに剣を持っている私の手も軋む。
「私の剣⁉︎ いつの間に!」
「さっきです、よっと!」
盗まれた事に気付いてなかったのか。
驚いてる間に力を入れて弾き飛ばす。
結構な距離が開いたので私は魔法を乱発するソラウへと声をかける。
「ソラウ、スケルトンは任せたよ」
『任せるのじゃ』
ソラウの頼もしい返事を聞いた私は次の木へと移動を開始。
「逃すか! 返せ私の剣!」
当然、怒りながらサロメディスさんも追ってくる。
正直帰って欲しい。
でも絶対剣を返したくらいじゃ帰らないよね?
仕方がない。やりたくないけど最後の手段を使うとしよう。
精霊樹の方に向かって移動してるから枯渇していた魔力も徐々に回復して行ってる。
恐らくは後一回分くらいの召喚はできると思う。
木から木へと移動を繰り返しながら私はサロメディスさんから奪った剣へと魔力を集めた指で魔法陣を描いていく。
「逃げるなぁぁぁ! 今、剣を返したら首をはねるだけで許してやるから!」
「それ、許してないです!」
めちゃくちゃ怒ってる!
ついでに後ろから何本も骨の槍みたいなのが飛んできてる!
いだぁ‼︎ 肩に刺さった⁉︎
「ぜ、絶対泣かす」
痛みを堪えながら飛び、魔法陣を描き続ける。その間にも骨の槍は容赦なく飛んでくる。
そして魔法陣が描き終わり、奪った剣が光り出したのを見た私は次の木へと飛び移る事をせずに反転。サロメディスと対峙する。
「ようやく覚悟したのかしら? 今更剣を返したって許さないんだから!」
私が止まった事を見てサロメディスさんは笑う。
首をはねても許してくれなさそうね。
でも私だって怒ってるんです!
「私も許しません! 肩に刺さって痛いんですよ!」
サロメディスさんと私は睨み合う。
そして私は持っていた剣を構える。それを見てサロメディスさんは笑う。
「やる気になったみたいね」
それは戦うことが大好きな、村にもいた戦闘狂みたいな笑みだ。私は違う。戦うのなんて面倒だ。なにより戦いはなにも生み出さない。
だからこそ私は自分では戦わない召喚魔法を使うのだから。
「私が戦うわけないじゃないですか」
「はぁ? だったら何で剣構えてるのよ」
サロメディスさんとは違う笑み、人に悪戯を仕掛けた時の笑みを私は浮かべてただろう。
「こうするんですよ!」
私は大声と共に持っていたサロメディスさんの剣を思いっきりサロメディスへ向けてぶん投げた。