エルフ、いじめを目撃する
「なにあれ?」
『さあ?』
木の上から蒼白く燃えて転がる塊を精霊と一緒に眺めてた。
見ている間にもゾンビ達は他の精霊さん達が笑い声と共に魔法で蹂躙しているわけだけどそんな怖い光景から目をそらすようにして私は視線をその燃えている方へと向けていた。
やがて転がり回っていたせいか燃えるのが止まり、その場には焦げたせいかこんがり焼けて真っ黒なローブを着込んだのが倒れていた。
竜魔法でも全部燃えなかったのか。あのローブ凄い。
「あれもゾンビかな?」
『あれはいきてるかんじー』
生きてる感じ……ということはあれが元凶なのかな?
いや、よく考えたらあれ、悲鳴上げてたよね?
なんかゾンビもあれには襲いかかってる感じしないし。よし。
「精霊さん、あれ狙って」
『『あいさー』』
私が塊を指差して指示を出すと精霊さん達は元気よく手を上げるとゾンビに攻撃を加えていた精霊の半数が塊に向けて掌をかざして魔法を発射し始めた。
「な、精霊⁉︎ ふざけて……」
あ、こんがり黒ローブが起き上がってこっちを見ながらなんか叫んでる。
でもそんなこと言ってる間に精霊さん達の魔法が飛んでいってるけど。
こんがり黒ローブもそれに気づいたのか何やら口が動いてた。
そして魔法が着弾。それも次から次へと。
『かわされたー』
『はやーい』
「そうなの?」
私の眼では魔法が直撃したように見えたんだけど精霊さん達には避けたように見えたらしく、すでに違う場所に向かい魔法を放っていた。
あ、確かによく見れば爆発の合間にローブの姿が見える。
「なんなのあの精霊は⁉︎ 森の中でありながら火魔法とかを躊躇いなく使ってきてるし! 自然を敬いなさいよ!」
炎の塊を躱しながらローブが叫ぶ。
でも飛んでくる魔法の塊は尋常な数じゃない。何発か直撃を食らいながらもローブの人物は走っていた。なんて元気な。
うん、私も初めは精霊さん達があんまりにも躊躇わずに火魔法を使うから森が燃えちゃわないか心配だったんだけどね。
どうやらこの森の木は燃えにくいらしい。(でもフィズやソラウ、精霊さん達は簡単に吹き飛ばしている)
さらに言うなら異常なまでの再生能力も有るらしくて根っこが残ってたらニ、三日で再生するらしい。
それは私も確認した。二日寝たら丸裸だった部分にはすでに大木が生えてたし。これも精霊樹の力なのかもしれない。流石にフィズが帝国まで竜魔法で作った道は根こそぎ削りとったみたいで再生はしていなかったけど。
「ええい! ゾンビ共よ! 私を守れ!」
ローブが大声で命令を出すと精霊さん達の魔法に吹き飛ばされながらもゾンビ達がローブの方へと動き出した。
でも、そんな単調な動きを逃す精霊さん達ではなかった。
『ねらいやすー』
『ぼこぼこじゃー』
『いっきにやっちゃえー』
『きみがなくまでうつのをやめないー』
更なる魔法の猛威がゾンビ達を襲う。なまじ集まっただけに被害が酷い。それはローブの人物も同じだったけど。
『かこんでうつ』
『にがさなーい』
「きゅー!」
もう何が起こっているかわからない程に森の中でひたすらに爆発が巻き起こる。
魔法が着弾するたびに肉片が飛んでいき、雨のように降り注いでくる。さすがにそんな雨に打たれたくないので頭上に風を軽く発生させて弾いておく。
「この!理不尽ガァ!」
叫びながらローブの人物が木々を蹴りながら私達へと迫ってきた。
めっちゃ速い。
「きゅう!」
「ぴぎゃぁ⁉︎」
でもそれよりもえげつない速度で私の肩にいたフィズの尻尾が鞭のようにしなる。尻尾の先はすでに速すぎて私の目に見えないくらいだ。
そんな速度で放たれた尻尾は私に飛びかかろうとしていたローブの人物の顔を打ち、容易く吹き飛ばした。
哀れ、吹き飛ばされたローブの人物は飛びかかってきた速度よりも速く打ち返されて大木にぶつかり崩れ落ちた。
しかもそこに精霊さん達が待ってましたと言わんばかり魔法をひたすらに打ち続ける。
これは、あれだ……いじめだ。