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エルフ、驚く

 

 つい寝すぎてしまった。まさか三日も寝てしまうなんて私、不覚不覚。

 寝具もなにもないとこで寝たものだから体のあちこちが痛い。

 体を起こして動かすたびにゴキゴキと音が鳴る。


「キュキュ!」


 さらには抗議を上げるかのようにフィズが私の頭の上に座ってきた。

 あの、重いからやめてほしいなぁ。

 退く気がないフィズを頭の上に乗せたまま不安定な足取りで泉へと歩く。

 顔を洗うべく泉を覗き込むとバランスを崩したらしいフィズは小さな悲鳴を上げながら泉へとダイブ。

 しばらくの間、驚いていたようにバタバタと暴れていたのだが泉の水に慣れたのかご機嫌に泳ぎ始めていた。

 そんな適応能力が高いフィズに微笑みながら顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。


「拭くものがない……」


 洗ったはいいけど拭くものがない。顔はびしょびしょだし。とりあえずは服で拭いておくことにしよう。

 顔を洗い、頭も徐々に動き始めてちょっとした異常に気付いた。


「えぇ……」


 その異常は私の頭の上にあった。

 私が眠る前には泉の近くにはなにもなかった筈だ。

 でも今私が見上げているのは泉の側に以前まで無かったもの。巨大な大樹だった。

 とにかくでかい。

 周りにある他の木が小枝に見えるくらいにでかい。


「なんですかこれ……」


 流石に驚きの声を上げちゃったよ。

 エルフの里にも大樹というか世界樹と呼ばれる樹があったりするんだよね。その世界樹と比べたら小さいけどそれでも大樹と呼ぶに差し支えない大きさだ。


「フィズ」

「キュ」


 水遊びに飽きたらしいフィズが泉から上がり、体を震わせて水を飛ばしているところに声をかけると可愛らしく首を傾げながら近づいてきたのを抱きかかえた。


「これなに?」

「きゅきゅ!」


 私の質問に対して精霊樹! と元気な返答が返ってきた。契約しているからフィズの言葉はなんとなくわかる。でも精霊樹というのがなにか分からない。

 どう言ったものかというのをフィズに聞いてもいまいちしっかりとした返答は返ってこないし、おそらくはフィズも詳しくは知らないんだと思う。

 だってまだ子供だし。


 そんなわけでわかる人…… といっていいかわからないのに聞こう!


 幸いな事にフィズを喚んで枯渇気味だった魔力も回復はしている。

 どうやらこの周辺は魔力が濃いらしいから回復も速いみたいだし三日も眠ったから魔力は充分。

 そう考えた私は地面に屈み手頃な枝を探したわけだけど見当たらない。昨日寝る前に使った木の枝も周りにはない。仕方ないので泉から上がってきたフィズを抱きかかえ、フィズの尻尾を手に取りそれで地面に魔法陣を描いていく。


「きゅう……」


 ペン扱いされ、地面に尻尾を走らせられ、土で汚れていく自分の尻尾を見てフィズが少しばかり悲しげな声を上げるけど私は尻尾を走らせる手を止めない。

 しばらくして書き終えた魔法陣へと目をやり、魔法陣が問題ないことを確認すると抱えていたフィズを降ろすと魔法陣へと手を当てる。


 目を閉じ、意識を集中させ魔力を魔法陣へと注いでいく。

 回復した魔力がどんどん魔法陣へと流れ込み吸われていく。

 フィズもそうだけど私の契約しているのは魔力を食い過ぎる。

 召喚さえしてしまえばあとは維持するだけの魔力だけで済むから楽ではあるんだけど喚ぶまでが難しい。

 普通の召喚魔法ならば魔法陣なんて描かなくても問題なく召喚できる。

 でも私の契約した二体は魔法陣からしか召喚することができない。

 その分強力ではあるんだけど闘いながら喚ぶ事が出来ないのはとても不利なんだ。


「召喚、ソラウ」


 魔法陣が淡く光り始め、流し込んだ魔力が充分になったのを確認した私はもう一人の契約精霊の名前を呼ぶ。

 そして私の魔力がゴッソリと減るのを感じる。次に来るのは凄まじい倦怠感だ。


 輝いていた魔法陣が瞬時に凍りつき、魔法陣のど真ん中に氷柱が姿を現わす。

 氷柱が現れた事により一気に周りの気温が下がり周りの草木が僅かに凍り付いた。


「ソラウ参上!」


 現れた氷柱が一瞬にして砕け散り、中から人形のように整った顔、透き通るような蒼い色をした長髪、そして薄青いヒラヒラとしたドレスをピチピチに着込んだ男性が女性のような声を大きく上げながら姿を現した。


「相変わらず派手な演出ね」


 飛び散り飛んでくる氷の欠片を避けながら私はあまりの不快感から吐き出しそうになるのを必死にこらえながらも呆れたような声をだした。


「きゅぇぇぇ……」


 しかし、フィズはダメだったみたい。

 あまりにショッキングなものを見てしまったせいかフィズはというと嗚咽をもらし色々と吐いていた。

 エルフの美的感覚は竜にも通用するらしい。


「久しぶりじゃのう!イルゼ」


 全身で喜びを表現するようにソラウは私へと身体をクネクネと揺らし不気味な動きで近づいてきた。

 身体が揺れるたびにうすいドレスの下に見える筋肉の脈動が気持ち悪い。

 見れば最強種であるはずの竜フィズは体を震わせながら盾にするかのように私の後ろに隠れていた。


「はぁ、イルゼじゃ! この匂いイルゼの匂いじゃ!」


 ある程度私に近づいてきた事でソラウは鼻を膨らませるようにして私の匂いを嗅いだらしい。そのせいかソラウが興奮したように声を上げてるけど、どう見ても変態にしか見えない。


「キタキタキタ! これがイルゼのすメルゥゥゥゥゥゥ!」


 恍惚とした状態で身体の筋肉をビクつかせるソラウ。もう直視できないくらいに気持ち悪い。


「本当に変わらないね…… ソラウ」


 変態的な格好で変態的な行動を続ける私の二体目の召喚獣である氷の大精霊・ソラウディアを呆れた目で一瞬だけ見た私だったが見るに耐えなくすぐに視界から外した。

 あれは有害すぎる。


 尚、フィズはソラウが近づいたせいでまた吐いた。

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