エルフ、初めて見る
「あれかな?」
木の上に膝をつき、私の目が捉えたのは不気味な一団だ。
歩いているのはかなりの数の人間。
なんかゆらゆら揺れながら歩いてるし、耳を澄ませて音を拾ってみるとうーとかあーとか言葉にならない事しか喋ってない。
あと目が悪いのかな? 木の根に躓いたり、木にぶつかったりして血を流してるけどまるで気にしないで歩いてる。
なにあれ?
『やなにおいがするー』
『くちゃいー』
「きゅー」
付いてきた精霊とフィズはというと私の隣で同じ一団を見ていたのだけど何か臭うらしい。
私はちゃんと水浴びしてるから臭わないと思うんだけど……
不安になって自分の体を嗅いでみるけどよくわからないや。
『イルゼじゃないよ』
『あのいっぱいいるやつら』
『いきてるにおいがしないの』
生きてる匂いがしない?
これはおかしな事を言う。
私の視界にはゆらゆら揺れながらもあるく人間の姿が見えているのに。
『あれにはたましいがはいってないの』
『からだだけうごいてるかんじ?』
とりあえずは生きてはいないという事かな?
精霊達の言葉を腕を組みながら考えていると、一団に変化が見えた。
揺れながら歩く一団に巨大なクマのような魔獣が一匹飛びかかったのだ。
「あー、なんとなく言ってることがわかったかも」
「きゅー」
普通、魔獣に襲われたら叫んだり恐怖からパニックになったりするものだ。
エルフの村でも突然魔獣に襲われたりすると泣いたりする人も多かった。もちろん、冷静になった後で倍返しをしていたけど。
そんなことより今襲われてる人間達なわけだけど。
全くの無抵抗なんだよね。
魔獣の巨大な爪が閃くたびに人間の体の一部が飛ぶ。
それなのに一団からは恐怖の悲鳴や痛みからの絶叫すら上がらない。
空に上がるのは体の一部だけで声なんて上がらない。これは絶対におかしい。
「生きてる感じがしない」
精霊達の言うように『生きている』という感じが全くしない。
まるで人形だ。
動かす人がいないから攻撃されてもただ立つだけの人形なんだ。
「あれってゾンビってやつかな?」
確か村で読んだ絵本にあった気がする。
死んでからも動く者、ゾンビって。
初めて見たから確信はないけど。
『きゅ?』
フィズはわからないと首を傾げてる。
とりあえず、自然に発生するものじゃないよね?
でも数も多いし、あんなのが精霊樹の側まで来たら絶対に面倒だよね。
あ、ゾンビ達が魔獣に反撃しだした。
魔獣の方が圧倒的に強いけどゾンビは数にものを言わせて襲いかかってるし、魔獣が倒されるのも時間の問題かも……
「今なら魔獣ごとやっちゃえるよね?」
『やっちゃう?』
『ほんきだしちゃうよー』
「きゅー!」
どうやら私のやる気に感化されて精霊さんやフィズはやる気満々になってくれたみたいです。
魔獣に群がっている間にゾンビの大軍の一部を消し飛ばすとしましょう!
私が手で合図を出すと精霊達は嬉々として魔法を放ち始めたのだった。