精霊、食わせる
私がポケットから取り出して放り出した物。それはこの森で取れた拳大の木の実だ。
その木の実が放り投げられ地面を転がると聖獣が凄い勢いでどたどたと足音を立てながら木の実を追いかけ、口に咥えると私の元に木の実を持ってきた。凄い尻尾を振りながら。
顔はまるで褒めて褒めて! と言わんばかりだ。
うん、やっぱり犬だ。見た目はひよこだけど。
しばらくは私が木の実を投げて聖獣が拾ってくるという遊びを繰り返した。
終いには私が投げたのを即座に口に咥えるという無駄な反射神経まで見せつけてきた聖獣。凄くイラッとしたからそこからは本気で投げつけてやった。
流石に肩がだるくなってきた事を自覚し始めた頃、森の奥から精霊達が帰ってきた。
『かってきたー』
『ぐらんどぼあ、いなかった』
『だからねおこかとりすかってきた』
『らくしょー』
イェーイと精霊達はハイタッチをして魔法で浮かせてきたらしい肉を地面へと放り投げた。
その肉のあまりの大きさに地面に付いた瞬間、大地が軽く揺れ、私と聖獣は軽く地面から飛び上がった。
目の前にあるのはログハウスと同じくらいに巨大な肉、いやネオコカトリスだったっけ?
多分魔獣なんだろうけど、この森ってこんなにデカイ生き物がいるの?
この森に来てから魔獣らしきものは初めに私を追いかけてきた狼ぽいのしか見てないけど……
実はここって凄い危険地帯なんじゃ……
「って何してるの?」
ちょっと考え込んで目を離している隙に目の前では巨大な炎、というか火柱が上がっていた。
『やきにく?』
『にく、なまよくない』
『でりしゃすにするー』
精霊達がはしゃいでた。
ネオコカトリスは風を扱える精霊達にぶつ切りにされ、土を扱える精霊が鉄をどうやってか作り出してその肉を串刺しにすると火を扱える精霊が作った火柱で焼いている。そして精霊達は火柱を囲むように謎の踊りを開始していた。なんの祭りなんだろう?
それにしてもなんて精霊の無駄遣い! いや、頼んだのは私なのは理解しているんだけどさ……
そんな精霊達が焼き、いい匂いを漂わせている肉を聖獣は見ていた。足元にヨダレの泉を作りながら。
『やけたー』
『おそらくぐっどー』
『でりしゃすまちがいなし』
精霊達の言葉が所々わからないけど多分焼けたんだろなぁ。
肉が刺さった串を『はい、どうぞー』と私へと渡してくる。
串に刺さった肉から肉汁が溢れてる。
うん、凄い脂っこそう。
私はエルフだから食べる必要はあんまりない。嗜好品程度なら嗜むけどね。でも村にいた頃から肉はあんまり食べなかったんだよ。
そんな肉串を手に持ったまま固まっている私の横には脇目も振らずにひたすらに肉を貪る聖獣様の姿が。
お腹減ってたんだろうか? 私のもお食べ。
「ぴよ!」
容易く自分のを平らげた聖獣が私が横に肉を置いたことに気づくと嬉しそうに一つ鳴くと再び肉に齧り付く。
『やけやけ』
『どんどんやけ』
『おどりぐいじゃー』
『ぐっどすめる』
うん、君たちも楽しそうで何よりだね? 言ってる言葉の意味は全然わからないけど。
ひたすらによくわからない言葉を連呼する精霊達はひたすらに肉を焼き続け、聖獣へと出していく。
そこに肉の匂いに惹かれたのかフィズが飛んでくると二体の肉食獣によってネオコカトリスは綺麗に骨も残らず僅かな時間で平らげられた。
全く無駄のない食事だったよ!
あれ? でもネオコカトリスって多分鳥だけど共食いにならないかな?




