エルフ、落とす
「いだぃ」
今日もベッドが傾いた。
当然転がり落ちた私は床に顔を打ち付けられたせいでとても痛い。
ここの所、毎日同じ時間にベッドは傾く。まるでこの時間に起きなさいと言われているかのように。
私としてはもっと寝ときたいのだけどベッドが傾いては寝ていられない。
ついでにログハウスの周りも最近は騒がしいし、ちゃんと寝れてる気がしない。
と言っても殺伐とした騒がしさではなく、楽しそうな騒がしさなのかな?
ログハウスの周辺では精霊達が飛び回りキャーキャーと叫んでいるからうるさいことこの上ない。
「はぁ」
仕方なく起き上がると私は精霊達がどうやって作ったかはわからないタオルケットを片手に部屋の外に出る。
すっごくふわふわで実に気に入っている快眠アイテムだね。
別に寝るのは部屋じゃなくてもいいわけだしね。ログハウスで寝るとまるでログハウスに意思があるかのように昼寝も妨害されるけど、ログハウスから出れば妨害されることはない。
周りの精霊達はうるさいけど。
扉を開けて外へと出ると爽やかな空気が私を出迎える。
軽く伸びをして横を見るとフィズは身体を丸めて眠ってた。
フィズは寝てても妨害されるといったことはないらしい。なんで私だけ…… なにか呪われてるんだろうか?
フィズを起こさないように静かに移動しながら目的の場所を目指す。
目的の場所は精霊達が作ってくれたロッキングチェアだ。あれは精霊達が作ったからか心地よいリズムで揺れるし、ほんのりと陽射しが当たる場所に置いているからお昼寝をするにはとても最適だ。
『いるぜーひるね?』
「そうだよ、エルフだからまったり生きるんだよ」
世の中には働かないと落ちつかないとかいう『わーかーほりっく』なる種族がいるらしい。
なんか寝る時間も削って働くらしいけどそんな種族と私は相容れない気がする。
働いたら負けだと思う。それが私です。
そんなことを考えていると森の方から轟音が響いた。
その音の響く森の方を見ると巨大な氷の柱がいくつも作られていた。
今日も今日とてソラウは森で暴れているらしい。氷柱に混じって炎や竜巻が上がっているのを見ると他の精霊も付いて行ったみたい。
一度魔力を空っぽになるまで使ったソラウはその時にフィズにボコボコにされたのが応えたらしく、契約者である私の魔力を使って魔法を使い森で暴れているみたいだ。
まあ、精霊樹が側にあるから私の魔力は減っても常に回復し続けてるからいいんだけどさ。
ソラウ曰く、治安維持らしい。
私の住む災害の森という名のこの森はソラウが言うには魔獣が異常に発生しやすい環境という事。
ソラウはそんな魔獣が森の外に行かないようにぱとろーるとやらをしてるらしい。よくわからないけど。
わかるのはソラウが嬉々として魔法をぶっ放している事くらい。
初めのうちはうるさくて眠れなかったけど四日経つ頃には気にならずいつの間にか寝れるようになった。慣れって怖いね。
そういうわけで私も精霊達も森から爆音が響こうと動じなくなった。慣れって怖いね!(二回目)
そんな動じない私がタオルケットを持って昼寝の定位置であるロッキングチェアを視界に収めた瞬間、手にしていたタオルケットを無意識に手放し落としてしまった。
『どしたのー?』
『おなかいたい?』
精霊達が私が大事にしているタオルケットを地面に落としたことに驚き、私が凝視している方へと視線を向け、
『『『え……』』』
私と同じように驚愕して口を開けた。
私と精霊達の目の前のロッキングチェアには、巨大なひよこのような生き物がいびきをかいて眠っていた。