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精霊樹のエルフは働かない  作者: るーるー
森の侵入者編
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剣聖、報告する

 

「おい、バカ皇帝。死ね」


 皇帝の執務室の扉を蹴り飛ばして中に入った俺は机の上に山積みになっている書類と戦っているであろう姿が見えない皇帝に対して文句を言った。


「ねえ、ボク皇帝だよ? 帝国で一番偉いんだよ? 不敬だよ?」


 俺の言葉が耳に入ったのか、山積みの書類の横から皇帝、ヴィンラント・エナハルトが銀色の髪をかきあげながら顔を出し、疲れたような黒い瞳を俺へと向けてきた。

 不敬? こいつと俺の仲でそんなものはない。

 ガキの頃からの付き合いだ。

 いまさらこいつが皇帝だからといって下手に出る気はない。

 俺はその言葉を無視して執務室にあるソファーに音を立てて座り込む。

 ヴィンラントの奴も軽く伸びをすると長い銀の髪が零れ落ちる。そして椅子から立ち上がるとテーブルを挟んだ俺の前にあるソファーへと腰掛けた。


「報告書は見たけどヤバかったみたいだね」


 ヴィンラントの奴は楽しげに笑う。俺は全く笑えない。


「ヤバイどころじゃない。災害の森は予想以上にヤバイ。下手に突いたら何が出てくるかわからないぞ」


 行きに遭遇したブラックドッグはまだ災害の森では可愛らしいほうだった。

 それを帰り道で理解させられた。

 何せブラックドッグを容易く食らうような魔獣がわんさかと湧いていたのだから。

 そしてその襲いかかってくる魔獣を精霊達が我先にとまるでポイントを競い合うかのように攻撃し倒していたのだ。

 世界樹の主であるエルフ、イルゼが俺たちの帰る際に精霊を付けてくれていなかったら命がいくつあっても足りない。


「そこまでかぁ。なら世界樹のエルフとは交流は図れないかな?」

「少なくとも俺たち第一騎士団は拒否するぞ? あんな所に頻繁に向かってたらいつか死ぬ」

「剣聖の君がそこまで言うならそうなんだろうけどさ。実際の所厄介な所にできたもんだよ」


 ヴィンラントはため息をつきながらソファーへもたれ掛かるようにして天井を眺めていた。


「災害の森の中心地だ。放置しても問題ないだろう」

「うちはそれでも問題ないんだけど他の国がね」


 災害の森は帝国、王国、神国のど真ん中にある巨大な森だ。大きさだけで言うならば世界最大といわれる我が帝国の三分の一はある。

 魔獣が蠢き、日々魔獣の縄張りが変わる為に生態系も全くの謎。

 まともに調査しようにも一向に進まないために災害の森は暗黙の了解で不可侵な土地になっているのだ。


「それにエルフはわざわざ道を作ってくれたと言うじゃないか?」

「あれはエルフがやったものではない。その近くにいたエンシェントドラゴンがやったものだ」

「待った、エンシェントドラゴンなんて報告書には書いてなかったよ?」

「あえて書かなかったんだよ。エンシェントドラゴンなんて信じるか?」


 一撃で世界を三回滅ぼしてもお釣りが来るほどの攻撃を軽々と放つことができる最強の竜、それがエンシェントドラゴンだ。

 そんなエンシェントドラゴンが道を作ってくれました。なんて報告書に書かれていたら信じるか? 俺なら信じない。

 あのエルフの少女、イルゼの側にいた雷を放つことのできる竜、確かフィズと呼ばれていた竜は間違いなくエンシェントドラゴンだろう。

 雷を纏い、操る事ができる竜というのはエンシェントドラゴンしか存在しないのだからな。

 まだ子供だからこそあれだけの威力で済んだ。もしあれが成体で放たれていたらと思うとゾッとする。

 下手したら国が消える。


「だったらそのイルゼってエルフに協力してもらってエンシェントドラゴンに災害の森の魔獣を駆逐して貰えばいいね」


 こいつはとことん利用する気だな。

 皇帝としては当たり前かもしれんが。


「イルゼの逆鱗がどこにあるのかわからないのにか?自殺行為だ」


 エルフは長命種だぞ。

 長命種は長く生きているからこそよくわからない価値観を持つ事が多い。そしてその価値観の否定が逆鱗であることもまた多い。


「ふーん、ならボクもそのイルゼって子に会ってみたいな」

「行くなら勝手に行け。俺は行かんぞ」

「まあ、世界樹の周辺は安全みたいだからなんとかなるかな?」


 道中は死ぬほど危険だがな。

 なにやらヴィンラントが色々と考えているようだ。


「ああ、そういえばイルゼは服を欲しがってたぞ」

「そうなの?ならプレゼントとして持って行こうかな」

「絶対に怒らせるなよ?国を滅ぼしたくなかったらな」

「君がそこまで言うんだからもちろんだよ」


 胡散臭い笑みを浮かべるヴィンラントを俺は睨みつける。

 一応警告はした。

 それでも余計なことをしようとしているのなら俺はこの国から逃げさせてもらうがな。

 まだ何か悩んでいるヴィンラントを置いて俺は言いようのない不安を感じながらも皇帝の執務室を後にするのだった。



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