エルフ、帰る
「実は城が半壊してるのは見てわかると思う」
「半壊というか廃墟といっても差し支えないですよね」
ヴィがなんか顔色悪く誰が見てもわかるような事実を教えてくれる。
多分、精霊さん達が遊んだらすぐに廃墟から瓦礫にグレードアップする事でしょう。
素人目に見てもここから建て直すって無理じゃないかな?
「半壊した部分に宝物庫もあってね」
「ほほう」
それは大変ですね。私は興味ありませんけどお金って大切なんでしょ? お金集めが趣味な人もいるって聞いたし。そんな物を集めている場所が壊れたら大変です。
「そこにはさ、イルゼに渡す予定だった寝具もあったんだけど……」
「は?」
「宝物庫の崩壊で寝具もボロボロに……ひぃ⁉︎」
なんかヴィが変な事を言ってますね。
私に渡す予定だったものがボロボロになった?
おっといけない、魔力が身体から溢れちゃったなぁ。回復したばっかりなのに。
なんか魔力が漏れたせいで床にヒビが入った気がするけど気のせいだよね? 壊れかけだからヒビが入っただけだよね?
「はぁ」
「い、イルゼ様⁉︎」
「今日が帝国の終わりだったかぁ」
私の深いため息を耳にしたアンとトロワが喚いているけど無視。
代わりに私の魔力に反応して周りをウキウキとした様子で飛んでいる精霊さんへと視線を向ける。
「精霊さんこの城、廃墟みたいな城あるでしょ」
『うん』
『あるねぇ』
私が問いかけると精霊さん達はそれはそれは楽しそうに返事をしてくれます。
これならお願いも聞いてくれそうですね。
「廃墟から更地にしてあげてください。人的被害なしで」
私はにっこりと笑顔でそう告げる。
『さらっとむちゃなちゅうもんしてきた!』
『たのしそうだからやるけど』
『まかされよう』
精霊さん達も大いにやる気みたいです。素晴らしいですね。
対照的にヴィは回復ポーションを飲まされたのに顔色が死ぬほど悪いです。
「それじゃぁヴィ。今日はこれくらいにしといてやります。じゃ、私は帰るので。欲しいものも手に入らないみたいだし。契約不履行ですしぃ?」
「ちょ、イルゼ⁉︎」
ヴィが慌てて立ち上がり、私の服を掴もうとしますが私はそれを飛ぶ様にして躱し、アンとトロワの側へと降り立つと準備がいい精霊さんが持ってきた空飛ぶ絨毯を受け取り広げます。
それに躊躇うことなく乗り、座った私を見たアンとトロワも慌てて空飛ぶ絨毯へと座るのを確認した私は掌に集めたちょっとは回復した魔力を頭上へと放ち、天井を打ち抜きました。
「じゃあね。精霊さんあとは任せました」
『『『りょーかい!』』』
雨の様に降ってくる瓦礫を風で吹き飛ばしながらついでに思い出した事も言っておきましょう。
「帰ってくる時はソラウも連れて帰ってきてね」
『はーい』
「ま、待って!」
精霊さん達の元気のいい声と対極的なヴィのあまり元気のなさそうな声を聞きながらというか無視して私は空飛ぶ絨毯へと魔力を注ぎ込んだ。
空飛ぶ絨毯は私の魔力に応えるかの様に音もなく浮かび上がり、私が作り上げた穴から一気に大空へと飛び出したのだった。
凄まじい音が後ろの方から聞こえてくるけど疲れて、約束を破られて傷心中の私の耳にはよく聞こえないなぁ!
「今回は酷い目にあったなぁ。なんか私の身を守る魔導具を作ったほうがいいかもしれないよね」
『いるぜもまどうぐにきょうみが?』
『ぼくたちもてつだうよ!』
『まかせてー』
精霊さん達とたわいない会話をしながら私達は精霊樹の方へと飛んでいくのでした。
こうして後に歴史に残る最悪の日、「帝国半壊の日」と呼ばれ、エルフの怒りを買った帝国が半壊、そして王城が更地になったという噂が各国に流れたらしい。