エルフ、なすりつける
なんか面倒なことになりそうだからレオンさん達は何人かの精霊を付けてさっさと送り出した。
護衛としてフィズも付けようかと尋ねたのだけど明らかに怖がってる様子で首を振られたので無理には付けなかった。
行く気満々だったフィズは見てわかるほどにがっかりしてたけどね。
「きゅぅ……」
不貞腐れたかのようにフィズは椅子に座る私の足元に丸まっていじけてた。
もう少し手加減すればよかったかもね。今更言っても意味ないけど。
椅子を揺らしていると肌を撫でる風が心地よい。
気候も暑くもなく、寒くもない。まさに絶好のお昼寝日和だよ。
人間の面倒事もなんとかなりそうだし、これからはぐーたら生活が満喫できるよ。
『イルゼェェェェ!』
私が夢の世界に旅立とうとしていると樹々が揺れる程の大きな声が森に響き渡った。さらには先程まで快適であった気温がみるみる下がっているし。下で寝ていたフィズもくしゃみをしながら顔を上げた。
私も寝ようと思い閉じていた瞳を開けると森の奥からとんでもない魔力がこちらに向かってきていることがわかった。
「やっぱりソラウに当たっちゃってたかなぁ」
「きゅう」
フィズが道を作るために放った竜魔法、エレキキュールはどうも森で暴れてたソラウに当たったみたいなんだよね。悲鳴みたいなのが聞こえてたけど気のせいかと思って放って置いたんだけど、この全く抑えていない魔力を見る限りかなり怒ってる。
だって冷気が目に見えるくらいだし。更に言えば精霊達が騒いでる。
『おこだよ』
『げきおこだー』
君達、セリフの割には楽しそうだよね。
そうこうしているうちに感じる冷気が笑い事にならないレベルになってきたなぁ。
欠伸混じりに前を凝視していると薄青色が所々焦げたソラウが森から姿を現した。
『イルゼ! よくも我に攻撃しよったな!』
確かに精霊達が言うように激おこだった。
「やったのはフィズだよ?」
『うきゅぅ⁉︎』
フィズが信じられない物を見るような瞳で私を見てきてるけど、やったのはフィズだよ?
ワタシワルクナイ。
『小粒ぅ』
美少女が向けちゃいけないようなヤバ目な眼をソラウがフィズへと向ける。フィズはというとその瞳に籠る威圧感に圧倒されたのかロッキングチェアに座る私に隠れるように移動していた。
フィズ、君も子供といえ竜なんだからもう少し威圧感みたいなものを出してもいいと思うんだけど……
まあ、目の前の自分勝手な精霊みたいになられても困るんだけどね。
いつまでもフィズを睨んでいるソラウに私はため息をついた。
「フィズは私の言うことを聞いてくれただけだよ? でも契約者無視して勝手にどっか行っちゃう精霊もいるから困るよね〜」
あからさまにソラウの事だとわかるように言うとソラウはバツの悪そうな顔をして視線をフィズから外した。
別に自分勝手に動くのは私としてはいいんだよ。そんなガチガチの契約を結んでるわけじゃないし。
「ソラウも服焦げただけでしょ? それにその服もソラウの魔力で編んだ服なんだからすぐ元に戻せるはずだよね?」
ソラウの服はソラウ自身の魔力で編んだ物だからソラウに魔力がある限り何度でも作ることができる。
つまりすぐに元に戻す事も可能なはずなんだ。しかも僅かな魔力で直すことができるって以前言ってた。
それをしないという事は……
「魔力めっちゃ使ったでしょう」
今度もソラウは私と視線を合わそうとしなかった。つまりは図星。
『小粒の竜魔法がやたらと強かったのが問題だったのじゃ! 身を守る為に半分以上の魔力を使ったのじゃぞ!』
「きゅうきゅう!」
『なんじゃと!』
ソラウの魔力が無いという事がわかったフィズはロッキングチェアに隠れるのを辞め、ソラウに向かい翼をはためかせ、日頃の鬱憤を晴らすかのように襲いかかった。
「きゅうきゅう!」
『やりおったな!』
どちらも魔力を使わずに取っ組み合いを始めちゃったよ。
それを精霊達は円を作るように囲んでワイワイと騒いでいた。
『やれー』
『かみつけー』
『ふくやぶっちゃえー』
『お主ら精霊なら我を応援せんか⁉︎』
『『『え、やだ』』』
同族であるはずの精霊から応援を一切受けれないソラウが声を大にして叫んでいるが精霊達は全く応援しない。
それどころかフィズへの声援が大きくなるだけだ。
フィズもその応援に応えるようにしてソラウを吹き飛ばす。
『このぉぉぉ!』
吹き飛ばされたソラウは土に汚れながらも立ち上がり、叫びながらフィズへとお返しとばかりに突っ込んでいき、体当たりをぶちかます。
「付いてけないなぁ」
徐々に鈍い音が混ざり始めた喧嘩というかそんな騒動を私は耳にしながらロッキングチェアを揺らしながら眼を閉じるのだった。