大精霊、移動する
『ああ、本当に面倒じゃな』
フィオニキスの気配が完全に消えたのを確認した我は手に装備ていたヒュペリオンを消して警戒を解く。
いや、完全に気配が消えているわけではないな。おそらくはまだなにか用事があるんじゃろう。それを証明するように残骸と化しつつある城の方へとフィオニキスの気配が移動しておる。
残る魔獣は雑魚ばかり。それくらいならば精霊や帝国の騎士達でも問題ないだろうしの。
フィオニキスやレオンが途中から割って入ってきよったからきっちりとトドメをさせずにどこか不完全燃焼のような感じがしないでもないが仕方あるまい。
『んで? お主はどうするんじゃ?』
我と同様に武器であるボロボロの聖剣を鞘に収めていたレオンへと声をかける。
まあ、あんなボロボロの聖剣では一度硬い奴と打ち合えば今度こそ折れるじゃろうな。フィオニキスとやり合うなら次こそ完全に壊されるじゃろう。
「納得いかないが脅威がなくなったからヴィの護衛に戻るさ。周りの魔獣ならば他の剣聖でも対応かのうだろうしな。武器の聖剣もボロボロだからどうもしょうがない」
レオンの奴もそれを理解しているのか自ら戦いに行く気はないようじゃ。
仮にフィオニキスの奴が嫌がらせ混じりにアヴェイロンの森の魔獣を捕まえてきとるとすればまともな武器がなければ勝てんからなぁ。多分剣聖とかいう強い奴らでも群れられたら死ぬな。
そこは我の関与する所ではないからどうでもいいがな!
『では我はイルゼの元に行くとするかのう。あやつ魔力切れで寝とったし』
イルゼの奴の魔力は凄まじい物じゃから少し寝ればある程度は回復しておるじゃろうしな。
精霊樹が側にあるわけでもないから完全回復にはかなり時間が掛かるじゃろうがな。
「ああ、加勢に感謝する。しかし聞きたいことがある」
『なんじゃ?』
イルゼのいる王城に向けて歩き出そうとした我であったがなんとなく剣呑な気配を発し始めたレオンが気になったので会話を続けてやることにした。
「あの闇の大精霊とやらは何をする気だ?」
『さあのう? あやつは動くだけで世界を混乱させる天才、いや、天災じゃからな』
あやつの思考なんて想像するだけで無駄じゃしな。
世に混沌あれ、そういう想いから産まれた大精霊じゃからな。
存在するだけ、いや、奴が大きく動くだけで世界が大きく変わるんじゃから。
『あやつの動きを追うだけ無駄じゃ。あやつが動いて混乱が起こるならそれは世界の意思なんじゃからな』
「……そうか」
えらく納得をしとらんような答えじゃな。まぁ、仕方あるまいて。
突っかかった所で奴にはただの人間では勝てんわけじゃし。
ま、飛びかかると言うのであれば我は止める気はない。その返礼がどうなるかはわからんがどうせ碌なことにはならん。
そこはヴィとやらと相談するんじゃな。
そんなことを思いながらイルゼのいる方へと我は移動を再開したのであった。