エルフ、頼む
「重ね重ねありがとうございます」
再び鎧を着込んだレオンさんとその部下の皆さんが私に向けて深々と礼をしてきた。
ひたすらに世界樹をどうするかと聞いてきたレオンさんがあまりにも面倒だったからまた頭を殴って記憶を消しといた。
完全に油断してたみたいだから非力な私でも頭を殴るのは簡単だった。お母様直伝のななめ45度の角度とやらで殴ってみた。
三発殴ったら記憶が飛んだみたいだから適当に精霊樹が生えてるとこに住んでるだけと拳を握って言ったら記憶が飛んでるはずなのに顔を青ざめさせながら後ずさってた。
記憶はないはずなのになんでだろ?
過剰なくらいにポーションを精霊達に浴びせられたレオンさんの部下の皆さんの身体は完全回復していた。
首の骨が折れたり圧迫死していた人達は流石に無理だったけど生きていた人達は全快したと言っていい。
死んでいなければ治せる! それがエルフ印のポーションなんだから。
「こっちも服もらったからいいよ」
「きゅうきゅう!」
私は服を、フィズは干し肉を貰っていた。レオンさん曰く食べ物とは思えない位の硬さの肉、保存食らしいんだけどフィズは嬉しそうに食べていた。
やっぱり竜だから肉が好きみたい。
「それにこんなにポーションまで貰ってしまって」
レオンさんの背中には大きめのリュックが背負われていた。
その中身は私が作り貯めしておいたポーションだ。まあ、折れた骨をくっつけたり、疲労を回復させる程度の効果しかないけど。
「大した効果じゃないから」
「いや、充分すぎるだろう…… 売ればしばらく遊んで暮らせる金が手に入るくらいの効果だぞ」
そう言われてもここではお金なんて使う事はないし。
「強いて言うなら服が欲しいくらいだからなぁ」
さらに欲を言えば快眠グッズがほしい。
ぐーたら生活を送るためには質のいい睡眠は必要不可欠だし。
「なんとかしてみよう」
そんな顔を強張らせて決死の覚悟を浮かべないでほしい。
できたらの要望なんだから…… 深いため息を私の目の前で吐かないでほしい。
「いっそのこと次に来る連中をぶっ飛ばしでもして要求を突きつけたほうが通りやすいと思うぞ?」
「なるほど」
それもアリね。
物事には対価が必要ってお母様も言ってたし。
「フィズ〜」
「きゅ!」
私が名前を呼ぶと名残惜しそうに指についていた干し肉の欠片を舐めていたフィズが大きく返事すると翼をはためかせ飛び上がると私の肩へと止まる。
「面倒だから道作って? あ、国焼いちゃダメだよ?」
「きゅきゅ!」
私の頼みがわかったのかフィズは頷くと再び翼をはためかせて空を飛ぶ。
かなりの高さまで昇るとフィズはその場に制止した。
「なにをしているんだ?」
私と同じようにフィズを見上げていたレオンさんが尋ねてきた。
「多分、どの辺までやるか考えてるね。やりすぎると帝国燃やしちゃうかもしれないし」
「燃やす?」
「さっき言ったじゃないですか。道作ってって」
そうこうしているうちに上空にいるフィズは大きく口を開けていた。
そしてその開いた口の前に蒼白い球体が形取りつつあった。
それに呼応するように今まで晴れていた空がドス黒い雲に覆われ、所々に雷の音が鳴り始めた。
『ぴかぴかだー』
『おへそとられるぞー』
『こんがりー』
光る空に精霊達も騒いでた。
なぜか一人だけ黒焦げだったけど……
たまに空が光り、轟音と共に雷が地に向かい落ちるのだけれどその雷は地面に向かう途中で軌道を変え、フィズの眼前で大きくなりつつある蒼白い球体へと引き寄せられ吸収されていく。そして雷を吸うたびに球体は更に大きくなっていった。
「雷を操る竜、まさかあの竜は……」
「じゃぁフィズ、やっちゃって!」
『きゅぅぅぅぅ!』
フィズの甲高い咆哮と共に蒼白い球体が放たれる。
球体は雷を周囲にばら撒きながら森の一角へとぶつかると爆音を周囲に轟かせた。
ぶつかった拍子に発生した衝撃波が精霊を軽々と吹き飛ばし、レオンさんや部下の皆さんは必死に堪えていた。
「わぁぁぁぁぁぁ」
私は踏ん張りきれずに飛ばされたところを精霊に助けてもらった。
蒼白い球体は地面の一部に巨大な穴を作るだけでは済まず、地面を削り取るようにして進んでいく。かなりの木を巻き込んでいるにも関わらず球体の勢いは全く衰える様子を見せない。
「この跡を歩いていけば一直線だよ?」
「きゅう!」
服についた砂を払いながら私はフィズが作った跡である道を指差す。
一仕事終えたらしいフィズは上機嫌な様子で私の肩へと舞い戻った。
やっぱり竜も定期的に暴れさせてストレスを発散させた方がいいのかもしれない。なんかフィズの顔が爽やかだし。
「な、なんという威力だ……」
レオンさんは何故か体を震わせていた。後ろの部下のみなさんも同じように震えていた。
さっきのフィズの攻撃はエレキキュールという雷の竜魔法らしい。さらに上の竜魔法もあるらしいけどフィズはまだ使えないって以前聞いた。
これで道なりにいたであろう魔獣は多分吹き飛んだよね。
『な、なんじゃぁぁぁぁぁ⁉︎』
『わぁぁぁぁぁぁぁ!』
まだ木々をなぎ倒しながら突き進んでいたエレキキュールが森の半ばを通り過ぎた時、聞き慣れた声が耳に入ってきた。
あ、ソラウに当たったかも……