前皇帝、襲われる
ガリガリと何かが削られるようなあまり聞きたくない音が謁見の間に響く。
ついでに目の前に広がる光景というのもあまり心に優しくないような光景だ。
なにせ目の前には三匹のマーダーベアーと呼ばれるクマの魔獣がゴーシュを守る黒い球体に爪を押しつけて削ろうとしてるんだから。
「な、なにをしてるお前ら! 敵はあっちだ!」
必死にゴーシュの奴が大声を上げながらボク達の方を指差しているけどマーダーベアーは見向きもしない。
それどころか興奮するかのように勢いよく爪を黒い球体に向かって咆哮を上げながら叩きつけている。
中心地にいるゴーシュは守られてはいるものの生きた心地はしないだろうね。
今のところ黒い球体に傷らしい傷は見られないけど魔導具の力も無限じゃないだろうし魔導具の魔力が切れたらゴーシュの奴もミンチになるだろうね。
「レオン、アレ倒せる?」
ボクがゴーシュに夢中になっているマーダーベアーを指差して既に戦う気がなくなっているらしいレオンへと尋ねる。
「マーダーベアーか? まあ、三匹位ならギリギリだな。今ならゴーシュの奴に意識が向いてるか何匹か殺っとくか?」
ギリギリなんだ。
「一匹ずつなら問題ないが、あいつらは連携して狩りをするから厄介なんだ。しかもあの爪は魔力が込めれるみたいで弱い魔法なら切り裂く。下位の魔剣にはなるらしいから鍛冶屋に爪を持っていくと高く買い取ってくれるくらいだ」
「へー」
あの爪、売れるのか。
そんな事を言われると爪というには長いというかショートソード位の長さはあるマーダーベアーの爪についつい意識が言ってしまう。
レオンには殺したら剥ぎ取ってもらうようにしなければ。
「それにしてもなんであのマーダーベアーはゴーシュの奴に群がってるんだろね?」
召喚されてからもボク達の方を見たのは初めだけだったしね。
対峙したレオンすらも今はもう眼中にないようだし。
「ああ、多分血だな」
「血?」
「ああ、マーダーベアーは血にすっげえ敏感に反応するんだ。聖剣で叩きつけて吹き飛ばした時にゴーシュの奴防御したけど鼻血出しただろ?」
そう言われたら魔法と召喚陣を使う時に血を拭ってたね。
「あいつらはアヴェイロンの森の浅い所にいて血の匂いがしたらすぐにそこに現れる。だから罠に嵌めるのも容易いから脅威度は低いんだよ。まあ、数が少なければという条件があるがな」
「……」
あんなショートソードみたいな爪を持ったクマが浅い所でもでるのかぁ。
以前、向かった時は出なかったけど運が良かったと言うべきなんだろうなぁ。
やっぱりおかしいよアヴェイロンの森は。
「そ、それで陛下」
「ゴーシュのやつをどうするつもりです?」
いまだにガリガリやってるマーダーベアーにビビりながらも助命嘆願をしてきたアマーリアとニグルレッドが尋ねてきた。
ん? 何言ってんの?
「え、殺すよ? いい加減しつこいし。君達が協力してた貴族の名前を言ってくれるんでしょ?」
「それはそうですが」
「なら用済みだよね? どっかの開拓地にでも埋めよう」
用がなくなったらゴミはゴミ箱に。
これは当たり前のことだよ。
つまり、前皇帝でありながら現皇帝の邪魔をしてくるゴーシュは生ゴミなわけで。リサイクルが必要ってことさ。
土に埋めたら多少の肥料代わりにはなるか。
「ならあの魔力の球体が無くってマーダーベアーが攻撃に転じた時に首はねるか」
「そうだね。顔だけは取っとかないとね。晒し首用に。あ、アマーリアそこのポッドに入ってるお茶入れてくれる?」
「は、はい」
こうしてボクはアマーリアから震えるお茶の入ったカップを渡してきた受け取り、お茶を楽しみながらその時を待った。
そして、その時はすぐにきた。
ゴーシュが出鱈目に魔法を乱射してくるという予定外の行動を伴って。