剣聖、自覚する
「最近、相手にしてるのが人外の力を持つやつばかりだったから自分の力を再確認できるお前みたいな奴がいて嬉しいよゴーシュ」
両手に持つ聖剣を構えながら俺は笑う。
そう、ここ最近は人外レベルの奴らとの遭遇が酷すぎる。
あの精霊樹が姿を現してからとか特にな!
精霊樹が現れたことにより強化されたらしい森の魔獣。精霊に大精霊。さらにはエンシェントドラゴンにエンシェントエルフ。
いかに帝国最強と言われる剣聖でも強化された魔獣ならなんとかなるがそれ以外は無理だ。
魔獣でも災害級のものなのに精霊などは災害級すら上回る。いっそ天災級だからな。
なんか俺強いのかわからなくなってきたよ。
最近では同じ剣聖であるヤークウッドも精霊達にボコボコにされていた。
ジェフ爺の奴も精神的にやられてたしな。
体にも心にも傷を負ってないのはテレサくらいだろう。
かく言う俺もヴィの奴に「有事の際にアレと戦ってもらうよ?」とエンシェントエルフであるイルゼを指さされた時に心が折れそうになったからな。
剣聖って言っても大して強くないんだよなぁと自信を喪失しかけていた。
そんな折にクーデター首謀者がわざわざ目の前に現れてくれた。
今までの化物じみた奴らよりは明らかに格が下がるような奴が。一応は元王族。それなりには強い。
だから、
「ボコボコにしてやる」
「なめるなよ、若造が!」
黒い球体に守られてはいたようだが衝撃は殺しきれなかったらしいゴーシュが鼻から零れる血を拭いながら吠え、杖を掲げる。
杖の紅い宝石が輝くと幾つもの炎の球がそこから放たれ、俺へと殺到してくる。が、
「遅い、というかなんだそれ?」
大した速度でもないので魔力を使わずに身体能力のみのステップで易々と躱す。
飛んできた魔法は騎士団と訓練している時に精霊達が放つ魔法よりも遥かに遅い。
精霊の放つ魔法はゴーシュのように魔法を放つという予兆すらない。まるで息をするのが当たり前というような自然な流れで放たれるんだから。躱すのにも神経をすり減らす。
それに対してゴーシュの魔法はなんだ? 魔法を放つまえには明らかにタメみたいなのがあるし、場の魔力が揺らぐ。いまから魔法を打ちますと宣言してるような物だ。
軽いため息と共に床を蹴る瞬間に脚に軽く魔力を流し、砲弾のような速度でゴーシュへと迫る。
魔法を放ったゴーシュはそれで倒したと思っているんだろう。近付いてきている俺に気付きもしない。
そんなゴーシュの間抜け面に向かって左右の聖剣を挟み込むように繰り出す。
再び聖剣はゴーシュを守る球体に阻まれる。
「な、何で生きてる⁉︎」
ゴーシュも衝撃に驚いたみたいだがそれよりも俺が目の前にいる事のほうに驚いているようだ。
「あん? あんな遅いの当たるわけないだろ?」
「ぶさけるな!」
また杖の紅い宝石が光り輝く。
今度はゴーシュの周りに幾つもの召喚陣、そして俺の目の前には魔法陣が現れると共に床から土の腕のような物が生えてきた。
即座に床を蹴り背後へと下がることで土の腕による攻撃を躱す。
なるほど、召喚陣を斬られないように魔法による牽制を混ぜてきたか。多少は考えれる馬鹿だったか。
近づかせないと言わんばかりにこちらへと迫る土の腕の群れを聖剣を振り回すことで両断していく。
「く、魔法を両断するとは腐っても聖剣か」
ゴーシュの奴が忌々しいものを見るような目で俺の手にある聖剣を睨みつけている。
うん、やっぱり聖剣って凄いよな。大して魔力を込めなくてもこの切れ味だ。
全力に近い魔力を込めてようやく倒せるアヴェイロンの森の魔獣が異常なんだ。
あれ、やっぱり俺強くね?
迫る土の腕を次々と斬り捨てながら不意にそんなことを思う。
普通魔法なんて斬れないよな?
精霊とかフィズとかが簡単に魔法を迎撃してるのを見てるからアレが普通と思い込みかけてたけど。聖剣があって初めてできるようなものだしな。
やっぱり俺はつよい!
「今度こそ死ねぇぇぇぇい」
土の腕による時間稼ぎができたからかゴーシュの周りの魔法陣の輝きが増していた。
そして輝いている魔法陣からは巨大なクマの魔獣が姿を見せた。それも三匹も。
普通の魔獣よりも明らかに強そうだ。
「いくら貴様が強かろうと災害の森にいる魔獣には勝てまい!」
ゴーシュの奴が勝ち誇ったように宣言する。
いや、今は災害の森じゃなくてアヴェイロンな? 仮にも皇帝に返り咲こうとしている奴が情報収集しなくてどうするんだよ。
「いけぇい! マーダーベアーよ! 忌々しい剣聖と偽りの皇帝を食い殺せ!」
マーダーベアーと呼ばれる魔獣が俺へと目線を向けてくる。
三匹のマーダーベアーがその鋭い爪を構え、それに対して俺も左右の聖剣を構えた。
何度か討伐したことはあるが召喚で強化されてたら面倒だな。
睨み合うかのように対面して時間が過ぎる。
マーダーベアーが脚に力を込めるような動作を見てとった俺は聖剣を握る手に力を込める。
三体のマーダーベアーが床を踏み砕くように駆け出す…… ことはなく反転。
その鋭い爪を黒い球体に守られているゴーシュへと向かい繰り出されたのだった。