皇帝、対峙する
「助命?」
「はい!」
「私たちはあいつと心中する気はありませんので! あんな化け物じみた戦力を保有する陛下に挑むなど愚の骨頂です!」
謁見の間で床を叩き割る勢いで土下座をかましてきた二人、ニグルッドとアマーリアの二人は額から血を流しながら必死の形相で話しかけてきていた。
いや、興奮すると傷から血が吹き出してるんだけど……
化け物じみた戦力ってのは多分、イルゼと精霊なんだろうなぁ。
あれは厳密にはボクの戦力ってわけじゃないだけどボクとイルゼの関係を知らない人達からみたらボクがイルゼを従えているように見えるってことか。
このまま誤解していてもらおう。
二人の話を簡単にまとめるとゴーシュの奴はこの二人のところでやっかいになっていたらしい。
それもお金を湯水のように使う厄介者として。
口を開けば「自分こそが皇帝に相応しい」だの「あの娘が皇帝を続ければ帝国は滅びる」だとか言いたい放題だったらしい。
もうこれだけで皇帝侮辱罪で首が飛ぶのが確定しているんだけど、あの父親は過去何度も起こしてきたクーデターもどきの失敗から何も学ばなかったらしい。
「ですが陛下、我ら二人は陛下に歯向かう気など微塵もありません!」
「そうですわ! あの愚か者には皇帝など務まるわけありません! ただの金食い虫、害虫です!」
凄い言われようだな。自分の父親だけどダメ人間すぎるだろ。
「それで? 助命を嘆願するんだ。何かしら有益な情報があるんだろ?」
聖剣の刃が届く距離でレオンはこれ見よがしに聖剣を握る手に力を込めていた。
それを見て二人の顔色が青くなる。
「む、無論です!」
「あいつが人の金で集めていた魔道具のリストをお持ちしています。あとあいつに協力している貴族のリストも作ってあります」
お、それはなかなかいいお土産だ。
馬鹿な父親を潰した後ついでに協力していた貴族も潰せるね。
「うん、じゃ助けてあげるよ」
「本当ですか⁉︎」
「うぅ、ありがとうございますぅぅ」
ボクがあっさりと助けることを約束するとニグルレッドとアマーリアの二人は顔を綻ばせ涙を流して感謝していた。
まあ、これで断られてたらボクが保有すると思われてるイルゼあたりがけしかけられると思ってるんだろうね。そんなことしなくてもレオンに目配せをすればすぐに首が飛ぶだろうけど。
「それにしてもよくこれだけ集めれたよね」
ボクは手渡されたあいつが買ったらしい魔導具のリストを眺めながら感心する。よくここまで魔導具を大量に集めれたものだよね。しかも人のお金で。相変わらず人としての良心の呵責みたいなのはアレには存在しないみたいだ。
「そのリストに載っている魔導具も強力な物なのですが、最近アレが手に入れた物が一番厄介なのです」
「アレ?」
「銀の滴と呼ばれる盗賊団に探させていたようで最近手に入れたようなのです。その能力というのが……」
アマーリアが言葉を続ける前にレオンが動き、踏み込んだ。
「ひぃ⁉︎」
自分に向かって突然迫ってきたレオンにアマーリアが短い悲鳴をあげる。
そんなアマーリアを無視し、踏み込んだレオンは手にした聖剣をアマーリアの背後に向け横凪に振るう。
剣を振るった際に生じた風がアマーリアの髪をはためかす。そして振われた聖剣はというとアマーリアの背後に現れていた魔獣を上半身と下半身に分けるように両断していた。
「な、な……」
アマーリアは何が起こったのかわからない様子で言葉が出ないようだ。
対してレオンは表情は険しいまま聖剣を油断なく構えていた。
「不意打ちでしかも無防備な相手に攻撃するのが皇帝のすることかな?」
「これは異なことを。皇帝がすることこそが王道よ」
レオンが警戒を緩めないまま凝視し、ボクも王座に座りながら現れた人物へと視線を向ける。
そんな視線に気付いたらしいニグルレッドとアマーリアもボク達の視線の先を追い、悲鳴を上げた。
そこにいたのはいくつもの魔導具らしき物を身に纏い宙に浮かぶボクの父親であるゴーシュ・エナハルトだった。




